リアクション
第4章 神子の行方
レティーフたちとの戦いに生徒は勝利したものの、激しい戦闘で疲れ果てており、これ以上かなりの距離を歩くことは不可能だった。また、獣人と交渉などをしていた生徒たちも治療などに当たるという理由でその場に残ることとなった。そこで、戦闘には参加していなかった鞠乃たち――アリア、牙竜、翔、沙幸、すいか、イーヴィ、サトゥルヌス、ナイト、白陰、優斗、孔明、悪徒、大首領様、小夜子はプットと数名の獣人たちとともに隠れ里の奥深くへと向かうことになった。人数を考えても、この程度が許容範囲であることは明らかだった。
鞠乃たちは戦闘していた生徒たちに申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、彼らの気持ちを無駄にしない為にも隠れ里に行き、神子に会うことを優先せることにした。神子が一体なんなのか、自分もなれるのか、女王復活にどのように関わっているのか……。神子に会ったら訊きたいと思っていることは山ほどあった。それを1つずつ心の中で整理しながら、鞠乃は大人しく、プットの後ろについて歩く。
鞠乃たちはプットたちに案内され、結界の張られた奥深くへと進んで行く。先頭には人質とされていたプットが立っている。
地下に続く道はじめじめとしており、辺りには数種類の見慣れないキノコが不規則に生えていた。
「結構遠いんですね……」
優斗はしばらく歩いた後、ぽつりと呟いた。
「まぁ、神子がいるっていう場所だし、隠れ里だし……」
優斗の言葉を受けて、彼のパートナーである孔明は答えた。
「まぁ、確かにそうですね」
そう言って、優斗は苦笑した。
「それにしても、すごい湿気ねー……。頭からキノコ生えそう」
相変わらず、サイドテールと巨乳を揺らしながら、沙幸も苦笑した。
口々に思いついたことを言いながら、鞠乃たちは歩を進める。前に進んでいるのに、隠れ里に来る前と同じように景色は一向に変わっていないような錯覚を覚えた。それほど、ジャタの森は迷いやすく出来ているのだ。さすがにこのジャタの森は獣人ではない限り、迷わず歩くことは至難の業だろう。
「ねぇ、あれは一体……」
翔は眼鏡のブリッジを押し上げながら呟いた。その瞳は前方にある得体のしれない建物へと向けられていた。
しばらく歩いて見えてきたのは、地下にあるとは思えないほど、立派な神殿だった。石灰石で出来ているのだろうか。ところどころ溶けて形が変形している。石灰石で出来ているのであれば、酸性雨に当たった所為で溶けてしまったのだろう。
「ここが神子のいる神殿です」
プットは神殿の前まで鞠乃たちを誘導すると、静かに説明を始めた。
「でも、今は……」
そこでプットは言葉を濁した。ここまで一緒に来ていた他の獣人たちも俯いている。
「今は……?」
鞠乃は不思議そうに問う。
「今、神子はこの神殿の中にはいないのです……」
「えっ?」
生徒たちにどよめきが起きる。
「ここまで来て、それはないぜ」
悪徒は呆れたように言った。大首領様も隣で数回頷いて見せた。
「そうは言われましても、仕方ないのです。それが事実なのです」
プットは申し訳なさそうに言葉を紡いだ。それもそうだろう。生徒の中には人質になった自分を必死で助けようとしてくれた者もいたし、この隠れ里を探す為に負傷した者もいたのだ。心が痛んで当たり前だ。
「皆さんもレティーフたちも、実際はいない神子を探し求め、戦い、この隠れ里を突き止めようとしていたんです」
「そんな……」
すいかはその場にへたりこんでしまった。
「神子ちゃんと一緒にチョコ食べようと思ってたのにぃ……」
そう言って、すいかは制服の内ポケットに入れてあったアーモンドをチョコレートでコーティングしたチョコを取り出した。無意味にキラキラ光っている包装が空しく輝く。
「じゃあ、何で、まだこの隠れ里に結界は張られっぱなしなの?」
もっともな疑問をアリアはプットに投げかける。
「それは、簡単なことです。ここにいる獣人たちはみな特殊な獣人たちばかりなのです。今回のレティーフのように密猟を企むヤツが後を絶ちません。それを危惧した神子は私たちのために結界を張っていってくれたのです。そのおかげで、ここの獣人が密猟者に捕まることはめったにありませんでした。今回の私のようなケースは稀です。大変お恥ずかしいことなのです……」
プットは俯いた。自分が人質に取られることで、他の獣人たちを危険にさらしてしまったことがよっぽどショックだったのだろう。
「この隠れ里に神子がいたのは隋分昔の話なのです。まだ、ボクがとても幼かった頃の話。詳しいことは今、この隠れ里に住んでいる獣人たちはほとんど知りません。もっとずっと前の代の獣人であれば、ことの真相を知っているとは思います。そうですね……。長老クラスであれば……」
プットはそこで言葉を区切った。
「どうして、皆さんは神子に会いたいのですか?」
プットは遠慮がちに訊いた。
「それは人それぞれだわ。神子になりたい人間もいれば、神子と話してみたいって思っている人間もいる。ここにいるのは、別に神子に会いたいという人間だけでもないだろうしね」
鞠乃は一気に捲し立てた。
「と言うと?」
「あなたたちと話してみたいと思っていた人もいるし、密猟を企むレティーフが許せないって人もいる。みんなそれぞれ目的は違うのよ。だけど、目指していたのは隠れ里だった」
「目的が違うのに、力を合わせてここまで来たと……。そういうことですか?」
「そういうことになるわね。何か不思議?」
「えぇ、それはとても……、目的がちがうのに、助け合うことはとても難しい気がするのです」
プットは不思議そうな顔で鞠乃たちを見た。
「そうですね。それはとても難しいことかもしれません。だけど、やって出来ないことではないんですよ」
サトゥルヌスは諭すように穏やかに話す。その続きを彼のパートナーである白陰が続けた。
「私たちがやったみたいにやろうと思えば、出来るんです。お互いを尊重し合い、協力する気持ちさえあれば」
白陰はにっこりと微笑んだ。それを見ていたサトゥルヌスのもう1人のパートナーであるナイトは、嬉しそうに続けた。
「みんな獣人を守ろうとしてくれたのです。それって、種族は関係がないってことなのです! そういうのも素敵なのです☆」
「そうですか……。そのお気持ちは大切ですね。」
プットは関心したように言った。
「えぇ、自分だけが良ければいいというのは、愚かな考えですもの。ね? イルマ」
千歳に問われてイルマは、
「その通りですわね」
と上品に答えた。
「そう言えば……」
プットは呟くと、ふと何かを考え込み始めた。
「神子がこんなことを言っていたというのを聞いたことがあります」
「それはどんな?」
問う小夜子にプットは一言一言噛み締めるように話し始めた。
「神子は女王を復活させるのは、自分の力だけではムリだと言っていたそうです」
「えっ……。そんな話は聞いたことがないわ」
鞠乃が驚嘆する。他の生徒たちも目を丸くして、プットの言葉の続きを待った。
「本当なのか?」
牙竜が緊張した声音で訊く。残念ながら、顔面を覆っているマスクの所為でその表情までは読み取れないが、きっと不安そうな顔をしていることだろう。
「嘘は言いません。ただこれはこの隠れ里に語り継がれている話というだけなのです。だから、信憑性がないと言われてしまえば、それまでなのですが……」
「私は信じるわ」
鞠乃はしっかりとプットを見据えてはっきりと言った。
「神子はここにはいない。そして、自分の力だけでは女王の復活はムリだと言った……。これってこうは考えられないかしら?」
鞠乃の言葉の続きをここにいる全員が息を飲んで待っていた。
「神子は自分の力だけでは女王を復活させることは出来ない。だけど、誰かの力か、何かの力を借りれば、女王を復活させられるのだとしたら? その誰か、または何かを探しに行った……。そう考えられないかしら?」
「確かに鞠乃ちゃんの言う通りかもしれない。その仮説が正しいのかはわからないけれど、有り得ない話じゃないわ」
沙幸は力強く言った。
「そうと決まれば、神子探しは続行ね!」
アリアは元気良く言うと、にっこりと微笑んだ。どうやら、今回の隠れ里探しが思いの外、楽しかったらしい。それに、彼女には鞠乃と同じように神子になってみたいと思う気持ちがあるのだ。
「でも……」
「でも……?」
鸚鵡返しに問う鞠乃に、しかし、プットはそれ以上何も言わなかった。
かくして、鞠乃をはじめとする隠れ里の神子探しの一団は隠れ里を発見し、神子が現在隠れ里にいないことを突き止めたのだった。
けれど、ここで終わりではない。
神子は隠れ里にはいなかったのだ。
では、神子は一体どこへ行ったのだろう。
誰しもが、心に暗雲が立ち込めていたが、それに気付かない振りをした。
本当の神子探しはここから始まるのだ。
神子の存在と女王復活の本当の意味を知る為に――。
今回のシナリオは神子に関わるシナリオでした。
獣人を助けたい人、仲良くなりたい人、神子とお喋りしてみたい人、抹殺を企む人、鏖殺寺院と戦いたい人……本当にいろんな目的を持ったプレイヤーがいらっしゃいました。
お話の都合上、全てを叶えることは出来ませんでしたが、皆さんに楽しんでいただけますと幸いです。
ご希望を叶えられなかった方々、申し訳ありません……。
今回、初シナリオということもあり、至らぬ点等多々あったかと思いますが、今後とも宜しくお願い致します!
ユーザーの皆様へ
多々ミスがあり、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
修正致しました。以後このようなことがないよう気を付けます。
今後とも何卒宜しくお願い致します。
Hayami 2010.3.9