天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

マジケット死守命令

リアクション公開中!

マジケット死守命令

リアクション

2019年12月27日 空京国際展示場・7階国際会議場 

 正面中央の演台を囲むように、数百名の『義勇軍』たちが集まっている。
 イルミンスール魔法学校はもちろん、シャンバラ教導団、蒼空学園、薔薇の学舎、百合園女学院から波羅蜜多実業高等学校まで、ありとあらゆる学校から、マジックマーケット準備会の援軍要請に応えて精鋭たちが集まっていた。
 ひとりの少女が演壇にあがった。
 ショートカットの上にヘルメットを被った、かわいらしい女の子だ。少女は手にしたメガホンで会場に呼びかけた。
「あー。あー。きこえてますか? きこえてますね? わたしはマジケット準備会、防衛委員会委員長の南野茜です。まずは来てくださった皆さんに心からの感謝の言葉をのべるものであります」
 棒読みな挨拶に、会場からぱちぱちとまばらな拍手が上がる。
「……同――志諸君んっっっ!!! 気合いがぁぁぁ足りなあああぁぁぁいっ!!!」
 突然、茜の口調が変わる。
 それは壊れて金切り声を上げる、ギターアンプのノイズのようだった。
「そんなことでわわあぁぁっ、あぁんのクソババァにみいんなまとめてひぃねり潰されちまうぞおおおぉぉぉぉっ!?」
 それに対して「なんじゃそりゃあああああ?」「もういっぺん言ってみろやぁあああ?」っと、主に波羅蜜多とシャンバラを中心とした野性味あふれる脳筋的生徒諸君から雄叫びが上がる。
「やるぜ―――ぃ!」
「ぬっ殺すぜ―――ぃ」
「みんな戦争がしたいか――い?」
「うおぉぉぉぉ!!!」
「三千世界のカラスを殺す嵐の様な戦争を望むか――い?」
「戦争だ! 戦争だ! 戦争だ!」
「それじゃーみんな。せんそーだ――っ♪」
 ぱちっと照明が薄暗くなり、正面のスクリーンに空京国際展示場の平面図が映し出される。茜はメガホンを置き、レーザーポインターを地図に当て、くるくると光点を動かす。
「私たちが守らなきゃ行けない場所はこの建物なんだけど。だれか意見ある人、いないかなぁ……いた」
 茜はレーザーポインターをぽいと投げる。
 受け取ったのは松平 岩造(まつだいら・がんぞう)だった。
「重量があるゴーレムだ。正面のやぐら橋から責めてくる可能性が高いな」
 そういって国際展示場とローカル支線駅の間を結ぶ大鉄橋、『やぐら橋』をポインターで指し示した。
 すると、別の誰かが手を挙げる。松平はレーザーポインターを投げてやる。
 受け取ったのは銀髪で緑色の目をした少年ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)だった。
「俺は東館の少なくとも正面全域も警戒しとくべきだと思うな。シャッター前にバリケードでも作ればいいんじゃねーか?」
「ふふ、卿はまだ甘いですな」
「なんだよ。文句あるのかよ?」
アーカイヴスが振り向くと、そこには金色の長髪をなびかせ、同じ緑の目をした青年がいた。年格好が同じくらいなのが余計腹立たしい。彼の名はエリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)といった。
「相手は魔女です。空からの攻撃も念頭に置いたほうがいいでしょうな」
「爆撃でもするって言うのかよ? 一般人巻き添えにするようなマネするはずねーだろ?」
「万に一つの弱点であっても見逃さないのが兵法ですよ」
「そこの金髪と銀髪の方たち、レーザーポインターを貸してくれませんかぁ」
 ふとにらみ合うふたりに声がかかる。振り向けばそこには胸があった。
 バスト97の巨乳にふたりは釘付けになる。
「胸じゃなくて顔を見て話してくださいね? 顔はこっちですよ。こっち」
 女性にしては身長が高く、エリオットもウィルネストも見上げる形になる。
 そびえ立つ乳だ。
「で……」
「でかい……」
 2人が声を揃える。いろいろでかい。
「もう。仕方ないんだからぁ」
 
 さっとアーカイヴスからレーザーポインターをかすめた彼女の名は志方 綾乃(しかた・あやの)。そのほんわかとした印象と、自称する「引っ込み思案」という性格とは裏腹に、かなりな過激分子だという。
 綾乃はレーザーポインターをやぐら橋のたもとに当て、
「私たちはここ、やぐら橋前でバリケードを作ろうと思います。……誰か手伝ってくれる人いませんか?」
「本官は降伏する訓練を受けていないが、入隊可能か?」
 ごつい機関銃を肩にかけた、教導団崩れの波羅蜜多傭兵国頭 武尊(くにがみ・たける)が名乗りを上げる。
「ええ。でも、勲章をもらう訓練はしておいた方がいいですよ」
 綾乃はにこりと笑う。
「俺もバリケード作り手伝わせてもらうぜ」
 と、サーコート姿の騎士、大岡 永谷(おおおか・とと)が手を挙げる。そして「そのついでに、バリケード周辺にトラップを仕掛けないか?」と言葉を続けた。すると、
「その案、わしらも考えておったのじゃ!」
魔獣使いのおねーさん、ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)と、そのパートナーふたり、ジェーン・ドゥ(じぇーん・どぅ)フィリア・バーミーズ(ふぃりあ・ばーみーず)が応じる。
「落とし穴を作って中にスライムを2体仕込むのじゃ。スライムは魔力を吸収する性質がある故、その中に足を突っ込んだ魔女だのゴーレムだのはたちまち魔力を吸い取られ、それはそれは愉快な結果になるであろうなあ」
 ファタはさもおかしそうにからからと笑った。
「……とらっぷ、と、いったな?」
 どこからか声がする。
「トラップといったか、と聞いている」
「言ったが、それがどうしたというのじゃ?」
「ぬぁはははははははははは! 我が輩を差し置いて陣地工作を語るなど一億年と二千年早いっ」
 突然出てきた教導団の軍服に白衣を羽織ったメガネの男はホールじゅうに聞こえるかのごとく、自慢げに笑った。男の名は青 野武(せい・やぶ)。パートナーの黒 金烏(こく・きんう)シラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)込みで、教導団工兵科一のマッドエンジニアとして知る人ぞ知る男である。
「おぬし、いったいどんな罠を考えておった?」
 びしっ! と野武は永谷に尋ねる。
「俺は陣地のまわりに電流を流した銅線を敷いておこうかと思ってたけどな」
「ふむ。アイディアはよい。だがその数万ボルトの電流をどこから確保する?」
「な、数万ボルトって、魔女が踏んだら死んじゃうだろ?」
「それでこそ罠! であるがゆえに罠! しかるべくして罠!」
 白衣の男は語り続ける。
「それとやぐら橋防衛隊指揮官殿? バリケードを作るといっておったが、具体的にどうされるおつもりか?」
 今度は綾乃に矛先が向いた。
「……えーと、あのー。机や椅子をお借りして、それを並べ……」
「甘ぁ――――――――――――――――――いっ!!」
 ぎらりとメガネが光る。
「そんなものではアイアンゴーレムの一撃で簡単に吹っ飛ばされてしまうであろう。そこのおぬし、なんだかの委員長」
 野武は茜を指さした。
「この施設の裏側に確か建築備蓄のセメントと鉄骨があったな?」
「うん。あるよ?」
「あれはこの国際展示場のものであるか?」
「たぶん。増築するらしいから」
「重ねて聞こう委員長。バリケードに使おうと思っている机や椅子もこの国際展示場のものか?」
「うん。そうだよ」
「壊すとマズいか?」
「マズい」
「さあればぁっ! 同じ備品を壊すのならば机椅子よりコンクリートと鉄骨を使い、より凄まじい難攻不落のバリケードを『増築』しようではないかっ! しかも『壊す』のはヤツらゴーレム装甲突撃軍であるっ! 我々の責任ではないっ! 壊れなければなおいいっ!」
「なるほどぉー。うん。そうしちゃいましょうっ♪」
 綾乃があっけないほど簡単に賛同する。
 やがてやぐら橋防衛隊は会議室を離れ、自分の持ち場へと歩いて行く。
「さらに我が輩はやぐら橋の耐荷重をあらかじめ大幅減少させ、アイアンゴーレムの重量で橋ごと崩落させるトラップを提起するっ!」
「それ、面白そうです!」
 綾乃と野武は止まらない……。
 やぐら橋につく頃にはいったい何ができあがるのだろう。

「さて、こっちも兵隊集めるかな」
 そういったのはウィルネストだった。
「東館正面守りたいヤツ、こっちに集合な!」
 ウィルネストが叫ぶと十数人がウィルネストの元に集まってくる。
「ったく、俺は当日に本が買えればいいだけなんだぜ。それを2日前からって……どんな徹夜組だよ?」
「えー。マジケの醍醐味は買う事じゃなくて売る事だよ?」
ウィルネストのパートナー、吸血鬼のシルヴィット・ソレスター(しるう゛ぃっと・それすたー)ミーツェ・ヴァイトリング(みーつぇ・う゛ぁいとりんぐ)が口を揃える。
「私ら老いぼれでもお役に多立てそうですかな?」
 セバスチャン・クロイツェフ(せばすちゃん・くろいつぇふ)がのそりと出てくる。セバスチャンが上質なトリコットの執事服を脱ぐと、中からはシャツにめり込むような恐ろしくたくましい筋肉の塊が出てきた。
「も、もちろんですよ……(すげえなこの爺さん)」
 セバスチャンは、パートナーの英霊黄 飛虎(こう・ひこ)を紹介し、
「この者共々よろしく頼みます。今回は何か嫌な予感がします故……」
「オレも参加だ」
セミロングのダークブラウンの髪の少年が名乗りを上げる。橘 カオル(たちばな・かおる)だ。
「あ、そうだ。せっかくだからコスプレしないか?」
「いいねいいね♪ シルヴィットはアーデルハイトコスやるよ!」
 シルヴィットが目を輝かせて賛同する。
「あ……」
 ミーツェが固まる。
「どうしたどうした?」
 みんなが見つめた。
「マジケは30センチ以上の長物持ち込み禁止だったんだ……あと武器もだめ」
「ルール、厳しいよね……」
 みんな鬱になった。
「まあまあ、みんなポズィティヴ スィンキンでござるよ」
 そういったのは長い金髪をポニーテールに結んだ『ニンジャ』、ナーシュ・フォレスター(なーしゅ・ふぉれすたー)だった。
「なんでも『普 段 着 で す か ら』で通したヤツがいたらしいぜ」
 パートナーはカエル姿のゆる族、井ノ中 ケロ右衛門(いのなか・けろえもん)だ。
 「そんなバカがどこにいるんだ?」
 ケロ右衛門は空を指さした。
 みんながっかりした。
「はいはい、それより作戦会議。バカは殺しても死なないからいいけど普通の人は作戦立てないと死ぬの」
 林田 樹(はやしだ・いつき)がぱんぱんと手を叩いて注目を集める。樹はパートナーに機晶姫のジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)と英霊の緒方 章(おがた・あきら)を引き連れている。
「んじゃ、はじめるぜ」
 と、ウィルネストが観光ガイド用の地図を広げる。
「敵のゴーレムに対して直接面しているのは第4、第5第6ホール。ここは確実に守らなきゃいけない」
「当然であろう」
 樹が横やりを入れる。
「黙って聞けよ。やぐら橋は狭い場所に集中していて、そこさえ抑えればいい。そこにコンクリや鉄骨を贅沢に使えばいいんだ。ところがこっちは防衛ラインが広すぎて、机や椅子だろうと、コンクリートだろうと、よけて通ればあっという間に突破されて残るのはシャッター1枚しかない」
「ほう……」
 樹が感心したような表情を見せる。
「だけどそれからどうするかなんだよなぁ……」
 とウィルネストが頭をかく。
「イルミンスールの少年にしては合格点だであろう」
「んだと?」
「褒めているのだ。素直に受け取るがよい。ここからはプロの仕事だ」
 樹は地図を指さし話を続ける。
「我々が守るべき範囲は広大だ。ここ全域をカバーする防御ラインを敷く時間もなければ兵もいない。ならば先ほどの第4、第5第6ホール。そして左右に回り込まれぬよう弓形に、一定間隔で小塹壕を掘る。その塹壕は横一列ではなく、縦深とする。一線が突破されても二線三線と奥深くへ誘い込み撃破する。兵力は固定せず随時機動させ、敵戦力を迎え撃つ。これでよろしいか?」
 と、セバスチャンに問いかけた。
 セバスチャンもまた暗い過去を持つ歴戦の古参兵なのだろうか。
「けっこうなお手並みです」
「では、壕の配置についてお手伝い願えませぬか?」
「私でよければね」
「あのふたり、グッドパートナーでござるね」
「あー。そーみてーだな」
 ウィルネストとナーシュが遠くから見ている。
「東部戦線、異常なしだな。んじゃ、俺たちも行こうか」