校長室
消えた時を告げる歌声
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第4章 泉から流れる歌声をともに すっかり綺麗になった泉へ、すべての生徒達とパラ実生達が集まった。 へとへとになり座り込んでいると、何やら細い女性の声が。 「歌声の主でしょうか……人か魔物か、はたまたそれ以外か。声が止んだ理由も興味がありますが……何より村人を魅了する程の歌声、大変興味があります」 最初に気付いた鬼灯 歌留多(ほおずき・かるた)は、とても嬉しそうに泉へと近附いていった。 泉の縁へしゃがみ込むと、顎を両腕に乗せて儚げに微笑み、るんるんと頭を左右に振る。 「あなたが、歌声の主でしょうか?」 視力の無い歌留多は、水飛沫を聞いて、何者かが泉から出てきたことを知る。 顔を上げて、ふんわりとした笑顔で訊ねた。 「あなたの歌声を心待ちにしている方がおりますの……もちろん、わたくしも含めて」 返答はないが、殺気を感じることもなく。 歌留多がねだると、華麗な歌声が響き渡った。 「ワタシはイルカの獣人だから行き先が水辺、ましてや泉と聞けば居ても立ってもいられないんだよっ! と言う事で、お弁当にサンドイッチとおにぎりとから揚げと、卵焼きと大学芋と……」 流れる歌声に、アリシア・クリケット(ありしあ・くりけっと)は嬉しそうにお弁当を広げ始める。 「と、後はデザートにアップルパイもバスケットに詰め込んできたんだよ……ん? 何かな翡翠君、え? ピクニックじゃない?」 なんてパートナーと話しつつ、いただきます〜とお弁当を食べ始めた。 「ウィールー、ミーツェさんもおなかがすいたですー。お弁当を食べましょうですー」 背中に負っていたリュックから、重箱に詰めたお弁当を取り出すミーツェ・ヴァイトリング(みーつぇ・う゛ぁいとりんぐ)。 開いた包みの上に展開し、周りの仲間やパラ実生達を席に誘う。 「それにしても、分かりやすい展開だったのですー。ウィールー、大活躍したですー」 おにぎりを箸で切りながらミーツェは、パラ実生達との戦闘を回顧していた。 パートナーの活躍を、嬉しそうに振り返る。 「ミーツェさんも、どーんとランドリーまいりましたですー」 自分の活躍も想い出して、ふふふ……と思わず笑みを零した。 「セイレーンでしたか……それにしても、ローレライやハルピュイアが歌を歌う理由とはなんなんでしょう? 地球の伝承などでは、歌声で人を誘い、船を沈めたり、とって食べたりする話が有名ですけど、パラミタでは違うのでしょうか?」 風森 望(かぜもり・のぞみ)は、大和撫子らしい所作で紅茶を準備する。 ティーセット一式とクッキーは、戦闘後のお茶会にと持参していたものだ。 「この歌声を聴きながら、お茶とお菓子など如何でしょうか、愛美様?」 「わぁ、ありがとう」 隣に座る愛美へと、温かいミルクティーを勧める望。 お礼とともに受け取ると早速、愛美がカップへ口を付ける。 愛美の様子にはにかみ、望もクッキーを口へと運んだ。 「皆さんも、いかがでしょうか」 マリエルや他の生徒達にも、望はお茶とお菓子を回す。 歌声に癒されながらの、素敵なティーパーティーになりそうだ。 「皆が虜になるような歌声、かぁ……判る気がするよ」 歌声の持ち主に会って話や歌を聞くことを、目的にしていた十倉 朱華(とくら・はねず)。 望のクッキーを頬張りながら、歌声に耳を傾ける。 「……朱華はどうも若干危機感が足りないようですが、まぁそれはいつものことですし、ね」 歌が始まってからもしばらく、【禁猟区】を発動していたウィスタリア・メドウ(うぃすたりあ・めどう)。 朱華の安全を第一に行動してきたがゆえに、発動を継続している。 しかし現時点で誰にも異変が起きていないことと、朱華が満足そうなことから、ウィスタリアはスキルを解除した。 歌声はもとより、朱華をサポートできたことが、ウィスタリアにとっての喜び。 「綺麗な歌に美味しいお茶、幸せだね」 優しく響き渡るセイレーンの『感謝の歌』に、朱華の心は満たされていく。 契約者としての力は、誰かに『ありがとう』と言ってもらうためにあるのだと。 そうなることのできるような使い方をしたいと、朱華はいつも思っていたから。 「ワタシ、あなたに興味があるのであります。なぜ、ここで歌っているのでありますか? どういう意図で歌っているのでありますか?」 2曲目が終わり、拍手喝采のなかアイリス・零式(あいりす・ぜろしき)が泉の傍へ。 セイレーンの眼をじっと見つめて、真剣な表情で訊ねた。 「……ボクはキミに対して、あんまりいい印象を持ってないんだけどね」 「メイ、黙っていなさい」 思いっ切りセイレーンを睨み付けているメイ・アドネラ(めい・あどねら)を、赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)が黙らせる。 今回は、アイリスがセイレーンと話したいと言い出したため、依頼に参加したのだ。 ここで相手の機嫌を損ねては、わざわざ出てきた意味が無くなってしまう。 「わたくしは……ただ、綺麗な水に惹かれてここへやってきたのです。歌は、口をついて出てしまいました……お邪魔でしょうか?」 決して悪意は無く、この場所を選んだのも偶然だと言うセイレーン。 控えめな上目遣いで、アイリスの質問に答えた。 「いいえ……村人達も私達も、あなたの歌声を心待ちにしていたのであります」 「では、どうして歌うのを辞めてしまっていたのでしょうか?」 アイリスの返事に続いて、今度は霜月が訊く。 困ったような仕草を見せつつも、セイレーンは問いかけに応じた。 「お恥ずかしながら……寝込んでおりました、水が急激に汚れてしまったもので」 「……やっぱりか」 てへっと笑うセイレーン、メイは静かに舌打ちする。 パラ実生達を睨み回して、セイレーンへと視線を戻した。 「ですが、ありがとうございました。皆さんのおかげで、また歌うことができるようになりました」 セイレーンは、その場に居合わせたすべての生徒達へと頭を下げる。 汚染の原因までは知らないセイレーンにとっては、パラ実生達も汚染から自分を助けてくれた者なのだ。 納得のいかない生徒達もいるようだが、面倒臭くなりそうなので誰も真実をセイレーンに言おうとはしなかった。 頭を上げたセイレーンは、再び歌を紡ぐ。 「泉から聞こえる優しい歌声かぁ。予想通り凄い美人さんが歌ってたんだな〜」 パラ実生達に混ざって、出雲 竜牙(いずも・りょうが)も静かに歌を聴いていた。 調査中も、何とか歌を聴くためにと立ち回っていた竜牙。 最初はパラ実生達に潜り込んで泉へと近付き、戦闘開始後はパラ実生達を見限るという潜入捜査を行っていた。 「良かったわね、竜牙」 嬉々としたパートナーとは反対に、冷たい台詞を吐くモニカ・アインハルト(もにか・あいんはると)。 無表情が語るように、モニカにとって今回の依頼はまったくもって興味をそそられるものではなかった。 ただ竜牙が参加するというので、義理で付き合っただけなのだ。 「あぁ、ありがとうな。モニカ」 竜牙に対する義理を貫けたことだけが、依頼に参加した意義。 礼を告げられるという予想外の展開に内心驚きつつ、モニカも歌に耳を傾ける。 「歌声はモンスターのものだった。でも、愛美の言うように、歌を通じてモンスターとお友達になれたら、本当に素敵だと思う」 同席していた愛美や他の生徒達に対してにかっと笑うと、3曲目の終わりに合わせて神野 永太(じんの・えいた)は席を立つ。 パートナーである燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)も、永太のあとを着いて歩いた。 「素晴らしい歌だ、もしよければパートナーにその歌を教えてあげてくれないか?」 無口なパートナーを想って、セイレーンへと申し出る永太。 過去の冒険以来、ザイエンデが歌に興味を抱いているらしいことを、知っていたから。 「えぇ、喜んで」 にっこり笑って、セイレーンは歌の頭からを歌い始める。 合わせて無口なザイエンデも、微かに歌声を漏らした。 歌など、戦闘用の機晶姫である自分にとっては不要なものだと考えていたザイエンデ。 だが1度、歌を歌って以来、ザイエンデのなかで『歌』に対する意識が変化し始めていたのだ。 その変化が何を意味するのかは解らないのだが、ただ知らず知らずのうちに、ザイエンデは歌を求めるようになっていた。 「村人を魅了する優しい歌声……聞くだけでなくともに歌うことができて、わたくしは嬉しいです」 一通り教わったザイエンデは、セイレーンに合わせて歌を紡いでいく。 永太も想わず破顔する、素晴らしい合唱だ。 「歌声を聴いて、実際のところどう思うんだ?」 轟 雷蔵(とどろき・らいぞう)が、パラ実生達に訊ねる。 実はパラ実生達が平然と歌を聴いていられるのは、雷蔵のおかげであるところが大きい。 他の生徒達に『パラ実生だって歌を聴く権利はあると思うぜ』と、力説してくれていたのだ。 「え……まぁ、結構いいもんだな」 そんな雷蔵に頭が上がらないパラ実生達、頭を掻きながら恥ずかしそうに答える。 「そうだろう、これに懲りたらもう悪いことすんじゃねーぜ? 人助けとかしなきゃな」 「へいっ!」 隣に座っていたパラ実生の頭を掴み、ぐしゃぐしゃっと撫で回す雷蔵。 返答に満足し、一層の改心を促した。 クラスの都合もあり戦闘を回避していた雷蔵だが、戦わなくて本当に良かったと思っていた。 やり合っていたらおそらく、今のように和やかに歌を聴いてなんていられなかっただろうから。 「あの……私の演奏に合わせて、歌っていただけませんか?」 また1曲、セイレーンの歌が終わった。 リーズ・マックイーン(りーず・まっくいーん)が、ヴァイオリンを抱えて泉へと駆け寄る。 セイレーンは快く承諾し、即興コンサートの開催だ。 「素敵な音色……読書に最適だわ」 先程からずっと、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は読書にはまっていた。 比較的小さな本をすでに2冊も読破しており、別の本へと手を付ける。 「……♪ ありがとうございました」 リズムやメロディは自由自在、初見とは思えない、息ピッタリの演奏が繰り広げられた。 ヴァイオリンを肩から外し、リーズはセイレーンと生徒達の双方へお辞儀をする。 大きな拍手が、2人を包み込んだ。 「優しい歌声……とびきりのいい女だぜ! オレの物にならないか?」 鳴り止まぬ拍手のなか、ユウガ・ミネギシ(ゆうが・みねぎし)がセイレーンの前へひざまずく。 「ありがとう……でも、遠慮しておきます」 だが、ユウガへの返答は残念なもので。 場は大きな笑いと、励ましの声で包まれるのだった。
▼担当マスター
浅倉紀音
▼マスターコメント
お待たせいたしました、リアクションを公開させていただきます。 1本目のシナリオということで、緊張のなかで執筆を進めました。 皆様のアクションは、読んでいてとても面白いものばかりでした。 楽しんでいただければ幸いです、本当にありがとうございました。