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第一章 公園で遊ぼう

「よし、晴れましたね」
 リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)は晴天の空を見て、明るい笑顔を浮かべた。
 今日は同じ蒼空学園の白波 理沙(しらなみ・りさ)と公園でデートなのだ。
 デートと言っても最近、友達になったばかりなので、お互いを知るために遊びに行こうというものなのだが、強気で可愛い女の子が好きなリュースにとって、理沙はすごく好みのタイプだったので、気合が入っていた。
「道具も持ったし、先週もらっておいた公園マップもばっちり。さて、行きましょうか」
 公園の入り口でリュースを目印に待ち合わせた2人は、レンタルサイクリングでマウンテンバイクを借りて、原っぱエリアまで一緒に走ることにした。
「まずはサイクリング勝負と行きませんか?」
 リュースの提案に理沙が慌てる。
「あ、待って。お弁当が崩れちゃうから……」
「え、お弁当?」
 食いしん坊のリュースはその言葉に目をキラキラ輝かせる。
「うん、お弁当作ってきたの。だから、自転車で勝負すると、熱が入って偏っちゃうかもしれないから」
「じゃ、のんびり行きましょう」
 二人は学校のことなどを話しつつ、ゆっくり原っぱエリアに向かった。
 そして、原っぱに入ると、リュースと理沙はバドミントンを始めた。
「よーし、負けないよ!」
 負けず嫌いな理沙は「女の子だからって手加減なんてしてら、承知しないんだから」笑って、シャトルを打った。
「ははは、いいですよー」
 リュースは笑顔でラケットを構えたが、そのそばをすごい勢いでシャトルが飛んできた。
「うわっ!」
 何とか当てようとしたものの、シャトルに届かず、あえなく撃沈する。
「ふっふっふ、昔っからスポーツばっかりやってきたからね! どんなスポーツでも大体得意だよ!」
 ラケットをピッと向けて、理沙がリュースを明るく挑発する。
「やりますね。それじゃ、こっちからも行きますよ!」
 リュースはニコッと笑い、手加減なしで、シャトルを叩きこんだ。
 二人の真剣勝負が始まり、シャトルが太陽の光を浴びて明るく輝く。
 そして、何回うちあったか分からないくらいにうちあった後、リュースが休憩を提案した。
「理沙ちゃん、少し休みませんか?」
「そうだね、お弁当食べようか!」
 リュースがレジャーシートを敷き、理沙がお弁当を広げる。
「運動した後だし、ちょっと多めでも食べられるよね?」
 気合いを入れてたくさん作りすぎちゃったかな、と思った理沙だったが、リュースはものすごくうれしそうにたくさん並べられたお弁当を見つめていた。
「ああ、美味しそう……」
「ふふ、口に合うとうれしいけどね」
 理沙がちょっと控え目にそう言ったが、お弁当を食べ始めたリュースは、この世の至福とでも言いそうなくらいに、ものすごく幸福そうに、おむすびやからあげを頬張った。
「おいしいです、すっごくおいしいですよ、理沙ちゃん」
「え、そんなに褒められちゃうと、照れちゃうな」
 掛け値なしでひたすら理沙を褒めるリュースに、理沙は照れ笑いを見せる。
 元気で明るくて強気で、しかも料理が得意なんて……なんて理想的な女の子なんだ!  とお弁当を味わいながら、リュースは思うのだった。
 
 お昼ご飯が終わると、二人は再び、立ち上がった。
「よーし、それじゃ、ご飯も食べたし、今度はさっきやり損ねたサイクリング勝負でもしようか!」
 理沙の提案に、リュースが賛成する。
「うん、次はそれで勝負と行こう!」
 2人はそのまま夕方まで一緒に遊び、公園を後にした。
「もう夕暮れ時になっちゃったねー」
 理沙の横顔が夕日に照らされ、金色のポニーテールがキラキラと光る。
「……どうかした?」
 リュースが自分を見つめてることに気づき、理沙が茶色の大きな瞳をリュースに向ける。
「あ、いや、今日は楽しかったなって。ありがとうって言いたくって」
 理沙の可愛い横顔を見ていてドキッとしていたリュースは、それを隠すかのように早口で言った。
 その言葉に理沙も笑顔を見せた。
「私もとっても楽しかったよ!」
 初めてのデートを終えて、2人は明るい気持ちで帰宅したのだった。

                ★

「ケイおねえちゃーん!」
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は待ち合わせ場所に立っていた緋桜 ケイ(ひおう・けい)を見つけて、飛びつくように抱きついた。
「ヴァ、ヴァーナー」
 いきなり抱きついてきたヴァーナーに、ケイは困惑の表情を浮かべたが、うれしそうなヴァーナーを見て、恥ずかしがりながら、それを受け入れた。
「あ、ごめんなさい、この間の傷、痛んじゃいましたか?」
 ケイは悠久ノ カナタ(とわの・かなた)と共に出た闇組織との戦いで、血に染まりながらもヴァーナーを庇い、サンダーブラストを敵に放って、ヴァーナーを助けた、ということがあった。
 命の恩人であるケイをヴァーナーは慕い、今日はそのお礼としてデートに誘ったのだ。
「大丈夫、痛んだりしてないぜ。それより、ヴァーナーの方が大丈夫か?」
 歴戦の勇者であるケイの言葉に、ヴァーナーはホッとする。
「痛んだりしてないなら良かったです。さすがはケイおねえちゃんですね! ボクも大丈夫ですよ! あの時は……とってもカッコ良かったです」
 ちょっと頬を染めながら、ヴァーナーはケイを褒め、赤チェックミニスカートを翻して、ケイを公園に誘った。
「ケイおねえちゃんの好きな野菜たっぷりのサンドイッチを作ってきたんです。一緒に食べましょう」
 2人は芝生でお弁当を食べ、次にアイスを買った。
「バニラアイスにフルーツマシュマロ+イチゴソースで!」
「じゃあ、俺はチョコミントを」
 山盛りになったヴァーナーのアイスと、ミントにチョコチップの入ったケイのアイスが差し出される。
「チョコミントが好きなんですね、ケイおねえちゃん」
 その問いに、ケイは少し頬を染めて、その理由を答えた。
「ヴァーナーの髪の色に似てるから、なんとなく選んだんだ」
「ボクの髪の色?」
「ああ……。うん、ヴァーナーは肌もキレイだけど、髪もキレイなんだな」
 ケイはアイスを持っていない方の手で、ヴァーナーの髪を優しく撫でてあげた。
「ありがとう。あっ!」
 ヴァーナーがお礼を言ったとき、ケイのほっぺたにバニラアイスが付いてしまった。
「ごめんね、ケイおねえちゃん。取ってあげる」
 ケイの頬に付いたバニラをヴァーナーがペロッと舐める。
「……っ」
 舌の触れた頬をケイは恥ずかしそうに手で押さえたが、ヴァーナーは屈託のない笑顔を見せた。
「はい、大丈夫です。キレイに取れました! アイス食べ終わったら、芝生で一緒にお昼寝しましょうね」
「お、おう」
 2人は先ほどお弁当を食べた芝生に戻り、ヴァーナーの希望通り、お昼寝を始めた。
 すやすやヴァーナーが眠る一方で、ケイの方は落ち着くことができなかった。
 目を閉じると、ヴァーナーにお弁当を「あーん」されたり、先ほどのアイスを舐めとってもらったことが頭をちらついた。
(なんだよ、もう……)
 自分の胸のドキドキをうまく処理できず、ケイは可愛らしい寝顔のヴァーナーを見る。
 するとまた、胸がドキドキして来て、ケイは慌ててヴァーナーの寝顔から目を逸らした。
(な、なんだよ、もう)
 もう一度、自分の胸に問いかける。
 しかし、百戦錬磨の魔法使いにも、その謎はなかなかに解けないのだった。

「そろそろ帰ろうか」
 日が傾いてきたころ、ケイはヴァーナーの白地にハート柄のフリースジャケットに軽く触れて揺すり、ヴァーナーを起こした。
「ん……」
 ちょっと寝ボケ気味のヴァーナーに手を貸してあげて、ケイはヴァーナーを百合園まで送ってあげることにした。
 その間もヴァーナーはケイの腕に絡み、べったりしていたのだが、ケイは恥ずかしがりながらも、その腕を外すことはなかった。
 そして、別れる前に、ケイはヴァーナーにあるものを渡した。
「こういうのはなんだか恥ずかしいな……。これ、プレゼントだ。よかったら後で開けて」
 それは日本のとある雪国で流行しているマスコットキャラクターで、マフラーをした可愛らしい白クマのぬいぐるみだった。
「わあ、ケイおねえちゃん、ありがとう!」
 ヴァーナーは中身を楽しみにするように箱に頬ずりし、ニコニコした。
 その様子を(可愛いな……)と思って見つめながら、ケイはヴァーナーの頬にキスをした。
「ケイおねえちゃん……」
 ヴァーナーの銀色の大きな瞳が潤み、そして、ぎゅっとケイに抱きついた。
「ありがとう、ボク、うれしい!」
 抱きついたヴァーナーは30センチ以上背の高いケイの頭を引き寄せて、とびきりの笑顔を見せた。
 「今日は楽しかったです、ケイおねえちゃん大好き!」
 そのままチュ〜っとケイの唇にキスをする。
「!?」
 驚くケイだったが、ヴァーナーはとびきりの笑顔のまま、ケイの胸にぎゅっと抱きついた。
「また、遊びに行こうね、ケイお姉ちゃん!」
 次の約束を求めて、ヴァーナーは百合園へと帰って言った。

                ★

「お姉ちゃん、いってらっしゃいなの〜」
 朝野 未羅(あさの・みら)朝野 未沙(あさの・みさ)を元気に手を振って見送った。
「今日はお姉ちゃん、レイディスお兄ちゃんやさっちゃんとデート楽しんで来てくれるといいの。ぱぱやままもお出かけだって言ってたし、晴れて良かったの」
 晴天の空を見ながら、未羅は楽しそうに微笑んだ。

「レイちゃーん!」
 未沙が手を振る先には、レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)がいた。それと同時に向こうからも声がした。
「レイー!」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が大好きなレイディスを見つけ、うれしそうに小走りで寄ってきた。
「よう、ミサ、祥子」
「ごめんね、待たせちゃって! 今日はありがとう、レイちゃん!」
「レイ、今日はゆっくりのんびりしましょ。日頃の疲れを全部なくすくらいにね」
「おう、そうしような」
 レイディスは二人を笑顔で出迎え、一緒に公園を歩いた。
「……んーっ、いい季節になったよなー……風が気持ちいいぜー」
 伸びをしながら歩くレイディスの左右を、未沙と祥子が歩く。
 祥子は(腕を組んで歩きたいな)と思ったが、祥子とレイディスだと身長差があるため、遠慮した。
 また、未沙に遠慮したのもあった。
「今日は三人なんだし、お互いそういうことは……気をつけましょう」
 祥子の言葉に、レイディスと腕を組みかけていた未沙はパッと手を引く。
「……そ、そっか」
 自分のしようとした行為に気づかれてないか、未沙は緊張しながら祥子を見たが、祥子は気づいておらず、むしろレイディスに対して、名残惜しそうな視線を向けていた。
 祥子は恋しい思いをあきらめ、三人で話しながら、公園の芝生へと向かった。
 
「はい、サンドイッチ。タマゴ、ツナ、ハムチーズ、レタス、ジャムの5種類だよ。レイちゃん、酸っぱいのとかトマトは嫌いだったよね。だから入れてないよ」
 未沙が洋風のお弁当を差し出すと、逆から祥子が和風のお弁当を差し出した。
「おにぎりはおかか、焼き鮭、焼き鱈子よ。レイは梅干しが苦手だから外しておいたわ。稲荷寿司もあるのよ」
 祥子はおにぎり以外にも、伊達巻、鶏肉の竜田揚げ、金時豆を並べ、香の物として沢庵と茄子の浅漬けを置いた。
「ほうじ茶もあるから、ゆっくり食べてね」
「ああ、2人ともサンキュな」
 レイディスはお礼を言って、二人の作ってきたお弁当と二人に両手を合わせる。
「じゃ、頂きますっと!」
 元気よく、しかしきちんと挨拶をし、レイディスはお弁当を食べ始めた。
「あ、このハムチーズサンド美味ぇな、ミサ」
「本当? ありがとう、レイちゃん!」
「祥子の作ってくれた竜田揚げも美味しいや」 
「レイディスが喜んでくれたならうれしいわ」
 未沙も祥子も甲斐甲斐しくレイディスの面倒を見ながら、うれしそうに微笑む。
「二人も食えよ。せっかくなんだし」
「そうね、頂こうかしら」
 レイディスに勧められ、祥子も料理に箸をつける。
「レイちゃん、ハイ、あーん♪」
 未沙がレイディスに食べ物を差し出すと、レイディスは食べていた竜田揚げを詰まらせかけて、ゲホゲホとした。
「あら、大丈夫、レイ。はい、お茶」
 祥子の差し出したほうじ茶を飲み、レイディスは一息つく。
「さ、サンキュ、祥子。ってビックリするじゃねーかよ、ミサ」
「えー、いいじゃない。せっかくデートなのにー」
 顔を赤くして避けようとするレイディスを見て、未沙が可愛らしい顔の頬をちょっとだけ膨らます。
「あまりレイに無理しないの」
 祥子が仲裁に入って「さ、食べましょう」と促す。
 三人は一緒に和風と洋風のお弁当を食べたのだった。

「ごちそうさま」
 そう言うとレイディスは立ち上がり、ソフトクリーム屋に行ってくると言いだした。
「二人の分買ってくるからさ。待ってろよ」
 レイディスが手を振って行ってしまうと、未沙は祥子にツツっと寄った。
「……さっちゃん、膝枕するのとかは譲るけど、それ以上は……」
「別に私はそんな気はないわ。ただ、戦闘ばかりで疲れたレイにのんびりして欲しいと思って来たんだもの」
「ふうん……」
 今までのことを考えるとな、という目で未沙は祥子を見たが、口にはしなかった。
「あいよ、お待たせ」
 レイディスがソフトクリームを買って帰ってくると、未沙も祥子も笑顔でをそれを受け取り、三人で仲良く食べた。
「さて、それじゃちょっと寝っ転がるか!」
 温かい日を浴びながら、レイディスがコロンと転がる。
 祥子はレイディスの隣に転がり、そのそばで微笑んだ。
「レイとこうやってお昼寝できるなんて至福の一時ね〜」
「だなあ、日向ぼっこしながら寝るのは最高だぜ」
 未沙も逆の隣に寝転がり、三人並んでお昼寝をする。
「ずっとあなたのそばにいられたらいいのにね」
 祥子がそうレイディスに話しかけたときには、レイディスはすでに寝てしまっていた。
「もう、レイってば……」
 年下の彼を見守るように祥子は優しく呟き、一緒に眠りについた。
 
 お昼寝が終わり、三人はゆっくりと帰ることにした。
「秋は日が落ちるのが早いから、ちょっと早目だけど帰るか」
「そうね」
 祥子が後片付けを始める。
 レイディスも未沙もそれを手伝い、そして、未沙が不意にレイディスに声をかけた。
「レイちゃん」
「ん?」
 振り向いたレイディスの隙をついて、未沙がレイディスの唇に自らの唇を重ねる。
 ……と仕掛けたのだが、剣士であるレイディスは「おわっ」と言いながら見事にバックステップでそれを避けた。
「なんだよ、ミサ。ぶつかるところだったじゃねーか。あぶねーぞ」
 初キスをしようとした未沙の気持ちに気づかず、レイディスはぶつかりそうだった、と勘違いしている。
「……失敗」
 誰にも聞こえないように、未沙は自分の口の中だけでそう呟いた。
 一度はレイディスのことをあきらめようと思っていた。
 気持ちを整理して、乗り越えようとした時もあった。
 でも、あきらめるのはやっぱり無理だった。
「…………」
 レイディスは未沙の気持ちに気づいてなくても、レイディスを好きな祥子は、未沙の気持ちと行動の意味に気づいていた。
「負けないよ、さっちゃん」
 自分をじっと見る祥子に、未沙は真剣な顔でそう言ったのだった。
 一方、レイディスはと言うと、火花を散らす2人を置いて、違うことを思っていた。
 レイディスはある事情で恋心を閉ざしていた。
 そして、その想いはいまだに変わらない。
「……」
 独り言のように何かを口にしかけて、レイディスはやめた。
 レイディスが未沙や祥子の恋心に気づかないのは単に鈍感だからでは無い。
 そこには未だに解消できない想いがあるからなのだ。
「さ、未羅が待ってるかもしれねえ。帰ろうぜ!」
 
 三人は途中で別れ、それぞれの家路に着いた。
「お姉ちゃんお帰りなさいなの。楽しかったの?」
 出迎えてくれた未羅に、未沙は笑顔を向ける。
「未羅ちゃん、お姉ちゃんがんばるからね」
 未沙の言葉に未羅はきょとんとしたが、大好きな姉のために、ニコッと笑顔を見せた。
「うん、お姉ちゃん。がんばってなの!」
 
                ★

 いつものイルミンスールの制服を脱ぎ、今日は白いワンピースを着ている。
 普段はおろした焦げ茶色の長い髪を一つに結っている。
 愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)のそれだけの変化で、風森 巽(かぜもり・たつみ)はドキッとした。
 友人としての付き合いは長い。
 それが最近、意外な一面を見て、恋に落ちた。
 ミュージカル映画のチケットをもらったのを良い機会に、思い切って巽が誘い、二人でデートとなったのだ。
「あれ、どうした、風森」
 立ちすくむ巽を見つけ、ミサの方から声をかける。
「あ、ううん……」
「なんだよ、来てたなら声をかけてくれれば良かったのに、さ、行こうぜ」
 2人は待ち合わせ場所だった噴水を背にして、歩きだす。
 まだ待ち合わせ時間の10分前だったが、2人はお互いを待たせないようにと早く来たのだ。
 互いの学校や趣味の話をしながら、巽がミサに歩調を合わせて歩く。
「あ、あの、愛沢」
「ん?」
「私服、すごく可愛い……ですね」
 巽の言葉にミサが顔を赤くする。
 美辞麗句よりも率直な言葉に、ミサは照れたのだ。
「……あ、ありがとうな」
 ミサの口からやっと出た言葉がそれだった。
 お互いに照れながら、二人は公園の林の奥に入った。静かなところでお昼を過ごしたと巽が思ったからだ。
「人気のない所って、静かでいいよね」
 ミサも同じ気持ちだったらしく、誰もいない林の奥が気に入ったようだった。
 巽がシートを敷き、ミサがお弁当を広げたが……ミサは非常に自信なさげだった。
「俺は料理下手だけれど、お、御握りは大丈夫だと思うから!」
 おかずについてはあえて触れず、巽の好物のおかかおにぎりを渡す。
 おにぎりの形も多少イビツではあったが、巽は「ありがとう」と笑顔を見せ、それを食べた。
 家庭科3のミサの作ったおかずも、巽は変わらぬ笑顔で食べてくれた。
「まだ映画が始まるまで時間があるから、少しのんびりしましょうか」
 完食した巽がお礼を言って、水筒を取り出す。
「愛沢は紅茶と麦茶、どっちが好きかな?」
「そ、それじゃ食後だから麦茶を……」
 水筒のコップを差し出され、ミサはそれを手に取ろうとして、巽の指に触れ、ドキッとする。
「……と、落とさないように気を付けてくださいね」
「あ、ああ」
 少し頬を染めながら、ミサがそれを受け取って飲む。
 2人はあまり広くないシートで肩を並べて座りながら、友達の話をしたりした。
 そして、気づくと、前日に緊張して眠れなかった巽がうつらうつらとし始めていた。

「あ……」
 風森、と声をかけたとき、巽がミサにこつんともたれかかった。
「!?」
 顔を真っ赤にしたミサだったが、(と、友達が寄りかかったくらいで何を照れてるんだ、俺は!)と自分にツッコミ、巽の顔を見た。
 可愛らしい寝顔に、また、ミサの胸がときめく。
(こんなに可愛くちゃどけられないよな)
 そして、巽の寝顔を見つめているうちに、朝早く起きてお弁当づくりをしていたミサも気づくと眠っていた……。

「愛沢、愛沢!」
 肩を揺り動かされ、ミサが目を開ける。
「ん……どうした、風森」
「上映時間が迫ってるんですよ。寝過ぎてしまいました」
「え、本当か!?」
 ミサは慌てて立ちあがり、巽がシートを片付ける。
「ありがとう、ごちそうさま!」
 お弁当箱も丁寧に包んで、巽が渡してくれた。
「じ、時間あとどれくらいだ?」
「15分ってところですね。急ぎましょう!」
 巽がミサの手を取って、走りだす。
「え!?」
 ミサは驚いて、顔を赤くした。
 巽の、自分より大きな手に引っ張られながら、ミサはなんとか巽に声をかけた。
「あああ、あうあう……か、風森?! あのっ……」
「あ、急ぎすぎましたか?」
 魔法使いのミサに無理をさせたかと思い、巽が足を止めた。
「い、いや、そういうんじゃなくって……」
 巽が足を止めてくれたものの、手を繋がれてるのが恥ずかしい、とは言えず、ミサは戸惑う。
「何かありました?」
 首を傾げる巽を見て、何か言わなきゃと思ったミサは、ひらめいた言葉を口にした。
「そ、そうだ、映画のチケットおごってもらうことになっちゃうだろ? それはイヤだから、何かおごろうかと……」
「愛沢はお弁当を作って来てくれたじゃないですか?」
「じゃ、じゃあ、間を取って、ポップコーンでもおごるよ、行こう!」
 顔を赤くしながら、ミサが巽を促す。
「了解です」
 巽は笑顔を見せて、ミサと共に映画館に走り出した。

                ★

 麻野 樹(まの・いつき)水神 樹(みなかみ・いつき)の2人は風森 巽(かぜもり・たつみ)たちとは違い、本当に友達同士のお出かけだった。
 なぜなら麻野はパートナーの光司と付き合っているからだ。
 薔薇の学舎の麻野は恋愛対象は男なのだが、可愛い女の子も単純に好きだし、友達は多いに越したことはないと思っていたので、水神とのお出かけは楽しみだった。
 公園での目印は2メートル近い身長の麻野。
「こん……にちは」
 公園にやってきた水神は制服ではなく、私服だった。
 キャミソールの上に五分袖のボレロのアンサンブルを着て、膝丈のスカートを履いた水神は清楚で秋らしい服装をしていた。
「よく似合ってるよ。こんな可愛い子と一日を過ごせるなんて俺は幸せだねぇ」
「あ、ありがとうございます……」
 微笑しながら褒める麻野に照れ、水神はお礼を言った。
 女の子と出かけるのは初めての麻野だったが、着飾っている女の子は素敵だと思うタイプなので、9月らしい装いで来た水神を素直に称賛した。
 恋愛対象でなくても、麻野は水神をきちんとリードしようと決めていた。
「さ、それじゃ、アイスでも食べて、のんびり散歩しようかねぇ」
 麻野はパーカーを靡かせながら、秋の並木道を水神と一緒に歩いた。
 お互いイルミンスールの話や薔薇の学舎の話をしつつ、一緒になった依頼の話などをする。
 顔を合わすのは初めてでは無いので、互いに話が弾んだ。
「麻野さん、薔薇の学舎はどうですか?」
「そうだねぇ。元庶民の俺にとっては敷居が高いかなぁ。みんな小さい頃からヴァイオリン習ってましたとかそんなのばかりでねぇ」
「じゃあ、私みたいに筋トレが好きなんてタイプも馴染めませんね」
「あはは、ま、騎士にってのもいるから、鍛えてるのはいるけれどねぇ。でも、水神君の方が大変じゃないかなぁ。やっぱりイルミンは魔法使いメインでしょ〜?」
「そうですね。騎士の4倍以上魔法使いがいますからね。やはり魔法使いメインです」
 そんなことを話しながら、二人は一緒にアイスを買い、ベンチに座って食べた。
「まだアイスのおいしい時期ですね」
 その言葉に頷きつつ、麻野はひょいっと水神に近づいた。
「水神君のも美味しそうだねぇ、一口貰うねぇ」
 ペロッと麻野が水神のバニラを舐める。
「えっ!?」
 アイスとは言え、間接キス的な行為に水神はドキッとする。
 しかし、麻野の方は気づかずに、自分のチョコを水神に勧めた。
「ありがとう〜、水神君。俺のチョコもどうぞだ」
「そ、それでは、いただきます……」
 少し照れたものの、変に意識するのはおかしいかなと思い、水神もチョコをもらった。
 アイスを食べ終わると、二人はボートに乗り、交互にボートを漕いだ。
「やっぱりうちのカノンよりずっとパワーがありますね」
「あはは。それは水神君もだよ〜。うちの光司よりずっとパワーがある」
「鍛えてますから。と、大丈夫でしたか? パートナーさん……」
 カノンと同じく剣の花嫁である麻野のパートナーを水神が気遣う。
「ん? 光司かい? 揉めた揉めた」
「ええっ!?」
 驚いた水神がボートの上で立ちあがり、バランスを崩しかける。
「おっと」
 麻野がそれを支え、小さく笑った。
「驚かせてごめんねぇ。大丈夫、納得してくれたからぁ」
「そ、そうですか。今度は光司さんと来てくださいね」
 その言葉に麻野は微笑みながら頷き、水神を座らせて、オールを替わった。
「うん、そうするって言っておいたぁ。でも、水神君とこうやって遊んでるのも楽しいから、パートナー以外と出かけるのも楽しいなって思ったよぉ」
 感謝の思いを込めて、麻野は水神に笑顔を向けるのだった。