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消えた時を告げる歌声

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消えた時を告げる歌声

リアクション

「歌声の正体を必ず調べてきてやるぜ!」
 張り切って森を訪れた、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)
 事前に村を訊ね、村人達が、見たところ正気なことも確認済み。
 美少女……もとい歌声の主を助けるべく、ウィルネストは今回の依頼に参加したのだ。
「パラ実がうろついてるからってそれが原因って決め付けるのは、まぁ早計っちゃ早計だよなー」
 ウィルネストは泉から少し離れたところを、きょろきょろしながら歩いている。
 探しているのは、ことの経緯を知っていそうなパラ実生だ。
「私も同意見です。現在、学校が敵対関係に近いとはいえ、パラ実生徒だからと言って、彼らの言い分を聞かずに一方的に追い払うのはおかしいと思います」
 実際に話を聞いてみないことには何も判らないのだから、決めつけることだけはよそうと。
 クロス・クロノス(くろす・くろのす)も、ウィルネストの言葉に深く頷く。
 カジュアルな服装をしているのは、教導団の制服では警戒されるだろうという配慮から。
 怪しまれないように、尋問の際にも所属学校も伏せる方向で考えていた。
「オレは泉に対してパラ実が何かやってるのだと思う……まぁ、直接聞くのが手っ取り早そうだな」
 ウィルネストとクロスに対して、神楽崎 俊(かぐらざき・しゅん)は自分の考えを述べる。
 意見は違えども、真実を知りたい気持ちは同じ。
 俊もウィルネスト等とともに、森を眺め回した。
「真面目なお仕事ですね。首尾よく終わらせて、義兄さんにご褒美をいただこうかしら」
 金の長髪をなびかせて、俊の斜め後ろを歩く神楽崎 沙織(かぐらざき・さおり)
 ふふふ……と、嬉しそうに顔を綻ばせる。
 頭の中には、俊からの素敵なご褒美の数々。
 と、茂みの向こう側に都合良くパラ実生が現れた。
「すみません……助けて下さい……」
 背後から静かに近付くと、沙織はわざと音を立てて倒れ込む。
 パラ実生の前で、顔をしかめて足首をさする仕草をして見せた。
 ちょっとだけ、太ももをサービスしちゃったりなんかして。
 振り向き、しゃがみ込んだパラ実生の後ろから、生徒達が接近する。
「よっ、ニーサン、ちょっとお尋ねしたいんですがー?」
 がばっとパラ実生に乗りかかり、首へと手を回したウィルネスト。
 立ち上がり振り払おうとするが、ウィルネストはがっしり掴んで離さない。
「仲間を呼ぼうとしても無駄だよ、スキルを使ったから」
 腰の携帯に手をやろうとするパラ実生に、俊はにっこりと微笑む。
 スキル【情報攪乱】の効果により、相手の通信網は妨害された状態だ。
 俊は沙織のもとへ駆け寄ると、優しく手を引いて立ち上がらせる。
「はじめまして、クロノスと申します。少しお伺いしたいことがあるのですがよろしいですか?」
 パラ実生の興奮を抑えようと、クリスは穏やかな口調で話し始める。
 両の手で相手の手を取り、力いっぱいに握り締めた。
「ニーサン、歌声の主を知らないかな?」
 ウィルネストが訊ねてみるものの、芳しい答えは返ってこない。
 どうやらこのパラ実生、そもそも歌声のことを知らないらしい。
「じゃあさ、泉に異変とか無いかな?」
 今度は矛先を変えて、パラ実生達が集まり始めてからの経過を訊ねる。
 だが、特に何も起きていないとの回答だ。
「本当に何もないんですか?」
 思慮深い九条 風天(くじょう・ふうてん)は、パラ実生へと疑いの眼を向けた。
 何かを隠しているのではないだろうかと考え、探りを入れる。
「私からも良いかしら? 何故この村にきたのか……この村で何をしているのか、教えて欲しいの」
 リネンはもちろん、他の生徒達にもまだ、歌声が消えたこととパラ実生の関係が見えていない。
 これさえ判れば、解決策も導き出せるのだが。
「あんたたちが歌声に何かしたことはわかってんのよ。さっさとしてることを吐きなさい!」
 リネンのパートナー、ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)も敵を追求する。
 眼差し鋭く……ヘイリーは、明らかにパラ実生に対して喧嘩を売っていた。
「良いよ、知らないと言うのなら他の人に訊くから」
 ロープを取り出した俊が、じりじりとパラ実生を追い詰めていく。
 本当にシラを切るのであれば、縛って気絶させ、違うパラ実生を探そうと考えていた。
「自分の弱さにかこつけてこそこそ弱いものいじめ? サイテーね、あんたら」
 さらに、パラ実生を煽るヘイリー。
 ついに堪忍袋の緒を切ってしまったようで、パラ実生との距離が縮まっていく。
「……待って! 仲間が、泉から異臭がしていると報告してきたわ。鉄くずや油も浮いてるとか」
 だが、2人の行動を留めるようにリネンの携帯の着信音が鳴った。
 太郎から送られてきたメールを読み、仲間へと要点を伝える。
「ボク達だって、パラ実だから即退治というのも視野が狭いと思っています。ですが、悪事でしたら見過ごすわけにはいきません。事の真相を話してください」
 読み上げられたメールの内容に、隠し通せないことを悟ったパラ実生。
 風天の言葉にも後押しされ、その場に座り込むと口を開いた。
 曰く、『シャンバラ各地から買い取った産業廃棄物を泉に投棄している』と。
 そのせいで泉から悪臭がしたり、鉄くずや油が浮いていたりしたのだ。
「すると、その産業廃棄物が歌声の主に何らかの悪影響を与えている……ということになりますね」
 顎に手をあて、眼を細める。
 風天は、これまでに得られたすべての情報からロジックを組み立てた。
 筋も通っており、疑いようのない結論に満足だ。
「大変、みんなに教えないと……」
 仲間とともに得た情報を、リネンは携帯に打ち込んでいく。
 事前に集めていたメールアドレスをカーボンコピーして、一斉送信を実行した。
「オレも手伝うよ……まずは小谷さんにでも連絡するかな」
 リネンとともに、携帯メールを作成し始める俊。
 愛美を始めとして、送信先が被らないように注意しながらメールを送った。
「たぶん、ちょっとした勘違いとかすれ違いがあっただけなんじゃないかな」
 一方その頃、依頼を提出してきた村の近くでパラ実生と遭遇した瑠菜。
 敷物の上に向かい合って、座り込んでいた。
「たとえモンスターでも、愛美ちゃんの言うとおりみんなが聞きたくなるような優しい歌声の持ち主なら、悪い人じゃないだろうし」
 パラ実生とにこやかに喋りながら、瑠菜は持参したお弁当を食す。
 はたから聞いていると、依頼についての話というか……ただの世間話のような。
「あぁ愛美ちゃんっていうのは、一緒に依頼を受けてる子なんだけどね」
 警戒を解き、情報を引き出そうという瑠菜の作戦。
 吉と出るか、凶と出るか。
「みんな優しい歌を聞きたいだけなら、仲良くなれるはずだよね」
 美味しそうに、パラ実生も卵焼きを頬張っている。
 何だかほんわかした空気が、流れていた。

「ヒャッハァー! そうだな愛美とマリエルが尋問するなら話してやってもいいぜ! 他の奴は失せろ」
 こちらでも、パラ実生への尋問が始まっていた……というか強制的に始められた。
 相手は南 鮪(みなみ・まぐろ)、判りやすいぐらいスタンダードパラ実スタイルで決めている。
 スパイクバイクにまたがってうろうろしていたところを、愛美達に発見されたのだ。
 もちろん愛美達は、鮪の要求を呑みはしない。
「駄目だな、3人だけにならないと封印された記憶が蘇らないからな」
 などと適当なことを言いながら、何とか他の生徒を追い払おうとする鮪。
 だがしかし。
「愛美さんはあたしが守る、だって愛美さんはあたしの最愛の人だから!」
 鮪から愛美を護るように、朝野 未沙(あさの・みさ)が立ちはだかった。
 愛美のためにウィザードへクラスチェンジし、使えるようになった【ディテクトエビル】。
 しっかりと、鮪に反応していた。
「2人が俺の身ぐるみを剥いでくれたら……おっと秘密をばらす所だったな。尋問を受けるのを邪魔する奴はパラ実生だろうが誰だろうが全力で許さないぜ!」
「愛美さん大好きです。あたしの命に代えても護ります!」
 激しくなるばかりの鮪と未沙の対立、仲間達は行方を見守る。
 とは言うものの、鮪の方は多勢に無勢。
 しばらく睨み合ったのちに、ちっと舌打ちをして去っていった。
「愛美さん、大丈夫?」
 完全に姿が見えなくなるのを確認して、愛美へと視線を移す未沙。
 くるくると、前後上下左右から愛美の無事を確かめる。
「ありがとう、未沙さん。助かったわ……でも、驚いちゃったよ」
 頬をかく愛美に、未沙は顔が赤くなる。
 片想いの心を勢いで喋ってしまったことに気付き戸惑うも、本当のことだと開き直って。
「大好きです……どうか、愛美さんが悲しむ結果になりませんように」
 耳許で囁いて、頬に軽く唇を当てる。
 胸の高鳴りを感じながら、未沙は先を急いだ。