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リアクション
第七章 語られし過去と、明らかになる真実
全ての班が最深部へと辿り着いた。
最初にエレベーターで苦も無く到着した五班は、他の班に羨ましがられていたが、ものの数分足らずで沈静化した。
今では、生きていることを喜び合っている。
また、そこには一、二、四、五班のメンバーと接触してきたゴーストもいた。それぞれ、ロンクス、フリア、ドルック、コットと名乗るゴーストは、ゴースト探索の人たちと話をしていた。無論、研究者も含めて。
「ヴァーナーちゃん、歌上手だね〜」
「ありがとうございます」
「ゴーストって、こんなものだったんだな……」
「恐怖心は消えた? 雲雀」
「てめぇはあたしへの恐怖心を持ったほうがいいぞ……」
「へぇ〜、フリアさん、生きていた時は花屋さんだったんだ」
「似合いそうな感じしますね」
「あ、ありがとうございます……。でも三人も魅力的ですよ。ザインちゃんは可愛いし、永太君は爽やかでかっこいいし、あと、クロスさんはミステリアスでいいですね〜」
「ふふっ、そんなこと言われるなんて嬉しいです」
「だからな、借金執事、俺はそこで言ってやったんだ『さぁ、お前の罪を数えろ』ってな」
「ドルックさん、いろいろと自重してください……。ゴーストだからって言っちゃマズイものはマズイんですよ……」
「ほーくーとー、だから一体何のことだよ〜」
「だから何でもないって!!」
「怒られた……」
「あはは〜、ドルックさんおもしろーい!」
「だろ? 俺のネタトークは一味違うぜ〜!」
「守山さん、あなたいつの間に!?」
「細かいこと気にしないの〜。私たちの班、ゴーストさんに会えなかったんだから」
「すまぬな。彩殿はマイペースで……」
「え、それじゃあコットちゃん、お母さんいないんだ……」
「うん。私が小さいときに死んじゃったんだって」
「ううぅ。かわいそう〜」
「かわいそう〜」
「で、でも、周りの人はいっぱい親切にしてくれたから、楽しいことの方が多かったよ。うん、楽しい人生だったって、心から言える」
「コットちゃん……」
以上のような感じで、親交を深め合っていた。
そこへ、突然天井から声が響いてきた。
「闇を恐れぬ勇者たちよ……よくぞここまでたどり着いた……」
黒いローブに全身を包んだ男が、空中に浮かんでいた。
「くっ、敵かっ!」
研究者たちを下がらせるウィング。しかし、それを見て男は困ったような声を上げた。
「おいおい……私は諸君らに対して敵意を抱いてなどいない。話を聞いてくれるだけでいいんだ……。そう、この『グスト・ソレントの檻』の悲しい歴史をな」
「なんだって……」
研究者たちがざわつき始める。
「お前は一体何者だ?」
永谷が質問を投げかける。
「失礼、私は――ネクロマンサー。まぁ役職名だがね。本名はとっくに忘れた……。さて、そろそろいいかな。真相を語らせてもらうぞ」
一つ咳払いをすると、ゆっくりと語りだした。
「さて、どこから語ろうか……。そもそも鏖殺寺院は、バルジュ兄弟の残虐性と、領民からの反感を買っていたという情勢を利用して、クーデターを起こすように仕向けたのだ。その目的は、戦乱によって生じた死者をゴーストとし、戦力増強の手段にするためだったんだ。ゴーストは精神体。マインドコントロールのみで御することが出来る上、物理攻撃がほとんど効かないから、強力かつ都合のいい兵士になると考えられたんだ。ここはそのための研究施設だった」
「なるほど……そんなことがあったのか……」
研究者がメモを取り始める。
「先ほど白骨死体が入ったカプセルを見た者がいるのではないか? あれはゴースト実験の被害者だ。ゴミのように死んでいったんだ……」
「ひどい……」
ふぇいとが涙ぐむ。
「だが、そんなバルジュ兄弟も、あいつらを恨んでいた人間のゴーストに魂を狩られてあの世に行ってしまったけどな。ちなみに私はゴーストを操るために寺院に雇われたんだが、見捨てられてこのザマだ。死体がもったいないからという理由でこうしてゴーストにされてしまったってわけだ。私も含めてここにいる五人のゴーストは、運よく隠れられて、兵器にされずにすんだがな……」
そこまで語って、ネクロマンサーは悲しそうな顔をする。
「私たちはこのことを誰かに――後世の人間に知ってほしかったんだ。肉体を滅してなお、死者を苦しませるような技術の開発があったことを知って欲しかった。バルジュ兄弟も死んでしまった今となっては、仇討ちや怨念なんて気持ちは持っていない。このことを誰かに聞いてもらえただけで、私たちは死者の世界へ旅立てることができる……。そろそろさようなら、だ」
ネクロマンサーの身体が粒子となって、霧散するように消えていく。と同時に、今まで楽しそうに喋っていた他のゴーストの身体もネクロマンサーと同じような反応を見せ始める。
「ちょっと待った、ネクロマンサー!」
声を張り上げたのは、野武であった。
「先ほどカプセルのある部屋でこれを見つけたんだがな……ある研究者のレポートだ。いや、本質的には日記に近いがね。そこにはこう書かれている。『蜂起軍の副リーダーが、リーダーを戦死扱いで殺し、表面上は蜂起軍を率いるも、裏ではバルジュ兄弟と手を組んでいた。そして、その副リーダーが、二人を死んだことにして逃がした』と」
「なんだと……?」
消えかけていた存在が、再び色を取り戻す。
「おかしいと思ったのだよ。なぜ処刑の間までの期間だけ、領内から遠く離れたこんな場所に監禁する必要があったのかってね。それは、監禁を計画した蜂起軍に寺院派の内通者がいたからに他ならない。国民の恨みを晴らさせるために残虐な方法で殺すなんてのは口実。全ては匿うための環境を与えるためだったのだよ」
「ごめん、難しくてわからない」
「私もですわ……」
テディとアリアが首を傾げる。
「この『グスト・ソレントの檻』はね、蜂起軍でもトップクラスの人間しか内部構造を知らなかったんだ。だから、部下や領民をごまかすのは容易かったってことだよ。副リーダークラスなら、中を熟知してるから、全く中が分からない蜂起軍の兵士の目を掻い潜ってバルジュ兄弟を隠したり、逃がすことも出来る」
「そんな……」
愕然とするネクロマンサー。
「他にも理由はあるがね。敵の首魁を殺さず隠しておくことによって、争いを泥沼化させ、無政府状態にして死人を増やす。そうすればゴーストはより集めることができる。兄弟の生存を信じているやつらが奪還しようとして小競り合いを起こすんだからな。寺院側にとっちゃ美味い話以外の何者でもない。まぁそんなことより、気になるのはレポートの締めくくりだ。『バルジュ兄弟は、ゴーストの研究と知識を極め、ほとんど不老不死の状態で生きているだろう』これは一体どういうことだ? バルジュ兄弟は古王国時代から生きているということか? だったらマズいぞ! 復活した鏖殺寺院がそんな便利な力を放って置くわけがない!」
「わ、私は……そんなこと、知らない……。あ、あああっ……」
動揺しながら否定するネクロマンサー。やがて脱力したように口を開く。
「そんな真相があったなんて……頼む。私たちのような被害者が出る前に、バルジュ兄弟を止めてくれ! 諸君、頼む!」
「たぶん、みんな答えは同じですよ」
研究者のリーダーらしき男が答える。
「我々はこの事実をパラミタに発表し、寺院の外道を止めることに尽力します」
彼の発言に誰も異を唱えなかった。
「諸君……ありがとう。これでやっとあの世へと行ける」
ネクロマンサーの全身が粒子となって霧散し、完全に消えた。
「頼んだぞ。現代の勇者たちよ……」
声だけが、部屋に響いた。
「じゃあね。永太君。ザインちゃんはいろんな意味であなたの大切な人なんだから、大事にしなくちゃだめよ」
「はい……ぐっ……」
鼻をすすりながら、涙を滲ませる。
「ザインちゃんも、永太君を支えてあげてね」
「はい。フリア様」
ザイエンデが、寂しそうな表情を浮かべる。
「クロスさん、記憶が無いからって悲しまないで。未来に向かって生きていければ、それだけで幸せなんだから」
「そうですね……ありがとう」
「じゃあね。三人とも。話せてよかったわ」
フリアは、花のような綺麗な笑顔を浮かべて、消えていった。
「借金執事、ネコ耳、彩、オハン、ネタトークを磨けよ」
「最後まで……名前で呼んでくれませんでしたね……」
「ネコ耳じゃなくて昶だ……ううっ……」
「ドルックさん……」
「ドルック殿……」
「ネタを知っているだけで会話が弾む。それって楽しいことだろ? 笑って生きてこそ、人生だぜ!」
大胆不敵な笑みを見せて、ドルックは消えていく。
「じゃあな。北都、昶、彩、オハン……」
「もうお別れなんて、やだよ〜!」
「やだよ〜」
「ララもやだ〜」
コットの足元に集まって泣きじゃくる波音、アンナ、ララの三人。
「仕方が無いわよ。みんな、バイバイ」
「やだっ! 私もあの世に行くっ!」
「波音ちゃん、悲しいこと、言わないで」
「でもぉ……」
「三人とも、いろんな人に出会って、いっぱいふれあって、悲しいときにはいっぱい泣いて、楽しいときにはいっぱい笑って、素敵な人といっぱい恋をして、幸せな生活をいっぱい送って、たくさんの時を生きて、生きて、生きて……そうしてから自分の人生楽しかったって思ってから死んで! あなたたちにはまだ多くのいっぱいが残ってる。それを体験しないで死ぬなんて、悲しいわ……」
「コットちゃん……」
「大丈夫。ずっと、待ってるから……」
三人を見守るようにして、コットは消えていった。
「お別れだね……三人とも」
「ロンクスさん……」
「ヴァーナーちゃん、最後に、君の歌でみんなを送ってくれないか? 鎮魂歌じゃなくて、君の、明るい歌で……」
「ぐすっ、わ、わかりました……」
「雲雀、エルザルド、仲良くね……」
「ど、努力するであります……」
「ああ。もちろん」
最後に、ロンクスも消えた。
ヴァーナーは、涙を拭くと、『幸せの歌』を紡ぎ始めた。
――さあ、みんなで奏でよう。夢色に染まった未来を。
喜び、笑い、楽しみ――
――明るい色で染めていこう
歌声は遠く遠く、響いていた。
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