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激突必至! 葦原忍者特別試験之巻

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激突必至! 葦原忍者特別試験之巻

リアクション

【第一幕・はじまりの空中戦】

 現在アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)はサンタのトナカイ(スズちゃん)で空を旋回し、目的の忍者がどこかと探し回っていた。
「忍者の相手をしろって言っても……そう簡単に見つけられるかな?」
 などとぼやきながら校舎屋上の天守閣を通ったところで、
「お嬢さん、誰かお探しですか? よければこの僕、シェイドが協力するでございますが」
 その頂点に堂々と立っている、白い忍び装束を纏った二十歳くらいの守護天使青年から声をかけられた。ややカッコつけて長めの金髪をかけあげている。
(って思ったらいたー!?)
 あまりにもあっさり見つかって逆に驚きのアリアだったが、気を取り直して真正面から向き直り。
「シェイドさん、お相手願えますか?」
「うん……? ふむ、そういうことでございますか」
 アリアのそのセリフを聞くなり、シェイドは目を細め、バサリと背中の羽を広げさせた。彼の羽は少々変わっており、紫色の光の翼に加え、白い鳥のような翼も合わさった四枚羽をしていた。
「あらかじめ言っておきますが、僕は女性相手でも戦闘において容赦する気はないでございますよっ?」
 足元の瓦を蹴りつけ、いきなり飛び掛ってくるシェイド。それにアリアはスズちゃんを巧みに操りその突進を回避し、そのまま位置取りに注意しつつ間合いを計る。
「ふふん。風下に行くような愚は犯しませんか、ならばまずは……!」
 シェイドは苦無を手に飛行手段を奪うべくスズちゃんを狙い、飛び掛っていく。
「スズちゃん! 右に旋回っ、あ、次は上!」
 トナカイスズちゃんも懸命に空を駆けるが、シェイドもそれと同等の速さで羽を巧みにはばたかせて空を翔け、壮絶な追いかけあいが始まっていく。
 アリアは距離をとりながら時折雷術で攻撃を繰り出すが、シェイドは高速の中でも難なく回避し、時折身体を回転させるなどの余裕も見せてかわして行く。しかもそんな激しい動きをしつつも、羽が未だ一枚も落ちてはいないことにアリアは歯噛みしていた。

 そうした上空の戦闘をよそに、利経衛は七尾 蒼也(ななお・そうや)と話していた。
「おまえの資質は、頼りなく見えることじゃないかな? 敵を油断させ、協力者を集めることができるとか」
「……そうだとしたら、素直に喜べないでござるよ……」
「ま、まあほかにも秘めた資質があるのかもしれないけどな……。ああ、そういやお前のパートナーはどうしたんだ? 二人のスキルをあわせれば、できることも増えるんじゃないかな?」
「ああ……実はこのあいだ喧嘩して『しばらくお暇をいだだくわ』と言われ、それっきり音信不通なんでござる」
「あ、そ、そうか。悪いこと聞いたな」
 他に話題がないかと蒼也は空を見上げて考え、そして上空で戦うふたりに気がついた。
「お、おい。あれ! 例のシェイドって奴じゃないか?」
「本当でござる! 既に誰かと戦ってるでござるな、加勢に行かねば!」
 とはいえ、利経衛をはじめ同行中の五人は空を飛ぶすべを持っていなかった。
 しかしそこで蒼也が空飛ぶ箒を取り出し、
「後ろに乗れ、ウッチャリ!」
「む、わかったでござる!」
「行くぞ!」
 そして蒼也の掛け声と共に、勢いよく箒は空に飛び立って……飛び立って…………飛び立っていかない。一応徐々に飛び上がってはいたが、のろのろと申し訳程度に浮かんでいくばかり。
「おい、なにやってんだよ!」
 思わず一輝が声を荒げるが、誰もが飛ばない理由に察しがついていた。利経衛が重過ぎるのである。
「あ、あの。拙者は降りた方がいいのではござらんか?」
「……いや。俺に考えがある、とにかくこのまま何とか気づかれないように近づくぞ。俺が合図したら手裏剣を投げてくれ」
 やむなくのろさを生かしての接近に切り替えつつ、蒼也は以前手に入れた青色のキャンディを取り出して口へと放り込んだ(詳しくは別シナリオ【VSゴブリン7】を参照)。
 蒼也はブルーハワイの味を口内に感じ、同時に視覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。今ならアリアと交戦しながら空を縦横無尽に移動する、シェイドの四枚羽それぞれの動きすら集中すれば見切れそうだった。
 そのまま狙いを定め、雷術をわざとシェイドの背後スレスレに放つ蒼也。
「うっ!?」
 そこでようやく下の接近者に気づいたシェイドは、強引に身体を捻って攻撃を回避する。
「今だ!」「わかったでござる!」
 合図と共に利経衛は所持していた手裏剣をほとんどいっぺんに投げつけた。
 そのほとんどが風に煽られたり、全然別方向へ飛んでいったりしていたが。下手な鉄砲もなんとやら。手裏剣の一枚が、ピッ、と僅かに一枚の羽を背からはがすのに成功していた。
「よし!」
 すかさずひらひらと落ちてきたその白い羽を網で拾いあげる蒼也。
「やった! やったでござる!」「って、おいこら暴れるな、わぁあああああ!」
 そして、そのまま墜落していった。やはり重量に問題があったらしい。
 それでもどうにか一つ目の課題クリアーとなった訳だが。暫く固まっていたシェイドは、
「こ、この……! よくもこの僕の大事な羽を! 絶対に許さないでございますよ!」
(な、なにこの人。こう見えて実は熱くなりやすいタイプ?)
 たじろぐアリアから意識を外し、ウッチャリに向かって急降下していく。
 目的は果たしたゆえ、そのまま逃走を図ろうとする利経衛だったが。鈍足の彼が逃げられるわけもなく、あっさり追いつかれて背中を蹴りつけられていた。
「むぎゃっ!」
 そのまま、ぼよん、ぼよん、という効果音が聞こえそうな勢いで地面を転がる利経衛。
「ふん、地を這う人間が、空を翔る天使に歯向かうからそうなるのでございます」
 嫌味たっぷりの言葉を吐き捨てるシェイドだったが。そこへ、
「あらら、随分とエラソーなご主人様ですねぇ」
「ん?」
 かけられた声にシェイドが振り返ると、眼前に『足』が迫っていた。
「ぶべぇ!?」
 その足に今度はシェイドの方が思いっきり吹っ飛ばされていた。ちなみにバーストダッシュでの飛行をも活用した蹴りだったため威力も倍増である。
「ふふ、よい転がりっぷりです」
「さすが詩穂。仕置きに容赦が無いな」
 それを放ったのは騎沙良 詩穂(きさら・しほ)。傍らにはパートナーのクトゥルフ崇拝の書・ルルイエテキスト(くとぅるふすうはいのしょ・るるいえてきすと)もいる。
「こ、この! なにをするでございま……ヒッ!?」
 起き上がりながら詩穂を睨み付けようとしたシェイドだったが、当の詩穂は鬼眼を発動させてまさに鬼の威圧を放っていた。
 迫力負けしたシェイドは慌てて空へ逃げようとするも、その前に詩穂に羽を踏みつけられてしまう。
「あ、く、この!」
「どうしましたご主人様? それでも空中戦最強を誇る守護天使さんですか? ほらほら、遠慮しないで飛んでくださいよ」
 そして、その足を上げたかと思うと再び詩穂はバーストダッシュ付加で飛んで蹴っ飛ばしていた。場に居合わせた全員、そんな容赦ない詩穂のSっぷりに冷や汗ものであった。
「が、ご、げ、ぐは!」
 自慢の羽もすっかり土まみれになりながら、情けなく地面に倒れ伏すシェイド。
 そんな彼をやや同情の目で見つめるクトゥルフはぼそりと、
「青年、恥ずかしい姿にしてすまないな。あれが詩穂の戦闘中の姿だ。見た目に惑わされるな」
 今更ながらの進言を伝えておいた。
「あ、そうだ。鬼眼のことは誰にも言わないで下さいね☆」
 詩穂もまた今更ながら、可愛く伝えていた。
「ええい、くそっ!」
 しかしシェイドの方もなかなかにしぶとく、再びがばりと身体を起こすとその反動を利用してまた空へと飛び上がった。
「どいつもこいつも、よくもこの華麗な天使の僕を馬鹿にしてくれたでございますな! こうなったらウッチャリだけでも八つ裂きにして……」
「そんなことはさせないわ」
 上からの声に思わず振り仰ぐシェイド。そこには、太陽を背にしたアリアの姿があった。
「っ! しまった、目が……!」
「声をかけられたからって、不用意に空を見上げるなんて……。いくら空を翔るのが得意でも、それじゃ忍者としては失格ね」
 そして。トナカイスズちゃんが下へ向かって駆けると共に、
「雷の閃きよ!」
 アリアは一気に近距離での轟雷閃を叩き込んだ。
「あぎゃあっ!」
 もろにそれを喰らったシェイドは、そのまま落下し、落下し、落下して、
「虹になれぇ!」
 そのまま下にあった池へと叩き落きこまれた。
 そして舞い散った水しぶきにより、池の上には綺麗な虹が出来あがり。
 それを寸前で上空へUターンしたアリアは、満足げに見つめるのだった。