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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ-ヨサークサイド-2/3

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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ-ヨサークサイド-2/3

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chapter.4 カシウナ襲撃2日目(1)・深夜にはしゃぐ人々 


 日付が変わり、深夜を迎えたカシウナ。
 しかしいつもの静かな夜はここに来ない。空賊の雄たけびや物を壊す音が鳴り響くのを、住人の中で避難を終えた者は離れた避難地から不安そうに聞いていた。
 取り急ぎ撤退戦を終えたヴァンガード勢が住人を誘導した避難地は、西に位置する旧市街地区だった。元々無人地帯として存在していたこのエリアは寂れた様相を呈しており、いずれ空賊がここに来たとしてもさほど侵略は受けないだろうという目算があったためである。また、子供や老人を含めた多くの住人を避難させるには、ここまでが限度だったというのも大きな理由である。一晩経ち逃走のための体力が回復したら、もしくは危険が及ぶほどまで空賊が差し迫ってきたら町外へと逃がす算段である。
「俺らの街が……」
「なんだってこんな急に……痛っ」
 大半の住人は大怪我もなく済んでいたが、中には逃げる際にちらほらと傷を負った者もいるようだった。そんな住人たちの様子をひとしきり眺めた一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)は、ヨサークの船乗船時から共に行動していたセシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)に告げる。
「これは治療しがいがありそうね。わざわざ東地区からここまで来たかいがあったというものよ。言ったでしょ? 船医の仕事は、怪我人を治療することだって」
「……医務室のベッドで横になって漫画読んでたおぬしが、よく言うのう」
 ふたりの会話が示す通り、彼女らは乗船時に船医として乗り込んだ……が、実際真面目に仕事をしていたのはセシリアとそのパートナー、ミリィ・ラインド(みりぃ・らいんど)のふたりで、月実とパートナーのリズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)は基本的に寝るか漫画を読むかしかしていなかった。カシウナの襲撃が始まってからもそれは変わらず、しばらくの間月実はごろごろしていた。
「私たちが怪我したら怪我人を治療する人がいなくなるでしょ? だから私たちは身を危険に晒せないの。戦闘行為なんてもってのほか。ならばすることはひとつ、安全なここにいることよ」
 というのが彼女の言い分であった。やぶ医者どころか完全なるダメ医者である。見かねたセシリアが、応急処置セットを手に月実たちを半ば強引に外へ引っ張り出し、住人のいるこの場所まで連れてきたのだ。そんな相変わらずなふたりを横目に、ミリィは「はあ」と溜め息を吐きつつ言葉を漏らす。
「あたしも戦うのは嫌だったから、月実さんを支持しようと思ってたけど……やっぱりこうなるのね」
「溜め息なんか吐いてどうしたのー? 疲れたの? 人生に疲れたの?」
 ミリィの独り言に、リズリットがかわいそうな人を見るような目で尋ねる。
「なんでよ! あたしまだ10歳よ!? なんでそんな残業続きのサラリーマンみたいな理由出てくるの? あんたの相手する方がよっぽど疲れるんだからね?」
「あー、そんなこと言っていいのかなー。人体模型のくせに。お腹に十二指腸描いちゃうからね。ていうかもう描いてるけど」
「えええっ!? あ、ほんとだ……いつの間に!?」
 そろ、っとお腹を見るミリィ。そこには殴り書きで汚らしい内臓が描かれていた。どうやら役割分担の時にミリィを人体模型役としたのが思いのほか気に入っているらしかった。そんなふたりはさておき、セシリアは真面目に怪我をした住人にナーシングを施していた。そのすぐ近くでは意外や意外、月実もそれなりに手当てをしていた。
「ほお……あやつもやる時はやるのじゃな」
 それを見て感心するセシリアだったが、直後その顔が凍りつく。
「これで良し……と。そうだ、ついでに聞かせてもらおうかしら。この街に何か特産品はない?」
 月実は、なんと手当てしたばかりの住人に銃を突きつけて尋問していた。とても教導団生徒とは思えぬ言動である。
「おおおおおおぬし、何しとるのじゃ!? 一般人に銃口を向けてはいけないぞえ!?」
「安心して、一命は取り留めるわ」
「いやいやいや、それ撃つ前に言うセリフではないじゃろうが!」
「月実さんそんなことしないで! あたしたち一応ヴァンガードなんだからね! ただでさえ評判良くないのに……」
 どこからの評判が悪いかは置いておくとして、セシリアとミリィふたりに止められた月実はすっと銃を降ろした。さすがに、おそらく本物の銃ではないだろうが、その真相は月実にしか分からない。
「ぎょ……」
「え?」
「餃子です、この街の特産品は、餃子です……」
 ガタガタ震えながら、住人のひとりが言った。
「ありがとう。親切な人ね。じゃあちょっとリズ、悪いけど餃子人数分確保してきてもらえる?」
 呆れ顔のセシリアとミリィを無視するかのように、月実はテキパキとリズリットに指示を出していた。そして、しばらくしてリズリットは月実の言う通り、餃子を持って帰ってきた。3人前。
「ほんとに持ってきてるし……あれ、これ、ひとり分足りなくない?」
 ミリィが指摘しているそばからリズリットは月実とセシリアに餃子を配り、自分もパクパクと食べ始めていた。
「ん? なんか言ったみりんこさん」
「薄々感づいてはいたけど、あたしのはないのね? もうほんと、この悪魔っ子は……」
「あれ、みりんこさん餃子嫌いじゃなかったっけ? 餃子食べると血管ぶち切れて、全身から血が噴き出して死ぬんじゃなかったっけ?」
「何その奇病!? 聞いたことないでしょ!? 普通に食べられるに決まってるじゃない!」
「あ、食べるんだ。じゃあはい」
「え……あ、ありがと」
 珍しく素直に餃子を分けてくるリズリットを少し不審に思いつつも、ミリィは餃子を受け取り口にした。
「ん、おいしい……」
「そう言えば、住人がほとんどここに避難してるのに、よく買えたわね」
「うん、あっちの店先に置いてあったから持ってきた」
 月実とリズリットの会話を聞いて、セシリアとミリィがぶふっ、と餃子を噴き出す。
「お、お金払ってないのこれ!?」
「まあ、ツケにしておけば問題なさそうね。請求先はクイーンヴァンガードで」
「こうして私たちは、ただ食いの大泥棒ミリィの下、おいしい餃子を食べたのでした」
「ちょっと、あたしが首謀者みたいなナレーション挟まないで! 取ってきたのあんたでしょ!? 支払う! 支払うからね!」
 そしてミリィはその後、「勝手に品物を持っていってしまってすみません」というメモ書きと共に代金を店へと置いてきたのだった。



 カシウナ東地区、ロスヴァイセ邸のある丘。
 玲奈たちがショウたちの飛空艇に乗り、ロスヴァイセ邸から発ったため現在この邸宅は無人となっていた。暗がりの中、その邸宅に入り込む影がふたつ。国頭 武尊(くにがみ・たける)とパートナーの猫井 又吉(ねこい・またきち)である。武尊は光学迷彩と殺気看破使用で警戒を強めつつ、ところどころ鍵がかかっている部屋をピッキングで開けながら邸内を歩いていた。まるで泥棒のような振る舞いである。
「しかし、武尊も懲りねぇなあ。もう入団は諦めた方がいいんじゃねーか?」
 又吉が、前を歩く武尊に言う。
「いや、オレはこの家でお宝を探し出して、ヨサークに献上するんだ。そうすれば今回こそ功績が認められて、晴れて入団だ」
 武尊はこれまで幾度となく、空賊団へ入るため行動してきた。ある時は敵船に乗り込み戦ったり、ある時は敵の乗り物を潰そうとしたり、またある時はヨサークのプロモーションビデオを作ろうとしたり。しかしいずれも、本人の空回りによって不発に終わり、未だに入団を果たせずにいた。
「ただヨサークも、もう女王器だの大勢の部下だのを手にいれちまったみたいだし、ちょっとやそっとのお宝じゃヨサークの心は動かないだろ」
 武尊とは反対に、又吉はあまり入団に対し積極的ではないようだ。しかし彼が武尊に従いこの屋敷に忍び込んだのには、理由がある。又吉はトレジャーセンスを使いながら、特技である捜索をさりげなく行っていた。一体彼は何を探しているのか?
「このへんのタンスに入ってそうな気がするけどな……」
 そう、フリューネのパンツだ。
 フリューネの人気を知っている彼は、パンツを見つけたらオークションで売りさばき、大金をせしめようとしていた。
「おい又吉、又吉も何か探してるのか?」
 同様にトレジャーセンスを使いお宝を探している武尊が、やたらタンスや衣装ケースを漁っている又吉を見て尋ねた。
「ん? 俺のことはいいから、武尊は頑張ってお宝見つけろよな」
「お、おう……」
 並々ならぬ又吉の迫力に押され、数歩下がりつつ武尊は返事をした。その時、武尊の手に何かが当たる。何かが入ったケースだ。武尊はおもむろにケースを開けると、中身を見て驚いた。一体彼は何を見つけたのか?
「これは、もしかして……」
 そう、フリューネのパンツだ。本来、この時点ではこれがフリューネのものだと断定不可能なはずである。パンツを手に取った武尊が確信した根拠は、男の本能によるものと言わざるを得ない。又吉もまた、ほぼ同時にその存在に気付く。
「武尊」
「ああ。目を凝らさずとも感じてしまったぜ。レアモノだ。欲をそそる……」
「ちっ、俺もレアモノを手に入れるぜ!」
 又吉が負けじと家捜しを続ける中、武尊はあることを思い立った。
「そういや、パンツ女って結構強いって噂だったな……」
 故事では、勇者の血肉を喰らう事でその力を取り込むという行為があったようななかったような。さすがに血肉とまではいかないが、パンツで代用は出来ないものだろうか。
 武尊は考えを巡らせると、ゆっくりとその手に持ったパンツを頭上へと持っていく。そして。
 すぽっ、と。武尊はフリューネのパンツを頭に被った。これには又吉もびっくりである。
「ぶ、武尊!?」
「いや、これをはいたらそりゃ変態だが、被るのはセーフだろ」
 アウトです。
 その後、武尊は見回りに来ていたヴァンガード隊員に厳重注意を受けた。

 制圧開始から6時間40分経過。現在時刻、01時40分。
 丘の上に泊まっている船に、ヨサークは戻ってきた。一旦船の中で、仮眠を取るためである。その後ろには、先ほどまでヨサークと一緒に広場にいたザクロの姿もあった。ふたりが船に入っていくのを、物陰から窺っていたのは八ッ橋 優子(やつはし・ゆうこ)とパートナーの港町 カシウナ(みなとまち・かしうな)である。カシウナは、ヨサークの船を見つめて決意の言葉を口にした。
「待っていてね、みんな……!」
 カシウナは、その名の通りこの街の地祇である。襲撃中偶然優子と出会い、街と住人を守るため契約を果たしたのだ。その彼女の隣では、優子が塩をぎゅっと握りしめている。どうやらロスヴァイセ邸襲撃時に使った塩をまだ持っていたらしい。反対の手には、どこかのドラム缶の中に、タオルケットで包まれていた餃子の皮も納まっている。ここだけ見ると、これから何か料理でもつくりそうな雰囲気である。
「準備はいい?」
 カシウナが、優子を促す。その優子は、なぜかゴスロリ眼帯を装着しながら返事を返す。
「いつでもいけるよ」
 その言葉を合図に、ふたりは船へと走り出した。
 そのまま船内へと移動したふたりは、運が良いのか悪いのか、すぐにその船の持ち主と遭遇することとなった。言わずもがな、ヨサークである。
「なんだ? こんな夜更けにガキ共がうろついて。とっととカビ臭え布団に入ってろ」
「……おいイモ、見た目で馬鹿にするな」
 優子はヨサークの言葉に納得がいかないのか、ドラゴンアーツを使い近くにあった荷物を軽々と持ち上げてみせた。そしてそれを、ぽいと放り投げる。中には割れ物が入っていたらしく、ガシャンと中から音がした。
「あ!? おめえ……何してくれてんだこらあ!?」
 喧嘩になりそうな雰囲気を、カシウナが慌てて止めに入る。
「ごめんなさい! この子、役に立つことをアピールしたかっただけなの。この子は親をなくした街の子供。そして私は、ここカシウナの地祇。あなたたちはこの地を統治しようとしているのでしょう? なら、ここの地祇である私もそれに従う。あなたたちのお手伝いをさせて」
「手伝ってあげるって言ってんだから、ありがたく受け取っとけよイモ。それとも何、ヘイヘイホーとか言ってほしいのか?」
「優子……!」
 完全にガンをつけている優子を、カシウナがたしなめる。優子は、本心から空賊団を手伝いたいと思ってはいなかった。否、それは彼女を注意しているカシウナも同じである。彼女らの目的は、女王器に関する情報収集であった。何を隠そう、優子はあのフリューネの弟子を名乗るほどフリューネをリスペクトしており、彼女のところから女王器を奪ったヨサークに憎しみこそあれ親しみを覚えるはずもなかった。優子は再び女王器を奪い返し、フリューネの元へ返そうとしていたのだ。
「お願い、荷物運びでも何でもするから」
 カシウナがじっとヨサークを見つめる。が、もちろんヨサークがそれに取り合うはずもなかった。
「うっせえぞメスガキ共。博愛主義みてえなオーラ出しやがって。おめえは黄色い服着たヤツらに募金でもしてろ! そっちのガキも、横浜出身みてえな小洒落た雰囲気醸しやがって。どうせアレだろ? 大黒ふ頭とかマリーンルージュあたりで夜な夜な援交に励んでんだろ? ハマっ子だからって調子乗ってんじゃねえぞこらあ!」
「……黙れ童貞。童貞のまま死にたいのか」
 ここまでどうにか一線は踏みとどまっていた優子だったが、さすがに限界を超えたのか、ヨサークに突っかかっていった。
「下ネタとか中坊臭いんだよ。ワルぶりたいお年頃か? ガイアはあんたに囁いてないから」
「……いい度胸してんじゃねえか。クソ浜が! おい、誰かこいつのこと縛っとけ!」
 ヨサークが怒鳴ると、船の奥から団員のナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が出てきた。
「任しといてくれよ頭領ォ!」
 ナガンは手際良く縄を優子たちに巻いていく。抵抗しようとする優子に、ナガンの小さな声が届く。
「おっと、今下手に暴れない方がいいぜェ? 頭領を殺させるわけにはいかないんでなァ。それに、人を殺すなんて大犯罪やっていいのは、パラ実だけなんだぜェ」
「……おい、その縄なんか細くねえか」
「とりあえず動けなくすりゃ充分ッスよ頭領!」
 様子を見ていたヨサークの疑問に、ナガンは作業を続けながら答える。優子は自分に巻かれた縄を見る。確かに、思いっきり力を込めれば引きちぎれそうな細さと縛り方である。
「頭領、早く自由な空が手に入るといいッスね」
 縄を縛り終えたナガンが、何気なくヨサークに話しかける。その言葉を聞いた優子はぴくりと眉を動かし、身動きの取れないままの姿で毒を吐いた。
「はっ、自由な空? あんたたちがハエみたいに飛び回ってる限り無理だね。あんたは自由になんかしてない。支配してるだけだ」
 それは、隣で肩を落としているカシウナを察しての言葉だろうか。優子はついに、自身の目的を含んだ本音まで口にした。
「夕日に暮れなずむなんてかっこいい姿が似合うと思ってんのか。それが似合うのは、霜のような透き通った白い肌を持つフリューネの方だ。あんたに霜みたいな白い肌があんのか。あんたはイモだ。泥にまみれろよ」
「優子……」
「さっさと解散しちまえ、こんな空賊。そして女王器返せ」
 彼女の口から出たその本音は、誰を、何を思ってのことか。それは彼女にしか分からない。ヨサークは言葉を返すこともなく、ナガンと共にその場から去っていった。そして彼は、そのまま寝室へと向かうのだった。
 制圧開始から7時間10分経過。現在時刻、02時10分。