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オークスバレーの戦い

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オークスバレーの戦い

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<4>



 坑道に一歩足を踏み入れると、ひんやりとした冷たさが身体を包んだ。
 外は、涼しい夏の峡谷だが、ここは、少し寒いといってもいいくらいだ。
 また、奥へと続いていく坑道の暗さが、いっそう、不気味さを引き立てていた。
 沙 鈴(しゃ・りん)は、本陣周辺の坑道の洗い出しを行う目的で、探索を始めたが、鉱山の情報を集めて回るうち、結局その足取りは付近の集落を越え、森を越え、峡谷の端に向かうことになった。
 途中で案内を求めた、小さな村の者達は、鈴を坑道の入り口まで案内すると、そそくさと逃げ出すように、去っていってしまった。
 ……
 ――「沙鈴さん。お久しぶりね」
「……騎鈴殿。このような形で会うことになるとは思いませんでしたわ」
「あなたは、今?」
「わたくしも、卒業後は後輩の指導にあたっていますけど、最近は生徒達と一緒に、こうして任務に出させてもらうこともありますの。研鑚の日々、ですわ」
「そう……私はね、学生を卒業したあとは、辺境に送られて、ずうっとそこで魔物たちと戦う毎日だった。……って今も、あまり変わらないね」
「ここは?」
「初めてね。何せ、あのオークの生殖能力だもの。どれだけでも増えて、奥地には近付くこともできなかったから。今回の進軍は、思い切った決断だったのでないか知ら」
「オークがいなければ、さぞ美しい峡谷地帯なのでしょうね……きっとオークの支配下になければ、この辺りは、鉱業で賑わって」
「私は戦しか能が無いけど……でもこの峡谷一帯を再興できれば、素敵でしょうね。沙鈴さんここの太守する?? 参謀科出てるし」
「そんな簡単に……でもこんな奥地の太守ってのはどうなのでしょう……。ともあれ、まずはオークを追っ払わないとですわね」
「だね」
 ――
 ……
「沙鈴さん? 沙鈴さん?」
 ここまで一緒にやってきた、パートナーの綺羅 瑠璃(きら・るー)が、呼びかけている。
「瑠璃。ごめんなさい。
 さて……荒れ放題荒れ果てているし、ここはどうやら、廃鉱のようですわね」
「沙鈴さんどうする? 何だか、こわいところね……」
 坑道の先は、全く見えない暗闇だった。そこへ吸い込まれそうな。……後方の入り口からわずかに差し込んでいる陽射しが、別の世界からの光に感じられる。
「鉱山地帯の再興、ね。もう少し、奥へ入って調べてみましょうか」


第7章 戦士達の想い

7‐01 トロル

 人は何故戦い続けるのか。
 痛み、憎しみ、悲しみ……その連鎖は渦巻き世界には涙の雨が降る。
 だから夢がいい。
 ……
 のろしの合図があったらボートで対岸へ移動、交戦とのこと。
 めんどくさいわね。私は河川敷でバーベキューでもしてるわ。オーク肉の。
 って近寄らないでよ、殺すわよこの豚野郎。
 これは私の肉なの、わかる? わかったわね、そう、いい子よ(銃殺)。
 なんかもう、めんどくさいから近づく豚野郎共は皆殺しでいいわね。
 リズ、光条兵器だして良いわよ。
 さ、死にたい奴から前に……って出すぎ!いっぱい来すぎ!無理無理、死ぬ!私、死ぬー!!
 これなんて無理ゲー!! ……という夢だったわ。びっくりしたわね。
 あ、レオンさんおはよう。それじゃお休み。《全採用》
「……って、寝てるんじゃねー!! ……おい、一ノ瀬?」
「あ、レオンさんおはよう。それじゃお休」
 げしっ
「ループするんじゃない馬鹿者! 寝るな! 動け! いいか、もうとっくに狼煙は上がったのだ」
「ああん。もっと蹴っ」
「……」
 レオンは二度目の蹴りを思い留めて、言った。
「その対岸へ、移動するぞ」
 後ろには、霧島、月島の姿。
「でもレオン。あながちさぼってたってわけではないようですね……」辺りを見渡して、シルヴァ。
 一ノ瀬の周りには、けっこうおーくの死体があった。
「リズリットが?」
 リズリットは、ふるふる、と首をふった。
「月実が、ねながら……」
「あり得ん。こいつはあり得ん」
「やるじゃないか」と、霧島。月島は、無言でこくり。





 対岸。
「トロルだ! 皆、あれがトロルだ!」
 レーヂエの叫ぶ声。
「あんた今までどこにいた……」

 トロル――その大きさは三メートルに達するだろうか。殺戮を好み、人間に敵対する軍勢に昔からよく戦力として用られてきた種族である。皮膚は苔の付着した岩を思わせるが、実際にはぶよぶよとした醜悪な肥満体。鎧は、簡単な肩・腰当てを身に付けているのみだった。
「ブオオ」
 ブン、刺の着いた鉄球を振るうトロル。それを盾で受け流し、投げつけたランスがトロルの右足を刺した、
「お前らの存在が団長の野望の邪魔になル! 地獄で後悔シロ!」
 サミュエルが、皆の前に出た。
「ブオオォォ!」
「皆! ここハ、サミュエルとレーヂエにまかせテ!」
「うっ ゲホゲホ」
「レーヂエさん! どこ行クノ?! 力の見せ所だヨ!!」
 そこへ、ボートを漕いでこちらへ向かってくる、獅子小隊防衛班の姿が見えた。もうすぐに、見える距離にまで近付いている。
「皆!」
「レオン……!」
 一台残っていた壊れかけの投石器に瀕死のオークがたどり着き、もう間もなく河岸へ到着しようというボートを狙い撃つ。
「あっ」
 イリーナがそれに気づき、シャープシューターを放って仕留める。
 ズドー―ン
 投石は危うく、レオン、シルヴァの乗っているボートをかすめて河に落ちた。
 霧島が、続いて月島が麻上の手を引いて、それから一ノ瀬が、リズリットが上陸。ずぶ濡れになったレオンハルト・シルヴァペアが、駆けつけ、ここに獅子小隊が揃った。
 皆が、レオンのもとへ、心配そうに集まる。
 クライス、
「レオンさんっ。だいじょうぶ……レ、レオンさんこれはまさに、」
「水もしたたる」
 一ノ瀬が言いかけて、クライスが、ぷ、と笑いかけた。
 げし、げしっ。レオンのキック。
「ああっ、痛い。こんなに心配して駆けつけたのにレオンさんひどいや」
「おまえ、さっきの、ぷ、ってなんだ、クライス。しまった、一ノ瀬にはいらなかったな」
 三度目のレオンキックをくらってニヤつく一ノ瀬。
 そんなレオンを少し離れたところから見つめて、
「水もしたたる……」
 ぽっ。
 頬をほの紅くするイリーナに、レオンハルトが近寄って、
「イリーナ、……どうしたのだ? 今日のおまえは……」
「な、なんでもないのだ。そうだな、ここは、戦場だ」
「……うむ。
 さてここの陣営は、あらかた破壊したようだな。今から獅子小隊は、砦を攻略にかかる」
「オオー」
「って、サミュエル? そう言えば、トロルは……」
「あっチで、レーヂエが、戦っテいるヨ」





「おうおう! おうおう!」
 勇ましいかけ声が聞こえる。
「おうおう! りゃありゃあ!」
 押されている。
「……とりあえず、死ななければいいかな」
 トロルと打ち合うレーヂエを後ろに、砦内部へと乗り込んでいく獅子小隊。
「おう、りゃあ、おう! 貴様ー死ね……」
 レーヂエの声もやがて後方に遠のき聞こえなくなると、獅子小隊は、砦門をくぐり、中庭に達していた。静かだ。オークの多数は、砦を捨て、峠の森へと逃げ散ったのか。
「よし――ではここからが勝負だな。砦に残る敵は一匹も逃すな!」
 そのとき、砦の壁の上に、敵影出現! オーク弓兵だ。
「はっ」
 注意十分だったイリーナが、すかさず射撃。弓兵に矢をつがえさせず、打ち落とす。
「今回は思う存分撃たせてもらおうか!」
 反対側は、クリスフォーリルが、順々確実にオークを射ていく。
「対市街地戦系列は地上以来……久しいでありますね……」
 次の弓兵を呼ぶ声がする。
「まだ楽しめるだけは敵も残っているってことのようだな」
 霧島、アサルトカービンに取り付けたスコープを覗き、砦の上階で士気を振るオークを見つけ、狙撃。打ち落とした。
 あたふたしつつも、弓兵が集まってくる。
 獅子小隊は、中庭からめいめいに、周囲数箇所にある扉へ駆けていった。




 レーヂエが可哀想なので、サミュエル、グリム、ローレンスらは、正門へ加勢に駆けつける。
 ふと、グリムは入れ違い様、さっと駆け込んで行く何者かの影を見とめた。
「! ルー……」
 呼び止めようとするが、瞬く間、砦の内部へと消えてしまった。





「ようし! どうだ、俺がいちばん乗りだぜ!!」
 正面の扉に入り、螺旋階段を見つけた風次郎は、それを降りてくるオーク兵はばったばったと切り付けながら、一気に駆け上がっていく。
 ……
「おっ」
 レオンは、右の手前の扉に入り行くと、すぐに砦の壁の上に出た。
 正面の尖塔の中から、風次郎のかけ声が響いてくる。
 壁上の弓兵がレオンに気づき、矢をつがえている。
「はっ」
 イリーナは、ついレオンに付いてきて来てしまった。
 イリーナが、レオンを射ようとするオークを、先制で射撃。射撃。
 レオンは、のたうつ弓兵を踏み越えて、尖塔の壁をよじ登る。
「こっちのが早そうだな」
 ……
 左手前の扉に入ったクライスも、壁の上に到達し、反対側にレオンの姿を見とめていた。
「レオンさん。よしっ、負けないぞ」
 クライスも尖塔めがけて走ろうとする、が……こちらにも、寄ってたかってくる、弓兵弓兵。
「わあっちょっと、飛び道具はなしだよっ」
 慌てて盾に隠れるクライス。「うーー近付けない(泣)」
 ……
「クリス様」
 クレッセントは、自分と剣とを踏み台にして、クリスフォーリルを一気に、壁の上に飛び上がらせた。
「あっ。クライス」
 の前にたかっているオークを、ドンドン。撃つ。撃つ。
「わっ」
 流れ弾を盾で避けるクライス。
 クリスとクライスに挟まれる形になったオークは、クリスに突っ込んで撃たれるか、クライスに突っ込んで突かれるか、それとも飛び降りてクレッセントに斬られるか。とりあえず……クライスに突っ込んでいったようだ。
「何で今日こうなんだろ」
 クライスは泣く泣くランスを構えた。
 ……
 左手奥の扉に入ったのは、月島と麻上。
 砦の内部は暗がりで、静かだった。階段があり、すぐ上から、射撃音と、オークの悲鳴と、クライスの悲鳴とが混じって聞こえてくる。
「はあ、はあ……」
 月島は、少し息切れしている麻上を、階段の脇にゆっくりと座らせた。
「ちょっとだけ、休んでいこうか、翼」
 長橋の防衛戦で、光条兵器を発動したため、麻上の服は、腕の周囲を中心に、ずたずたのかなり酷い状態になっている。
「うん。……だいじょうぶ。悠……」
 月島はしずかにうなづき、ボートの上でかぶせてあげたパーカーを、かけ直してあげる。
 ……
 霧島 玖朔は、右手奥の扉から砦の中へ入り込むと、すぐに異様な雰囲気を感じ取っていた。
 扉がバタン、と閉まる。
 するとそこは全くの暗闇で、物音一つない。
 銃を手に、息を殺し、目を閉じ、五感を研ぎ澄ませる……
 右手の闇の奥にこちらを窺う二つの目。
 すぐ襲いかかって来る。大きい。
 間違いない、トロルだった。
 まだ潜んでいたのだ。
 暗闇の中で、振り回される棍棒のような打撃器。当たればひとたまりもなく、気を失うだろう。そうなれば、トロルの餌食だ。
 チュン、銃弾が壁に反射する。トロルの右耳のあたりを掠めた筈。
 一際、暴れまわるトロル。手、足、今度は腹に。確実に手応えがあるぞ、……次は。そのとき、闇雲に振るうトロルの武器が、霧島の頭を擦った。
 クッ。霧島の声を聞き逃さず、狙いを定めて再び襲い来る、トロル。
 次に霧島は、暗闇の中を走る、もう一つの気配に気づいた。
 月島、イリーナ……じゃない、大またな走りだ、レオン?
 とにかく、現れた味方の援護射撃を受け、霧島はそれに気をとられるトロルの、ついに頭部をぶち抜いた。
「ははは!」
 トロルはふらふらと体をゆらし、壁に突進して息絶えた。
「レオン、か……?」
 暗闇の中に、先の男の気配はすでになかった。
 ……
「あれっ? レオン、ちょっとたんま。僕の靴がぬげて塔の下に落ちちゃいました……」
「な、何ーシルヴァ。頂上は目の前だぞ」
「ああそんな。レオン、待ってください。僕達は一心同体じゃないですか♪」
「それは初耳……あっおまえ、このペナルティは大きい……ぞっ」
 ……
 ――砦の頂上。
 そこにたどり着いたのは……
「砦内外のオークども! よーく聞け、そしてよく見るんだな、さあ!
 俺は、前田 風次郎!! この砦は、すでに我々獅子小隊がもらったぁ!」
 風次郎が、峡谷中に響かんという声で、叫んだ。
 そして風次郎は、砦の頂上のオーク旗を切り刻むと、教導団旗を高々と打ち立てたのだった。
 風にはためく、教導団旗。


 この次は、獅子の旗、っていうのも悪くないかも知れないけど。



7‐02 火のなかの戦い

 敵二乃砦。
 ノイエ・シュテルンを率いる、クレーメック・ジーベック。いよいよ全隊が砦を囲んだ。
「オークに告ぐ。砦を捨てて退却するか、我々に戦いを挑むか」
 傍らにいる、クリストバル・ヴァルナ、
「わたくしは後者であると思いますけど……オークと言えども臆病者の謗りを受けるのは必至ですわ」
 焼け落ちていくオーク砦から、守備隊長に率いられた一隊が本隊を睨みつけている。
「……ならば!」
 一気にオークを撃滅にかかる、ノイエ・シュテルン。
 一色達が死守した橋頭堡へ。
 クレーメックと一色。
「一色殿!」
「ああ! だけどまだ、ここからだぜ」
 今からは、攻勢に出る、一色ら前線の戦士達。
「こう見えても教導団員、やるときは徹底的にやるんですぅ! 我等が、ノイエ・シュテルンのた〜め〜にぃ!」ここぞと白羽扇を取り出す皇甫。
「ぬぅおわはははは、燃えろ燃えろ、オークどもなぞ炎の中で逃げ惑うがよい!」手を前にかざし、高らかに笑う青。
 もちろん、戦うオークどもも、押さえ込まれんと必死である。
 前線を率い、奮戦する一色。
 ミラは、それを側面から突いてこようとする、オークの一隊を見つけた。そこにいるのは……オーク守備隊長だ。
「あっ。ミラ、気を付けろ?!」
 ミラは最前線を守る一色に代わり、率先してそれへあたった。
「俺ガ二乃砦守備隊長ハウハウ、ダ! 貴様、道連レニシテヤル……キャワイィィィィィィィ!!」
「きゃあ!」
 ハウハウの執拗な斬撃を、盾でとめるのに精一杯だが……「ミラ!」「仁、だいじょうぶだから……」ランスの鋭い一撃、……手応えがあった。
 全面対決に出たかに見えるオークだが、統制は取れていない。砦の背後から河に飛び込んで逃げる者も多かったが、頭をうしない、更に動きはばらばらになった。勝ちは目前だ。
「こちらは統制された作戦行動を取っているんだ。
 蛮族ごときが……とは言わないけど、正攻法で行けば負ける筈がない。
 死兵と言ったところで、突っ込んでくるだけなら!」
 だっ。
 銃を撃ちながら、しかし自らも突っ込んでいく、昴。
「はっ。
 キャアァァァ!
 も、もしかして……」
 焼け落ちていく砦の門より、現れ出たのは、砦に潜んでいたトロルだ。
「キャアァァァ、イヤァァァァァ!」
 味方の方へ、突っ込んでくる昴。
「血湧き肉踊る戦場こそ、オレの居場所ッ!」
 突っ込んでいくケーニッヒ。が、
「おっ? 一騎打ちの邪魔を〜〜するなあッッ!!」
 統制のとれたノイエ・シュテルンの戦。「弓兵!」指示を出すクレーメック。遠巻きに、弓を射かけ、「狙撃隊!」そして狙撃。それから確実に止めを刺すのが、セイバーの役目。
「兄貴! ドラゴンアーツでとどめじゃあ」
「おうザルーガ! トロルなぞ、我が剣一つで十分ではあったが!」
 もう歯向かってくるオークはいない。クレーメック、
「我らが、ノイエ・シュテルンの勝利だ!」
 香取が、勝利を伝える信号弾を上げた。



7‐03 はぐれた戦士(ソルジャー)

 敵一乃砦めがけて突撃していった騎狼部隊は……展開する守備隊に、一撃を加えると、離脱!
「よし! これより騎狼部隊は、このまま三乃砦の側面を強襲する!」
「ハッハァー! 俺達は、遊撃隊だぁ!!」
 敵守備隊を前に、おろおろするユハラ。
「え、え?? イレブンさん、デゼルさん、わたくしはどうすれば。あ、葉月殿??」
「えっと……いいのでしょうか。と言いつつも騎狼がとまってくれませんし……」
 イレブン、デゼルに続く葉月。
「あっ。ロブ殿」
「……」
「メイベルさん」
「はあ、はあっ」
「……皆、行ってしまいましたがな……」





 そのまま、やがて敵三乃砦に達した騎狼部隊。
「あ、あの旗は!!」
「あれは……風次郎殿か」
「すでに制圧していたのですね。感服です」
 騎狼に乗って、そのまま砦の回りを走る、イレブン、デゼルに、葉月。
「しかし多量のオークの死骸だな。よくぞここまで。って私たちも負けてはいないぞ」
「おいこれって、トロルじゃねえのか。うひょお、初めて見たぜ。死体だけどよ」
「あ、あちらにいらしゃるのは?」
「おお。レオンハルト殿! もう、私たちに手伝えることは残されてなさそうかな?」
 砦の上階から、語りかけるレオンハルト。
「イレブン殿か。では、もし周囲に逃げ散ったオークがいるならば、その掃討を、願ってもよいか?」
「了解した!」
「行くぜ! はああ!」
「っと。待ってくださいっ、僕も行きます!」
 騎狼を駆って、彼らは残党狩りへ乗り出した。
 が、それももう、あまり残ってはないだろうな。
 とレオンハルトは思う。
 獅子小隊が戦っていない裏門のあたりに、かなりの数のオークの死骸があった。
 そしてレオンハルトの前に、全身ボロボロになったソルジャーが、現れた。
「レオン……オレですよ」
「ルース」
 ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)。いつもは、獅子小隊の中核ソルジャーとして、行動を共にしてきた仲間だ。
「わかっているぞ。あの、裏手では俺達は戦っていない。あれを殺ったのは、ルースなのだな」
 そこには、裏門を守っていたトロルもいたのだ。
「レオン達を援護しようと思って、先に砦に潜んでいたんです。そうしたら、そこにトロルが、ってわけで。
 裏手から逃げていこうとしたやつらを、はあ、はあ……伏兵でも呼ばれたら厄介ですからね。全部まとめてやっつけたってわけですよ。ついでに、トロルも、ね……」
「ルース、どうして私達とはなれて?」
 イリーナが、ルースを支え、ゆっくりと座らせた。
「はあ、はあ……。
 オレはいつも迷惑ばかりかけていますからね。……レオンの役に立って駄目な自分を奮い立たせようと、うっ」
「ルース……!!」
 ルースは、イリーナの腕に身体を預けると、そのまま静かに、横たわった。



7‐04 情報撹乱!!!! クルード・フォルスマイヤー

 残るオーク一乃砦には、様々な情報が飛び交っていた。
「御大将! 一乃砦ノ我ガ、オーク騎狼兵、敵騎狼部隊ト打チ合ィ、壊滅ゥ! 騎狼部隊、コノ砦ヲ迂回ィ、他ノ砦ヲ攻メテイル模様!」
「御大将! 二乃砦、ノイエ・シュテルンノ火計ニィ遭ィ、炎上ゥ! ハウハウ守備隊長ト、ソノ旗下スベテ、焼ケ死ニカ、ソレヲ逃レタ者モ討チ死ニィ致シマシタァ!」
「御大将! 三乃砦、獅子小隊ニヨッテ陥落! スデニィ、教導団旗ガ打チタテラレ、ワズカニ残ッタオークモ投降スルカ、騎狼部隊ニ追撃ヲ受ケ討タレテオリマスゥ!」
「ナッ何、落チ着ケ! 虚報ジャ!」
 更に……
「御大将! 三乃砦ニ、クルード・フォルスマイヤーガ出現、トロル十匹ガ殺サレタ、ト報告ガ入ッテオリマスゥ!」
「御大将! 二乃砦ニ、クルード・フォルスマイヤーガ現レマシタ! 救援ヲ求メテオリマスゥ!」
「御大将! 一乃砦ニ、クルード・フォルスマイヤーガ襲来ゥ、御大将ニ一騎打チヲ所望シテオリマスゥ!!」
「モッ、モチツケッ。クルード・フォルスマイヤーガ一ピキ、クルード・フォルスマイヤーガ二ヒキ、クルード・フォルスマイヤーガ三ビキィィィィ、ゥゥゥ、ピキ―――ン」
「アッ。御大将ォォォォ!!」
「……ウゥゥゥゥゥン……」