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激突必至! 葦原忍者特別試験之巻

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激突必至! 葦原忍者特別試験之巻

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【第四幕・桜舞う薬対決!】

「はぁ……さっきはとんでもない目に遭ったでござる」
 落とし穴に落ちてすっかり傷だらけになった利経衛は、ひとまず手当てをすべく保健室に来ていた。生真面目にこういう場でのマナーとして、携帯の電源は切っている。
「あ」
 入るとそこには先客がいた。桜色の忍び装束の上に、魔女を象徴する赤いマントを羽織った個性的な出で立ちのサクラ=ド=ラ=クランその人である。その顔つきこそ童顔ではあったが、どこか余裕を含んだ妙齢の女性の雰囲気を醸し出している。
「ああ、来たの。ウッチャリ。でもちょっと待って。今、大事な話し合いの最中だから」
 サクラは一瞬振り向いたが、すぐまた背を向けてしまった。
 彼女と向き合っているのはクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)である。
「で? なんだっけ」
「失礼を承知で問おう。その薬、人に用いるに足る段階に達しているのだな?」
「……本当に失礼ね。別に後遺症とか起きるようなの投与したりしないわよ。ただ、新薬の治験は必要不可欠なことだと思うけどね」
「私だって医学に携わる者として、臨床試験が必要なのは承知の上だけど。そもそも実験台という言い方が気に入らない」
「それはただの言い方の問題でしょ。私、国語は苦手なんだもの。そんなことより私の薬を呑んでくれるの? どうなの?」
「待ってって。私はまずあなたが薬師としての倫理があるかどうかを聞いていて……」
 すっかり議論に白熱しているふたりに放置された利経衛は、
「保険医の先生はどうしたでござる?」
 欠伸して窓の外を眺めていたクレアのパートナーエイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)に話を振ってみる。
「ん? ああ、さっき『魔女さんがいるなら安心だ』となんとか言って、もう帰ったみたいだけど」
 そういえば……と、利経衛はこの保健室がもうかなりサクラに占拠されているらしいという噂を思い出した。仕方なく手当ても道具の奪取も話が終わるまで待つことにする。
「でね? この薬はアレルギー体質の人や高齢の人には、足や腕が痙攣する副作用が起こりうるわ。それは薬内にある×××の成分が免疫力に〇□△で、抗生物質が☆◇だからなの。でもそれは一時的なもので命に別状はないわ、勿論不安要素が皆無というわけじゃないけど、それも私独自の研究で▽◎※に安全面がЯΘΨ……」
 サクラの話は薬学知識の無い利経衛にはチンプンカンプンであったが、クレアは黙って聞き入っていた。
「……というわけで。この薬についての説明は以上よ。ほかに質問は? なんなら全種類の新薬について説明しましょうか?」
 十数分に渡る解説の末、サクラはやや挑発的に問いかけていた。
「……わかりましたよ。これまでの非礼は謝罪します」
 クレアは、サクラが薬師として信頼に値する人物だと判断した様子で諸手を挙げて降参の意を示していた。
 どうやら一応の決着をみたようだとして。利経衛は本題を切り出そうと、
「それでサクラ殿「サクラさーん、お願いがあるのー」
 したところで、さっきまで光と遊んでいた春美がディオネアと共に駆け込んできた。
「実は私、太ももが太いのが悩みなの。いいお薬ない?」
「体質改善の薬? そういう薬もあるにはあるけど……若いうちにそーいうのに頼るのはあんまオススメしないけど」
「えー? でも、あるのよね? なら少しくらいいいじゃない。なんなら、薬の実験台になってもいいよ」
 話が横道に逸れかけるのを修正すべく、利経衛は再び本題に入ろうと、
「それより、サクラど「あ、サクラさん保健室にいたんですね」
 したところで、部屋に入ってきた司に遮られていた。
「あ、ウッチャリ君もここにいたんですか。丁度よかった。これ光くんのかんざしです」
 どうやら司も別のかんざしを光から貰ったらしく、椿の飾りのかんざしを利経衛に手渡していた。その点に関しては喜ぶ利経衛だったが、
「これはこれは、ありがとうでござる。それにしてもよかったでござるな、電話が途中で切れたゆえ心配していたのでござるが――」
「ほほぉ……此れは此れは……興味深い」
 司はかんざしを渡すや否や、薬品棚に興味深々で駆け寄っており話を聞いていなかった。
「…………あー、それでサク「サクラ=ド=ラ=クラン! 我と毒薬で勝負をして貰おう」
 今度やって来たのは毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)
「ええいもう! いいかげんにするでござる! それよりこっちの用件が先でござるよ、サクラ殿!」
 さすがに珍しくキレ気味になった利経衛だったが、
「わーかってるって。私の丸薬でしょ? 言った通り、新薬の実験に協力してくれるならあげてもいいけど、どう? ああ、勿論他の人がやってくれるんならそれでもいいけど」
 サクラの方はいたって冷静に提案し、どうするか皆が思案する時間を利用して、素早い手つきで利経衛に傷薬を塗ってガーゼを貼っての手当てを施してあげていた。
(サクラ殿は性格にやや難があるとはいえ、こういう配慮を自然な流れで行なってしまう方ゆえやりにくいんでござるよね……)
 そんなことを考えつつ利経衛は、
「試験を乗り切る為でござる。多少の危険は覚悟の上でござるよ」
 承諾の意を示していた。
「私は、さっきのお詫びも兼ねて協力しても構わない。彼女は信頼できそうだからな」
 クレアはそう言っていたが、エイミーはそしらぬ顔で不参加を態度で示していた。
「太ものの改善薬をくれるのなら喜んで」と、春美は交換条件を告げる。ディオネアの方は万一の時の回復要員として待機する姿勢のようだった。
「実験台ですか? ……ふ〜む、内容によってはお受けしない事もありませんが」と、やや躊躇いがちなのは司。
「我も構わないが、それは勝負を受けてくれる前提でだ」
 そして大佐が最後に返答をすませたのを確認して、利経衛の手当てを済ませたサクラは自身のマントから錠剤やカプセル、丸薬などをいくつか取り出していく。
「わかったわ。それじゃ、全員の提案をそれぞれ受け入れる形にするわ。だから、まずはアナタね」
 そう言って最初は大佐に歩み寄り、
「毒薬の勝負はいいけど、どういうの使う気かちょっと教えてくれる?」
「ああ、いいだろう。これはだな……」
 ごにょごにょと何やら相談をし始めたかと思うと。
「わかったわ。それならもしものことがあっても、解毒剤用意できるわね」
 思い切り不安要素満載の発言をしつつサクラは、
「さて。まずアナタにはこれね。同じ医の道を志す者のよしみで、軽めのにしてあげる」
「それはどうも」
 クレアには白い錠剤を、
「次にアナタはこれね、この薬なら体質改善のちょっとしたお試しも兼ねられるわ」
「ほんと? ありがとう!」
 春美には、濃い緑色の丸薬を、
「それでアナタはこれね。一応聞いておくけど、体力に自信ある方かしら?」
「あぁ、ご心配無く、身体の頑丈さ(生命力的な意味で)と復活の速さには自信があります」
 司には黄色い丸薬を、てきぱきと配っていく。当然のように詳しい説明はなしで。
「で。ウッチャリには、とっておきを呑ませてあげるわね♪」
「…………ありがとうでござる」
 最後に利経衛には、ドクター○リオに出てきそうな赤と青のカプセルをを渡していた。
 そして一同はそれぞれやや躊躇いながらも、それぞれ配られた薬を呑み込んだ。
「ちょっとだけ待ってね、全部即効性のある薬だからすぐ効果が現れる筈よ」
「さて。我の作ったあの薬を呑んだ者は、どこまで耐えられるであろうか」
 サクラと大佐は、椅子に腰掛けて各々の様子を伺う。
 一番に反応を示したのは春美だった。
「あ……すごいです、春美の体がなんだか……」
 春美はまず、自分の握力が弱くなっていくのを感じた。そして足元の感触も徐々に薄れ始める。更に体重も軽くなったような感覚に襲われ、着ていた制服がだぶだぶになったように思え――
「っ……! あ……!」
 と、そこで本当に自分の身体が元々に比べ五分の一ほど小さくなっているのに気がついた。確かに要望の太ももは細くなっているが、同時に腕や胸、お腹まで縮まっている。
「ね、ねぇ。これだいじょうぶなんだよね? 本当に」
 ディオネアが思わず不安げに声をかけるが、
「大丈夫だから。心配しないで、そろそろよ」
 サクラはいたって冷静に成り行きを見守っていた。
 そしてその言葉を裏付けるように、春美は徐々にまた体に重みが戻ってくるのを感じる。足にもちゃんと床を踏んでいる感覚が戻り、手をぐっぱして握力を確かめた。
「び、びっくりしました……まるで自分の体が溶けたみたいでしたよ」
「これ、最近見た探偵アニメをヒントに作ってみたんだけど、実用化には程遠そうね」
「くしゅん!」
 問題なく元に戻った春美を見てサクラは淡々とメモしながら、次に動きを見せたクレアに視線を動かす。
「くしゅん! な、なに? これ、は……はくしゅん!」
「ああ。それはうまくくしゃみを出させる薬よ。普通に出すのと違って、口内や気管の不純物を的確に吐き出してくれるから、風邪引いた時とか治りが早くなるの。これもこないだくしゃみで出てくる王様のアニメ見て思いついたのよ」
 なにげにジャパニメーション好きらしいサクラの趣味が明らかになる一方、大佐は司の様子を見てぴくりと眉を動かした。どうやら彼の薬を呑んだのが司だったらしい。
「あ、く、痛っ……」
「うぐ、拙者もきたでござる……」
 司とほぼ同時に利経衛も苦しみ始める。
「ふたりとも、辛くなってきたら早めに言ってね。でもこの毒にある程度耐え切れれば、色んな病気に耐性と抵抗力がつくからなるべく頑張ってね」
 優しい言葉と何気に酷い言葉をかけるサクラだったが、そんな声さえ利経衛はもはやうっすらとしか聞こえていなかった。司も身体を震わせて苦しげに胸元を押さえている。そして数分後にはふたりとも脂汗をかいて、床に倒れ込んでいく。
「すみません……そろそろ……限界、です」
「せ、拙者ももう、ヤバイでござるよ……」
「えー? もう少し我慢できない? 今解毒剤使うと、耐性とかつかないんだけどな」
「ちょっと、これ以上はキツイ……ですから」
「あぁ……お花畑が……見えるでござる……」
 渋々ながらサクラは、司には橙色の錠剤を、利経衛には赤と青のカプセルをみっつほど強引に呑みこませた。
「ほぼ同時にギブアップ、か。これでは毒薬勝負は引き分けであろうな」
「ま、そーね。体質の差を差し引いても、毒性に大差は無かったみたい」
 解毒剤のおかげでようやく顔色と呼吸が落ち着いてきたふたりは、生きていることの喜びにしばし浸るのだった。
「さて、協力してくれてありがと。助かったわ。今から秘伝丸薬作るから待っててね」
「あ、どうもで、ござる……」
 それからサクラが丸薬を作り終わるまで一時間ほどかかったが、利経衛はその間ほとんど動くことができなかった。