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 第一章  遺跡と伝承
 今回、クリスティアの村を救おうと集まった有志は【先行班・地上】、【先行班・地下】【通信班】、【アーリア護衛班】の四つの班に分かれることになった。
 前の三班はもうヴォル遺跡へと向かっている。ここにいるのは同行を強く希望するアーリアを護衛しながら進む【アーリア護衛班】だ。
 じゃらじゃら。がらがら。
少女が動くたびにお祭りのような騒がしい音がする。
「はじめまして、私はアーリア・ルーデです。本日は遠路はるばるクリスティアの村まで足を運んでいただきありがとうございま――わっとっと」
 アーリアのぺこりと下げた頭から鍋がずれ落ちる。
「……アーリア。ちなみにその格好はなんなのかな?」
「ファッション……というわけではないでしょうね」
 十倉 朱華(とくら・はねず)ウィスタリア・メドウ(うぃすたりあ・めどう)が困ったように笑いながら尋ねた。
 アーリアは頭に鍋、胸にまな板、手にはフライパンとおたまを持ち、ナイフとフォークが交互に並んだ弾丸ベルトのようなものを腰に巻きつけていた。
「はい! 無理を言って付いていくんですからせめて自分の身は守ろうと思いまして! 最強装備です!」
 アーリアが両手でぐっとガッツポーズをつくる。
「あらあら、アーリアちゃんは偉いのね〜。お姉さんも張り切っちゃおうかしら〜」
「メイベルは程ほどにね。あなたってすぐに空回っちゃうんだから」
「あら〜」
 気が抜けそうなくらいのんびりした意気込みを見せるメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が心配そうに釘を刺した。
「自分はシャンバラ教導団所属のソルジャー、比島 真紀(ひしま・まき)であります。出発前にアーリア殿にいくつかの質問をしたいのですが」
 真紀がは軍人らしいはきはきとした口調で質問をする。
「村で聞き込みをしたんだけど、誰も答えたがらなくてな」
 ドラゴニュートで真紀のパートナー、サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が続ける。彼の言うとおり、【アーリア護衛班】は事前に手分けして聞き込みを行った。しかし村人の誰もがヴォル遺跡のことになると堅く口を閉ざし、結局なんの情報も得られなかったのだ。
「この村の人たちはヴォル遺跡を神様のように畏れているんです。もし遺跡の怒りに触れたら次に消えるのは自分かもしれませんから、なるべくあなた達に関わりたくないんですよ」
「それってあんまりじゃありませんこと?」
「仕方ないですよ……」
 飛鳥井 蘭(あすかい・らん)が憤りを隠せないでいると、アーリアが腕に巻いている包帯をほどき始める。
「な――」
 蘭が息を呑む。なぜなら包帯で隠れていたアーリアの肘から先が徐々に空けるようにしてなくなっていたのだ。
「見えないと思いますがまだ手はあります。でもこうやって透けていって、全てが透明になると本当に消えてしまうんです。この村の住人なら嫌でも目の当たりにする光景です。みんな段々と消えていくっていう意味を知っているんです」
「そんなのって……」
包帯を巻きなおすアーリアを見て御風 黎次(みかぜ・れいじ)がやりきれない思いを持て余す。
「黎次……」
アーリアに自分を重ねたのか、ノエル・ミゼルドリット(のえる・みぜるどりっと)が不安そうに黎次の服の裾を握った。
「あ、でも村のみんなを責めないでください! 私だって自分のことじゃなかったら同じことをしていたと思います。それに今回、依頼が出来たのはみんなが献金してくれたからなんですよ。私、すっごく感謝してるんです!」
 アーリアが元気に笑ってみせる。
 アーリアの情報により新しく以下のことがわかった。
・ヴォル遺跡はクリスティア村が出来る前から存在していた。
・人が消えていくのには個人差があり、体格がいいほど進行が遅い。およそ一年くらいで完全に消えてしまい、そうなればすぐに次の村人に症状があらわれる。
・アーリアは血液検査を行ってみたが、健康な人間と同じであった。

「遺跡の奥にいるのはヴァンパイアなんじゃないか? 伝承にも精気を吸うとか『血』というフレーズが多かったし。ヴァンパイア対策をしていくべきだな」
 武来 弥(たけらい・わたる)が意見を述べる。
「遙遠はこの怪異現象をクリスティアの人々又は場所自体にかけられた呪い、又は結界の類でヴォル遺跡に居る『何か』によって生命力の類を永続的に吸収されているのではないかと推察します」
「私は昔の村人とかじゃないかと思ってるの。遺跡は何か不思議な不老不死の力があって、堕落した村人が力を手に入れて、それを使って今も生き延びているとか」
 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)高潮 津波(たかしお・つなみ)がそれに続く。
その後も一行は意見を交換してみるがやはりわからないことが多すぎてまとまらなかった。
「すみません。お役に立てなくて……」
「キミのせいじゃない。アーリアは気にしなくていいよ」
 肩を落とすアーリアを朱華が優しく撫でて慰めてあげる。
「さ、これからヴォル遺跡にいくんだ。気合入れて!」
「はい!」
 いざ出発。
しかし。
 じゃらじゃら。がらがら。
 最強装備(?)のアーリアがとても歩きにくそうにしていた。ウィスタリアがにっこりと微笑む。
「……アーリア。あなたは私たちが守りますから、その重そうなのは全部置いていきましょうね」
「ええ!?」