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ネコミミ師匠とお弟子さん(第1回/全3回)

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ネコミミ師匠とお弟子さん(第1回/全3回)

リアクション


(1)おいでませパラミタ! @並木

 ジャタの森のキャンプ場。ヴァイシャリーの湖に近い場所に位置するため、休日は魚釣りやボートを楽しむ人でにぎわっている人気スポットである。笹塚 並木(ささづか・なみき)は憧れの大江戸 ゴビニャー(おおえど・ごびにゃー)の弟子入りテストを受ける条件として、パラミタの高校に入学するという課題をクリアしなければならなかった。
「ねえねえ、転校させてくれる学校ってない!?」
 キャンプ場に同じ年頃の人間を見つけると、彼らの中に入って行って助けてくれそうな者を探した。小型飛空艇で移動中の閃崎 静麻(せんざき・しずま)は並木の姿を見つける。あまりに急いで走っている様子だったので誰かに追われているのかと思い、念のため近くに降りてきたところだった。薬草でも探していたのか、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)も少し土で汚れた手を拭きながらこちらに近づいてくる。
「おう、あんた。転校先を探しているのかい?」
「はい、ここの学校に入学できないと……師匠に弟子にしてもらえないんです!」
「私はイルミンスールの学生だが、学校に入っていないのか?」
 博識な涼介は彼が自分より後輩だと判断して、ちょっと助けてあげることにした。
「へぇー大変だね……あ、そうだ! ボクお手伝いするよ!」
 並木の声が大きかったため、近くを歩いていた鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)も話の輪の中に加わった。彼は親切心というより好奇心での参加なのだが、並木にはありがたいことこの上ない申し出である。
「ボクもあんまり知らないけど少しくらいなら知ってるし、一人で探すより楽しいよ! ボク、鏡氷雨。よろしく」
「笹塚並木です、よろしくお願いします。あの、皆さんの名前も教えてください!」
「本郷 涼介、学院では薬草学とクトゥルフ神話学を専攻している」
「俺も? 閃崎 静麻だ。まぁ、もう少し奥まで行けば他の学生もいるだろ。荷物、運ぶか?」
 静麻は外見上2人がどちらかわからなかったので控えめに申し出る。すると、氷雨はせっかくなので荷物を静麻の飛空挺に預けることにした。並木はまだ警戒しているのか、感謝はしつつも自分で運ぶことにしたようだ。
「あのね、パラミタには今、学校が7つあるの。

【蒼空学園】が、地球と同じ感じの学校。
【イルミンスール魔法学校】が、魔法使いさんが多い学校。
【シャンバラ教導団】が、軍人さんが多い学校。
【百合園女学院】が、お嬢様が多い学校。
【薔薇の学舎】が、綺麗な男の人しか入れない学校。
【波羅蜜多実業高等学校】が、モヒカンさんが多い学校。
【葦原明倫館】が、最近できた和風の学校なんだよ」
「モヒカン??」
 1度にたくさん教えてもらって、少し混乱しているようだ。
「ま、そんな感じだろうな。いろんな人に聞いとけよ、後悔しないようにな」
「もう少し詳しい説明をつけたのをメモにしておくか」
 氷雨のレクチャーに静麻は頷いたが、涼介はもう少し詳しい説明を加えることにした。メモ用紙に自分の説明を加えるとピリピリと破って並木に渡してやる。


■本郷 涼介のメモ
蒼空:日本式の普通科校。日本人には馴染み易いがエリート校故入学試験が難しい。
イルミン:私の通っているドイツ式の魔法学校。魔法の才が無いと入学が難しい。けれど騒がしくも楽しい学校である。後、武術部があるのも特徴。
教導団:軍事学校。防衛大学や士官学校などをイメージしてもらえば良い。
百合園:日本風のお嬢様学校。中高一貫の女子高なので男子禁制。人の和を重んじるところがある。
薔薇学:男子校。古代ギリシャの教育を理想とし、文武両面においてトップクラスである。
パラ実:自由な校風の学校だがいろいろな意味でタフじゃ無いとやっていけない。
明倫館:最近出来た学校でイメージとしては江戸時代の藩校。文武を鍛え、葦原藩に仕える家来を育成している。


「おお〜っ、これは分かりやすいですね! 助かりますっ!!」
 並木は涼介にもらった紙を何回も見直すと、丁寧に畳んでポケットにしまった。
「ボクもそれぞれの詳しいことは知らないんだよねー。さっき蒼学の人がいたから、詳しいことはその学校の人に聞こう! 一緒に頑張ろうね!」
「はいっ♪」
 氷雨と並木はてってってーと蒼学生のいる場所に向かって走って行った。涼介と静麻も危なっかしいので付いてやることにする。



「家出同然かいな……」
「弟子入り目的にパラミタ突貫、ですか。これはまた猪突猛進な方ですね……その心意気と行動力は正直凄いと思いますよ。でもね……?」
 蒼学生集合という氷雨の声に集まった浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)樹月 刀真(きづき・とうま)酒杜 陽一(さかもり・よういち)瀬島 壮太(せじま・そうた)は並木の話を聞いて眉をひそめた。彼らは事情があって両親と会いたくても会えなくなってしまったのだ。
「両親に何も言わず出てきたのダメですよ。今のご時勢、子を子とも思わない親が居ますけれど大半の親は子どもが可愛くて、心配で堪らない筈です」
「親に満足な説明もしないまま飛び出す馬鹿が……そうやって自分の事しか考えてないから、ゴビニャーも迷惑がってお前を弟子にしないんだよ」
 翡翠の話に刀真も冷たく乗っかってくる。彼は並木が両親を心配させているであろうことが気に入らないのだ。並木はむっとした表情を作るが口を開く前に次の説教が来てタイミングがつかめない。
「まあまあ、なあ。並木だっけか。1つおごってやるよ、何がいい?」
「……じゃあ、メロンをお願いします」
「はいよ」
 キャンプ場でかき氷売りのバイトをしていた壮太は、シロップを多めにかけてやるとずいっとそれを渡した。
「弟子入りしたいって気持ちは分かるけどよ、転校するにも何するにもまず金がいるんだぜ」
「並木様のご両親はどんな方でしたか? 優しい方? 厳しい方? ……どんなご両親でも平気で子を捨てるような親で無い限りきっと貴方を心配なさっている筈……」
「お前が無茶できるその金がどこから出てくるのか、分かるか? 親の脛齧ってる奴が軽々しくやっていいことじゃねえわな」
 うんうん、と頷きながら体育教師の陽一は武術家としての精神面を並木に示した。
「相棒が言ってたが、武術とは生存の術であると同時に、よりよく生き方をする為の思想でもあるのだと。だから、暴力の伴わない社会生活も立派な武術の範疇なのだとさ」
「ちょ、ちょっと待ってください! 確かに自分は両親の許しを得ずにここに来ています、でも……!!」
「まあ聞きなさい。並木君は、今の自分が本当に武術家たりえると思うか? 自分の好きな事に夢中になって、周囲に迷惑をかけて尻拭いをさせて、それを気にも掛けない。そういう自分の事を自分できちんとできない子供が、他者に範を示せる武術家になれるか?」
「お前がまずやる事はゴビニャーに弟子入りする事じゃなくて学校への入学を決めて親に大丈夫だと報告する事だ」
 1人1人の言っていることが正しいのは勿論分かるが、並木には彼らがどういった立場からそういった発言をするのかが分からない。陽一のように教師の立場ならともかく、初対面の年の近い人間に説教されるのは少々誤解されている気分だ。
「武術は、ナイフの様に危険な技術だからこそ、社会人としての礼節やそれを重んじる精神が求められる。それに、自分を生んで育ててくれた人への恩を仇で返すような真似をして何も思わない人間は、どんなに強くても誰かに本当に認められる人間にはなれないだろう」
 陽一は教師だ。学生を指導する義務がある。自分の学校の生徒でなくとも、自由とわがままを間違えている子供がいたら大人の立場から話をしようと思っていた。
「いえ、心配しているだけならまだいいあくまで可能性ですが、下手したら貴方の様にパラミタに乗り込んで来るかもしれない。それがどれだけ危険な事かは解るでしょう?
 それでもしご両親に何か有れば貴方は後悔するかもしれない。だから一度家に帰り両親を説得した方が良い」
 親に捨てられ、師に育てられた翡翠も親身になっての助言だった。施設を出てから苦労した壮太も、両親を殺された刀真も、恵まれた環境を蹴って弟子入りを希望する並木が許せなかったのだろう。
「まあ、オレは不幸自慢したいわけじゃねえ。親御さん大事にして、転校先が決まったらすぐに教えてやれよ」
「確かに君の人生は君の物だ。だが、決して君ひとりの力で築かれた人生ではない事を自覚すべきだ。それを踏まえて今一度考えた上で、地球に帰るかパラミタに残るか、改めて決めればいい。但し、無茶な人生を選ぶなら、その代わりに何かを犠牲にする覚悟は決めるべきだ

「俺は、きちんと御両親を説得すべきと思うがな。まあ、武を極める為なら全て捨てても構わないと真剣に思ってるなら、もう何も言わんよ」
 黙っている並木を見ると、刀真はため息をついて親の連絡先を訪ねた。蒼学は地球でも有名な御神楽環菜であり、女王候補ミルザム・ツアンダの親衛隊であるクイーン・ヴァンガードの彼は並木をスカウトしてもいいと考えていたようだ。
「1年です」
 並木は、ごちそうさま。と、空の容器を壮太に返すと薄く笑って4人の顔を見た。
「1年、説得しました。この小型結界装置はコツコツお金をためて買ったものです。勢いで来たのは間違いありませんが……」
 ありがとうございましたと頭を深く下げると、並木は別の学校の学生がいる場所に向かうことにした。お互いに擦れ違いがあったのは間違いないし、並木の行動は人に褒められるものではないだろう。でも、なぜ弟子入りしたいのか、なぜいきなり来ることにしたのか。それを聞いてくれる人がいたら、もう少し違う結果になったかもしれない。涼介がくれたメモに、静麻に申し訳なさそうにしながらも蒼学の部分にバッテンを付けた。


 離れた位置にいたため細かい話は分からなかったが、あまりいい雰囲気では無いのを察した涼介は並木にお茶を差し出した。
「ありがとうございます!」
「キャンプ場いけば他の学生もいるぞ……って、おわぁー!!!」
 静麻も上手くいかなかったらしいと思い先ほど空から見えた方向に並木たちを連れて行こうとしたのだが、足元を銃弾がかすめていって驚きの声を上げる。続いて何本かの木がこちらに向かって倒れてきた。
「銃の撃ち方教えてくれよ! 君、得意なんだろ?」
「おうよ! この位、ちょろいぜ! ……って、おいおい、あいつらのところに弾行っちまったみたいだぞ」
 少し離れたところで飛鳥 桜(あすか・さくら)ギルベルト・シュタイナー(ぎるべると・しゅたいなー)を修行に付き合わせているところだった。ギルベルトは暇そうだと判断した桜に誘われて修行に来たのだが、新技を編み出そうとしているうちに銃に興味を持ったようだ。さらに向こうではエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が鉄甲を使って森林破壊をしている。
「わわっ。銃弾!?」
 日本育ちの並木は銃を間近で見たことがない。
「……あれ、さっき蒼学組としゃべっていた人? 転校できる学校さがしてるの?」
「入学条件なんて検索して、編入試験を受けとけってな。ま、とりあえず蒼学、ってことでひとつ」
「並木君とやらがどうなろうがボクには関係の無い事だけれど、騒がしくてたまらないね」
「それより、貫手は、もっとこう、いっそ相手を貫通するくらい思いっきりだよっ!」
 見ると、深紅のゴシックドレスに身を包んだ繭住 真由歌(まゆずみ・まゆか)ノートリアス ノウマン(のーとりあす・のうまん)をひきつれて会話に参加してきた。彼女は暇つぶしに散歩に来ていたようだが、公園を全力ダッシュする並木や流れ弾を飛ばす桜が気に食わなかったようだ。むしゃくしゃするのでいたぶる相手を探しているらしい。桜とエヴァルトを見比べている。
「地上からパラミタに来た命知らずが……まぁ、折角こうして出会えたのだし、少し位ボクの暇潰しに付き合って貰っても構わないよね? そっちの勘違い馬鹿でも構わないよ……」
 ヒーローとして修行に来ていただけあって、桜は真由歌のどす黒いオーラを敏感にかぎ取ったらしい。腰に手を当て不敵に笑い、人差指で本日の修行相手を指名した。
「そんなことより、僕と勝負してくれよ!」
「ふふ、屈辱をその身に刻ませてあげるよ」
「言っとくけど、僕は手強いよ」
 女性同士のメラメラした闘志の中に入り込める雰囲気はなかった。第一、忘れられがちだが並木は「契約していない」ため、契約済みの地球人と互角に戦えないのだ。例えるなら素人とオリンピック選手くらいの身体能力差が出来ているわけで、スキルを使われたら勝てる余地はない。そもそも素手なので飛び道具なんて使われたら、キャンプ場なんて開かれた場所だと絶体絶命である。
「並木、ここはボク達がどうにかしてあげる。最後まで一緒にいてあげられないのは残念だけど、いい学校が見つかるといいね。今度会えたら、変なあだ名をプレゼントするよ」
 氷雨達は並木が戦闘に巻き込まれる前に逃がしてやることにした。ここでいったんお別れである。
「氷雨ちゃん、本郷さん、閃崎さん、ありがとうございます! パラミタの学校に頑張って入学しますね〜!」
 並木は湖に近いキャンプ場に向かっていった。氷雨は『自分が何処の学校か言うの忘れたけど……まぁ、いっか』などと考えた。あの後ろ姿が見えなくなるまで念のためここで桜と真由歌を見張っていることにしたようだ。


「ノウマン、戦闘モード起動」
 ノウマンは真由歌の命令を聞くと機械音を出しながら、桜をターゲットだと認識した。殺しが目的ではないため武器の使用は控えているが、3メートルの巨体から繰り出される攻撃次第では素手のほうがダメージがあるだろう。真由歌はここに来るまでに楽しんでいた、今では少しさめたお茶を飲むとその味に舌打ちした。
「お茶なんて1杯如何かな。ボクの冷めた紅茶では口に合わないだろうから、地面をはいずりまわって泥水を啜ればいいよ。そっちの先生はどうかな、お弟子さんと一緒に?」
「あいつは俺の弟子じゃねえよ。まあ、妹みてえなもん?」
 暇にしていたギルベルトはブログ用の写真を撮影していた。彼のブログのログイン数は聞いていいものかわからない。
「………」
 バーストダッシュ後に爆炎波でノウマンを切りつけたのが決闘の合図だった。素早く動き回る桜に対し、ツインスラッシュで反撃している。決め手に欠けると判断した真由歌がハンドガンを取り出すが、ひょいっとギルベルトに取り上げられてしまった。
「弟子とか兄弟がいると確かに大変だぜ! ……でも、結構悪く無い! 『楽しい』からな!」
 妹が楽しそうに戦っているのを見たギルベルトは、気がすむまで放っておいてやることにしたようだった。
「これが飛鳥流さ! 僕は手強いって言っただろ?」
 桜は手ごたえのある相手が見つかって嬉しそうだった。


 トンファーなどにも興味を持っているエヴァルトは、改造して指先を尖らせた鉄甲で新技を試したがっている。練習相手に並木を使いたかったようだが、氷雨達が逃がしてしまったので不完全燃焼のようだ。
「……しかし、こんな『硬い』装備だからこの森に住むと言われる『肉球』拳法の達人とは相容れないかもしれない」
「知らない相手なら他にもいるじゃない?いい練習になるでしょ。……それなりに腕が立つみたいだし」
 考えた末、丈夫そうな相手なら大丈夫だろうとエヴァルトもノウマンに向かっていった。かといって桜の加勢をするわけではないので三つ巴状態である。
「もう! こんなに馬鹿にされちゃ、黙っていられないよ!! 飛鳥流剣術奥義! 黒十字・紅蓮一閃!」
 対戦相手のノウマンに攻撃され憤慨した桜はエヴァルトにもしかけてきた。エヴァルトは両手両足をはじめとして、肘打ち、膝蹴り、背を使っての体当たり等、体全体を武器として応戦している。
「それにしても、噂に聞いた肉球拳法の使い手……可愛いんだろーなー」
 ロートラウトは適当にギルベルトを六連ミサイルポッドで攻撃しながら、のんびりと独り言を漏らした。