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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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 7.町・吟遊詩人

 そんなこんなで静麻と保長の待つ「小奇麗なアパート」へ辿り着いたのは、昼前だった。
「後で隼人達には連絡してみることにして。今はオルフェウスさんの件を聞き出すためにも、アパートへ行くのが先ね?」
 美羽は一行の意見を再度確認した後、静麻達と合流した。
 静麻は「天使のピエロ」での件を聞き、画像を見て。
「そうか……」
 嘆息した。
「となると、ルミーナさんの蝋人形化はほぼ間違いない事実だな」
 彼はそう言って、アパート1階の角部屋に案内した。
 表札に「トンボ」と書かれてある。
「蝋人形化の目撃者と同じ名前ですね」
 椿姫は表札に手を触れた。
「どのような方なのですか?」
「オルフェウスの友人で、バーテンダーという話でござる」
 保長が説明を補足する。
「トンボ、というのは芸名にござるよ。彼は地球各地を旅したことがあって、そのためにオルフェウスとは馬があったようでござるな」
 キンコンッ、と呼び鈴を鳴らす。
 出てきた青年は疲れ切った顔で応対した。
 観念した様子で。
「蒼空学園の方ですか? そうです、オルフェウスの……蝋人形はこちらでお預かり致しておりますよ」

 ■
 
 トンボの部屋は6畳程度だった。
 全員が押し掛けても入りきれないので、美羽達蒼空学園生のみ取りあえずはいる。
 そこへ恭司がブラックコートに何かを包んで、運んできた。
「ほら、確認しろ!」
 恭司が連れてきたのはシイナだ。
「これは野原キャンパスのおまえじゃなければ、分からんことだからな」
「ひどい扱いだな、案内役だぞ! 私は」
 ぶつぶつ不平を言いつつ、シイナは蝋人形を見上げて固まる。
 青い顔で。
「オルフェウスさんだ……間違いない!」
 そこには朔達が路上のポスターで見た「伊達男」が、ルミーナと同じく生気のない蝋人形と化して立っている。
「すまないが、ことの顛末を話してくれないか?」
 吟遊詩人の蝋人形に眉をひそめつつ、静麻はトンボに説明を促す。
 
 トンボは予期していたのか、包み隠さず一行に総てを話した。
 
 彼の話によると、「町長の悪行」に町民達が暴動寸前になっているので、オルフェウスに町長と掛け合ってほしい、と頼んだのがことの始まりだそうだ。
 どうしてかというと、これは町の人々は知らないのだが、実は彼も町長の館へ自由に行き来出来る1人であったからだ。
 それに町長夫妻のお気に入りでもあるオルフェウスの話ならば、町長も聞く耳を持つかもしれない、と彼は踏んだのだ。
 なぜならば……
「町長が攫った娘達を『蝋人形化』している現場を目撃したのは、他ならぬこの私だったからです……」
「何だって!」
「『迷いの森』に踏み込んだ彼の後をつけて行って、目撃してしまったんだ。その後、僕は卒倒してしまって……気が付いたらオルフェウスに助けられて、このアパートに戻ってきてたんです」
「それで、トンボさんはオルフェウスさんが館に出入り出来ることを知ったんだね?」
 穏やかにメルティナが尋ねる。
 トンボは頷いた。
「で、オルフェウスが悪行を諌めようと館に行った晩、この蝋人形が玄関にほうりだされていたという訳です」
 でも、違うんですよね、と彼は首を傾げた。
「何がです?」
「いや、何というか、その……この蝋人形、見てください!」
 両手を指さす。
「オルフェウスは、仮にも『町のアイドル』ですよ! それなのに、手ぶらだなんて! こんな地味な蝋人形が『彼』だなんて! 何だかおかしいと思いませんか?」

 けれどよくよく見ても分からないため、一行はルミーナと同じくカメラに収めて、その場を辞した。
「じゃ、野原キャンパスへ戻るとしますか? 案内頼むわね? 爆弾ちゃん!」
 意気揚々とハリセンを掲げた美羽の声が、沈みがちな一行を明るくするのだった。
 
 ■
 
 だが、町を出た所で静麻の携帯電話にレイナからの連絡が入る。
 彼女とプルガトーリオは真面目に情報収集を続けていたらしい。
「何? 町長夫人の情報が集まった……そうか、わかった」
 短く答えて、電話を切る。
「すまない、急用が出来た。俺は別の場所へ行くから、先に戻っていてくれ」
 保長と共に町の方へ戻っていく。
「おい!」とシイナ。
 静麻は振り返って手を振り。
「詳しいことは、携帯で連絡する」

 そしてレイナ達と合流した静麻と保長は、彼女から町長夫人に関する報告を手短に聞いていた。

「つまるところ4点でござるかな、皆の衆」
 まとめ上手な保長が、例によってレイナの話をまとめにかかる。 
「第1に、町長夫人はシャンバラ人でいつも町長は彼女を連れ歩いていた、ということ。
 第2に、彼女の姿を見なくなったのは、ちょうど町長が現在の館に移り住んで娘達を誘拐しはじめた頃である、ということ。
 第3に、町長夫人が「迷いの森」に行く時、「光精の指輪」と「竪琴」を常に携帯していた、ということ。
 第4に、町長が古代の「鏖殺寺院砦跡」へ行っている、という目撃談があるということ」
「レイナ、その砦跡というのは、どこにあるんだ?」
「この近くということですよ」
 レイナはメモ帳を取り出して、町民に書いてもらった地図を見せる。
 静麻は思案していたが、決断は早かった。
「ここから、そう遠くはないんだな。よし、行くぞ!」

 静麻はシイナ達に「砦跡」の件を告げると、3名のパートナーを伴い小型飛空艇を使って現場へ急行した。

「地獄」が待ち受けているとも知らずに――。
 
 ■
 
 ともあれ、こうして静麻や隼人達以外の【捜索隊】は無事に野原キャンパスへと帰還したのだった。