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激突必至! 葦原忍者特別試験之巻

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激突必至! 葦原忍者特別試験之巻

リアクション

【第五幕・龍の逆鱗】

「はぁ……さっきはひどい目に遭ったでござる」
 利経衛は新鮮な空気を吸うべく、校内に設けられた竹林へと足を運んでいた。
「それは大変でしたね。すみません、手を貸すと言いながら途中ではぐれてしまって」
「お言葉ですが永太、あれはウッチャリ様がひとりで勝手に突っ走った挙げ句に派手に滑って転んだのがそもそもの原因……むぐ」
 正直なザインの口を慌てて押さえる永太。
 このふたりとは途中で再会し、遅れを取り返すべく共に次の相手を探しているのだった。
 そんな彼らの耳にワンワンニャンニャンという鳴き声が聞こえてきた。それに利経衛はビクッと身体を硬直させる。
「あ、あの鳴き声は……」
「? ウッチャリ君、どうかしたんですか?」
「わたくしの記憶には、動物を扱う相手がいたと記憶していますが……向かわなくてよろしいのですか?」
「い、いや。いくでござるよ。勿論」
 やや挙動不審ながら、利経衛はふたりと一緒に林の奥へと向かっていく。
 その先にいたのは十数匹もの犬や猫たちと戯れている、土色の忍び装束にそれと同色の鱗を纏ったドラゴニュート、たつろうだった。
 彼は三人に気づくなり怯えた目になったが、対照的に犬猫連中は唸り声をあげて睨みつけてきている。
「ウ、ウッチャリ。何の用だ」
「き、決まっているでござろう、お主の鱗を貰いにきたでござる」
「おらの鱗、あ、あげない、言っただろ」
「そ、それでもこれは試験でござるから。容赦はできないでござるよ」
 そんなふたりのやり取りを眺める永太達は、
「なんだか相手はかなり臆病なようだけど、ウッチャリ君の方もそれに負けないくらい腰がひけているような……」
「もしかしてウッチャリ様、動物が苦手なのですか?」
「ち、ちがうでござるよ! 拙者が苦手なのは、犬と猫だけでござる!」
 ザインの言葉に切り返す利経衛だったが、
(いやいや……思いっきりその二種類が目の前にいるんですけど)
 ちょっと呆れ気味に嘆息する永太だった。
「と、ともかく。いくでござるよ! でやぁあああああ……!」
 利経衛はクナイを手に、たつろうへと突撃して、
「「「「ワンワンワンワンワンワン!!!」」」」
「ひぃいいいいい!」
 すぐさま迎撃態勢に入った忍犬連中に追いかけまわされていた。
「ああもう! しっかりしてください、ウッチャリ君!」
 そこで永太は氷術を使い、犬達の足を地面に縫い止める。
「さあ。今のうちに根源を叩くんです!」
 しかし永太の声を聞きつつもすっかり涙目で怖がっている利経衛。
 それを見かねたザイエンデは、自分が何をすべきか考え、そして、

「がんばって♪ もっともっと さいごまで あきらめないで♪」

 気持ちを盛り上げる為に、応援の歌を紡ぎ始めた。

「どんなにくるしくても わたしたちが そばにいるから〜♪」

 永太はいつも冷静沈着なザイエンデが、珍しくアップテンポの歌を歌い始めたのに驚き、同時に喜んでもいた。
「よ、よぉし……なんとか、やってみるでござる! うぉおおおおおお……!」
 利経衛もそれに触発されたのか、勇気を振り絞り特攻を再開させた。
「ニャア!」「ウニャッ!」「ギニャア!」「ニャオオオ!」
「うぅ……な、なんの、これしき! でござる!」
 たつろうを守るように立ちはだかって来た猫達に、クナイを振り回して追い払おうとする利経衛。だが相手も忍猫として訓練された者たち。利経衛はひっかかれ、噛み付かれ、徐々に劣勢を強いられていく。
 そのとき。
「離れて物陰に隠れろ!」
 突如誰かの声がその場に轟いた。
 そして同時に上空から何かが飛んでくる。
「あん? なぁんだ、あれは?」
 たつろうが飛来物に気づいて見上げた直後、その何かが弾けた。すると、一気に目を覆うような強い閃光と耳をつんざくような高音が放射され、周りに煙が撒き散らされていく。
「な、なんだぁ!?」「キャウン!」「ウニャッ!」
 たつろうをはじめ犬猫達は、予想外の攻撃を受けてもだえ苦しむ。
 永太とザイエンデはすんでのところで茂みに避難したのでどうにか被害は免れることができていたが。たつろう達は目がくらんだ上、耳もキンキンと響いて機能を一時的に失い、おまけに煙で涙腺と鼻腔を刺激され、一気に五感うちみっつを奪われていた。
 あと、巻き添えで逃げ遅れた利経衛も同等の被害をこうむっていた。
「よし、今だ……!」
 隙をみて飛び出してきたのは甲賀 三郎(こうが・さぶろう)
 先程の攻撃を放ったのは他でもない彼である。
 彼は忍獣使い対策として、事前に教導団のスタングレネードを用意しておいたのだった。本来、暴徒鎮圧用の非殺傷武器として使用されている手投げ弾……その威力は絶大で忍犬、忍猫のほとんどが失神したり昏倒したりで戦闘不能となっていた。
 守りが手薄になったたつろうに、三郎はスタンの霧を利用して容赦なく突っ込んで行く。おまけに光学迷彩も使って姿を隠すという念の入れようだった。
「我は由緒正しき甲賀忍者の末裔! その実力、身体に刻みこめ!」
 たつろうがぼやけた目で三郎を視認した時には、既に腹部に轟雷閃が叩き込まれた後であった。
「うがあっ! く、くそぉ……」
 よろめくたつろうに、三郎は畳み掛けるべく更なる攻撃を繰り出そうと――
 ピィィィィィィィィ!
 ――した直前、たつろうが口笛を吹いた。すると、
「チュウ」「チュチュウ!」「チュウチュウ」「チュー!」「チュチュチュ」「チュウ!」
 そこかしこの地面の中からボコボコと鼠達がどんどんわいてきて、三郎や利経衛に飛びついてくる。
「うっ、この……!」
「わわわわわ、な、なんでござるかぁ!?」
 これでは思うように動けず抵抗を試みる三郎や利経衛だったが、殴り飛ばしても斬りつけても振り払っても、鼠達は次から次としつこく出てきていた。永太達も鼠対処に追われ、場は一気に混乱状態になっていく。
「うわ……なんだかすごいことになってるねぇ」
「ここまで大量の鼠がいると、さすがに気味が悪いのだよ」
 と、そこへ八神 誠一(やがみ・せいいち)オフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)がやって来た。
 現れたふたりにも鼠達は飛び掛っていくが。誠一はまず鬼眼を叩き込んでその戦意を砕いていく。更にオフィーリアも、バニッシュを使って眼くらましをくらわせていた。
「人間相手にも関わらず迷わず特攻してくるとは、よく訓練されてるようだねぇ」
 呟きを漏らす誠一に、次々飛び掛ってくる鼠連中。
 それに対し誠一は駆け抜け様にブラインドナイブスで数匹の鼠を斬り捨て、更に肘打ちで一匹、蹴りで二匹仕留めていく。加えてオフィーリアが誠一の攻撃の瞬間パワーブレスで威力を強化させてもいた。
「しかし所詮は動物、攻撃パターンが単調ですねぇ」
「む。お、おらの相棒達を侮辱すると、ゆ、ゆるさないだよ!」
 たつろうがもう一度口笛を吹くと、林の奥からも多くの鼠がゾゾゾゾゾゾと走ってくる。それは某ネコ型ロボットでなくても、怖気をおぼえる光景だった。

 その後、六人総出での鼠退治が始まった。
 だがしかし。たつろうにとって痛手だったのは、先に犬猫達がやられてしまった点にある。忍鼠というのは本来、索敵や間取りの調査などに活用してこそ力を発揮するもので、戦闘においてはさほど戦力にはならないのだ。
 確かにその数こそ脅威ではあったが。これまで多くの戦いをしてきた彼らが相手では、すぐに限界は来てしまうもので。十分が経過する頃にはほとんどの鼠は掃討され、あとは数匹の鼠がチョロチョロと動き回る程度となっていた。
「そ、そんな。おらの相棒達が……」
 自分を守るものがなくなったたつろうは無様に腰を抜かし、それでもなんとか逃げようと試みるが、
「おっと。そうはいかないのだよ。とりあえず、そのまま寝ているが良いのだよ!」
 寸前でオフィーリアに襟首を掴まれていた。
 そしてたつろうが涙目で振り向くと、眼前にウォーハンマーが迫っていて。小気味よい音と共にたつろうは気絶させられた。
「案外あっけなかったねぇ、まぁ楽できるのはいいけどさぁ」
 誠一はその間にたつろうを縛り上げ、その上で鱗を剥ぎ取っておいた。
 剥いだ際にカッと目を見開かせたたつろうだったが、そこを再びオフィーリアに脳天に一撃叩き込まれて再び気絶させられた。
「ほら、えーと……ナントカ君。目当ての鱗あげるよぉ」
 誠一はどうでもよさげに鱗を利経衛に放り投げておいた。