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リアクション
9.迷いの森
……話はさかのぼる。
「まったく、シイナさんから連絡が来ないから心配です……」
「青ひげ町長退治」組「案内役」のナナは、道すがら半泣きでぼやいていた。
携帯電話を気にしながら。
「わたしはパートナーになってからというもの、シイナさんから離れたことが無いので。心配で心配で……」
シイナは過保護なのね、と四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)は彼女らしい感想を漏らす。
「ちなみに、シイナとはどういう出会いなの?」
「悪い人に騙されて地球で売りとばれそうになった時に、助けて下さったのが彼女です。それ以来、故郷の村の場所もごたごたで判らなくなってしまったものですから、シイナさんの世話になっているんですよ……」
……というような会話をしているうちに、一行は「迷いの森」に到着したのだった。
■
森へ近づくにつれて、野原は急に砂地へと変わる。
ごつごつと岩肌の目立つ、荒野だ。
その向こうに、「迷いの森」。
暗雲立ち込める、昼なお暗き呪いの森が冒険者たちの前に立ちはだかっている。
「いと凄まじきは『鏖殺寺院の呪い』なりけり、か」
「5000年前、か。元はシャンバラ王国の森だったのよね」
歴史の授業を思い返してみる。
■
「さて、俺達別行動組はここで別れるとするか」
紗月が言って、別行動組はナナ達と別れた。
今後彼らは彼らの目的に従い行動して、夜には「野原キャンパス」へ戻って成果を報告することになっている。
「気をつけてくださいね。ああ、念のために、私の携帯電話の番号を!」
ナナは自分の携帯電話の番号を、まだ知らない参加者達に教えて回る。
「何かあったらこちらの責任者は私ですから、すぐに御連絡して下さいね」
心配性の彼女は、いつまでも不安げに別行動組の後姿を見送るのだった。
■
そうした次第で、ナナと行動を共にするのは以下の7名となった。
エル・ウィンド(える・うぃんど)、影野 陽太(かげの・ようた)、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)、赤羽 美央(あかばね・みお)、霧雨 透乃(きりさめ・とうの)、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)。
「とはいえ、このまま森に突っ込むってのも芸がないよな」
エルはふむと思案すると、ひらめいた! と声を上げる。
「ボクは【町民討伐隊】の動きを探ってくるよ。という訳で、皆はここで少し待機していてくれないか?」
特に先を急ぐ訳でもないナナ一行は、全員頷いて休息を取る。
……はずだったが。
「何悠長なことを言ってるのよ! 一刻も早く町長を退治しなくちゃ! あのルミーナさんの笑顔は、永久に戻ってこないかもしれないのよ!」
アリアは激高する。
タアーッと森の中へ駆け込んで行ってしまった。
1人、無謀にも館を目指して。
「アリアさん、アリアさん! 戻ってください! ああ……っ!」
ナナが森の外から声をかけても、もはやアリアの気配すらない。
「迷いの森」は既に姿を変えていて、彼女が使った入口は茂みに隠されている。
携帯電話も電源を切っているせいか、アリアからの応答はなかった。
「待つしかないですよ」
うろたえるナナに、凛として美央は意見する。
彼女の冷静さに正気を取り戻したナナは、そうですね、と携帯電話を握りしめてヨロヨロと立った。
「あとはエルさんが、何か有力な情報を町民達から聞き出せればよいのですが……」
だが、バカは1人とは限らない。
その時ナナ達の傍を、「光学迷彩」と「迷彩塗装」と「殺気看破」でガードした国頭 武尊(くにがみ・たける)が、意気揚々と森の中に足を踏み入れていたのだった。
■
その頃――。
ナナのヒーロー――エル・ウィンド(える・うぃんど)は「隠れ身」で身を隠しつつ、【町民討伐隊】の動きを探っていた。
彼らはナナから少し離れた個所にある森の入り口前で結集していた。
その数30名――粗末な防護服に錆びついた槍など、明らかに貧弱な装備である。
「だが、町のことは町の奴らがなんとかせにゃ!」
彼らは悲壮な決意で森に入ろうとしていた。
「で、何か策はあるのかい?」
町民の1人がリーダーらしき男に尋ねる。
「あ? ああ、これさ!」
リーダーは「きれいな指輪」を掲げて見せた。
「何だか知らねえけど、町長さんが森の手前で指輪使ってんのは有名な話さ。じゃから、これでうまくいくと思うんだけどな」
(狙い通りだぜ!)
エルは興味津々に耳を傾ける。
(町民達は森の切り抜け方を知ってる。そう睨んだボクの目に狂いはなかった!)
だが、男が「きれいな指輪」を掲げても森には何の変化も起きなかった。
「あれえ、町長さんでないと駄目なんだかな?」
その言葉に、エルはズッコケる。
(ゲエッ、何も知らねえで行こうってのこいつら! バカじゃねえの!)
という訳で落胆したエルはナナの元へ戻り、独自の対策を講じる羽目となった。
■
エルが去った後。
アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)、ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)、シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)の3名は、森の情報について聞き出すべく【町民討伐隊】の面々と接触を図っていた。
「ああ? こんなご時世に危険な場所で散歩かい?」
町民達は3人がパラミタ人ということで、警戒を解く。
もっとも実際に聞き込みに近づいたのは2名で、シルフィスティは砂地に腰かけてキャンパスを取り出し、のんびり森を写生している。
「俺ら、森のどこが危険なのかと思ってさあー」
「そうそう! 不用意に森に入ろうとする奴らに、忠告してあげようかと思いまして」
アストライトとヴィゼントが言うと、町民達は、
「見た目はともかく、感心な若者達よのうー」
しきりに感心して、知り得る限りの情報を提供してくれた。
「なりほどな! 森を切り抜けるには、ちょっとした『仕掛け』が必要なんだと」
町民達から調査を終えた2名はシルフィスティに報告がてら、情報をまとめる。
「町長さんは指輪と音楽を使って、森の中を自由に歩き回ってんのか」
アストライトが言う。
「いや正確には、指輪は森の手前で使って、曲はまた別の目的らしいですね。森の道々でランダムに使っているという話ですよ」
ヴィゼントがアストライトの話を補足する。
どっちでも同じことだろう! とアストライトがヴィゼントに突っかかる。
凸凹コンビが相争わぬうちに、シルフィスティはストッパーに入った。
「でもその指輪は、『きれいな指輪』ではないのね?」
2人は頷く。
じゃあ、皆にはこう伝えればいいんじゃないの? と2人に意見した。
「『森を抜けるには、指輪と音楽が必要だ。けれど『きれいな指輪』じゃない』、て」
そうした次第で、3人は手分けをして【青ひげ町長退治】組に情報を連絡して回ることとなる。
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