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雪下の幻影少女 

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雪下の幻影少女 

リアクション

【4・巨人は歩みを止めない】

 ここで時間はしばし戻る。
 除雪作業の為にツァンダを訪れていた大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)ソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)は、蒼空学園と近くの村を繋ぐ道でせっせと雪をかいていた。
「何だってわたくしがこんな事を! わたくしには剣を振るい、華麗に舞うような大舞台こそが似合いますのに! それがスコップ片手にチマチマ雪かきなんて! まったく……チョット剛太郎さん! 聞いてますの?」
 もっとも、ソフィアは単純作業に文句タラタラな様子ではあったが。
 剛太郎はそれと対照的に、相方の言葉を聞き流し黙々と作業をこなしていた。そんな剛太郎の無線から、突如、
『蒼空学園付近に雪の巨人が出現。至急排除せよ。繰り返す。蒼空学園付近に雪の巨人が――』
 という声が届いてきた。
(雪の巨人?? 何だそりゃ?)
 突拍子も無いその知らせに訝しく思う剛太郎だったが、ソフィアを伴い、他の作業員と共に現場へ向かった。そして。

ズゥウウウウウウン!

 現場にて、剛太郎は驚愕していた。
「ほ、ホントに雪の巨人……」
 目の前には、白いビルかとも思えるほどのデカさの巨人がいた。
 足の部分だけでも50メートルはあり、その巨足が平野を一歩進むごとに、地面が大きく揺れ地響きが轟いていた。速度こそほとんどスローモーション位のスピードではあったが、足を着実に動かして蒼空学園に向かって歩みを進めているのは確かなようだった。
 剛太郎をはじめ他の作業員も恐れおののいていたが。それでもあちらからは攻撃してこない様子なのを見て悟り、このまま雪の巨人が前進し続けると蒼空学園に被害が出るとのことから、作業員はおっかなびっくり雪かき作業へと移り始める。
(よし、自分も黙って見ているわけにもいかない……!)
 そう心中で気合いを入れた剛太郎は取り合えず、雪の巨人に小銃での射撃を行っていく。しかし、雪に細かい穴が空くだけで、雪の巨人は一向に止まる気配がない。
「くっ。やはりこの程度では蚊ほども効いていないようでありますか」
 仕方なく剛太郎は小銃を背中に担ぐと、果敢にもエンピ(スコップのこと)で雪の巨人を崩しに掛かっていった。もはや剛太郎はヤケだった。
 その一方。ひとりソフィアだけは雪の巨人を前に、一気にテンションが上がった様子で、
「コレでこそわたくしの本領発揮ですわ!」
 そう言ってスコップを捨て、剣を取るや。
「バラバラにおなりなさい!」
 張り切って果敢にも斬り掛かっていった。
 ソフィアのその攻撃に、巨人は左のくるぶしにあたる部分を斬り落とされていた。が、
「ふふん。まだまだこんなモノでは終わりませんわよ……って、え、ちょっ……!」
 同時に斬った雪の塊が大量にソフィアの頭上に落下してしまっていた。
「ああもぅ! なんですの一体!? あ、きゃっ!」
 雪に埋もれるソフィアは雪を払い除け、何とか体勢と取り直そうとするも、次々とみんながかき出す雪の塊に、ソフィアは更に埋もれてしまう。
 そうして結局、雪だるまとなってしまったソフィア。身動きできなくなり先程までの強気ぶりはどこへやら、
「剛太郎さ〜ん」
 と弱々しく助けを求めていた。
「ソフィア?」
 どこからか聞こえるその声にふと手を休める剛太郎は辺りを見渡すも、ソフィアの姿はない。少し不安になる剛太郎だが、
(ソフィアは女の子だけどマシンだし、雪に埋まったぐらい大丈夫だろう〜)
 そう楽観的に思い直した剛太郎は除雪作業を再開するのだった。
「ちょ、ちょっと! 聞こえないんですかっ、剛太郎さんってば〜」
 ほったらかしにされたソフィアはちょっと涙目になり落ち込んでしまうのだった。
「すげぇな、こりゃ」「わー、おっきいねー」「雪の巨人………ははは、壮観だね」
 と、近くで別の人物の声がした。ソフィアがどうにか顔だけ動かすと、そこには巨人を見上げる夢野 久(ゆめの・ひさし)ルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)佐野 豊実(さの・とよみ)の姿があった。
「おっきいねえ? ねえ? おっきいよね?」
 と、ソフィアに気づいたルルールが声をかけてきた。
「え? ええ、そうですわね」
「おっきくて逞しいわよねえ。ねえねえ。逞しくて大き──」
 ゴン! 「きゃ! きゅうぅ……」
 それ以上はセクハラだと判断した久に殴り倒されるルルールだった。
 そんな久たちに、一度は助けて貰おうかとも思ったソフィアだったが、なんだか色々と恥ずかしくなり結局他の誰かが通るまで待つことにするのだった。
「しっかしまあ……本当にでけえな、こいつは流石の俺も燃えるぜ」
 久の方は改めて巨人を眺めていた。
 除雪作業を続けている剛太郎ほか、攻撃を試みている生徒は何人かいるようだったが、それでも足の十分の一を削れたかどうかという成果が現状だった。
「とにかくデカい奴ほど下がお留守なもんだ。狙うなら足だろうな」
「うん、私もそう思うわー」
「ん。なんだあっさり復活したんだな、ルルール」
「……まあ、それはそれとして(横に置く仕草をして)足元狙うっていう久の作戦にはさんせーよ。上手くやれば転ばせれるかもしれないわ」
「よし、じゃあいっちょやってやるか!」
 そう叫ぶや久はそのままアサルトカービンを構えると、巨人が足を上げた時を狙いその裏側めがけて連射していく。
「あ、ちょっと。ひとりでやらないでよー」
 それを受けてルルールは用意したギャザリングヘクスを一気飲みし、
「ふー、これで精力増強! さあ、私の力みせるわよ!」
 久にあわせたタイミングでルルールは炎術を撃っていく。銃弾で削れて表面積の増えた所を更に熱して効率的に溶かそうとのことだった。
 そんなふたりの連携により巨人は左足の裏を徐々に溶かされていく。だがそれでも元が大きすぎるゆえ、まだまだ倒れる様子は無く足は進められていく。
 と、そんな巨大な足が攻撃中の久へと迫っていく。
(後退はしねえ。此処で下がっちゃ男が廃るってもんだ! 踏み潰される前に倒せば良いだけの話!)
 対する久は、なんとも見事な心意気を見せていた。
「見さらせ俺の生き様! 行くぜぇぇぇ!!!!!」
ゲシッ
「ぬあー!?」
 が、アッサリ蹴散らされる久。
「……ぬぐぐぐ……ま、負けねえぞ! 俺は斃れるまで之を続けるぜ!!」
ゲシッ
「ぬあー!?」
 また、アッサリ蹴散らされる久。
「……ぐう……だがしかし俺はこれ位じゃあ参らねえ! もう一度行くぞおおおお!!」
ゲシッ
「ぬあー!?」
 そうして蹴られ吹っ飛び続ける久を見送った豊実がとても良い笑顔で、
「君は実に馬鹿だな」
 と言ったとか言わなかったとか。
「さて、とはいえ私もいつまでも傍観しているわけにもいかないね」
「そう思うなら早く攻撃してよー」
「ははは、よし頑張ってみようじゃあないか。刀の錆に……いや、霜にしてくれよう」
 ルルールの文句に笑って返しつつ、豊実は得物の刀を笑って抜き放ち、久達とは逆に踏み締めた方の足を狙っていた。
「さあ。容赦せずにいくよ!」
 雪の巨人のくせにきっちり指まで形作られているのを見た豊美は、それを落とすことを考えたようで、小指から順に斬りかかっていくのだった。
 生徒達のそうした奮闘のさなか。
「近くで見るとほんとデッカイね。ボクの何倍くらいあるかな」
「蒼空学園もけったいな物を作ったものじゃのぉ」
 百合園所属のレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)ミア・マハ(みあ・まは)も、参戦すべくその場を訪れていた。もっともレキとしては本来、雪女の噂を聞いて来てみたらデカイ雪の化物が、ででーん! と立ちはだかっていて。
(よく判らないけど、これは倒した方がいいよね?)
 的な考えの元での行動だったりした。加えて彼女はお正月に食べすぎたからダイエットも兼ねて……
「そんなこと考えてないんだからね!」
「ん? なにがじゃ?」
「あ、ううん。なんでもない。ただ、なんだか誰かに失礼なこと言われた気がしたから」
「? よくわからんが……とにかく、誰が作ったのかは判らぬが、玩具はちゃんと自分で管理せねばならんことを教えてやらねばな」
「うん。ちゃっちゃと倒して暖まりたいね〜」
 攻撃の余波で吹いてくる寒風に、レキはハーフコートをセーターの上からしっかり肩にかけ直した。その上で武装の機関銃を構える。
「まったくじゃな。こんな玩具、早々に妾の火術で溶かしてくれるわっ!」
 ミアのその言葉をきっかけに、まずレキが飛び出して足に銃弾を撃ち込んでいく。勿論ちゃんと他の生徒がいないところを狙うのも忘れず、押し潰されない様に、撃つ時以外は常に移動して標的にならないようにする判断も欠かさなかった。
 続けて、離れた位置からミアがその攻撃した部分に火術による炎をぶつけ、左足の一部の雪を軽く吹き飛ばした。
 実際巨人は痛がる様子こそ見せてはいなかったが、生徒達のそうした数々の足への猛攻に、ほんの少しだけ進むスピードを減じ始めていた。
     *
 下でそんな攻撃が繰り広げられている一方、上空には数機の小型飛空挺が旋回していた。
 そのひとつに乗っている朱華とウィスタリアは右肩へと向かって近づいていく。
「ウィス、もうちょっと近づけて」
「わかりました」
(よぉし、このまま爆炎波で溶かして削っていって……)
 そうした方針を立てつつ、朱華は改めて巨人を上から観察していく。
 その巨人の頭はプリンのような末広がりの形で胴体部分に乗っかっており、頂点部は大人が百人は乗れそうなくらい広かった。ちょっといかり肩っぽい肩の部分も相当な広さで、こちらも頭と同様かそれ以上といった面積に見えた。
 そんな巨人を目の当たりにし、
(乗れたら……楽しそう……)
 ふいにそんな考えが朱華の頭によぎる。
 一度その思考に取り付かれると、うずうずと我慢ができなくなっていった朱華は、
「ウィス、僕、巨人の肩に乗り移ってみる」
「え? な、なにを言って――」
 言うが早いか、返事も充分に聞かぬまま朱華は気軽に飛び移ってしまっていた。
 それはもう気軽に、ぽーんと。という風にそのときのウィスタリアには見えたという。
(ああもう……どうしてこの子はこう、私の寿命を縮めるようなことばかりするのでしょうか……)
 パートナーの不安をよそに右肩に乗っかった朱華は、そこから見える絶景と巨大ロボットでも操縦している感覚にしばし浸りかけるが。不安半分、呆れ半分でこちらを見ているウィスタリアの視線にふるふると頭を振り、
「よし、行くよ!」
 気合いを入れなおして至近距離で爆炎波を放ち、肩を攻撃していく朱華。さすがに足場はぐらぐらと揺れているため時折落ちそうにもなるが、もし落ちてもウィスタリアが助けてくれると信じ、攻撃に専念していた。
「豪快だな、俺も混ぜてもらおうか」
 と、そこへ下方から誰かが上がってきた。それは弐識 太郎(にしき・たろう)
 彼はスキルの軽身功によって巨人の身体を駆け上がってきたのである。
「オッケー! 一緒にこの肩を切り落としてやろうよ!」
「ああ。やってやろうぜ」
 そうしてドカンドカンと、ふたりの猛攻が始まっていく。
 特に太郎は装備武器の盛夏の骨気により、拳に炎の闘気を宿らせ、そこへスキルの爆炎波も駆使し最大限に盛り込んだ火力で、自分の足場に拳を叩きこんでいくという手の込みようで。表情こそ感情を表に出してはいなかったが、内心では楽しんでいるようだった。
 そしてそんな火力攻撃が右肩で行われているのと同様に、別の場所でも霧雨 透乃(きりさめ・とうの)による攻撃が開始されていた。
 太郎と同じく軽身功を使い左肩まで駆け上がってきた透乃は、
「よ〜し、やっちゃうよ〜!」
 そんな掛け声と共に、首の横からやや後ろあたりをガガガガガンとひたすら殴っていた。盛夏の骨気の炎熱属性を頼りにスキルを使うことはせずただただ殴るばかりの透乃。時折バランスを崩してずり落ちそうにもなるが、すぐにまたそこから登り直しまた殴っていた。
「やれやれ……透乃ちゃんは相変わらず無茶なことするな」
 そんな透乃のパートナーの霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)は、小型飛空挺でその側を飛んでいた。飛空艇の先端には、愛用のハルバードを括り付けてある。
「これが私のやり方だからいいんだもん!」
(おっと、聞こえてたか)
 思わず肩をすくめつつ、自分も加勢するため飛空挺を上手く操り、左肩めがけて括り付けたハルバードで攻撃していく。武器が傷つくことも懸念していた泰宏だったが、意外とあっさり肩の一部が軽く削れたため、そのまま攻撃を繰り返していった。