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学園鬼ごっこ!!

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学園鬼ごっこ!!

リアクション

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 葉月 ショウ(はづき・しょう)は開始直後と同時に家庭科室へ向かっていた。
 移動しながら気づいてしまったのだ。このゲームの絶対勝利方。
 それ即ち。ゼッケンをサランラップで包んで、ペイント弾を完全防御するチートチックな裏技。
 廊下を渡って、なるべく最短ルートで家庭科室に向かおうとするが、
 普段人通りの家庭科室付近は隠れるのにもってこいだと読まれたらしく、トラップばかりでもう二回ほど迂回している。
 そして今回でもう三回目のトラップだ。それは廊下いっぱいに広がるトリモチフィールドだった。
 さすがのショウもあきれて、背番号82番のゼッケンが張るように肩を落とす。
 しかし、ここであきらめるのも尺だった。
「仏の顔も三度まで、だ」
 一度助走をつけて、思い切りよく大地を蹴って、バーストダッシュを発動させる。
 低空飛行で十数メートルほど飛んで着地、難なくトリモチフィールドを突破、着地した。
 すると、普段生徒が立ち寄らない教員用のトイレから「モガモガ」と不思議な音が漏れてくる。
 ショウは嫌な予感を拭いつつも、好奇心には勝てずにドアを開ける。
 そこにはロープで縛られた七枷 陣(ななかせ・じん)とそのパートナーのリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)
が二人そろって「モガモガ」していた。
「いやー、ホンマ助かったわ自分」
 目が合ったので見てみぬフリも気まずかったし、助けることにしたショウは二人から簡単なお礼と自己紹介受ける。
「あのね、陣くんがね、ワナにひっかかっちゃったの」
 リーズは「けがしてない?」と陣の体を心配そうにペトペト触りながら、忙しそうに教えてくれる。
「わな? ……って、あの見え見え丸出しのトリモチのことか?」
 露骨なトリモチフィールドに視線を落としながら、ショウが問うと、陣は「まさか」と苦笑しながら答える。
「ちゃうよ、二段トラップよ。バーストダッシュで着地したとこ、ねろぉてピアノ線かなんか引きおったやな。えげつないわ、ホンマに」
 確かに、トリモチフィールドが終わった直後に切れたピアノ線がくねくねと力なく床に落ちている。
「でもなんでトイレに縛られてたんだ?」
「ボクと陣が転んであたふたしてたうちに、トイレから待ち伏せしてた人が出てきたの」
 ショウも自分がもう少し早くこの道を選んでいたら、危うくトイレで縛られる破目にあっていたと思うとゾッとした。
「なるほど。で? その待ち伏せしてたってヤツは?」
「……きた」
 一言呟く陣の顔つきは、すでに臨戦態勢に変わっていた。
 ショウも慌てて構えなおし、陣の視線の先を追う。
 次の瞬間、爆炎とともに曲がり角から飛び出したのは巨漢の男、光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)の姿だった。
 しかし、彼の背中には 【4649】 の数字が入ったゼッケン。
 その逃げる側の生徒の表情に余裕はなく、ショウたちなんて視界に入れずに別方向へ重々しいランスを構えていた。
 
 ……この男、爆炎波を受けきったか。
 ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は目の前に立ちはだかる巨漢の男に向かって改めて構え直す。
「僕はウィング・ヴォルフリート。今の技を受けきった敬意で名前を教えてあげます」
 トリモチの手前に張ったトラップに引っかかった二人をロープで片付けてすぐ、ウィングは新たな敵の猛襲と渡り合っていた。
「だっはっは! おもしれぇ。わしゃあ光臣 翔一朗。祭りで暴れるが取得のゴロツキよぉ!」
 力強い笑い声とともに名乗り返すその態度に疲れは見えない。
 ライトブレードを構えるウィングに向かって怯むことなくランスを振りかざす翔一朗。
 ウィングもギリギリで攻撃を掻い潜り廊下を曲がる。
 するとそこには先ほど縛り上げた二人、陣とリーズともう一人、ショウの姿が視界に入る。
「……キミたちっ!」
 ショウのゼッケン82番を視界に入れると、ウィングは一瞬で状態を把握して、そのまま飛び込むように攻撃へ移る。
「チッ」と舌打ちを打ったのはショウ。
 陣とリーズは「ほな」と一言。バーストダッシュでトリモチフィールドを飛び越し距離を取る。
 しかし教師用トイレを背にしていたショウは完全に逃げ遅れていた。
 とっさに、逃げるのをあきらめ迎え撃つ体制に切り替える。
 自前のバットを構え、突っ込んでくる獲物を狙うスラッカー、ショウ。
 一揆に間合いをつめてくるウィングに、横一線にバットを振るう。
 ウィングも直前でしゃがみ込んで回避。振りかぶったバットが大きく空を切った。
 速ッ。ショウがそう思った時にはすでに反撃体制が整っているウィング。
 しかし、ショウはライトブレードを構えたウィングよりも、その後ろのオーラに圧倒された。
「てめぇの相手はわしだらぁ!」
 振り下ろされる重々しい一撃。翔一朗のランスは迷いなくウィングを狙っていた。
 飛び跳ねてかわす二人、翔一朗の妨害でその場は一揆に混戦へ変わる。
 ランスを振り回しながら、一番に目に付いたのはショウの存在。
「邪魔じゃあ!」
 翔一朗は己の感情をあらわにして目の前の少年を力一杯跳ね打つ。
 何とかバットで防ぐショウだが、遠心力で加速した鉄の棒はより重く、トリモチフィールドまで吹き飛ばされる。
「くそッ! このまま終われるかッ!」
 トリモチの餌食になる前に、ショウはバーストダッシュで離脱する。
 その加速力は翔一朗の打撃も加わっているせいか、ショウの加減を狂わせて壁へ吸い込まれた。
 激突を覚悟して目を瞑る。しかし、彼の体は何かに受け止められるようにしてやんわりと停止した。
 不思議に思い、片目からゆっくり開けてみると、見覚えのある二人の顔が「や」と微笑みかける。
「借りは返したで」「で!」
 先ほど早々と逃げた陣とリーズの姿だった。

 ウィングは吹っ飛ぶショウを横目に、小さく「逃がすか」と呟く。
 しかし、まずは目の前の翔一朗が問題だった。
 ショウを吹き飛ばした際にできた隙を利用して、ランスを跳ね除け彼の腕を掴むウィング。
「キミも飛んでみるといい」
 ランスを振り終えた体制が不安定だった翔一朗は、吸い込まれるように宙に浮く。
 ウィングの一本背負いが決まった。
「何ぃ!?」
 翔一朗が自分の状態が今どうなっているのか、理解する頃には背中からべったりとトリモチフィールドへと叩きつけられていた。
 ウィングは休むまもなく走り出し、思い切りトリモチフィールドへ飛び込んだ。
 もちろん計算の上で、倒れこんだ翔一朗を踏み台にして、更に爆炎波を床に放って加速をつける。
「俺を踏み台にしたぁ!?」
 そんな声を背中に、ショウの追撃にかかるウィング。
 しかし彼の上をさらに飛ぶ影が二つ。
 それはバーストダッシュで宙を舞う、陣とリーズの姿だった。
「借りは返したで!」「で♪」
 二人の息の合ったダブルキックが炸裂する。
「くッ!」
 気づくのに遅れたウィングは、なんとか防御に撤することができたが、蹴りの反動でトリモチに落っこちてしまう。
 陣とリーズはそのまま加速し、その場を離れ、ショウもすでに姿をくらましていた。
 跡に残るのはトリモチに引っかかった翔一朗の潔い笑い声と、自分の甘さを戒めるウィングの姿。
「……私もまだまだということか」