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ざんすかの森、じゃたの森 【後編】

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ざんすかの森、じゃたの森 【後編】

リアクション

 第2章 瘴気をなくせ! グレートマシンガンとダンスバトルのこと

 ジャタの森のステージでは、グレートマシンガンが怒鳴り声をあげていた。
 「なんなんだ、おまえらは! 俺の儀式の邪魔をするな!」
 このまま、まともに戦闘しては、ざんすか達に勝ち目はない。
 そこへ、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が現れ、提案する。
 「ステージでダンス対決して、勝った人がステージの使い方を決めるっていうのはどうですか? 世界を征服するとか、すごいことを言ってるわけですから、やってくれないなんてことはないですよね?」
 「ふざけるな! ステージは最初から俺のものだ! そんなことをする必要はない!」
 「ええっ、グレートマシンガンさん、そんなすごい名前なのに怖がっちゃうんですか!? そんなんじゃ、族長失格ですよ!!」
 「な、なんだと!? このグレートマシンガン様が、怖れるものなどあるわけがない!」
 「じゃあ、やってくれますよね?」
 「もちろんだ!」
 歩に揺さぶりをかけられ、グレートマシンガンはダンス対決を承諾した。
 歩の真意は、悪いことを考えて瘴気を出させるのを防ぐために、よいことを考えて瘴気を減らそうということである。
 「じゃあ、あたしは、実況をやりまーす!」
 歩はマイクを持ってステージ脇にスタンバイする。
 「私も司会・実況・解説に参加しよう」
 十六夜 泡(いざよい・うたかた)も、歩と同じく邪悪じゃない気持ちでステージで踊れば、瘴気発生を食い止められる、と仮定して、司会役に立候補した。
 「ガハハハハ!! 俺の勝利は最初から決まったも同然だ!」
 グレートマシンガンは、さっそく禍々しい踊りを再開する。
 「さぁ、毎度おなじみの踊りをはじめた族長・グレートマシンガン。しかし、古い! 古すぎる!! 今や踊りも新しいものを求めている時代!」
 泡が、グレートマシンガンをこき下ろす実況をする。
 「なんだとおおおおお!?」
 怒りに燃えるグレートマシンガンにより、ステージからは真っ黒な瘴気が立ち上る。
 そこへ、高潮 津波(たかしお・つなみ)とパートナーの機晶姫ナトレア・アトレア(なとれあ・あとれあ)が、ボディコン服と羽扇子姿で、ステージに乱入する。
 「おぉ〜と、ここで乱入だぁ!! 族長グレートマシンガン、ここで挑戦を受け入れなければ漢がすたる……挑戦を受け入れて、ダンスバトルに突入だぁ!!」
 「津波選手、ナトレア選手、すごい動きです! 解説の泡さん、あの動きは!?」
 「パラパラですね。司会の歩さん。股下2cmのスカートとは、気合いが入っていますね! 挑戦者の新しい生き生きとした踊りに対して、族長の踊りは陰気で良くないですね、これは踊りを変えないと勝てませんよ!」
 「……パラパラって、新しいのかな?」
 「細かいことは言いっこなしですよ!」
 歩と泡のやりとりの中、踊っている本人である津波は赤面していた。
 「ピュアな気持ちで踊るとステージからマイナスイオンが噴出するのですわ!! ジャタ族に怪しまれない過激な衣装で、ピュアな心を保ちつづけダンスするのです」
 ナトレアは最近津波に構ってもらえないので、ストレスで精神が不安定になっており、カッ飛んだ意見を出して、渋る津波に無理やり「ジュリアナ空京」の衣装を着せ、自分も着て踊っていた。
 ジャタ族がえっちな視線を向けようと、平和を願う気持ちが大事とがんばる津波であったが、やはり過激なボディコン服への抵抗は隠せない。
 そんな津波に、目のすわったナトレアによる厳しい指導が飛ぶ。
 「ステップが甘いですわっ!」
 「は、はひー!」
 「手の動きに照れがありますわっ! そんなことでピュアな気持ちが伝わると思っているんですの!?」
 「は、はひー!」
 津波はナトレアの剣幕に、必死で本気で踊ろうとしていた。
 「でもこれじゃお嫁に行けなくなるぅ〜!」
 
 「あ、すごい! なんだか気持ちが安らいできたかも!」
 「おおっと、瘴気の代わりにマイナスイオンが発生している!!」
 歩と泡が、ナトレア理論の実証に驚きの声をあげる。
 そこへ、さらに、あーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)も乱入して、ロボットダンスとブレイクダンスで盛り上げる。
 筐子は、全身を覆う段ボール・ロボのボディに、10×10程度の解像度のドット絵で踊る人型を描いていた。
 「一晩中ダンスバトルで踊り狂えば、みんな翌朝はグッタリ疲れて寝ちゃうだろうから、グレートマシンガンもグッスリ寝て起きたら毒気も瘴気も抜けちゃうに違いないのだ」
 そう考えて、筐子はナトレアの企画に賛同していた。
 「解説の泡さん、これはいったい?」
 「司会の歩さん、これはすごいですね。どこからどう見ても、段ボール箱が高速で移動しているようにしか見えません!! 中の人の技術力に脱帽です!!」
 「チョメチョメでアール! ワタシは段ボール・ロボ!! 中の人などいない!!」
 筐子もまた、超理論ダンサーの一人であった。
 筐子のパートナーの剣の花嫁アイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)が、ディスコミュージックを流したり、ライトアップしたりして盛り上げる。
 「束ねし光、貴方の力に。貴方なら出来るわ。夢は、叶うと信じる人にだけ描ける物よ」
 真面目な決め台詞を言うアイリスだが、ライトアップされているのは高速移動する段ボール箱の集まりである。
 「甘いでござるぞ筐子殿。舞台の上ばかりが活躍の場では御座らんですぞ」
 筐子のパートナーの英霊一瞬 防師(いっしゅん・ぼうし)は、そう叫ぶなり、身長15cmの身体で、巨大なグレートマシンガンの身体を駆け登り、ヒョイと口の中に飛び込むと一気に胃まで潜り込んだ。
 「音楽に合わせて攻撃すれば、痛がったグレートマシンガンが踊っているように見えるに違いないでござる」
 防師はそう言い、グレートマシンガンの胃の中をランスで突いて回る。
 「グハッ!? なんだこれはあああ!?」
 たしかに、グレートマシンガンが暴れ、ディスコで踊る人のようになった。
 「よし、うまくいっているでござるな。拙者を甘く見ると、痛い目を見るでござる。……うわああああ!? 注意一秒、怪我一生!」
 しかし、防師は、すぐにグレートマシンガンの胃液の奔流に飲み込まれた。
 
 ステージ上では、ターラ・ラプティス(たーら・らぷてぃす)が特技の歌を披露しつつ、津波やナトレア、筐子たちと楽しく踊っていた。
 「派手なステージがあるのに歌って踊らないなんて勿体無いわ☆」
 ターラはそう言い、ディスコミュージックに乗って踊る。
 露出度の高いファッションのセクシー美女であるターラは、まさにディスコ風ダンスにはうってつけであった。
 「おい、こいつらを妨害しろ!」
 グレートマシンガンが、手下のジャタ族に命令する。
 「ジェイク、グレートなんとかの相手はまかせたわ」
 自分はダンスに集中するターラに、パートナーの吸血鬼ジェイク・コールソン(じぇいく・こーるそん)はため息をついた。
 「結局損な役回りはオレなんだよなぁ……。まぁ、元々妨害はするつもりだったからいいけどさ。と、いう訳でターラが好き勝手やってる間はおまえらの相手はオレが引き受けるぜ」
 ジェイクは、ステージに上がってこようとするジャタ族を足止めする。
 火術と雷術をジェイクが放ち、ジャタ族たちは派手にぶっ飛ばされる。
 「……言っておくけど今回だけだからな!」
 ジェイクは、ステージ上のターラに向かって叫ぶ。
 
 そこに、モヒカンシスターの狭山 珠樹(さやま・たまき)が、ざんすかやじゃたと一緒にステージで踊り始めた。
 「あしたのごはんのために踊りますわよ!」
 ジャタの森全体のことよりも、じゃたの最大の関心事であるごはんのことを言い、珠樹がじゃたを奮い立たせる。
 「ごはんじゃた。ごはんごはんじゃた」
 空腹のじゃたは、ステージ上の瘴気を吸収しつつ、踊った。
 「このままでは、森の精霊界でのアイドルはじゃたちゃんだけになってしまいますわよ。ざんすかさんも踊ってみてはいかが?」
 「じゃたなんかに負けないざんす! ミーが最強の森の精ざんす!」
 負けず嫌いなざんすかも、珠樹の言葉に乗ってくる。
 さらに、珠樹は、招き猫やアイドルはるかぜ らいむ(はるかぜ・らいむ)のポスターなどおめでたいものを飾り、瘴気発生を防ごうとする。
 らいむ本人もステージに上がり、マイクを手に叫ぶ。
 「みんな、今日はボクのコンサートにきてくれてありがとう! ……え? 違う? ボクはアイドル。ステージがあったら歌って踊るのがボクの仕事。どんな人たちとも仲良く歌って踊っちゃうよっ」
 パラミタ一のアイドルを目指すらいむは、レッスンで鍛えた歌とダンスを披露した。
 「そこにステージがあるから、アイドルは踊るのです」
 らいむは楽しい雰囲気の曲で、瘴気発生を防ごうとする。
 そんな中、三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)も、空飛ぶ箒でステージに近づいていた。
 「のぞっち! 一緒にトウテムポールダンスですわよ!」
 じゃたを肩車して踊っていた珠樹が、のぞみに声をかける。
 「えー!? う、うん!!」
 驚いたのぞみだったが、珠樹、じゃた、のぞみの三段重ねでトウテムポールダンスを踊り始めた。
 「ねえねえ、あたし、一番上に乗っちゃったけど、これ、じゃたちゃん一番上のほうがいいんじゃない?」
 「そ、そんなこと言っても、いまさら入れ替え不可能ですわー!!」
 一番下の珠樹は、必死でバランスを取っていた。
 とはいえ、のぞみの目的は他にあった。
 (そう簡単に強い力を得られるなら、鏖殺寺院のひとが自分たちでやっているはず。暴走した魔大樹をコントロールする方法なんてないんじゃないかな。族長が騙されてたと気付けば、きっとジャタ族のひとたちもびっくりして争いも止まるよね)
 「みんな、下がって!」
 のぞみは、肩車から飛び降りると、ステージ上の者達に注意を促し、ステージに火術で火をつけた。
 ステージが派手に炎上する。
 
 そこに、スパイクバイクに二人乗りしたレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)とパートナーの剣の花嫁アリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)、同じくレベッカのパートナー達で、こちらも二人乗りの、明智光秀の分霊である英霊明智 ミツ子(あけち・みつこ)、守護天使オーコ・スパンク(おーこ・すぱんく)がステージに向かって走ってきた。
 「ヒャッハー!! 『Jata’sPriest』入場だヨ! ド派手に行くヨ!」
 レベッカが、光条兵器の銃を客席に撃ち、道を開けさせる。
 「もっと飛ばしましょう! レベッカ様! ヒャッハー!!」
 スピード狂のアリシアが、後部座席に横座りして、テンション全開で叫ぶ。
 レベッカは普段着の丈の短い白のタンクトップと、デニム地のマイクロミニホットパンツの上から、鋲打ちのライダースジャケットを羽織り、胸元と太股にペイントでアクセントをしていた。
 アリシアは、エナメル生地にレースアップの黒いドレスで、露出度の高い格好をしている。
 ミツ子は、黒基調のゴスパン風衣装で、オーコの運転するバイクの後部座席にお人形のような表情で座っている。
 オーコは、黒基調の鋲撃ちレザーファッションで、目一杯排気音を吹かしつつ、レベッカの後ろを走る。
 さらに、五条 武(ごじょう・たける)、パートナーの機晶姫イビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)、同じく武のパートナーのドラゴニュートトト・ジェイバウォッカ(とと・じぇいばうぉっか)も、割れた人の海の間を入場してきた。
 「テメェー! ステージでただ踊るだけとは音楽の神に対する冒涜かッ! メタル神の粛清を食らいやがれッ!」
 黒地のボンテージパンツに黒レザーの鋲つきライダースジャケットを素肌に直接羽織った姿で、ゴツいシルバーリングを装着した武が、バイク形態のイビーにまたがってグレートマシンガンに叫ぶ。
 紅の外装と猛禽類をモチーフとした頭部デザインが特徴的なイビーは、必要以上に排気音をふかす。
 冷静なのに意外とノってるのであった。
 「めたるごっど!」というペイントらしき落書きがされているトトは、武の肩に乗って叫ぶ。
 「どけどけー! どかないと、黒こげにしちゃうぞー!」
 こうして、バンド「Jata’sPriest」は、あっけに取られる観衆が見守る中、演奏を開始した。
 レベッカがボーカル、アリシアがギター、ミツ子がシンセサイザー、オーコがドラムスで、武がギター&ボーカル、人型形態に戻ったイビーがベース担当であった。
 トトは、担当パートはなしだが、火術で吹き上がる炎などの演出を行っている。
 さきほどの、のぞみのつけた炎とあいまって、ステージは激しく燃えていた。
 「Jata’sPriest!」
 レベッカが、武が作詞した歌のタイトルを叫び、歌い始める。
 「弾丸よりも速く轟く
  蛮勇なる叫び
  狂気に侵された
  我等は地球人と契約者
  スパイクバイクにまたがり
  爆音と煙を撒き散らしながら
  欲望を満たさんと
  地を駆け巡る」

 「「我等はJata’sPriest
   これぞJata’sPriest」」
 レベッカと武がユニゾンする。
 
 アリシアとイビーも、同じポーズで演奏したり、同じリズムでギターとベースを振るユニゾンを行う。
 そんな中、ミツ子は、淡々と演奏を続ける。
 アリシアは、犬耳カチューシャをつけた髪を振り乱し、ギターをギャリギャリ言わせる。
 「出たァー! アリシアさんの1秒16ピッキングだァー!」
 解説の泡が叫ぶ。
 普段のアリシアからは想像のつかないノリであった。
 オーコは、翼を羽ばたかせ、髪を振り乱してヘッドバンキングしながら、一心不乱に打ちまくる。
 トトは、激しい演奏部分では光精の指輪を用いて照明・フラッシュ効果を用いていた。

 「木々は瘴気に侵され
  蛮族は歓喜に打ち震える
  貴様らの願いに応えて
  地の果てから我等が訪れたのだ

  噴き出す漆黒と
  轟く野蛮な歓声を突き抜けて
  怒れる車輪は全てを踏みしだいていく」
  メインボーカルのレベッカが歌を続ける。
 「「我等はJata’sPriest
   これぞJata’sPriest」」
 レベッカと武がユニゾンし、武はバイクの排気音をギターで表現する。
 「光条兵器よりも早く
  サンダーストームよりも激しい轟音
  レザーをまとい沸き立つメタルは
  千のナラカよりも禍々しい」

 「うおおおおおおおおおおお!!」
 ジャタ族の観衆が、叫び声を上げる。
 もはや、ステージ上のグレートマシンガンに注目しているものはいなかった。
 瘴気の噴出が急速に収まっていく。
 「力がみなぎってくるじゃた……」
 さらに、「ジャタのプリースト」の歌によって、じゃたに力が集まっていく。

 そこへ、羽高 魅世瑠(はだか・みせる)とパートナーの剣の花嫁フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)、同じく魅世瑠のパートナーのシャンバラ人ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)が、人を掻き分けながら走ってきた。
 魅世瑠とフローレンスは「普段着」、つまり生まれたままの姿である。
 ラズは、女ターザン風の、「見えそで見えない毛皮ビキニ」を着用していた。
 魅世瑠達は、味方のふりをしてグレートマシンガンの儀式に紛れ込むつもりであった。
 「どきなどきな! グレートマシンガン様に花を添えてやるんだぜ!」
 「ベタベタさわるんじゃないよ、道を開けな! 儀式の邪魔だろ!」
 「踊ルアホウに見ルアホウ、同ジあほナラ踊ラにゃソンそんだよー」
 魅世瑠とフローレンスとラズは、叫びながらジャタ族をかき分けながらステージに上がる。
 「盛り上がってこうぜ〜!」
 魅世瑠は、ジャタ族をヒューヒュー煽りたてながら、ステージの脇に位置して、トミーガンを羽扇子代わりに振りかざしながらジュリアナダンスを始めた。
 「どうしたどうした、そんなもんかい!」
 フローレンスも煽り立てる。
 「まダまダ踊ルよー!」
 ラズも、一緒に踊るジャタ族達を煽り立てた。
 やがて、魅世瑠はじゃたに気づいて叫ぶ。
 「じゃた! ステージにいたとは気づかなかったぜ! あたしらをミラーボール代わりに踊りな!!」
 「わかったじゃた。オマエらいいやつだな、じゃた」
 じゃたはいつもながら無表情だが、百合園の制服を着たままで踊った。
 魅世瑠達のピュアな気持ちで、またもや瘴気発生が緩和される。
 
 一方、ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)は、除草剤を撒くフリをして、ステージに近づいた。
 (……成り行きとはいえ、鏖殺寺院の片棒を担いだなんて知れたら、退学ものよ! 何か言い訳を作らなければ!)
 顔には出さねど冷や汗タラタラのジュリエットは、なんとか現状を打開しようとしていた。
 「はいはーい、どいて、どいて下さいましー。今から更に噴霧しますわよー」
 グレートマシンガンに近づき、ジュリエットはただの水を噴霧する。
 何を噴霧するかは言っていないので、嘘は言っていないという理屈であった。
 (どうかグレートマシンガンが失敗しますように。どうかグレートマシンガンが失敗しますように。どうかグレートマシンガンが失敗しますように!!)
 ジュリエットは、心の底から呪詛し、グレートマシンガンと逆向きの邪念をぶつけて、グレートマシンガンの想いが暴走した魔大樹に伝わるのを妨げるよう願っていた。
 ジュリエットのパートナーのシャンバラ人ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)は、自分達がグレートマシンガンに味方していたことを後悔し、青ざめていたが、ジュリエットが神様に祈ってると思って安心していた。
 (これで、瘴気発生を食い止めることができますわ)
 しかし、ジュスティーヌの思惑と異なり、不可知論者のジュリエットは祈っているわけではなかったのだが。
 同じくジュリエットのパートナーの英霊アンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)も、ジュリエットと似たようなことをしていた。
 (神様、どうかグレートマシンガンを失敗させてほしいじゃん!)
 アンドレは神頼みだったが、願いはジュリエットと同じである。
 しかし、ステージからは、黒い煙が立ち上った。
 「きゃー、どういうことですの!? い、いえ、なんでもありませんわ!」
 驚きつつも、ジュリエットは保身のためあくまで自分がグレートマシンガンの味方のフリをしようとする。
 「お姉様、なにか邪悪なことを考えていたのではございませんか?」
 「そんなことないじゃん! あたしたちはただグレートマシンガンが失敗するのを願ってただけじゃん!」
 こっそり耳打ちするジュスティーヌに、アンドレが反論する。
 「……その他人の失敗を願う邪念が原因で瘴気が発生しているのでは?」
 「な、なんてことですの!?」
 ジュスティーヌのツッコミに、ジュリエットは慌てる。
 
 そこへ、白馬にまたがった藍澤 黎(あいざわ・れい)と、白馬に二人乗りしたパートナーの守護天使フィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)、同じく黎のパートナーのアリスエディラント・アッシュワース(えでぃらんと・あっしゅわーす)、同じく黎のパートナーのシャンバラ人ヴァルフレード・イズルノシア(う゛ぁるふれーど・いずるのしあ)が現れた。
 「真の美しさ、此処に現してやろう」
 黎が高らかに宣言する。
 白の羽根飾り、背後のテール部分を長めにとって、銀糸で精緻な刺繍を施しており、よく見ると「じゃた・らぶ」の文字が隠されている白の燕尾服、白いシルクハット、長いヒラヒラリボン付き白の薔薇のシャンシャンブーケに見せかけたラウンドシールドに身をつつんだ四人は、高らかに歌を歌いながら軽やかなステップで一糸乱れぬラインダンスを踊り始めた。
 「細かい事は宜しい。瘴気を出す不届きな族長が美的に許せん。薔薇学の美意識高い踊りで、華麗に排除するぞ!」
 そう考えた黎は、華麗なレヴューを見せつけ、グレートマシンガンを妨害するつもりである。
 「……キンキラすぎやで、この衣装……」
 フィルラントは恥ずかしがっていたが、黎は聞いていない。
 (はっきりゆーて、ステージで踊るやなんて恥ずかしすぎるこっちゃ。でも黎がやるとぬかしておるのを、みすてて放っとくんも目覚めが悪いし、しょうがあらへんので付き合ったる)
 フィルラントは、黎にあわせて一糸乱れぬ踊りを見せながら、光術で呼び出した光の玉を上手くスポットライトのようにしてステージを盛り上げる。
 (オレ、ドジだから振り付け間違ったりしそうだけど……でも気持ちは負けないんだから! 一生懸命踊ってぜったい、グレートマシンガン達なんかにまけない!)
 そう考えたエディラントも、光精の指輪から光の精霊を呼び出して、スポットライトの代わりにする。
 「あいぃ〜♪ そーれはー♪」
 エディラントの歌い声が響く。
 (舞は神に捧げる純真なもの。今はただ最高のステージの為に尽力する。これは、精霊がたに捧げる舞だ)
 ヴァルフレードは、タイミングはもちろん、振り上げる腕の角度から、ターンの入りの始まる角度やその速度まで黎たちと息をピッタリ合わせて踊りを舞う。
 さらに、ヴァルフレードは、充電式のポータブルCDプレイヤー(スピーカーつき)を最大ボリュームにして音楽をかけて、グレートマシンガン達の、聴覚的な妨害をしようとする。
 華麗なるレヴューの音楽が大音量で流れる。
 フィルラントは、ステージの上で自分を見つめるじゃたに気づき、話しかける。
 「ん? この羽飾りがほしいんか?」
 じゃたはこくりとうなずく。
 「そうか。ええから、持ってき。ちゅーか、ぜひ貰ってほしいんや」
 フィルラントは、羽飾りが外せるとほっとしていたが、羽飾りを受け取ったじゃたは、いきなりそれを口に入れた。
 「……鳥肉の味しないじゃた」
 ドン・カイザー(どん・かいざー)に噛み付いて、肉食獣的な本能に目覚めてしまったじゃたは、残念そうに言った。
 「するわけあるかいなー!!」
 フィルラントが全力でツッコミを入れる。
 一方、エディラントは、ざんすかに羽飾りを貸してあげていた。
 「これで、ミーの華やかさが増すざんす!」
 桜井 静香コスプレに羽飾りが追加され、ざんすかはご満悦であった。
 「よかったねえ、ざんすかちゃん」
 エディラントは、ほわほわした笑顔でうなずいた。
 
 そんな中、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)とパートナーの剣の花嫁セシリア・ライト(せしりあ・らいと)、同じくメイベルのパートナーの英霊フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、ステージに上がる。
 「アトラス・ロックフェスティバルの、バンド『ホワイト・リリィ』、私、メイベルとセシリアに、フィリッパを加えて再結成ですぅ」
 「みんなー! よろしくねー!」
 「よろしくお願いいたしますわ」
 メイベル、セシリア、フィリッパは、観客に手を振ると、「小さな翼」を歌い始めた。
 黎達は、バックダンサーとして華を添える。
 他の者達と同じように、すがすがしい気持ちで瘴気発生を食い止めるというのが、メイベル達の狙いであった。
 「さっきから俺より目立ちおって! 許せん!」
 「キャー! でも、これで踊りを妨害ですぅ!」
 「隙を見てまた歌っちゃうよ!」
 「あらあら、大変ですわ」
 メイベル、セシリア、フィリッパは、グレートマシンガンから逃げ回りつつ、隙を見てはまた歌を再開した。
 
 ステージでは、アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が、謎の飾り付けを行っていた。
 (じゃたはざんすかと比べて、実に大人しくていい子。このまま見捨てるわけにもいかないので、森を救ってやる。……じゃたの森の精がじゃたじゃなくてざんすかなら、遠慮なく見捨てて飢え死にさせ、世界のゴミを一つ減らせるのに)
 前回、ざんすかに説教してぶっ飛ばされたアルツールは、ざんすかへのあてつけもこめて、100円均一で売っているような、安っぽくってキラキラしてたりどピンクだったり、無国籍の謎のお土産キーホルダーのような飾りを「『世界の支配者』への献上品」として、ステージに飾り付けていた。
 ステージの雰囲気を変え、ジャタ族の気分を邪悪とは別方向へそらすのが、アルツールの目的であった。
 「な、なんだこのエロい気持ちは?」
 「うっふん、ちょっとだけよー」
 ジャタ族たちは、妙なエロス空間に飲み込まれ、踊りは変な方向になった。
 ピンク色の煙が、ステージから立ち上る。
 
 そこに、アイドル衣装の林田 樹(はやしだ・いつき)と、パートナーの機晶姫ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)、同じく樹のパートナーの英霊緒方 章(おがた・あきら)が現れ、ステージのトリをつとめる。
 フリフリ、ひらひらが大の苦手の樹であったが、主にジーナの趣味により、フリフリ、ひらひらのついたヘソ出しブラウスに、タイトなミニ丈ベスト、タイトな1分丈ショートパンツ、フリフリのついたオーバーニーソックス、ピンヒールといった衣装を着せられていた。色は、紫と黒のツートーンでまとめてある。髪は全部下ろして、先の方だけ緩くカールをかけてあった。
 ジーナは、フリフリ、ひらひらのいっぱいついた、王道のミニ丈アイドル服に、靴はベルト付きのぺったんこ靴で、色はオレンジと黄色でまとめてある。髪型はいつもと同じ金色のツインテールで、服に合わせてオレンジのリボンをしている。
 そして、章は、薄いブルーのシャツに、濃いブルーのベスト、濃い紺のカマーバンド、紺のベルベットのバミューダパンツで、ぱっと見は王子様のような格好をしており、編み上げブーツを合わせてある。
 「オッサンに対抗するためとはいえ、なぜ私がこんなことしなきゃならないんだよ……」
 ぼやく樹だが、ジーナに以前、フリフリ、ひらひらを拒否したところ、三日三晩泣き通されたことがあるので、いつも抵抗できないのである。
 「今回はあんころ餅と共闘しますよ」
 「何だか面白そうだから、カラクリ娘の案に乗っちゃうよ。可愛い姿の樹ちゃんが見られるのは嬉しいからね〜」
 普段は「あんころ餅」、「カラクリ娘」と呼び合い、樹を巡りライバル関係のジーナと章だが、今回は一緒にステージを成功させようとしていた。
 「マシンガンディー、林田様の歌を聴きなさい!! です」
 「変態マシンガン、歌は森を救うんだってさ。一曲歌わせてもらうよ」
 ジーナと章はそれぞれ前フリを行い、まずはソプラノパートのジーナが歌い始める。
 「争うことは すべて無に帰す
  人の理を 薙ぎ払って
  闘うことは すべて無に帰す
  人の創りし世界を 大地に返して」

 続いて、章が歌い始める。
 「威(たけ)き者よ 剣を納めよ
  滅びは常に 人の隣に
  儚きものよ 夜を飾れよ
  全ては泡沫の 華のごとくに……」

 「林田様、出番です!」
 「樹ちゃんの美声で、ヤツを鎮めて!!」
 ジーナと章に声をかけられ、樹が歌い始める。

 「永久に眠れ 荒ぶる魂 
  抱いて眠れ 光る希望

  永久に眠れ 荒ぶる魂 
  抱いて眠れ 光る希望」
 樹が繰り返しのパートを歌う。

 しかし。

 「捕鯨〜♪」
 他の者には、樹の超絶音痴の歌声は、このようにしか聞こえないのであった。

 「ぎゃあああああ!! やめろおおおおおお!!」
 グレートマシンガンが悲鳴を上げる。
 「やったあ、効いてます! で、でも、お花畑が見えてきました……」
 「僕もこんなことでもう一度死ぬのは嫌だよ……。い、樹ちゃん、や、やめ……」

 「防衛〜♪」
 ジーナと章の言葉はむなしく、樹のリサイタルはその後もしばらく継続され、その場にいた者たちは全員大ダメージを受けるのであった。