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着ぐるみ大戦争〜明日へ向かって走れ!

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着ぐるみ大戦争〜明日へ向かって走れ!
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第3章 五校集結
 
 前線で第3師団が戦闘を繰り広げている頃、ラピトの街では住民の避難が進められていた。
 「珍しいわね。蒼空や白百合は解るけど波羅蜜多とはね」
 今回の避難作業の責任者、ハンナ・シュレーダー少佐はソバージュの金髪をゆらして、国頭 武尊(くにがみ・たける)をにらみつけるように見ている。正直、教導団と波羅蜜多実業は仲が悪い。力に対する考え方が正反対だからだ。
 「何、こういっちゃ何だが、弱い者いじめは好きじゃないんでね。老人子供が戦争とやらに巻き込まれんのは見ちゃおれん」
 シュレーダーは国頭に近づく。下から上まで観察した後、おもむろに拳を脇腹に入れる。が、国頭はびくともしない。するとシュレーダーは初めて笑った。
 「やるわね……当てにするわよ?」
 「任せとけ!」
 国頭もニヤリと笑って見せる。

 「はいはい、大丈夫ですよ〜」
 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は集まってきている住民の確認をせっせと行っている。とりあえず避難先へ向けての説明をする。
 「荷物は最小限にしてくださいね」
 避難先は最悪、三郷キャンパスと言うことになるが距離はそれなりにあるので、街道途中にそこそこ場所のとれる所を一時避難場所と考えられている。ただ、なんと言っても丘越えを行わねばならず子供や老人にはそれなりに厳しい。
 「輸送手段はどのくらいありますか?」
 「軽トラックが十数台、あとはバイクやサイドカーが少々、蒼空の連中の飛空艇くらいだろう。反復して運ぶしかあるまい」
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)はざっと輸送手段を確認して首を振った。
 「ラピト族の人数は結構な数になる。かなり足りないと言っていい。早急に輸送順を決めなければならない」
 「とりあえず、動けない老人なんかは飛空艇で運べば?」
 支倉 遥(はせくら・はるか)はすぐにも出発する気満々だ。
 「あのなあ、飛空艇じゃ老人は運べないんだ」
 シュミットはあきれ顔だ。蒼空学園の生徒が乗る飛空艇はそれほど大きなものではない。荷物なら多少積めるが老人なんかを乗せて空に上がろうものなら振動とショックで死んでしまう。ただでさえ、ラピト人はメカ慣れしていないのだ。
 「頭で解ったつもりになるな!生き死にに関わるんだぞ!」
 シュミットは柳眉を逆立てた。実際、バイク類、飛空艇では老人などを運ぶのは無理である。只乗せられればいいと考えている者は本当の意味で『助ける』と言うことが理解できているかは疑問である。相手の身になって考えていないからだ。
 「しかし、それでは満足な輸送手段は軽トラックだけであろう?それではいくらも運べまい」
 ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)は肩をすくめるようにして言った。
 「だから頭痛いんだろうが!」
 「足で歩ける人は先導しながら歩いてもらうしかありません。歩けない人といえば……」
 水原は心配そうに見ている。
 「そうだな。乳飲み子を抱えた母親、妊娠中の女性、寝たきりの病人、足腰の弱い老人」
 「難しいですね」
 「悪いが貴女、妊婦と赤ん坊抱えた母親を集めてくれる?先に軽トラックで移動させよう」
 シュミットは決断した。
 「解りました。移動できる人だけでも急ぎましょう」
 「私も行きましょう」
 顔を上げた水原にハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が顔を向けた。
 「お願いする。……ああ、彼はヒールできるからいざと言うとき頼りになる」
 シュミットは水原に相方を教える。
 「はい、よろしくお願いします」
 「運転は私がやりましょう。貴方は荷台で付き添ってください。何かあれば車を止めます」
 ティーレマンはにっこり微笑んだ。
 「わかりましたよ。じゃ、こっちは荷物運びます」
 支倉も動き出す。
 「そうね。荷物なら振り回しても関係ないし、案外子供の着替えは必要なのよね」

 「さーア、ヨってらっしゃい、見てらっしゃイ。地球産のゆる族だヨ」
 そう大道芸人のような口上を述べているのはサミュエル・ハワード(さみゅえる・はわーど)である。
 「地球産のゆる族〜?」
 「聞いたことないのお」
 ラピトの街の人々が集まってくる。皆不安そうにしていたためか、陽気な声に引き寄せられたのだ。
 すると、そこに奇妙な存在が現れた。ざっと見て身長は人間くらい。ダンボール箱の固まりである。一応、人型に見えると言えば見える。ただ、所々に「夏みかん」とか「青森りんご」とか「北見の玉葱」とか書かれている。さらに胸にあたるところに赤いサインペンで十字が描かれている。ちまたで噂の『パラミタ国際赤十字』であろうか?おそらくそう聞けば赤十字の者は冷や汗を流しつつ目をそらして、ち、違います!と断言するであろう。その姿は赤十字が『なかったこと』にしたがっているものである。中に入っているのはあーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)だ。あーる華野はよんどころない事情から己の正体を隠して幾星霜、闇に生きる者だ。今の所追っ手から逃れるため、ダンボールロボに扮してさすらいの身である。そこを陽気なアメリカンボーイ、サミュエルに見つかった。
 「が、がおー」
 腕を上げて威嚇のポーズ。
 「何これ〜」
 「変なの〜」
 「不細工だよぉ〜」
 「不細工、不細工」
 希望の大地シャンバラでも子供の本音に容赦はない。
 「不細工いうなああ!」
 追いかけるあーる華野、わーっと蜘蛛の子を散らすように散らばる子供達、すぐに後ろに回るや棒でツンツンつつき始める。周りの子供も半端ない。
 ツンツンツンツン、ツンツンツンツンツンツン……。
 「痛い、痛い、痛い、痛いわ〜」
 「こーラ、子供達。ドジでのろまな亀をいじメテはいけませン!」
 サミュエルが笑いながら注意する。ちゃっかり彼も容赦ない。
 「亀〜?」
 子供達は動きを止めてあーる華野を見上げる。
 「そうデス!。これハ貴重な生物なのデス!」
 「生物違う、ロボ!」
 「うるさいデス。ダンボールに火ィつけられたいでスカ?」
 「う、それは困る」
 「それでは皆サーン!これから避難シマース!慌てず付いてキテくだサーイ!」
 両手を掲げるやサミュエルは信者を率いる伝道師のごとく歩き始める。その姿に安心したのか、少しずつ皆歩き始めた。あーる華野が子供を肩にのせてやると途端に先ほどの邪険ぶりはどこへやら、たちまち子供達の人気者だ。こうして子供達は母親達と一緒にゆっくりとだが避難場所へ歩いていく。
 その姿を建物の影からじっと見ている影がある。アイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)は滂沱と涙を流しながら、野球の特訓をする父子を木の陰から見守る姉のごとき姿で見送った。
 「みんなの為にあそこまで、立派、立派よ……筺子……。早く借金返してダンボール脱ごうね!」

 「う、うちの爺さんは寝たきりですじゃあ〜。とても避難なぞ」
 老婆が取りすがって泣き崩れている。
 「大丈夫です。大丈夫ですから」
 老婆を抱きかかえるようにしてフェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)がテントの方に連れて行く。
 「とにかく、動けない人を何とかしないと……」
 「人数はどのくらいいるのかしら?」
 シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)はシュタールの言葉に聞き返す。
 「それほど多くはありません。二、三人です」
 「そう……」
 ハーマンはそれを聞くとちょっと考えたようにして振り向いた。そこに国頭が戻って来た。
 「国頭、出番よ……」
 「あん?」
 国頭は事情を聞くと広場に出て来た。
 「おぅ!野郎ども、出てこんかい!」
 大声で怒鳴ると周りから蒼空や教導団の連中が何人か出て来た。
 「何か用か?」
 「おおっ!お前ら、ちょっと面貸せや!」
 そう言うと国頭は、連中をつれて件の家に行く。
 「お前ら、これから爺さんを避難させる。侠気みせろや!」
 「言ってくれるな……。パラ実が!」
 「蒼空学園を舐めるなよ!」
 野郎どもはぞろぞろと家に入ると7,8人でベッドを取り囲む。
 「そーら、いったらんかい!」
 「わっしょい!」
 一斉にベッドごと持ち上げた。
 「わっしょい!わっしょい!わっしょい!」
 「おらあ!ゆらすんじゃねえぞ!」
 「任せとけ!」
 教導団、蒼空、パラ実の野郎どもは一斉にタイミングを合わせてベッドを運ぶ。ゆらさないようにしながら急いで運ぶというのは至難の業だ。さすがに肩に食い込み皆脂汗を流すが、弱音は吐けない。学校の体面がかかっている。男には、面子に懸けてやらねばならない時があるのだ。

 「誰か、いますか〜。残っていませんか〜」
 テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)は街の各所を見て回っている。その上でちらちら周りも確認している。あるいは敵の先鋒が来るかと思っていたが幸いそういうことはなかったようだ。
 「少佐、人数確認終わりました。総員避難完了です!」
 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は弾んだ声で報告する。
 「よーし、よくやった。じゃあ、私達も撤収するわよ」
 シュレーダーとセリナ、後から付いてきたエーメンスは小走りで避難列の後を追う。
 「見えてきました」
 「意外とかかるわね」
 さすがに足が遅い者ばかりだ。まだまだ移動途中だ。丘への中腹あたりである。
 「じゃあ、私は後方警戒の指揮取るから。貴女はこのまま前を確認して」
 「了解です」
 セリナはそのまま走っていく。列はずっと続いているが幸い足取りは続いている。

 必死でピストン輸送している蒼空の飛空艇が見える。列が混乱しないよう交通整理している教導団員がいる。荷物を豪快に抱えて運ぶパラ実生徒がいる。母親に代わって赤ん坊をあやす百合園の生徒がいる。老婆を背負うイルミンスールの生徒がいる。
 その光景を目にとめながらセリナはずっと走っていった。
 こうしてラピト避難作戦は完了した。なお、この避難に際しては教導団、蒼空、イルミンスール、百合園、パラ実の各校生徒が皆協力した美談であったと『パラミタ国際赤十字』によってシャンバラ全土に伝えられた。