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【番外編】金の機晶姫、銀の機晶姫

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【番外編】金の機晶姫、銀の機晶姫

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その1 心のこもったプレゼント



 百合園女学院でのお茶会の連絡を受け、各校に届けられた招待状は参加希望者の手に渡った。希望者は前日から校舎外にある宿泊施設を借りて準備することを許されたので、ルーノ・アレエ(るーの・あれえ)から『ニフレディの服を用意してほしい』との追加のお願いを受けてさっそく衣装の用意を始めるべく集まった者たちがいた。

 焦げ茶のポニーテールをたなびかせた鷹野 栗(たかの・まろん)は、魔女の大釜を抱えてパートナーのループ・ポイニクス(るーぷ・ぽいにくす)と共に衣装作りの一団の前に立った。銀色のボブカットの魔女も同じく大釜を抱えており、それをおいたところで鷹野 栗はぺこりと頭を下げた。

「まずは百合園の皆さんに、このたびのお茶会に招いてくださったこと、準備のために宿を貸してくださったことをお礼申し上げたいと思います」

 歓声が湧き起こると、少し照れくさそうに微笑み早速、といわんばかりに白いハンカチ程度の布切れを取り出した。

「お洋服を用意する、とのことですが、せっかくなので染色からはじめてみませんか? というのが、私からの提案です。お好きな色を申してくだされば、こちらで可能な限り希望に近いものに仕上げますし、使いたい染料がありましたら、それで染めさせていただきます」
「ルーは鷹野のお手伝いだから、質問は鷹野にお願いね」

 銀髪の魔女もにっこりと微笑むと、手本がてら自身の大釜に放った白いハンカチが鮮やかな赤色に染まったものを見せる。
 中には既に40℃ほどに温められた染液が湛えられており、あらかじめ水に浸し、軽く搾った布をそこに入れると色がつく。だがそれで終わりではなく、染色、水洗い、媒染、水洗いなど、数回にわたる工程を繰り返して、ようやく目的の色へと変貌していくのだ。
 その簡単な説明を行った鷹野 栗は茶色の眼差しを集まったものたちに向ける。

「実際の作業は、魔術を使って少し時間を短縮させます。皆さんの作業の、お手伝いができれば幸いです」
「では、ルーノの髪の色と、ニフレディの髪の色でドレスを作るであります! それで、ニフレディに赤いドレス、ルーノに緑のドレスをあげたいであります!」

 一通りの説明を聞いた、銀髪の機晶姫、アイリス・零式(あいりす・ぜろしき)は赤い眼をらんらんと輝かせていた。狐の耳と尻尾を持った銀髪の美女もそれに同調し、デザインを選ぶために本を開いてパートナーである黒髪の青年、赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)に見せていた。

「ね、暖色系だって。絶対」
「貴族服の意味がわからないんですが……」

 赤嶺 霜月は苦笑しながらクコ・赤嶺(くこ・あかみね)の台詞を聞いていた。彼女が開いて見せる本は、どれも少女向けの漫画ばかりで中世の貴族がまとうようなそれを指していた。しかも何故か男性向けだ。

「ニフレディは、女の子だったと思いますよ?」
「だから、ドレスと貴族服がいいって」
「ええ!? 両方作るんですか?」
「だめでありますか?」

 アイリス・零式が大きな瞳にうっすらと涙を浮かべた。う、と赤嶺 霜月はたじろいで時計と睨めっこしながら考えた。そのうち、苦笑しながら肯定を示すために頷いた。
 そこへ、朝野 未沙(あさの・みさ)が声をかけた。

「あたしも手伝おうか?」
「え? いいんですか?」
「うん。あたし、お裁縫も得意なんだよ」

 赤毛の少女がにっこりと笑うと、赤嶺 霜月は遠慮なく、という風に微笑んでパートナーたちが選んだデザインを見せた。

「若草色とぉ、紺を主体にした色に染めたいのですぅ」

 朝野 未那(あさの・みな)はデザインを描いたスケッチブックを片手に、ループ・ポイニクスに声をかけていた。イメージする色合いの色紙と、使いたい生地を見せていた。その後ろで、朝野 未羅(あさの・みら)は二着用意した蒼空学園の制服を綺麗にたたみなおしていた。取り出すたびににっこりと笑って、身につけてもらうのを楽しみにしているのが伺えた。

「では、小一時間お待ちいただければできると思いますよ」
「ありがとうございますぅ」
「あ、私もコレ緑色に染めたいんだけどいいかなぁ?」

 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は黒い瞳を輝かせながら、真っ白なワンピースを取り出して鷹野 栗に差し出した。色見本こそないが、「ニフレディって子の髪の毛の色とおんなじがいいなぁ」と付け加えた。

「あれ? 円ちゃんは?」
「彼女には白ゴスロリが似合うと思ったのだよ。だからボクは染めないのだよ」

 桐生 円(きりゅう・まどか)は緩やかなウェーブのついた緑髪をかきあげながら、にっこりと笑った。


 染め作業が終わった順から、次々と衣装が作られていく。既に形が出来上がっていたものは、しわをとるためにアイロンをかけたりと、その作業は深夜にまで及んでいた。その表情は二人の機晶姫に喜んでもらえることを今か今かと待ち望んでいた。






 その百合園でのお泊り会に参加しなかったものたちも、同じ時分に作業を進めていた。

「ふぁ……」

 青髪の機晶姫、ラグナ アイン(らぐな・あいん)はまだ灯りがついているのに気がついてパートナーの如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)の部屋の扉をノックして返事が返ってくるよりも先に、そっとあけた。そこには緑髪の機晶姫、ラグナ ツヴァイ(らぐな・つう゛ぁい)の姿もあった。
 二人は同じくお針子仕事をしているように見えたが、それぞれ違うものを作っているようだった。

「あれ? 二人ともまだ起きてたんですか?」
「ん? ああ、お前は寝坊するんだから早く寝ろ」
「兄者のことはボクが見てますから」

 ラグナ ツヴァイがにっこり微笑むのを見て、ラグナ アインは少し睫を伏せると、すぐにそこから離れて台所へと向かった。
 数分もせずに戻ってきた彼女の手には、お茶が入った湯のみ、いびつなおにぎりが1つずつと、如月 佑也特製の漬物が連なった状態で添えられていた。

「アイン、お前」
「えと、あんまり無理しないでくださいね。ツヴァイもですよ?」

 そういって、彼女は部屋を出て行くと、如月 佑也はいびつなおにぎりを一つとった。口の中に塩気が一気に広がるが、心遣いだけはありがたく受け取ろうと、あまりおいしくはないおにぎりをお茶で一気に流し込んだ。

「……兄者」
「ほら、さっさと仕上げて寝るぞ」
「姉上はボクに二つ握ってくれたのですよっ!」
「黙らないと明日連れてかないぞ」

 眼鏡を持ち上げながら、深々とため息をついた如月 佑也は、その後日が昇るまで作業を続けていた。





「プレゼント、といえば人形だろ?」

 黒髪の少年、緋桜 ケイ(ひおう・けい)はパートナーの魔女悠久ノ カナタ(とわの・かなた)と共にソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)の部屋で作業を行っていた。緋桜 ケイの提案で、人形をプレゼントすることに決まり、人形のデザインをソア・ウェンボリスが担当することになったのだ。
 青い瞳をニコニコと細めながら、ソア・ウェンボリスはパートナーの白熊を眺めながら作業を進めていた。

「やっぱり、雪国ベア人形ですよね♪」
「前回のあの人形にも、こうやって友達が増えていけば、あいつらも寂しくないよな」
「へ〜、なかなかケイもかわいいこというじゃないか」

 雪国 ベアが茶化すと、少し顔を赤らめた少年魔術師は「そうか?」と割と素直に受け取った。彼の手の中で作られていく真っ白い熊の手のひらサイズの人形は、着実に目の前のゆる族に酷似していく。雪国 ベア本人は、二人が作る自分の分身に身につけさせるマフラーを作っていた。片方は金色、もう片方は銀色だ。それぞれ、ルーノ・アレエとニフレディの二つ名を示していた。
 一方、悠久ノ カナタは先日二人の手元に渡った人形の服を作っていた。細かい作業ではあるが、難なくこなしていった。ルーノ人形用に赤いドレスが出来上がると、ニフレディ人形用に黒いパーティドレスを用意しはじめた。
 あまりの手際のよさに、ソア・ウェンボリスが感嘆の声を漏らした。

「凄いですねぇ」
「なに、コレくらいのことわらわにかかれば赤子の手をひねるようなものじゃ。品が足りなくなれば、ワ○フェスやコ○ケの当日にも繕い物をしていたものじゃ……懐かしいのぅ」
「へ?」
「ゲフンゲフン、ホホホホホ。なに。気にするでないぞ」 

 赤い着物のすそで口元を隠して笑う銀髪の魔女に不信感を覚えつつも、2体の雪国ベアマスコットは出来上がった。
 一体はかわいらしい表情を、もう一体は本体によく似た鋭い目つきをしていた。






「よっおーっし! 探すぞぉ!!」
「ふ、このニコラ・フラメルに不可能はない!!」

 イルミンスールの森を目の前にし意気込んでいるのは、五月葉 終夏(さつきば・おりが)ニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)の二人だ。薄茶色の髪をたなびかせながら、森に駆け込んでいく五月葉 終夏の後を、黒髪の英霊が追いかける。とてもまだ冬が残る季節とは思えない森の中は、季節感を忘れてしまいそうだった。ようやくたどり着いた広場に、クローバーが植わっている場所を見つける。そこには、ジャッカロープの獣人、ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)がいた。

「あれ? キミたちも四葉のクローバー探しに来たの?」

 ディオネア・マスキプラは角の両端にあるうさ耳をたゆん、とゆらしながら小首をかしげる。五月葉 終夏はにっこりと笑って彼女の脇にしゃがみこむ。

「そう! どっちが先に見つけられるか、勝負するんだ!」

 勝負、という言葉を出すや否や、彼女の緑色の瞳が燃えているのが見えた。ディオネア・マスキプラはおお〜と声を上げると「がんばってね☆」とエールを送る。

「ふ、終夏。既に君の敗北は決定したようだ。すぐに見つけるとは、やはり私は不可能を可能にする男、と言うことだな」

 何かを悟ったように眼鏡を持ち上げるニコラ・フラメルは、まず最初の一本を見つけたらしく高々と掲げた。緑色の瞳が悔しそうに細められると、五月葉 終夏もすぐさま足元を探し始める。すると、丁度目に付いた場所に4つの葉がついたかわいらしいクローバーを発見し、同じように高々と掲げる。にらみ合いながらも、また二人はしゃがんで四葉のクローバー探しを再開する。

「ん? まださがすの?」
「ああ。せっかくだから、ルーノさんの分と、ニフレディさんの分、彼女たちのお兄さんとお姉さんにもね」
「だから4本必要なのだ。先に集めたものが勝ち、というわけさ」
「本当は、シロツメクサの花冠とか造りたかったんだけどね〜。今は時期はずれだろ?」 

 照れくさそうに笑う五月葉 終夏に、ディオネア・マスキプラはにっこりと笑って返した。

「なにいってるのさ、シロツメクサならほら、あっちに咲いているよ」
「え? あ、本当だ! まだ咲いてないかと思ったよ」

 立ち上がって示された方角に目をやると、緑色の葉に埋もれながら真っ白なシロツメクサたちが咲き競っていた。

「凄い……」
「なるほど、イルミンスールの森ではこういった奇跡もおこるものなのか」

 ニコラ・フラメルが驚きながら言葉を漏らすと、ディオネア・マスキプラは茶色の瞳をキランと輝かせた。

「そうだ! ボクは四葉のクローバーを2本見つけたから、ボクたち4人からのプレゼントにしない?」
「4人?」
「ボクのパートナーの春美だよ。コレをね、魔法でアクセサリーにしてもらうんだ。4本ともアクセサリーにして、二人に贈ろうよ」

 にっこりと笑うディオネア・マスキプラの言葉に、五月葉 終夏とニコラ・フラメルは顔を見合わせるとお互いに苦笑しあって彼女の提案を受け入れることにした。

「それじゃ、一緒に花冠を作ろうか?」
「うん〜☆」
「では、私は髪飾りでも作ろうか」

 三人がそうしてシロツメクサの花畑で新たなプレゼントを作っている頃、霧島 春美(きりしま・はるみ)はアルバイト先『T・F・S』にてお茶会で使うお花を選別していた。

「基本的に、会場も花が沢山咲いているから、テーブルをささやかに彩れる程度がいいわね」
「天気もよさそうだから、きっと映えるでしょうね」

 おさげ髪の伏見 明子(ふしみ・めいこ)は会場図を見せながら、霧島 春美と相談を始める。その後ろでは床にぎりぎりつかない程度のツインテールをたなびかせた秋月 葵(あきづき・あおい)と、そのパートナーであるエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)はケーキのレシピを眺めながら、が花が沢山並ぶ店内を歩いていた。

「ケーキにお花を添えるのもいいかもしれませんね」
「それなら、ミモザとかいいかも。あれも春の花だし……あ、でも黄色だから菜の花と被っちゃうかな?」
「確か、料理班がミモザサラダ作るって言ってたわね。本物があってもいいわね」

 霧島 春美の提案に、伏見 明子は眼鏡を持ち上げながら、料理が被らないようあらかじめ申請してくれた一覧表に目を通す。春らしいレシピが多く、その上お菓子に至っては食べ切れるのか今から不安になるくらいの種類が取り揃えられそうだった。

「葵ちゃんは、どのお花がいいですか?」
「うーん。そうだなぁ、あたしは青いお花がいいな」
「青?」
「うん。菜の花庭園て、今の時期は黄色や赤だから、青いお花がないんだよ」

 にっこりと笑った秋月 葵の言葉に、イルミンスールの生徒である霧島 春美は小首をかしげた。

「赤……って、何のお花?」
「来て見ればわかりますよ」
「あの桜、多分珍しいからね」

 エレンディラ・ノイマンと伏見 明子がくすくすと笑いあうのを見て、さらに疑問符を並べたが、ひとまず料理やケーキにあわせた花と、テーブルにささやかに飾れる小さな青い花を用意することに決定した。