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第五章  地下でうごめくもの

「う……」
 芳樹が目を覚ます。すると自分にヒールをかけてくれているユニの姿があった。
「お加減はいかがですか?」
「ちょっと頭がくらくらするけどなんとか。それよりここは?」
「……おそらく……遺跡の最下層だ……」
 不意に後ろから声がする。芳樹が振り返るとクルードが立っていた。そして【先行班・地下】のみんなの姿があった。ここは先ほどまでとちがい壁や床が光っておらず真っ暗だ。
 芳樹が火術で辺りを照らそうとしたそのとき。
 がさり。
 近くで物音がする。そして沢山の気配が一同を囲んだ。
 芳樹が火術で辺りを照らす。すると気配の正体、全長一メートルをゆうに超えるネズミが姿を現わした。ジャイアントラットだ。一匹のキングラットを頂点とし、群れをなす習性をもっている。非常に頭が良く、そして残忍な性格だ。
「なるほど、ここはやつらの巣……魔法陣を壊していたのはこいつらだったんですね。そして獲物を勝手に引き込んでくれる落とし穴の魔法陣だけは壊さなかったと」
「感心している場合ですか、紘」
 そう言いながらも二人が剣を構える。
「ちょうどいい。ここでこいつらを倒せば他の班の負担も軽くなるってもんだぜ」
「……正義の煌めき、悪を絶つ一閃を」
 静麻とレイナもまた臨戦態勢にはいった。
 一行を囲むジャイアントラットの中にひときわ大きなものがいる。あれがキングラットだ。
 ギギギギギギギギッ。
 キングラットの禍々しい咆哮が響く。それを合図にジャイアントラットたちが襲い掛かってきた。

 一行はジャイアントラットに応戦するもののやはり多勢に無勢、劣勢な状況に追い込まれてしまう。
 もうだめかと思われたそのとき。
「マジカル・大切斬!」
 謎の掛け声と共に放たれた爆炎波が襲い掛かってきたジャイアントラットを直撃、ド派手に吹き飛ばす。
「な――。だれ!?」
 一同が振り返る。そこには二つの影があった。
「ケンリュウガー、ここに参上!」
「同じくマジカル・リリィ!」
 言うや否や二人がすかさず爆炎波を背後に繰り出し、爆発を演出した。
「君たちは同じ学校の武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)だよね」
 心当たりがあるのか真彦が尋ねる。
「ち、違う! 私はそのような人物一切知らん!」
 それに対し白と黒がバランスよく配色されたスーツに覆面姿の男が、思い切り挙動不審な動きをみせる。
「私だってリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)なんかじゃないわ!」
 フリルのあしらってあるミニドレスに仮面姿の少女なんて訊いてもないのに断ってくる。どうやら合っていたらしい。
「どうしてここへ?」
「ふっ、愚問だな。困った人あればどこでも現れるのがヒーロ――」
「ちょっと、牙竜たち! 置いていくなんてひどいじゃない! 月実、他に誰かいるわ!」
「おおっ。それじゃあやっと家に帰れるのね。あ〜、早くお腹一杯カ○リーメート食べたい」
「あんたねぇ。せっかくなんだからもっと美味しいもの望みなさいよ」
 そこに一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)リズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)周藤 鈴花(すどう・れいか)が現れた。
「ほんとだ、人がいる! 俺たち迷ってたんだ。助かったよ」
「やれやれ。また牙竜たちが趣味の悪いごっこ遊びをやっていますね」
「そうですか? とっても格好いいと思いますよ。ここから出れたら色紙にサインほしいですもの。あーゆー服なら喜んで着るよ、メリエ」
「駄目よ、ガーデァ! あれは踏み込んではいけない世界ってやつよ!」
田桐 顕(たぎり・けん)リリス・チェンバース(りりす・ちぇんばーす)ガーデァ・チョコチップ(がーでぁ・ちょこちっぷ)メリエ・ネクスト(めりえ・ねくすと)も続いて出てくる。牙竜を含め彼らは各々違った理由でヴォル遺跡に進入したが迷ってしまい、偶然遺跡内で遭遇し行動を共にしていた言わば【超先行班・迷子】だった。
「違う、迷ってなどいない! というより牙竜ではない!」
 牙竜とリリィに一同の絶対零度の視線が注がれる。それに耐え切れず牙竜が叫ぶようにして言った。
「今だ、蒼空の勇者たちよ! 私たちが雑魚を食い止めている間にキングラットを倒すのだ! 迷子の諸君、後でカ○リーメートでも何でもおごってやるから力を貸したまえ!」
「え? 勇者って俺らのこと?」
「マジ!? 嘘だったら許さないわよ!」
 こうして少しうやむや感はあるものの、ジャイアントラットとの戦闘が再開した。

 真彦の剣がキングラットに突き刺さる。
 ギ――――ッ。
 キングラットが断末魔の叫びをあげ倒れ伏した。キングがいなくなったことによりジャイアントラットたちが蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「おお、やるじゃねーか。見直したぜ」
 瀬良が真彦の背中を叩く。
「えへへ、まぐれですよ。でも嬉しいなぁ」
一同が労いの言葉を掛け合う。するとそこに、
「おーい、みんな! 置いていくなんてひどいじゃないか!」
「やや! 他にも人がいるね!」
 変装を解いた牙竜とリリィが白々しく登場した。
 もちろんその後、彼らが一同の冷たい視線を受けたというのは言うまでもないだろう。