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ホレグスリ狂奏曲・第2楽章

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ホレグスリ狂奏曲・第2楽章

リアクション

 序章 バレンタインデー前夜


『今日のちらしは見たかえ?』
「は?」
 スーパーの安売りある? みたいな調子で訊かれ、ユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)は思わず声を漏らした。電話の向こうで、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が続ける。
『空京遊園地のちらしが入っておる。ホレグスリとチョコレートを交換するイベントをするとか書いてあってな。しかも無制限で』
「ホレグスリ……アレですか?」
『アレじゃ』
「冗談でしょう?」
 言いながらも、ユウは不要物として分けていたちらしの山をチェックする。程なくして、それは見つかった。
「…………」
 改めてスタンドライトに翳して確認し、押し黙る。
『私も普段ちらしなぞ見ないんじゃが、夜間外出をしよる生徒達の噂を聞いてな、調べたんじゃ。どうも、悪戯の類ではないらしいのう。ガチじゃ』
「エリザベート様の自業自得に終わり一安心かと思いきや……またですか!」
 エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)の作った薬がイルミンスールにレオタードパニックを巻き起こしたのは、去年のクリスマスである。解毒剤も開発されたが、ちらしを見るところそちらもきっちり量産されてしまったようだ。
『そこで、じゃ。秘密裏にホレグスリを作り、不謹慎な行動を起そうとしている何者かを調査して、捕縛してきてほしいのじゃ』
「わかりました。その任務、お受けしましょう」

 電話を切り、アーデルハイトは溜め息を吐いた。ちらしを机に置いたタイミングでドアがノックされる。入ってきたのは、長い水色の髪を三つ編にした上品そうな女性だった。
「誰じゃ?」
神代 明日香(かみしろ・あすか)のパートナー、ヘルメス・トリスメギストス(へるめす・とりすめぎすとす)ですー。アーデルハイト様、お菓子はいかがですか?」
 ヘルメスがバスケットに入れたマフィンを渡すと、アーデルハイトは机の上にちらりと視線を送って、少し食べるのを躊躇った。
「ホレグスリなんて入ってませんよー」
 口元に片手を当ててにこやかに笑うヘルメスに、アーデルハイトも表情を崩す。疑うのも良くないとマフィンを頬張り、想像以上の甘さに驚きつつも美味しく1つ目を完食した。
「それで、私に何用じゃ? 百合園の生徒が、わざわざ菓子を配るためにここまで来たとは思えぬが……」
 2つ目を手に取って飲み物を探すアーデルハイトに、ヘルメスはバスケットから魔法瓶を出した。熱々の紅茶を手渡す。
「もちろん、ホレグスリの件です」
 紅茶に口を付けようとした、その動きが止まる。
「遊園地で配るなんて、今度は校内だけでおさまらないかもしれませんよー? 出回ってから、イルミンの薬だとばれたらまずいですー。やっぱりー」
 ヘルメスはアーデルハイトに顔を近付けると、人差し指を振った。
「発端者のエリザベートちゃんが出向く必要があるんじゃないですかー?」
「なんじゃと?」
「大丈夫! 私と明日香さんがしっかりお守りしますからー」
「し、しかしじゃな……」
 マフィンをもごもごしながら、アーデルハイトは口篭る。犯人の確保はユウに依頼したし問題はないだろう。確かにホレグスリを作ってしまった責任はイルミンスールにあるが、7歳のエリザベートを深夜に連れ出すというのはどうにも気が進まない。
「うー……信じられませんか?」
 目を伏せて悲しそうにするヘルメス。実を言えば、彼女の目的はエリザベートにけじめを取らせることではない。ただ単純に、エリザベートと楽しく遊園地で遊ぶため、保護者であるアーデルハイトを懐柔、もとい説得しにきたのだ。これまでの口上は、ただの方便に過ぎない。
 だがその時、エリザベート本人が部屋に入ってきた。トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)ミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)も一緒だ。
「大ババ様ぁ〜!」
「だから、その呼び方は止めい!」
 反射的に怒ってから、アーデルハイトはエリザベートの持っているちらしを見てぎょっとした。ワルプルギス家に新聞は一部。そのちらしは机の上にあるというのに――
「遊園地で遊ぶですぅ〜!」
 いつもの半眼ながら、明らかに楽しそうにエリザベートは言う。
「へ?」
 ひらつくちらしに目を凝らす。そこから『ホレグスリ』の文字は消えていない。こやつ、字が読めなくなったのか? とアーデルハイトは思う。勝手に薬が量産されたと知れば、激怒してもいい性格の筈だが。
「折角のタダなんだぜ? ホレグスリの回収とむき……いや、犯人の粛清は何時でも出来るし、後で俺も手伝うから一緒に遊ぼうぜ」
 トライブは今回の首謀者がムッキー・プリンプト(以下むきプリ君)である事を知っていた。ここに来る前に遊園地まで様子を見に行ったのだが、むきプリ君が少年達に指示を出してむきむきと、いやきびきびとホレグスリと解毒剤を用意していた。
(あれは、俺がぶっ飛ばした門番か? アイツも被害者って言えるだろうし、問答無用でぶっ飛ばした負い目もあるな)
『怒鳴り込んでくるだろうエリザベートを相手しておいてやるから少しの間、儚い夢でも見ておきな』
 こう遊園地で呟いて、イルミンスールにやってきたのだ。ちらしを見せるとエリザベートは怒ったが、お仕置きを条件に遊びに誘うとあっさりとノッてきた。彼女も『遊園地』『タダ』というキーワードに魅了されていたらしい。
 ミーミルとアーデルハイトも、ということで誘いに来たのだが、どうやら同じ目的のやつが他にもいたようだ。
「そうです! アーデルハイト様も行きましょうー。みんなで遊べばこわくない! てね」
「私もお母さんと遊びたいです。遊園地も初めてですし」
 3つめのマフィンを食べ終えたアーデルハイトは、根負けしたように苦笑した。
「しょうがないのう。行くとするか!」
 昇降口で明日香と合流し、6人は空京遊園地で遊ぶことになった。