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空賊よ、風と踊れ−フリューネサイド−(第1回/全3回)

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空賊よ、風と踊れ−フリューネサイド−(第1回/全3回)

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第四章



 戦闘による閃光が、雲海上に見えた。
 ブルと敵対関係にあると言う、フリューネの噂を耳にしていた生徒たちは、第三勢力の介入に備えて、四方で警戒にあたっていた。カルナス・レインフォード(かるなす・れいんふぉーど)もその一人。蜜楽酒家方向の警戒にあたった彼は、フリューネの姿をいち早く発見した。
「戦場でのナンパ……、我ながら、なかなかロマンチックな事をするな」
 フリューネを見つけた彼は顔をほころばせ、すぐさま緩んだ顔を引き締めた。
 にやけてると邪念を見破られかねない、と彼は思った。だがすぐ、いや待て、オレの行動を邪念呼ばわりしてはこの世の愛の存在を否定する事になる、と思い直した。
 カルナスは飛空艇を上昇させ、フリューネのペガサスと並走した。
 彼女は反射的にハルバートを構えたが、カルナスの軽薄な顔を見て、ゆっくり武器を下ろした。
「やあ、初めまして、フリューネ。噂には聞いていたが、それ以上に美しい」
「……キミ、もうここは戦場なのよ」
「キミだなんて他人行儀な……、カルナスと呼んで欲しいな」
 フリューネは険しい目つきを向けるが、カルナスは動じない。心のタフガイ。
「そんな目は似合わない。キミの噂は聞いてる。義賊として随分活躍してるんだってな。しかも、こんな美人なのに。一匹狼って聞いてたから、腕も立つんだろう。けど、たまには力を抜いてもいいと思うんだ」
 のん気にいや、真剣に語るカルナスの側を流れ弾が飛んでいく。
「一緒に空の上で夜明けの珈琲を飲まないか?」
「あのね、今はそう言う場合じゃなくてね……」
「さあ、これがオレの連絡先だ、受けとっ……」
 その瞬間、何かがスコーンと頭を弾いた。
「いてえ! な、なんだ、誰だ?」
 立ち止まり、きょろきょろと辺りを見回す、一体何が起こったのか。
「戦闘中に、フリューネを口説く輩が出て来ると思ったが、あいつだったか……」
 数十メートル先で、閃崎静麻はぽつりと呟いた。
 その手には威力を極限まで落としたバトルライフルが握りしめられている。
「……ったく、TPOをわきまえろ。さっさと向かわせないと面倒な仕事が長引くだろ」
 そう言って、静麻は頭上を通過して行くフリューネを見送った。
「義賊フリューネ、お手並み拝見といくか……」

 ◇◇◇

「義賊フリューネとお見受けする! 少し時間を頂けないだろうか!」
 接近するフリューネを確認し、比島真紀(ひしま・まき)は大声を上げて呼び止めた。
 ペガサスをホバリングさせ、じっと真紀を見据えるフリューネ。真紀の飛空艇の操縦を担当する、相棒のサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)はゴクリと息を飲んで成り行きを見守った。
 風祭優斗とフィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)もすぐさまその場に合流し、フリューネと対峙する。弥隼愛(みはや・めぐみ)とパートナーのミラ・ミラルド(みら・みらるど)、浅葱翡翠と北条円、サファイア・クレージュは、フリューネの後ろに位置取る。
「単刀直入に言おう。貴殿と友好関係を結びたい」
 真紀ははっきりとした口調で言った。
「我々はバッドマックス空賊団討伐と言う一点で、目的が交わっているはず。我々は貴殿との共闘、友好関係を望んでいる。勿論、見返りはある。こちらには物資や情報を交換する用意がある」
「つまり……取引したいって事?」
 一瞬、フリューネがぴくりとハルバートを構え、全員に緊張が走った。
「ああ、もし必要ならば、報酬のほうも御神楽校長に自分が取りはからう」
「報酬ねぇ」と呟く彼女は、この取引にあまり魅力を感じていないように見えた。

「私からも提供出来る材料があります」
 妙な緊張感に絶えかねて、風祭優斗が発言した。
「いいですか。共闘した場合のメリットとしまして、まず第一に私たちがフリューネさんの戦闘のサポートを行います。そして、第二に私のパートナーの孔明が現在敵母船にて調査を進めています。必要とあらば、敵母船に関する情報の提供、また、あなたの必要とする情報があれば調査します」
 決して悪い条件ではないはずだ、優斗は確信している。
「ただ、我々の目的はブルの逮捕と積み荷の回収です。あなたは空賊の積み荷を貧しい市民に分け与える義賊と伺っていますが、目的の積み荷は持ち主がわかっています、手を出さないで頂けますか?」
 出来ればここで無用な戦いは避けたい、それが生徒側にとって最大のメリットだった。
「……どうでしょうか?」
 フリューネは何か考えているようで、黙したまま語ろうとしない。
 敵小型飛空艇がこちらを察知したらしく、急激にその距離を縮めて来ている。
「マズイよ、こっちに向かって来る……!」
「いつまでもじっとしているわけにはいきませんよ。早く決断を……!」
 愛と翡翠は武器を構え、迎撃の体勢を取る。

 沈黙に絶えきれず、フィルは叫んだ。
「お願いします、フリューネさん! どうか私たちに力を貸して下さい!」
 深々と頭を下げたフィルに、フリューネは目をしばたかせた。
「えっと、あの……?」
 戸惑うフリューネになおもフィルは「お願いします!」と頭を下げる。
「わ、わかったわよ! だから、頭を上げて! そこまでする必要はないわ!」
「手を貸して頂けるんですか?」
「見ず知らずの人間に背中を預けるのは気に食わないけど……、頭を下げた女の子を無下にしたら、ロスヴァイセの名に傷がつく! 空峡を荒らすブル・バッドマックス討伐、このフリューネ、助太刀するわ!」
 ハルバートを振りかざし、高らかにフリューネは宣言した。

 ◇◇◇

「フリューネは友軍である! 繰り返す、フリューネは友軍である!」
 真紀は仲間に無線で状況報告を繰り返した。
「さて、ここからは地味でキツイ援護の仕事に徹するぜ、真紀!」
「無論だ、ブルを逮捕するまでが自分達の戦いだ」
 サイモンはフリューネの背後に飛空艇を付けた。
 真紀はトミーガンを構え、弾幕援護のスキルを使い、フリューネの軌道を確保するべくアシストする。
 愛とミラは互いに付かず離れずの位置を取り、右舷後方部よりスプレーショットで、弾丸をバラ撒く。真紀と愛の弾幕効果により、フリューネは銃弾のトンネルの中を飛ぶように前進していった。
「いやぁ、フリューネって美人だね! 後で友達になれるかなぁ……!」
 楽しそうな愛と裏腹に、ミラは無言で飛空艇を走らせた。
「どうしたの、ミラ?」
「……いえ、別になんでもありません」
 様子のおかしいミラに、首を傾げる愛だったが、その理由まで察する事は出来なかった。
 フリューネの姿を追う、愛の視線がミラには嫌だった。つまり、焼きもちである。

 ◇◇◇
 
 大型飛空艇を目指し、飛行するフリューネの身体が光に包まれた。
 これはパワーブレスの光だった、全身に力がみなぎって来るのを彼女は感じた。
「こんにちは、フリューネさん」
 後方より空飛ぶ箒に股がった四方天唯乃(しほうてん・ゆいの)が近付いた。
「今の光、キミがやったの? ありがとう、闘争心が湧いてきたわ!」
「喜んでもらえたなら嬉しいわ。私は前衛には出れないから、補助魔法でサポートするわね」
「皆に慕われる義賊……、かっこいいのです!」
 唯乃の相方、エラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)も、フリューネと並ぶ。
 唯乃の後ろに隠れながら、フリューネに熱い視線を送っている。
「サインとか貰えないですかね……、あわよくば、お友達とかに!」
 キラッキラと瞳を輝かせるエラノール、その溢れんばかりの興奮を押さえきれぬ様子だ。
「こらこら、戦いが終わってからにしなってば。ごめんね、フリューネさん」
「よーし、がんばるのです!」
 エラノールは張り切って、火術を小さな弾丸状にして弾幕を展開した。
「よし! 近接護衛は俺の出番! フリューネ、臆するんじゃないぜ!」
 武神牙竜(たけがみ・がりゅう)こと、特撮ヒーロー『ケンリュウガー』は、防衛陣形を取った。
「……ん? キミ、何その格好?」
「な、なに? フリューネ、特撮ヒーローを知らないのか?」
 地球文化に造形の浅いフリューネは、地球産娯楽ヒーローなど知る由もない。
 ケンリュウガーの衣装を着た、牙竜はさぞ不思議なものに見えている事だろう。
「この分だと、あたしの格好も通用しなそうだね……」
 牙竜の相棒、リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)は肩を落とした。
 折角の仮面乙女マジカル・リリィの衣装もただの珍妙な衣装と受け取られてしまった。
「フリューネ、お前に聞きたい事がある! 後で俺に話す時間をくれ!」

 フリューネの身体が再び光に包まれた。
 またもパワーブレスの光だった、全身の力が爆発しそうになるのを彼女は感じた。
「なんだか今なら、誰でも倒せそうな気がするわ……!」
「ご機嫌いかが、フリューネさん。わたくしのパワーブレスで頑張って下さいね」
 空飛ぶ箒に両足を片側に投げ出す横乗りで、佐倉留美(さくら・るみ)が援護に到着。
 留美の超絶ミニスカートがひらひら風にたなびくが、相変わらずその本体は目撃出来ない。
「最近の子は進んでるわね……」
 フリューネはミニスカを凝視した。へそだしのフリューネも大概だと思うが。
 ふと、フリューネの形の良い鼻から、一筋の赤い雫がこぼれ落ちた。
「まあ、大変。いやですわ、フリューネさん、わたくしの脚線美にあてられるなんて……」
「違うわよ、力がみなぎり過ぎてるだけなのよ」
「フリューネさんは一匹狼といわれておりますが、きっと独りだと寂しいのではありません? わたくしが同姓として癒して差し上げたいですわ」
 そう言って、留美はフリューネに寄り添い、ヒールで鼻の毛細血管を癒して上げた。
 留美の相方、ラムール・エリスティア(らむーる・えりすてぃあ)はフリューネの後方を警戒する。
「……なんじゃ、あやつら。イチャイチャしおって」
 ふと、ラムールと並ぶ影があった。
「んふふ、超絶ミニスカ、いいのぅ〜いいのぅ〜」
 15歳以下の少女を主食とするファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)が、留美をガン見している。
 それにしても、15歳以下の少女を主食とする、と書くと何か猟奇的な感じがする。
 その時、一陣の突風が吹き抜け、留美のミニスカがひらひらとはためいた。
「ああ! 留美の奴、また! 早く押さえんか! 見えるじゃろ!」
「おお! 見えるか! 見えぬか? どっちじゃ!」
 同じ口調で混乱するが、ハラハラ心配してるのがラムールで、ドキドキ眼力を込めるのがファタである。
「おおっと、ミニスカ見てる場合ではなかったな!」
 ファタはフリューネの側を陣取り、サンダーブラストで周囲の敵機をなぎ払った。
「フリューネとやら、わしが助太刀してやるぞ」