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黒羊郷探訪(第2回/全3回)

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黒羊郷探訪(第2回/全3回)

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the another travels 悩めるクタと騎狼シューティングスターの駆り手

「何? 昼間、戦いがあった?」
クタ。おまえさん、気付かなかったのかよ。
 真っ昼間に、真っ向から俺達のアジトに乗り込んできやがった奴らがいて、すぐ門の前で乱戦になったんだぜ。えらい騒ぎだったよ。(トンマのトーヌが捕まっちまったが、もう殺されてるかもしれねえなあ)」
「そ、そうだったのか。いや、俺はちょっと物思いにふけってたもので……」
「そうかクタのあんちゃん、相変わらずかい。
 まあ、この土地には色んなやつが来る。おまえさんも、色々あったんだろう。聞きはしねえ。
 身体の傷と、心の傷が癒えれば、おまえさんもこれ(腕)は確かだろ? しっかり働いてもらうさ。ま、盗賊稼業もらくじゃあねえがな」
 腕やに足あちこちに包帯を巻いたこの男。まだ、傷が痛々しい。以前は快活だったかもしれない青年、今はその表情にどことなく影が落ちて見える。
「ところで、敵は一体何者だ?」
「ああ、教導団って名乗ったっけな」
「な、……教導団? (も、もしや俺を……?)」
「あんちゃん。教導団と関わりがあるのかい?
 もしや、逃亡兵の類か。まあ、そういうやつもいるぜ、ここには」
「いや、……俺は教導団にいたわけじゃないんだ。だけど、……」
 そう、この男。久多 隆光(くた・たかみつ)である。
 蒼空学園からの義勇兵として、度々教導団の作戦に積極的に参加してきた久多。第四師団における活躍も記憶に新しい。
 彼は、まだほんの一ヶ月程前――
 ……教導団に歯向かうならさ。どんな目に遭っても文句は言えないはずだよな?」……彼は教導団に敵対する村を排除しようと、パラ実側の集落を焼き討ちしようとした。事は失敗に終わり戦闘不能の重症を負った上、一般人への焼き討ちは重罪。教導団本部にバレれば、有罪確定。彼は助けを呼ぶこともできずに、逃亡者として身をくらませたのであった。(グランドシナリオ第二回参照)
 その行き着いた先が、この土地だった。
 思い出し、頭を抱える久多。
 傷の手当てをし、やりすぎたことを絶賛自己嫌悪しながら、盗賊のアジトで日々過ごしていたのだった。
 教導団か……教導団に入るどころか、俺は蒼空学園にだって戻れるのだろうか?
 教導団……騎凛。騎凛は今頃、どうしている?
 騎凛に会いたい。
 だが俺は、してはいけないことをしてしまった。……



 一方、黒羊旗と教導団との交戦となった三日月湖地方から、その夕刻、単騎ウルレミラを発った騎士があった。フード付マントが、その駆けるスピードに靡く。
 【騎狼シューティングスターの駆り手】として騎狼部隊で活躍した菅野 葉月(すがの・はづき)
 この今三日月湖に起こっている事態を、騎凛に知らせる必要があるだろう。今や、何も知らずに黒羊郷へ何も知らずに向かうのは危険だ。
 騎凛が発ったのは数日前。急ぎの旅でなければもしかしたら追いつけるかも知れないし、ルートも明確でないが、ハルモニアに寄るということなら、うまくすれば先回りも可能かも知れない。少しくらいなら時間がかかっても、そこに滞在している可能性もある。
 そんな菅野の思いとは別に、騎狼を駆る葉月の前に座るミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は、その体の温もりを背中に感じつつ、葉月と同乗できてご機嫌なのであったが。



「おい、クタのあんちゃん。もう、傷はいいのかい?」
「ああ……じっとしてられる気分でもないから」
「……。なんでえ、さっきまではずっと内ん中で頭かかえてたと思ったら、これだ。わからんね、若いのは」
「まあ、……色々あるってことで」
 久多は、まだこの近辺をうろついているという教導団数名を山狩りする任務に加わったのだった。
 外へ出ることさえ久しぶりである。
 まだ、銃をうまく握ることもできない体だが。
「騎凛……」
 がさがさ。
 向こうの茂みから、何かが来る。
「おい、そっちだ! そっちに行ったぞ!」
「捕えろ! クタ!」
 ざっ。
「!!」
 久多の目の前に、現れた巨大な狼。乗り手は、フードに顔を隠している。
「き、騎狼だと?!」
「わっ。どうして?? 盗賊が待ち伏せしそうなところは避けてく方針だったんですけど……!」
「まあ、こういうこともあるよね! ワタシのせいじゃないからねっ」
「わかってますけど、今はこの包囲を突破しませんと」
 教導団の一行を捕えんと、山全体に盗賊が包囲網を張っていたところだったわけだ。
「クタ、どうした抜け!」
 盗賊の仲間がクロスボウに矢をつがえている。
「そうはさせないよっ。鬼眼!」
 睨まれた盗賊らが武器を取り落とす。
「うっ、やつ、魔女を連れているぞ!」
 久多は、取り落とした銃をおかまいなしに、騎狼に飛び乗った。
「わあっ葉月、お、落ちる!」
「ミーナしっかり! ちょっ、このっ離してくださいっ容赦しませんよ!」
 騎狼は、久多をぶら下げたまま、盗賊達の間を突っ切っていく。
「クターーー!」
 久多の体にぼんぼんと木々の葉っぱがぶつかってくる。
「お、俺は蒼学の久多だ! た、頼む。教導団の騎狼部隊だろ、騎凛のところへ連れてってくれ!」
「えっ。君、蒼空学園の……? パラ実でもあるまいし、どうして盗賊なんかに?
 ボクも、蒼学の菅野葉、……あっ!!」
 ぼさっ。ざざざざざ、茂みの中に分け入る。
 振り落とされんと必死の久多、思わず、騎狼を駆る菅野の胸に手を回した。
「あっ、あっ……ちょっと〜〜!!」
「え? え??」
「葉月はワタシのもの! 近づく虫は駆除に限るよね!」
「え? うわっ、鬼眼はやめて……」
 ぼぼぼぼぼ。
 こうして、菅野は久多を引きずって、久多は色々苦い思いを引きずって、騎凛らのもとへ、近付きつつあるのであった。