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団長に愛の手を

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団長に愛の手を

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「第七回戦は〜〜【龍雷連隊指揮官】松平 岩造(まつだいら・がんぞう)対【美しき魔闘家】ソル・レベンクロン(そる・れべんくろん)!!」

 小次郎のアナウンスと共に岩造とソルが舞台に上がる。
「歩兵科少尉及び龍雷連隊連隊長松平岩造が相手をする!!」
 龍雷連隊はオーク解放戦線で結成した組織である。
 隊自体は一士官候補生同士が組むのは特に問題ではない。
 ただし、それらはあくまで一種の【仲良し集団】であり、それは【獅子小隊】でも【新星】でも【騎狼部隊】でも変わらない。
 もっともそれぞれに、第四師団でだけの集団であったり、教導団内での政治的・軍事的活動がメインであったり、戦争以外にもバトルや冒険恋愛でもなんでも行ってしまったりと個性があり、それはリーダーの資質によるのかも知れないが。
 そんな感じで【龍雷連隊】も仲良し集団の一つに過ぎず、その隊長を岩造が名乗るのは問題ないが、間違っても歩兵科少尉ではない
 現在、少尉を名乗れるのは、実況をしている小次郎と曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)だけなのだ。
 リリーハウスでも李梅琳をパートナーだと思いこんで話していた節があり、岩造は思いこみが激しい性格なのかもしれない。
 しかし、岩造にグレートソードを向けられたソルも負けてはいなかった。
「これをつけている理由かい? ボクは美しすぎるからね、ボクの美しさのせいで気絶する人が出るといけないからだよ」
 ソルは薔薇の学舎のルドルフ・メンデルスゾーンのような仮面を付けて舞台に立っていた。
「……顔を隠すのって、ありでしたっけ?」
「別に駄目ってルールはないですしね」
 リースの問いに、小次郎はアバウトに答える。
「まあ、そもそも大会自体が合コンのおまけってことで、ルールとかアバウトなんで。別に仮面したから有利不利が生まれるわけでもないですし」
 小次郎がそう解説する間にも、ソルの饒舌は止まらない。
「大勢の人の前に出る時はコレをつけると決めているんだ、まぁ、それでもボクの美しさを抑えきることはできないんだけどね」
 ソルは右手で前髪をかきあげ、朝、二時間セットにかけている金色の腰まであるロングウェーブの髪を、自分の指で梳いた。
「この輝くばかりの金の髪も、真っ白な翼も、人を魅了してしまう。ああ、ボクはなんて罪深い存在なのだろう」
 岩造が何か言っているが、ソルはまったく聞いていない。
 「美しいものすべてを愛する」ソルの瞳には、もしかすると、老け顔でかっこ悪い、という岩造は映らないのかも知れない。
「それでも、この仮面はボクの魅惑の緑の瞳を隠してくれる。僕の瞳を見た人がすべてが……」
「はい、ちょっとごめんよー!!」
 光条兵器の鞭がソルを絡め取り、ポーーンと彼を部隊の外に放り出す。
「朝霧!?」
 同じ衛生科の朝霧 垂(あさぎり・しづり)が舞台に乱入するのを見て、クレアが驚く。
 しかし、垂はためらうことなく、舞台の上にあがり、団長に挑戦状を叩きつけた。
「金団長、折角このような場を設けたんだから、相手をしてくれよ。シャンバラ教導団の団長を務めている者の実力、改めて確認したいんでね」
 垂の挑戦を見て、ルカルカが光条兵器を抜刀しかけるが、団長はそれを軽く手を上げて止めた。
 そして、垂に目線を合わせ、彼女の言葉に答える。
「今回は生徒達の日頃の鍛錬を見る戦いだ。だから、参加をするわけにはいかない。トクガワも教員だから、戦闘には参加していないだろ?」
「ボクは合コンの方には参加はしたかったですけどね」
 話を振られたアデル・トクガワ(あでる・とくがわ)が苦笑交じりに返事をする。
「まあ、癒月がこっちメインになったんで、仕方なくこちらの会場で声をかけようと思ったのですが……残念ながら、僕好みの知的でグラマーな女性がいても、恋愛に興味がない方ばかりで困ります」
「そんなにいなかったか?」
 戦いを終えた癒月が聞くと、アデルは苦笑がちに答える。
「根本的にあまり興味がないんだね。技術科は女の子が多い割にどの子も機晶姫だの開発だのにしか興味がないなあと思ってたんだけど……他の子たちはどうかって言うと戦争と戦闘に興味のある子たちばかりだった」
 少し話が逸れたが、垂は食い下がった。
「ドージェと闘ったんなら、実力はかなりのもんだろ? それを見せてくれよ」
 ピクッと団長の眉が動く。
「垂、大丈夫かなあ」
 ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)は合コンから持ち出した料理を食べつつ、垂の様子を遠くから見守る。
 落ち着いているライゼに比べ、里見 伏姫(さとみ・ふせひめ)はちょっとハラハラしているようだ。
「先ほども言った通りだ。今回は生徒達のものだ。それを私が現れてどうこう……というつもりはない」
「なんだよー、セイバーとしての実力が見たいって思ったのに」
 挑発的に光条鞭を振るい、垂は団長に問いかける。
「なあ、団長。今こうやって戦わなくてもさ、実際には強いんだろ?」
「だからなんだ?」
「それなら最近現れたっていう波羅蜜多実業高等学校の『横山ミツエ』なんか、恋人に良いんじゃないか?」
 ピキピキピキ。
 団長の周囲に一気に冷気が増し、そばにいたサミュや伽羅もその寒さを感じるだけのものになった。
「2人ともパートナーが中国の武将だし、気が合うかもな? そう思わないか?」
「…………名を聞こうか?」
「ん? 俺の名前か? 衛生科の朝霧垂だ!」
「よし、良く覚えておこう……」
「へへへ、ありがと、団長」
 冷気から段々と沸々とした怒りに変わって行っている団長だが、天然な垂はまったく気づかない。
「あああ……」
 パートナーのライゼ達だけでなく、友人たちも心配していたが、そこでそっとウォーレンが垂に問いかけた。
「あのさ、悪いんだけど、試合続行していいかな?」
「ん? 仕方ないな。団長、次にこういう機会があったらさ、戦ってくれよ」
 垂はそう約束を投げかけ、下りて行った。
 今回の武闘会で一番印象に残ったのは垂の行動、かもしれない。
「あ、えーと……」
 いろいろと舞台が混乱してしまったため、小次郎とウォーレンたちは会議に入った。
 そして、一人の少女が呼ばれた。
水渡 雫(みなと・しずく)さん」
「は、はい!」
 雫は慌てて立ちあがる。
「出番ですね、お嬢さん。がんばって!」
 ディー・ミナト(でぃー・みなと)が雫を励まし、彼女の後ろについて行く。
 一方、もう一人のパートナーローランド・セーレーン(ろーらんど・せーれーん)は見物と言う感じで、一応付いて行った。
 ディーはローランドの態度にどこか不満そうだったが、しかしまずは呼び出しの方にと思ったのか、雫と歩いて行った。

「では、改めまして……第七回戦は〜〜松平 岩造(まつだいら・がんぞう)水渡 雫(みなと・しずく)!!」
 戦いの集中力を削がれた岩造は、相手が変わったことに戸惑いがあったが、同時に、とてもではないが、戦闘向きではない愛らしい雫の姿を見て、困った顔をした。
「戦いに男女は無し、というが……」
 教導団の女性は気が強そうなタイプが多い。
 しかし、雫はほんわかとした柔らかい雰囲気の子で、教導団では珍しい子だった。
「わ、私も教導団のセイバーです! ですから、手加減はいりません!」
 団長に鍛錬の成果を直接披露できる機会なんてそうそうない、と雫は思っていた。
 だから、自分がどれだけやれるかを示したいと雫は本気で戦いに臨んだのだ。
「よし分かった。同じセイバーなら、ためらいはない。来い!」 
 岩造がそう言った途端。
 雫は一直線に岩造に向かった。
 岩造は相手の動きをよく読み動きを封じる策を考える、と思っていた。
 しかし、策を考える、とは思っていても、その策は考えていなかった。
 そして、そのまま、雫の剣の一閃が入り、岩造は倒れた。
「勝者、水渡雫!」
 小次郎が宣言し、雫は剣を下ろす。
 その様子を見て、ローランドは小さく笑った。
「その時になって封じる策を考えるじゃ、遅いってのを気づいてなかったみたいだねぇ、対戦相手さんは。我輩が弱点を探す必要もなかったようだ」
「お相手、ありがとうございました!」
 雫は倒れた岩造に礼を言い、舞台を降りた。