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学園鬼ごっこ!!

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学園鬼ごっこ!!

リアクション

■■■

 支倉 遥は、あまり乗り気ではないパートナー2人を連れて廊下を走っていた。
「案外、トラップも大したことないし、風紀側も千鳥さんとやらを取り巻いているようで余裕ですね」
 せっかく女子生徒に男気を見せつけようと思っていたのに、と残念がる遥だったが
「ふ、そんな気を抜いたらいけませんよ」と廊下の影から御凪 真人が姿を現す。
「待ち伏せか。趣味が悪いですね」
「待ち伏せだけではないんですよ」
「なに!?」
 遥がある異変に気付く。足に妙な感覚。異様に冷たい空気。
「……っ! 床に氷術を使ったのか!?」
 それに気付いた遥は声を荒げ、なんとか体制を持ち直す。
「なかなか隅におけない人ですね」
「そちらも」
 男同士のバトルが始まろうとした、その時――
「♪♪♪〜」
 どこからか清らかな歌声が聴こえてくる。
「ん?」
 遥と真人が辺りを見回すと、そこにはメイベル・ポーターが気持ちよさそうに歌っていた。
 その胸元には【77】のゼッケン。
「君も一般側の方ですか」
「ええ♪ そんなにピリピリとした空気じゃ楽しくないですよぉ。もっと楽しく遊びましょう」
 おっとりとした口調で言うメイベル。
「メイベルちゃん、ファイトだよ〜」
 メイベルのパートナー、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)がメイベルに激励を送るとニコっと微笑む。
 遥はメイベルに男気を見せてやろうと気合を入れた。
「よし、じゃあ正々堂々勝負しますか」
 とはいったものの、メイベルは歌いながら戦いに挑むため遥と真人の集中力は著しく低下していた。
 もっとも、真人は可愛らしい女の子を撃つ気はなく、また遥もメイベルにはなるべく被害がないようにしていた。
 しかし、メイベルにとってはこれは真剣勝負。
 2人が油断した隙をつき、氷術で霧を発生させた。
「し、しまった、やりますね。メイベルさん」
 そして、霧で視界が悪くなったところで氷術で床を凍らせる。
 2人はなんとか体制を保ったものの、そこで誰がしかけたのかピアノ線トラップが!
 それに気付かず、遥と真人は床に叩きつけられる。
 優勢だったメイベルもそれにつまづき、転んでしまう。
「えへへ、転んでしまいましたぁ」
 あくまでメイベルにとって楽しみながらの勝負だったため、どちらが一般生徒側でどちらが風紀委員側などはどうでもよかった。
 メイベルとの戦いで、なかなか思うように自分の力を発揮できなかった遥と真人だったが、メイベルが歌い始めるのを静かに聴いていた。


「あらあら、こんなに汗だくになって。でも楽しめましたか?」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)はメイベルの額を柔らかいコットンのハンカチで拭いてあげると、優しく頭を撫でる。
「終わったら、美味しいお茶とお茶菓子を用意しますね」
「いいねいいね! 遥ちゃんと真人ちゃんもお茶会ご一緒どお?」
 セシリアから“ちゃん付け”で呼ばれたことに驚く遥と真人ではあったが、「じゃあ、お邪魔させていただきましょうか」と声を合わせる。
「しかし、俺はまだやることがありますので……全てが終わったときに、また」
 丁寧に一礼すると、真人は足早にどこかへ去っていった。


■■■ 

「私は、この【89】番のゼッケンをつけていますよ、緋音ちゃんの綺麗な髪と同じに紅く塗ってみたですよ」
 御堂 緋音(みどう・あかね)の手をとってニコっと微笑む桐生 ひな(きりゅう・ひな)
「緋音ちゃんと敵対だなんて、とってもとっても悲しいけれど、これは戦いなのです。一生懸命逃げますですよ」
 その言葉にコクリと頷くと、
「頑張って追いかけます」
 ひなの手を強く握り、凛とした声で返す緋音。
「それじゃぁ……、よーいすたぁとなのです!」
 他の生徒に遅ればせながら、ひなと緋音の二人も追いかけっこを開始。

「あ〜ん、ひな早いですぅ……」
 早くも緋音からは苦しそうな息が漏れる。
 運動能力では遠く及ばない緋音はどうひなに追いつこうか考えていた。

 一方、逃げる側であるもののキョロキョロとうしろを振り返り緋音の様子を気にかけるひなはあることをひらめく。
「緋音ちゃんの驚いたお顔が見たいです」
 緋音のことを想うたびに、ひなの心に温かい何かがあふれ出してくる。
 まるで、それは一輪の花に雨雫が落ちたときのように。そっと、やさしく。
「早く緋音ちゃんに会いたい。……よし、これで大丈夫ですわ」

 緋音の方も準備が整い、いざひなを探してみてものの、どこにもその姿を見つけられない。
「ひな、どこなのですか?」
 緋音の横を何人もの生徒が走りぬけ、急に不安な気持ちが緋音をおそう。
「ひなちゃんが他の人に狙われていたらどうしましょう……」
 ギュっと制服を掴んで、立ち止まった足を一歩踏み出させる。
 ……すると。
「緋音ちゃーん、私は此処に居るぞぉ〜なのですっ」 
 両手を大きく振って、緋音に向かって笑顔を送るひな。
「きゃぁ! ひ、ひな!?」
 いつもはおとなしく静かな緋音も、突然目の前に現れた大好きなひなに驚いて目をまんまるくさせた。
 そう、ひなは緋音の来るのをじっと隠れて待っていたのである。
「えへへ、作成大成功なのです♪」
 ドキドキドキ。
 緋音の心は強く鳴り続けていた。
 トクントクントクン……。
 この高鳴りは、驚きなのか、ひなの顔を見れたことへの喜びからなのか緋音には分からないでいた。
「さぁ、鬼ごっこ再開ですわ♪」
 そう言うと、ひなは手をひらひらと振って緋音をある場所へと誘導していった。
 辿り着いたのは、多目的ルーム。
 そこにもしかけがほどこされていて、その部屋に入った瞬間から1分以内に抜け出さないと大変なことになる!……ということしか具体的なことが何も分からない場所だ。
 あからさまなトラップ部屋ということもあり、生徒は寄り付こうとしなかったのだが、ひなの思惑は違った。
 とにかく緋音ちゃんと楽しいことがしたい!
 緋音ちゃんとならどんなトラップにかかっても笑っていられる!
 そんな思いで、この多目的ルームに緋音を連れてきたのだ。トラップも2人にとっては、なんの障害でもない。
 ひなは後ろから緋音が息を切らして追いかけてくるのを確認し、多目的ルームへ足を進める。
 いつもなら小さい小さいこの部屋。しかし……。
「いやぁ! なんなのですかぁ」
 先に足を踏み入れたひなは早速この部屋のトラップに驚いてしまう。
 その床は全自動トランポリンが張り詰められており、足を踏み入れたら最後。
 トランポリンの動きに体をとられ、身動きがとれなくなってしまうのだ。
 そこから1分間に脱出しないと大変なことになってしまう。
 ひなの悲鳴を聞いて、急いで緋音も多目的ルームに入る。
 目の前にはポヨンポヨンとはねるしかできないひな。
「ひな! 今、助けます!」
 とか言うものの、緋音もトランポリンの動きに巻き込まれ思うように動けない。
 思わず跳ねながら抱き合ってしまう2人。
「やーん! どうしましょう!」
 2人で仲良くポヨンポヨンしていると、まもなく1分が経過。
 すると、天井がパカリと開き、そこからカラフルな風船が大量に落ちてきたのだ。
 同時にトランポリンは上下に動くのをやめ、おさまる。
 2人は風船に埋もれ、しばらくすると「ふはぁー」っと顔を出した。
「なんなのですかー! このトラップは」
「でも、可愛らしくて素敵ですね」
 ほとぼりが冷めると急におかしくなってしまい、ひなと緋音は同時に笑い出す。
「なんだか、鬼ごっこというよりも2人で遊んだって感じですね」
 緋音はコクリと頷くと
「ひなと敵対なんて、やっぱり出来ないです」
「私もおんなじ気持ちです」
 2人はおでこを合わせ、見つめあう。
「驚いた緋音ちゃんのお顔、とっても可愛かったですよ」
「え!? も、もうひなったらからかわないでください……」
「からかってなんかないのです」
「え……?」
 ひなの言葉に頬を赤らめる緋音。
 その頬に優しくそっと触れるひな。
 2人は肩を寄り添わせ、色とりどりの風船に囲まれて、スヤスヤと眠りについた。