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リアクション
第九章 それぞれの闘い
■地下通路 洞窟
「――寺院がこちらの道にも気づいたのか?」
大草 義純(おおくさ・よしずみ)は、灯りを持ったホブゴブリンに向かってアサルトカービンを構え、引き金を引いた。
スタタタン、と洞窟内に射撃音を響かせて、それを撃ち倒す。
そこは、地下通路の途中にある天然の洞窟だった。
それなりの広さがあり、所々に岩が突起して複雑に絡み合っていた。
義純は、銃を構えたまま倒れたホブゴブリンの方へと距離を詰めていく。
「寺院の連中が、こっちの道を使って脱出するいうつもりだったら、抑えんとな……」
と。
洞窟奥。
人影が飛び出しざまに、義純へと銃撃を行う。
「――ッ」
反射的に、義純は岩陰に飛び込んだ。
義純の後を追った銃弾が地面に擦れて、幾つもの光が弾ける。
「ネアは隠れていなさい」
男の声が聞こえ。
「はい、黎明様」
女の声。
義純はそろりと岩陰から、そちらの方の様子を見遣った。
倒れたホブゴブリンの持っていた明かりの端で、黎明がアサルトカービンを構えているのが見えた。
「ここから先へは行かせませんよ」
黎明が言う。
義純は軽く片眉を揺らし。
「逃げ出してる真っ最中やと思ったわ」
言って、岩陰から襲撃を行う。
岩端を叩いて光が弾ける中、黎明が自身も岩陰へと飛びながらアサルトカービンを撃ち出してくる。
「まだ大怪獣が復活していないというのに?」
「大怪獣なんて復活させてどうする?」
「ドージェ様は強者との闘いを望んでいらっしゃる」
「ドージェ?」
交わされる銃撃。
「波羅実か」
義純が奥歯を鳴らす。
「これでも苦労したんですよ――寺院の連中に協力させてもらうのは」
黎明はわずかにおどけた調子で言って、洞窟へと入り込んできたホブゴブリンへと指で指示を与えた。
「ネアにも苦労を掛けました」
「いえ、わたくしは黎明様のためなら」
ネアは、黎明がグダクへの協力交渉を行う際。
相手の警戒を緩めるために歌や踊りを披露していた。
グダクには喜ばれなかったが、若い黒鎧にはそこそこ好評だったように思える。
それが功を奏したというわけではなかったが。
黎明の目的意識を面白がったグダクが、黎明の協力を受け入れてくれたのだった。
ホブゴブリン達が近づいてくる気配。
義純は岩陰を飛び出して、走りながらそこらに一斉掃射で弾丸をバラ撒いた。
跳弾の音と光、鈍く上がる呻き、削れ飛ぶ岩の欠片。
一寸の後、倒れいくホブゴブリンの間を抜けて駆ける黎明。
「仲間を囮に!?」
「私を卑怯と罵るか?」
黎明の銃撃が義純の肩を裂く。
「えーかげんにせぇや! 義を失って果たせる忠義があるかッ!!」
肩を撃ち弾かれて、アサルトカービンから片手がはがれる中。
それでも放った義純の弾丸が黎明の足と腹とを撃ち抜く。
「ハッ――言っていろ。悪に美学など必要ない!」
交わされる銃声。
と――。
黎明の体を雷撃が打つ。
「ク――ッ!?」
「悪い、ユーキ。やっぱ見逃せねーわ、この状況」
言ったのはアレクセイ。
義純の後方。
雷術を放ったアレクセイのそばから、ザァっと優希が駆けて、
「い、いえ、あの――」
その槍が黎明の体を掠める。
「どのみち此処を突破しなければ、いけないみたいですし」
「チッ!」
黎明が歯噛みしながら、弾丸をばら撒いて後退する。
「黎明様、ここは退きましょう」
岩陰から黎明の方へと走ったネアがヒールで彼の傷を癒した。
その後ろ、数匹のホブゴブリン達が洞窟へと入り込んでくる。
そのホブゴブリン達と義純達が戦闘を行っている間に、黎明達は洞窟から地下通路へと身を退いて行く。
■地下通路
「これは参りましたね」
昴は前方から来るゴブリン達に向かって銃撃を行っていた。
その間を迫って近づいてきたゴブリンをナトレアが斬る。
「すっかり囲まれてしまいましたわね」
「どうするー?」
ルカルカが後方から来るゴブリン達を剣で牽制する。
「無理やり突破するには、敵の数が多過ぎるな」
ルカルカの動きをサポートするように、ダリルが左手甲の光条兵器の刃を振るった。
右手は壁。左手は少し深い崖の下を流れる水脈。
「ここなら、巧くすれば神殿に繋がっているかも――」
津波が、今までマッピングしてきたノートをパタンと閉じて。
「となれば、道は一つしかないよねぇ」
息を付く。
「ギャンブル、ですかな」
「行きますの?」
「行っちゃう? 行っちゃおうー!」
「――仕方ない、か」
昴、ナトレア、ルカルカ、ダリルが口々に言って。
「少なくとも、どこかには逃げられる――と信じて」
津波がすぅっと空気を吸い込む。
そして、全員が一斉に水脈へとダイブした。
ヒゥウウ、と風を切って。
【うねうね】の面々が飛び込んだ先。
「きゃああ!? ななななんですのっ!」
ビニールボートに乗って必死に水脈を下っていたロザリィヌが悲鳴を上げた。
「ぷっっは!」
「っはぁ!」
「くはぁっ!」
「――うん?」
水面に顔を出した津波、ルカルカ、ナトレアを見遣ってロザリィヌが軽く首を傾ける。
「あら、大丈夫ですの?」
地上で拾った枝の組み合わせをオール代わりに、よいせよいせと津波たちの方へボートを近づける。
「よろしかったら、お掴まりになって」
「いやいや、これは助かります」
と、ボートに掛けた昴の手をロザリィヌが、ぎぅっと踏む。
「――はて?」
昴が見上げた先。
顔に影を落としたロザリィヌが、グリグリと昴の手を踏み躙りながら、オール代わりの枝先を昴の顔に押し付けてくる。
「わたくしは、あちらの女性陣に言ったのですわ。誰が男のあなたに協力をすると?」
ぐぃいい、と枝先が昴の顔面にめり込む。
「や、や、そんな無体な」
「しつこいですわ! さっさとお離しになって! というか、そのまま沈んでくださいませ! 誰が男なんかにエメネア様のキッスをーーー!!」
昴がロザリィヌに痛めつけられつつ、必死にボートにしがみ付いているのを横目に。
ダリルが流れを掻いて、ルカルカのそばに寄る。
「何か、聞こえないか?」
「え?」
言われて、耳を澄ましてみる。
様々な喧騒の奥に聞こえる――
「……滝の音?」
津波が口の端をひくりと揺らした。
■地下通路 エメネア
通路の奥から進軍してくるホブゴブリン達。
「この数――」
フィルはアサルトカービンで弾丸を叩き込みながら、薄く唇を噛んだ。
エメネアと共に行く生徒達と【地下通路を行く者】らは地下通路を抜け、神殿の入り口まで迫っていた。
しかし、そこにはホブゴブリン達が待ち構えていた。
他の抜け道を目指して迂回しようにも背後の道はホブゴブリン達に回りこまれて、後退も出来ない。
「突破するわよ」
セラが剣を構えながら言う。
「でも……」
フィルは少し弱気になった瞳で、エメネアの方を見遣った。
「絶対に守り抜くわ、なんとしても」
セラが言って、フィルの方へと視線を強める。
「私たちはエメネアとそう約束した。そして、彼女は己の使命と向き合った――フィル。私たちは、それに応えなければいけない」
「――はい」
フィルは頷き、強くセラを見返した。
セラは、フィルの様子を見る瞳に、一寸だけ微かな笑みを浮かべて、前方へと向き直った。
「さあ――行きましょう」
サン、とセラの切っ先が振り出される。
後方に迫ったホブゴブリン達をカナタがアシッドミストで足止めする。
前方。
フィルの銃撃が走った後へ、ケイの放ったサンダーブラストが激しく降り注ぐ。
それで乱れた相手の前線へと、セラ、支倉、サラス、燕が走り込んで、ゴブリン達を切り伏せながら道を作り上げていく。
そして、作り上げられたその道を。
エメネアを中心にした紅龍、熊猫、サミュエル、縁、ベアトリクスが駆け抜け、そこへフィル、ケイ、カナタが続く。
燕とセラが斬り伏せたホブゴブリン達の向こう、アサルトカービンを構えるゴブリンの一団。
支倉がリターニングダガーを放ち、ゴブリンの血沫を引いて返っていく横を、サラスが駆けていく。
「遠慮はいらんからのぅ」
縁のパワーブレスを受けたサラスが、銃口の定まらないホブゴブリンを翻弄するようにジグザグに体を滑らせていき――
軽やかな踏み込みと共に、ホブゴブリンを斬り捨てた。
支倉のリターニングダガーがもう一体のホブゴブリンを裂くのを尻目に。
サラスは小さく地面を蹴り跳びながら身を翻して、円を描くように切っ先を閃かせる。
次いで、散らかったホブゴブリンの血飛沫の向こうに、セラと燕が追いついてくるのが見えた。
サラスは、ヒュルっと切っ先を巡らせながら、地に足を滑らせて前方に体を向けた。
そして。
ホブゴブリン達の集団をなんとか突っ切って、神殿内へとなだれ込む。
「ここで連中を食い止めるぞ――遥、ベアトリクス、サミュエル、セラ、フィルはエメネアと共に先へ行け」
紅龍が鋭く指示を飛ばして、支倉が頷く。
「了解です」
そこで、紅龍、熊猫、ケイ、カナタ、燕、セラ、フィル、縁、サラスが床を鳴らして、後方へとそれぞれ向き直った。
「え――み、皆さんは!?」
エメネアがベアトリクスに手を引かれながら、彼らに声を飛ばす。
「ここはサラスが守る。エメネアは心配することない。――エメネアは師父と行くから安心」
サラスがエメネアに笑みを向けてから、支倉の方を見遣る。
サラスの隣で、縁がころりと笑う。
「こっちの心配はいらんから。見事、星槍を取り返してみせよ」
「大丈夫、エメネアさんなら出来ます。頼んますぇ」
燕が言って、細い目を笑ませた。
「月並みだけどさ――」
ケイが魔術を組み立てつつ、後方に迫るホブゴブリン達を見据えながら言う。
「あんたは、もう一人じゃないぜ」
「本当に月並みな言葉ではあるが、真実でもあるな」
カナタがゴブリン達へとアシッドクラウドを放った。
その向こうからアサルトカービンの銃撃がスタタッとこちらへと向けられてくる。
「皆さん――」
エメネアは、ぐぅっと潤んだ目を細めた。
「ありがとう御座いますっっ!」
「さ、急ぐアルよー! これが終わったら、皆でデパートに行くアル〜!」
熊猫が明るげな声で言って。
「そうね、急ぎましょう。時間が無いわ」
セラの言葉を合図にエメネアを含めた六人は神殿の奥を目指した。
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