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雪下の幻影少女 

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雪下の幻影少女 

リアクション

【5・共同作戦開始】

 ここで、巨人への攻撃が開始されてすぐの頃に再び時間は戻る。
「ななな、なんですか! あの非常識な雪像は! しかも学園に向かって進行中!? は、はやく止めないと!」
 学園の下駄箱付近で遠目に巨人を見て目を丸くして大慌ての宮坂 尤(みやさか・ゆう)
「と、とにかくここは一度落ち着いて、周りの人と作戦を立てましょう」
 ひとりではどうしようも無いと踏んだ尤は、急いで勇士を募り。
 結果集まったのは、
「年明けて尤が慌ててるから来てみれば、何だこの規格外な災厄は! ったく、蒼空学園は呪われてるのかいのぉ?」
 まず尤のパートナーであるスヴァン・スフィード(すう゛ぁん・すふぃーど)。彼女は顔をひきつらせつつも内心割とワクワクしていた。
 そのほかには佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)と、パートナーの仁科 響(にしな・ひびき)真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)熊谷 直実(くまがや・なおざね)達四人。
 それに林田 樹(はやしだ・いつき)と、パートナーのジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)緒方 章(おがた・あきら)の三人。
 更に天城 一輝(あまぎ・いっき)と、コレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)
 そしてレクス・アルベイル(れくす・あるべいる)と、ジル・バート(ばーと・じる)
 安芸宮 和輝(あきみや・かずき)と、クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)が続き。
 最後にアルフレート・シャリオヴァルト(あるふれーと・しゃりおう゛ぁると)と、テオディス・ハルムート(ておでぃす・はるむーと)
 こうしてひとまずその場に集まったのは計十七人の精鋭となった。
「ではブリーフィングといきましょう」
 尤がそう切り出すと、
「どう対処するにせよ、まずは足止めする必要があるだろうのぉ」
 まずスヴァンがそれに答えて、
「それでしたら放水による阻止というのはどうでしょう。片足を集中的に狙えば歩けなくなるでしょうし」
 手を挙げて提案するのは響。同様の策を立てていたらしく、頷く生徒達が多数いた。
「水攻めの水を氷術で凍結させれば侵攻を食い止められるだろうしな」
 レクスが後押しすることで、一同にその策が受け入れられる。
「それなら放水場所にマーキングしておかないとねぇ。それはワタシが引き受けましょう」
「目標が大きいと、目測が難しくなるからな。俺も協力するぜ」「うん! 頑張ろうね!」
 弥十郎が告げると、一輝とコレットも続く。
「そのあと、凍らせた足を……」
「爆炎波で攻撃して転倒させるんですね」「切りかかって転ばせるって事でいいんだよね」
 樹のセリフを、ジーナと章が続けて。その後ふたりが言い合いになって、樹に窘められていた。
「となると全体の質量を削いでおく必要がありますよね」
 そんな三人がおさまったのを見計らい和輝が言い、
「腕も切っておかないとな。切り崩しは任せろ」
 それにアルフレートが進言して、
「動きさえ止めてしまえば、あとはみんなで解体してやりましょう!」
 尤が宣言した。
 一通りの流れが決まったその後も、細かい部分に関してしばらく色々とそれぞれの間で話し合いは続いていった。
     *
 そして。第一陣の攻撃から約三十分ほどが経過した現在。
 見て解る程度には、巨人はその姿を削られていた。
 特に肩の部分は朱華と太郎の成果で元はいかり肩だったのに今やかなりなで肩になっていた。
 足の方もかなり除雪され、指も豊実により全指切られ、太さも三分の一は減少していた。
 が、巨人は速度こそさらにスローになってはいるものの、一歩一歩進行し続けているのは変わらなかった。その強大さに先程まで攻撃していた生徒達も、さすがに小休止を余儀なくされていた。
 しかしそれと入れ替わる形で、ようやく十七の精鋭が巨人の前に立ち塞がる。
 攻撃地点は直実が既に選定済みで、侵攻方向にある学園の配電施設を突破されてはヤバイと考え、更にそこから放水の為に確保する水のことも考慮し、学園近くを流れる川沿いに一同は陣取っていた。
「それでは、いきましょうかぁ」
 はじめに向かって行ったのは、こんな場合でもややのんびり口調の弥十郎。
 彼は巨人の左足に拳を突き立てて豪快に登っていく。そして勢いよく、これから行うある攻撃に適した箇所……ちょうど足の関節、膝小僧に位置する場所まで辿りつく。迷い無く進んだところをみると、あらかじめ選定していたらしい。
(よし。ここならうまくバランス崩せるだろうね……じゃあさっそくマークをつけ……)
 と、そこで自分がスプレーとかを持ってきていないことに気づき。右手を膝にめりこませたまま、器用に左手で背負ったバッグから代わりになるものがないかと探る弥十郎。端から見るとなんともファイト一発な光景だった。
 やがて出てきたのは、ターメリック一缶。
(…………まぁ、黄色だしいっか。むしろサフランでなくて良かった)
 などと考え、缶を膝小僧にぶちまける弥十郎。一気に雪の白い膝が一部黄色くなった。
 更にその反対側からは、一輝が小型飛空艇で近付いていた。
 そんな彼は、コレットが掲げるプラカードに視線を向ける。
『↑』『の方向に進んで』と、矢印と言語の組み合わせで、誘導していくコレット。
『←』『にゆっくり』で微調整し、目標まで来たのを確認後プラカードを倒し停止を表す。
『オーケー』で、そこにマーキングの意を示され、
 そこでようやく一輝はアーミーショットガンを構え、着色弾を発射する。
 かなり厚めの雪の層には赤の弾、比較的崩れやすそうな場所には青の弾、他の生徒が既に少し攻撃済みのところは緑の弾と色分けしてのマーキングを続ける一輝。それぞれの弾は鮮やかな色のペンキでぬってあるので、遠目にもかなり見やすかった。
 そこから更にコレットより、
『↑』『に続けて』で右に向かって一直線に撃ち進むように、という指示を受けて、
 飛空挺で疾走しながら次々と弾を発射していく。銃から弾が切れると、すぐさま身体の各位のベルトに装備した弾を取り出して装填していき。手間取らないよう、色分けして弾は配置させているのでしっかり指示を確認しながら作業に専念できていた。
 おかげで意外と時間はかからずにカラフルなマーキングが仕上がっていた。
「いいですよ〜、やってください真名美ぃ」
 そうしてマークをつけ終わり一輝も巨人から少し離れたのを確認し、自身も降りてきた弥十郎の合図に、真名美は借りてきた消火活動に使用するホースを構えた。
「さぁ、それじゃあいくよ〜!」
 近場の川から伝わった水が、一気に放出されてマーキングされた膝小僧へかかっていく。
「使える物は全て使う。何でそれが分かってくれないのかなぁ。うぉぉぉ」
 関係ないが、真名美は熊谷直実に対して持っている鬱憤の矛先を巨人に向けて攻撃していたりした。
 ちなみにその直実はというと。
(あんなにでかいのは東大寺の大仏以来だなぁ……いや、どっちかというと、デコの広い観音様か)
 そんな風に思いながらそれを表情に出すことはせず、ハードボイルドといった固い顔つきで響と共に遠くから巨人を見つめていた。
 と、そこへ別方向からも放水が開始される。それは消火栓のホースを引っ張りに引っ張ってきた尤とスヴァンの攻撃だった。
「この寒い中、水仕事とはな! 尤よ! この騒動が終わったら温泉にでも連れてゆけ!」
「はは、わかりましたよ。近いうちに行きましょう……!」
 と言葉をかけあいながら、共にゴーレムの膝裏マーキングめがけて放水していくふたり。
特にスヴァンはなんだかちょっと楽しそうだった。
「このウスノロゴーレムが! 止まらんかい!」
 言いつつ、明らかに顔がにやにやしていたりした。
 そうして足元に放水が開始されたのと同時に、
「先に私が重量を削ってくる。ジーナ、洪庵、二人は時が来るまで冷静に待て」
 樹がチャット通話状態にしてある携帯で、パートナーふたりに指示を出した。そしてそのあとすぐさま銃を構えて、上半身を目標にシャープシューターのスキルで狙い撃ちをして質量を落としていく。
「用意したこの特性弾からは、逃げられないのだよ」
 豪快に発射されていくのは、樹が事前に教導団の技術科にかけあって、塩化カルシウム(解氷材として用いられる化学薬品)を仕込んだショットガンの弾だった。その成果で、巨人は胸から腹にかけてを徐々に目減りさせていく。
 おかげで質量も序盤に比べて三割減くらいはしているように見えた。
「さあ、次は俺の番だな」
 かなりの水が足元にかかった頃合を見てそろそろ行けそうだと判断し、一歩前へと出ようとしたレクス。
「ねぇもう別にいいんじゃない? さっさと燃やして溶かせば一発よ、きっと」
 だが、それより先に放火好きのジルがトミーガンを手に暴走しかけたので、
「おいこら、殲滅はまだだっての」
 慌てて首根っこを掴まえて止めていた。ジルはそれからじたばたと暴れていたが、レクスがかなり強めの視線で睨み、なんとかおとなしくさせていた。
「ったく。んじゃ、改めて……いくぜっ!!」
 気を取り直し、レクスは氷術SPが尽きるまで巨人の左足元の水へと連発し、凍りつかせていく。元々雪のおかげで気温がかなり低いことも幸いし、みるみるうちに巨大右足は地面に連結させられていく。
「よし、このまま一気にいくぞ!」
 レクスの声に、場が沸き立っていく。
 全て作戦通りで、そのまま順調にことが終了するとほとんどの皆が思った。
 しかし。
「待ってください!」
 そのときひとりの女の子の声が轟いた。