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【十二の星の華】「夢見る虚像」(第3回/全3回)

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【十二の星の華】「夢見る虚像」(第3回/全3回)
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第6章 想いが奪われる

「おや? もしかして聞こえなかったんですか? 女王像の胴部を渡して欲しいとお願いしたのですが」
 東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)の言葉に、テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)は悔しそうにグッとその唇を噛みしめた。
「状況、見えてますよね? 私、あまり気の長い方ではないんですよ」
 テティスの目の前には二人の剣の花嫁。
 一方には雄軒の手でハンドガンが、もう一方にはバルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)の手でカルスノウトが押しつけられている。
 奇妙なことに剣の花嫁達は、そんな状況にも関わらずただ黙って状況に従っていた。
「人質ってわけね」
「さあ? 私にとってはティセラ様からお借りした大事な道具、ですが」
 雄軒は特に表情を変えることなく淡々と言葉を続けた。
「あなたにとってどれだけの価値となるか。まあ、女神像の胴部と同等の価値が認められないというのであれば――死ぬだけですが。特に、今日はパートナーの手が滑りやすくなっているようですし……」
 雄軒の言葉で、バルトはその手に重量をかけた。
 剣の花嫁の首筋に、カルスノウトの刃先が深紅の筋を作る。
「……卑怯だと、思わないの……?」
 喉の奥から無理矢理に絞り出したようなテティスの声に、雄軒は片眉を上げて怪訝そうな表情を浮かべた。
「卑怯? なにを言うかと思えば。同じではないですか、貴方方も私たちも。ティセラ様が女王になろうが、ミルザム様が女王になろうが、どちらかが一方を殺すまで血は流れる。その量は変わりません。だとしたら、卑怯とはなんです?」
 テティスはさらに、破けそうなくらいに唇を噛みしめてから、側にいた政敏に頭を下げた。
「政敏さん……こんなことを言えた義理ではないのは承知しています。承知していますが……お願いします。女神像の胴部を……渡してもらえませんか?」
「おいちょっと待て。あいつらになんか言われて頭に血が昇ってんならやめとけよ? 取り返しつかねぇぞ」

「甘いのは判ってる……。カンバス・ウォーカーさんの想いに応えられず……私に、彼方に協力してくれた人の気持ちに応えられないのも……でもっ! 視野が狭いって言われてもっ、バカだって言われてもっ! ここであの剣の花嫁さんたちを見殺しにするなんて、私にはできないっ! それは、私じゃないっ!」

 心の内から湧き上がる強い感情に瞳を潤ませるテティスに、政敏は舌打ちをひとつ。
 女神像の胴部を雄軒に手渡した。
 雄軒はそれを手で弄んでみて、
「もう一個持っていますね?」
 政敏がさらに舌打ちをして取り出すのを、嬉しそうに見守った。
「まさか本当にダミーまで用意しているとは」
「お前っ! カマかけやがったなっ!」
「では、花嫁達は約束通り解放しましょう。しっかり受け取ってくださいねっ!」
 雄軒とバルトが剣の花嫁を解放し、バルトはさらに剣の花嫁に向かって爆炎破を発動。 
 雄軒によって事前に油を染みこまされていた二人の剣の花嫁の衣服が、それで一気に燃え上がった。
「なんてことをっ!」
 テティスは怒りと悔しさ、屈辱が入り交じった悲鳴を上げた。
「さあテティスに抱きついてあげなさいっ! 胴部に加えて水瓶座の命までとれるとあれば、大収穫ですっ」

 遮ったのは轟音。

 突然飛び込んできたバイクは、剣の花嫁の突進を阻むと、綺麗なターンで、雄軒とバルトを飛びのかせた。
 さらには、サイドカーに乗っていた人影が魔法を発動。
 剣の花嫁の体を焼く炎を、静謐な輝きをたたえる氷が包んだ。

「よう、カワイコちゃん。てこずってるようだな」
 バイクの上に立った霧島 玖朔(きりしま・くざく)はテティスに向かってニッと笑みを向ける。
「助太刀するぜ――あ、これは俺の連絡先。これからも何かあったら協力するから――ちっ。ざわざわしてやがる」
 テティスの胸元に連絡先をしのばせようとしていた背後の気配に、玖朔は一時中断。
「こっちが先か」
 クルリと振り返った。
「ま、あんま寂しいこと言わなくていいじゃねーか? 剣の花嫁達も守って、胴部だって手に入れればいい。少し欲張ったって、いいんだぜ」
 背中越しのテティスに、玖朔はそれだけ言うと、雄軒たちに向かって至近距離からスナイパーライフルを発砲した。重量感を伴った銃声が大気を震わせる。
「もちっとスマートにいきたかったんだがな。こうなった以上は、派手にやらしてもらうぜ?」

 一方。
 サイドカーから降り立ったケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)はすぐさままた氷術を発動。
 油の影響で中々勢いを落とさない炎に向かって、歯を食いしばって連続で氷術を放ち続けた。
 やがて炎は弱くなり、それとと共に剣の花嫁はバッタリと倒れる。
 ケイラは息をつく暇もなくすぐさま駆け寄った。

「だ、ダメーっ! テティスさんっていうか……女の子以外来ちゃダメー!」
 未だ体表からしゅうしゅうと白い気体を上げる二人の剣の花嫁。
 その衣服は焼け崩れてしまい、ほとんど裸同然になってしまっている。
「私、何が出来る?」
 ケイラの声に駆け付けてきたテティスが、真剣な顔で問いかけた。
「えーと、えーと……」
 目の前には甚大な被害を受けたであろう剣の花嫁。
 火傷が痛むのか、意識が無いながらも時々苦しそうな呻き声をあげている。
 ケイラは必死で頭を巡らせ考えた。
「自分は全力でヒールでかけ続けるから、包帯! えーと、服! それから、やっぱりお医者さんっ! テティスさんっ! お願いっ!」
 ケイラの声に、テティスは頷いて市街の方へ駆け出していった。
 炎を消すので、SPはかなり消費してしまった。
 正直体が悲鳴を上げているのを感じる。
 ケイラは額に滲んだ汗をひと拭い。
 ちらりと、テティスが駆け去っていった方向を眺めた。
 それから、剣の花嫁を眺め、ぐっとその口元に力を込める。

「絶対、助けるからね」

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「ちょ、ちょっと待て。砕けたって……カチェアが持ってった胴部が本物だったろ?」

 カチェアからの電話を受ける政敏は、血の気が引いていくのを感じていた。
 自分がさっき渡した胴部は二つともダミーのはず。
 すり替えたとき、本物を手にしたのはカチェアではなかったのか?

 政敏の視線の先では玖朔が発砲を続けるている。
 速射性では劣るスナイパーライフルで、しかし玖朔は雄軒達を追い込んでいた。

「何かの取り違えで……俺が本物を持ってたってことか……?」

 雄軒がバルトに何かを告げるのが見えた
 次の瞬間、それを合図にバルトが爆炎破を発動。
 玖朔が思わず顔を庇い、発砲に隙が出来た。

「それっ! 本物だっ! 逃がしちゃダメだっ! 絶対捕まえてくれっ」
 政敏は思わず叫んでいた。

 しかし、爆炎破による炎が消え去った後、すでに二人の姿は忽然とかき消えていた。