First |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
Next Last
リアクション
第一章 湾を目指して
「目一杯だ!飛ばせぇ!」
蒼空学園のウィザード、 菅野 葉月(すがの・はづき)が乗る小型飛空挺を先頭に、数多の飛空挺と空飛ぶ箒がアリシア・ルードと人魚のルファニーが乗る「軟殻舞い舞い火ラメ」を囲うように飛び進んでいる。火ラメの両翼には飛行手段を持たない生徒たちを乗せているのだが、手段を持ちながらも同乗している生徒もいるようだ。その中の一人がイルミンスール魔法学校のウィザード、セレンス・ウェスト(せれんす・うぇすと)である。
「人魚さん、約束ですよ、足の痛みが消えたら、踊りを教えて下さいですよ」
そう言ってルファニーの足を撫でるセレンスに、イルミンスール魔法学校のウィザード、七尾 蒼也(ななお・そうや)のパートナーであるラーラメイフィス・ミラー(らーらめいふぃす・みらー)が優しい瞳を向け言った。ラーラメイフィスはルファニーの足にヒールをかけている。
「すぐはダメですよ、傷はヒールで治っても、負担が軽減されるわけでないんです。しばらくは絶対安静です」
「えぇーでも、薬の効果が切れちゃったら、足が無くなっちゃったらぁ」
体ごとにルファニーの足にしがみ付くセレンスを、そのパートナーであるウッド・ストーク(うっど・すとーく)が引き離した。
「落ち着けセレンス、お楽しみは、この一件が解決してからだ」
「でも、だったら余計に……」
「大丈夫です」
これまでも今この瞬間も表情を変えないままにアリシアが言った。
「先程伺った所、薬を服用したのは昨日との事、ですので効果は後8日間は持つはずです」
「そうやってルファニーちゃん達の実験をしてたって事だな。ルファニーちゃん、事件が解決したら、俺がノーム教諭から君を解放してあげるからな」
今度はイルミンスール魔法学校のウィザード、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)がルファニーの手を握り抱いて真っ直ぐに見つめた。
「いえ、そんな、あの薬のおかげで世界が広がったんです。実験だなんて、そんな」
「それでもダメだ、今回の魚人の事だって、その薬のせいかも知れないだろ?」
「それは無いと思います。これまでの調査の結果を踏まえても、このような事態は想定外ですし、起こりえません」
「ちなみにぃ、そのおクスリ、シルヴィットたちが飲むとどーなるんですかぁ?」
ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)のパートナーであるシルヴィット・ソレスター(しるう゛ぃっと・それすたー)が平たく訊いた。それにもアリシアは表情を変えずに答えて言った。
「人魚以外に効力はありません、人魚と魚人専用に調合したのですから」
「いやっ! ヒレを足に変える薬を作っただけでも罪なのだ! 本来はこの足が美しいヒレのはずなのに……」
「おいおい、やめろやめろぉ、嫌がってるじゃないか」
ルファニーの足に触れるウィルネストの手を払いたはイルミンスール魔法学校のウィザード、魚住 ゆういち(うおずみ・ゆういち)である。どうにも顔が赤いように思えるが、それはウィルネストとの衝突の為では無い様で、先程からのルファニーへの熱視線を思えば、読むのは容易であるように思えた。
忘れてはならぬ、魚住とウィルネストが言い合っている中でもラーラメイフィスはルファニーの足にヒールをかけているのだ。そしてそのパートナーである七尾 蒼也(ななお・そうや)が彼女のうなじに見えた、真珠色したチョーカーに付いた鈴に気付いて訊いた。
「なぁ、その鈴、チョーカーに付けるなんて珍しいな」
七尾の声に一同の視線が集まりかけたが、ルファニーは慌てて長い髪で鈴とチョーカーを隠してしまった。
「えぇ、気に入ってるの」
アリシアの視線も彼女とその髪へと向けられた。以前に会った時にはチョーカーに鈴は付いていなかった、いや、気付かなかっただけのか、いや、気に入っているなら、なぜ……。
「見えてきたぜぇ、ヴァジュアラ湾だ!」
先頭を行く菅野 葉月(すがの・はづき)が声を上げた。視界の先、遠くの地平に海の蒼が見えてきた。
興味と動機はそれぞれに違えど、集まりた。生徒たちはそれぞれに想いを湾へと向けているようだった。
イルミンスール魔法学校の一室前、「ノームの棲み処」と書かれたプレートがかけられた部屋の扉の前に立つは蒼空学園のナイト、ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)とパートナーのマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)である。
扉は強く勢いの良く弾き開かれた。足を踏み入れると同時にベアはノーム教諭に向いて叫び指した。
「犯人はベルバトス・ノーム教諭、アナタだぁぁぁぁ!!」
指を向けられたノーム教諭はイルミンスール魔法学校のメイド、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)と共に振り向いた。
「教諭、あなたが犯人なのですか?」
「まさか。私なら、もっと上手くやるよ、くっくっくっ」
「上手くやるとは、どういう意味だぁ、理由如何では容赦はしな……がはっ」
「ベアは黙ってて」
ベアの額の血管が最盛へと昇る直前に、ベアの後頭部をマナが大鎌で殴りつけていたのだ。
「ノーム教諭、どうして今回はアリシアさんと別行動なんですか」
マナの問いかけにナナも瞳をノーム教諭へと向けた。
「私も気になりますわ、薬剤師であるアリシアさんを現地に向かわせたのは、やはり原因が薬にあると考えているから、なのですか?」
「アリシアは先に行かせただけだよ、まぁ、調べものは済んだから私もボチボチ向かうとするけどねぇ」
「調べもの?」
「調査データの見直しだろ?ノーム教諭」
扉へ向かう教諭を迎えるように、イルミンスール魔法学校のプリースト、和原 樹(なぎはら・いつき)が立ち笑んでいた。
「教諭は過去に調査に行ったり、データを取ったりしていたんだ、原因に心当たりが無い方が不自然だ」
「ボクはもっと懐疑的でね。この騒動は全てアンタの実験なんじゃないかって思えてならないんだ」
薄い笑みを見せながら問いかけたは百合園女学院のソルジャー、桐生 円(きりゅう・まどか)である。円の言葉に一同の視線は集められ、ノーム教諭へと向かうのであるが、教諭はと言うと、相も変わらず顔を歪めて笑んでいた。
「おやおや、信用されていないねぇ。でも、仕掛けたのは私じゃあ無い」
「裏で暗躍されている方がいる、そしてその正体に! 教諭は気付いているのですね!」
身を乗り出して問いたは蒼空学園のナイト、六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)と、そのパートナーのアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)である。
「シャンバラ古王国がらみじゃねーだろうな、だったら意外と大事だぞ」
「さぁ、どうだろうねぇ」
押しても投げても、さらりと避ける。イルミンスール魔法学校のナイト、譲葉 大和(ゆずりは・やまと)のパートナーであるラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)は交渉にてノーム教諭に詰め寄ろうとした。
「先生、ここにノーム教諭の良く訓練されたモルモット希望の人が居るんだ♪差し出すから、知ってる事を教えて下さいな」
「えっ、ちょっ、ラキ、それは俺の事を言っているのですか?」
「先生、前に任命してましたよね、どうですか?」
始めた歩みを止めて、ノーム教諭は小さく笑った。
「モルモットを 懇願するモルモットは使い所が難しいからねぇ、肩の力を抜けるなら歓迎するよ、くっくっくっ」
扉の傍の小さな傘立て、そこから教諭は一本を取り出した。
「君たちも来るかい?あぁ、そこのモルモット君、箒を使うなら引いておくれ」
「えっ、あっ、了解、しました……」
広げた傘を地に向けて、宙に浮かぶ傘の、柄を持って布地に立つ。校舎内で箒を使うは困難、故に大和は外まで傘を力で引く事を要された。肝心の情報は聞き出せないままに。
調べを続ける、とナナ・ノルデン(なな・のるでん)は図書室へ、円は教諭の傘を勝手に借りたようで。その他、残りで「住み処」な部屋を出た一行は、教諭と共にヴァジュアラ湾を目指したのだった。
アリシアやノーム教諭に帯動するではなくとも組織的に事件解決に動いているチームが一つ、それがチーム「真実の探索者」である。
イルミンスール魔法学校のウィザード、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)はシャンバラ教導団のバトラー、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)に一枚の紙を手渡した。
「助かるわ、えぇと…… 図書館は…… あっ、ここね」
「えぇ。特別な仕掛けのある部屋もありますが、図書館までなら問題は無いでしょう」
ルカルカのパートナーであるダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)とカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が地図を覗き込み、続けて薔薇の学舎のプリースト、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が覗き見るなり、声をあげた。
「うわっ、細かいな、目がチカチカする」
「ノーム教諭の研究室は、ここです。わかりますか?」
「あ〜 、クマラ、代わりに見といてくれ」
「ダメだよ、オイラは理沙っちとザカコさんと一緒に現地を見てくるんだから。セレスティアさん、エースをよろしくお願い」
エースのパートナーであるクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)は心配そうな目をしながら、蒼空学園のセイバーで五十嵐 理沙(いがらし・りさ)のパートナーであるセレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)に頼み込んだ。
「お任せ下さい。理沙、携帯は持っていますね?」
「大丈夫、ほら、防水対策もバッチリ!!」
そう言って理沙は、空気がパンパンに入ったビニール袋をセレスティアに見せた。
「…… 、クマラさん、うちの理沙も、よろしくお願いします」
「うんっ任せてよ。行こう、理沙っち」
「あっ、待って、クマラ君」
「さぁ、行動開始です、みなさん、価値ある情報と真実を追い求めましょう」
ザカコの声に、皆は笑みを浮かべて、動きを始めた。探索の第一歩をここに踏み出したのである。
First |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
Next Last