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トリック・オア・トリート~イタズラっ娘は誰ですか?!

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トリック・オア・トリート~イタズラっ娘は誰ですか?!

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第3章 パーティー・パーティー!

 鐘の音が静かな余韻を残している間に、ポロン・ポロンと、耳に心地良いピアノの音が聞こえ始めた。
 ラズィーヤお抱えの音楽家たちを招くことも出来るが、やはり生徒たちを招いたパーティーはなるべく生徒たちの手で作り楽しんでほしいという静香の思いを受けて演奏を募集したところ、リチェル・フィアレット(りちぇる・ふぃあれっと)が快く引き受けてくれたのだった。
 大和撫子をモットーとしている百合園女学院では、嗜みとして音楽も積極的に取り入れている。もちろん、楽器な得意な生徒の演奏を手助けしてくれるヴァイシャリー家に仕える音楽家たちも、リチェルのピアノの音を引き立てるように、音を合わせていた。
「お飲み物は何にいたしますか?」
 ホスト役を買って出てくれた十六夜朔夜(いざよい・さくや)は、乾杯のためのドリンクを配り歩いていた。来客が学生のため、基本的にソフトドリンク。果物の美味しい季節なので、パラミタの名産品の生ジュースがズラリと並ぶ。ノンアルコールカクテルとして、オリジナルの組み合わせがなされたそれは、見目美しい色合いをしている。もちろん、コーヒーや紅茶もラズィーヤの好みに合わせて届けさせているため、珍しい銘柄のものも楽しめる。
 乾杯用にノンアルコールドリンクも振る舞われ、みんながそれぞれにカラフルなグラスを手にしていた。
 ラズィーヤは静香に乾杯を任せると、静香はごく簡単な挨拶をしてグラスを挙げた。

 Happy Halloween!

 静香の乾杯に合わせて、大広間から続くガーデンでは、ぽんっぽんっと小さな花火が上がった。オレンジの空に白い煙りがうっすらと上がり、消えていった。
 高らかにグラスが挙げられ、アチコチでハロウィンを祝い言葉が飛び交っている。もちろん、さっそく「トリック・オア・トリート!」を始めている人たちもいる。
 お菓子はもちろん、大広間には、数々の料理が用意されていた。広間の中心はダンス・パーティーのために開けられているが、ガーデンへと続く大きなウィンドウ以外の壁側には、さまざまな地域や地球の国々の料理も並べられている。ホスト役を引き受けた{SNL9999018#アイリス・ブルーエアリエル}も、朔夜と一緒にお嬢さんたちにドリンクを手渡したり、料理を取り分けたりしていた。もちろん、ラズィーヤのメイドたちが過不足なく働いてくれているが、執事服に身を包んだアイリスや朔夜の姿は、乙女たちのハートを惹きつけた。マニッシュな格好がカッコ良く決まっている。

「みなさん、おつかれさまでした」
 百合園女学院生徒会執行部・百合園団所属でもあるフィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)は、出迎え係を務めてくれた支倉 遥(はせくら・はるか)ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)の3人に、代表して今日のお礼を言いに行った。ラズィーヤから預かった“お礼”を渡す。
「おうちに帰ってからあけてくださいね、とのことです」
 お礼はオレンジ色の小箱で、中身は案外軽かった。中はなんだろう……?と思ったが、そう言われては「開けても良いですか」と聞くことは出来ない。
「それから、ベアトリクスさん、今日はよろしくお願いしますね」
 フィルは自分とベアトリクスのカード、11を指してにっこりと笑った。カードパートナーを探すことは、今日のパーティーの大きな楽しみのひとつだ。自分のパートナーを見つけることが出来て、フィルはとてもうれしかった。ベアトリクスは、フィルの優雅な雰囲気に惹かれて、百合園女学院のことや、この屋敷、ラズィーヤのことなど、フィルに質問してみた。フィルの優しい雰囲気は人の警戒心というものを解いてしまう。つい、話しに引き込まれてしまった。楽しい時間は、これから始まる。

「ミルフィ……、美味しい?」
 神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)は、もったいなくって食べられないっ!というミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)に、せっかく作ったんだから、とピンクのマカロンをサキュバスの大きく開いた胸に押し付ける……ぽよん。
 ミルフィは、今ならどんなにマズいものを食べさせられてもたぶん美味しいというだろうというくらいに感激していた。お嬢様から手作りのお菓子をいただけるなんて……っ!口に含むと、ほのかな甘みが広がり、ミルフィは心から、美味しいですわ♪と言った。
 お菓子を手作りした生徒たちは、お目当ての相手はもちろん、みんなが食べてどんな風に反応してくれるのか、とても楽しみにしていた。プレゼントはやっぱり、相手が喜んでくれるからこそ楽しいもの。愛に見返りは期待しないというのが鉄則かもしれないけど、愛を込めたプレゼントにはやっぱり笑顔が見たい。
「焔!これっ、これ食べてみて」
 同じく、好きな人の笑顔がごちそうのアリシア・ノース(ありしあ・のーす)村雨 焔(むらさめ・ほむら)に、小さな漆の器を差し出した。なんだか崩れかかってはいるものの、お餅?のようなものがちょこんと乗っている。
「……ありがとう」
 にこにこしているアリシアを前に、焔は変わらぬ表情で、そっと添えられている木製ミニフォークを手に取る。
「マスター。大福、お好きですか?」
 なかなか上手にまとまらなかった餅を少し心配しながら、ルナ・エンシェント(るな・えんしぇんと)は焔に尋ねた。有能な機晶姫にも、家庭科という苦手科目はあったらしい。焔は思ったよりも甘いあんこに……うっ、と思ったが、2人には「美味しいよ」と言った。
「ルナさん、上手に作れたかな?」
 朝野 未沙(あさの・みさ)は、朝野 未那(あさの・みな)朝野 未羅(あさの・みら)の2人の妹たちと3人で、ノルンの3姉妹の衣装を着て現れた。過去・現在・未来を司ると言われている神々だが、3人が着ているとまったく恐ろしい印象はなく、可愛らしいばかりである。焔は、いつもお世話になっている未沙に軽く会釈をした。挨拶とも、上手に出来たとも取れる会釈だった。
「村雨さん、今日はよろしくお願いしますね♪」
 未沙は、焔と同じくナンバー15の入ったカードホルダーを見せるようにして振った。

「ハロウィンって、好きな人にお菓子をプレゼントするイベントじゃったかのう?」
 シェリス・クローネ(しぇりす・くろーね)は、周りの様子を見ながら、首を捻っていた。薄汚れた白衣姿は、その口調とマッチングしているとも言える。
「そうではないけど……。まぁ、良いじゃありませんか」
 いかついフランケンシュタインの衣装でセラ・スアレス(せら・すあれす)はフランケンの博士であるシェリスに答える。せっかくのパーティーなのに、なんでこんな衣装……、と納得いかないものを抱えながらも、セラはシェリスのためにお料理を取り分けて上げている。そんなセラの優しさをもちろん気にせず、シェリスは大きなフォークでローストビーフをつついている。せっかくだからゆっくり食事をしたいと思って来たが、パーティー会場の騒々しさの中では、まったりと……には無理があった。
「何か、お取りしはります?」
 巫女装束にお狐さんの耳としっぽをつけた橘 柚子(たちばな・ゆず)は、9つのしっぽを揺らしながら、セラに手伝いを申し出た。セラとシェリスは、テーブルまでまとめて料理を運んでゆっくりしよう、とお皿を何枚も抱えていた。
「そうじゃな。じゃあ、わしはそっちのスープ……」
 シェリスは悪びれることなく、自分の食べたいものを口にする。柚子はにこにこしながら、スープ皿を取り、よそってあげる。
「いいんだ〜。わたくしにもよそってくださらない?」
 魔女や吸血鬼といった黒の衣装の多い中、紅白の巫女装束が目立って愛らしかったので、佐倉 留美(さくら・るみ)は、自分も甘えてみることにした。柚子はやっぱりにこにこしながら「はい」とスープをよそってくれた。セラとシェリスのお皿がいっぱいになったのを見ると、柚子はテーブルまで運ぶのも手伝うと申し出てくれた。どう考えても2人では持ち切れない。……これ、本当に全部食べ切れはるんやろか?と、ちょっと疑問に思いながら、柚子は料理がこんもりと盛り付けられたお皿を手に取った。
(あぁぁあ…、本当にスープを取って欲しかったわけではないのよぅ。あなたとお話ししてみたかったのにっ!)
 留美は、自分もお皿を運ぶと申し出て、柚子にくっついていくことにした。九尾の狐に興味が湧いた、らしい……。

「はむはむ…う〜んコレ美味しいなぁ♪」
 リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)はほっぺをぷっくぷくにして、サンドウィッチを頬張っていた。なんてハロウィンに相応しいごはんだろぉ、と自己満足してた。確かに魔女の格好が似合っている。セクシー魔女ではないけれど。
「どうでもええけど、さっきからお前食ってばっかりだな。おい」
 七枷 陣(ななかせ・じん)は、リーズのほっぺをつついてみた。頬袋でもついてるんかな。
「いいじゃん別に〜。美味しい物あるんだから一杯食べようよ☆」
「まぁ、せっかくだからええけどな。普段食えないようなもん、いっぱいあるし」
 広間には、こんもり、という表現がぴったりな感じで料理が山と積まれている。リーズは満足そうに端から制覇していく。全部食べるのは無理だろう……。
「食ったら、外に出てみぃひん?幸さんがステキな薔薇の花壇があったとゆうてたし」
「いいけどさぁ。陣くん薔薇?とか見る趣味あったっけ?」
「うるせぇよ、ばーか。それだってめったに見れない薔薇らしいぞ」
 時に男のロマンは女には理解されない。女はロマンチストのフリをして、その実しっかり現実的だ。
(ステキな薔薇…。ふむ、カップリングの相手にプレゼントしたら、仲良くなるきっかけになるかのぅ)
 御厨 縁(みくりや・えにし)は、勝手に人の家の花を手折る気になった。それはダメだろう……。しかし、兄者と姉者は遅いのぅ。パーティーが始まったら出迎えはメイドが代わってくれると言っておったのに。先に食べてしまうぞ。
 縁は、支倉 遥(はせくら・はるか)たちがなかなか帰ってこないことに気を揉んでいた。お腹も空いたし。縁が横目で料理を見つめていると、目の前にすっと小さな名刺が差し出された。
「こんにちは。今日はよろしくお願いしますわ♪」
 ナトレア・アトレア(なとれあ・あとれあ)は、にっこりと笑いながら、自分のカードを見せる。ウィッチのシルエットに、ナンバーは14。ナトレアは、自分の作ったバナナボートも差し出した。
「ト、トリック・オア・トリート!」
「はい、お菓子をどうぞ」
 縁はバナナボートをナトレアから受け取った。初めて食べるそれは、とても美味しかった。