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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ-ヨサークサイド-2/3

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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ-ヨサークサイド-2/3

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chapter.5 カシウナ襲撃2日目(2)・船内の攻防 


 コン、コンと部屋をノックする音が静かに響く。
「……あ? 誰だ?」
 数時間の仮眠をとるため横になろうとしたヨサークは、ドアを開ける。そこには、影野 陽太(かげの・ようた)が立っていた。
「おめえは……何度か会ってるな。何か用か?」
「あ、あのですね、ヨサークキャプテン、もしかしてこれからお休みになるところですか?」
「ああ。明日も襲撃はあるからな。今のうち万全な体調にしとかねえとよ」
 ヨサークに顔を憶えられていたことに少し安心したのか、陽太は自分の願いを言ってみることにした。
「も、もし良かったら、俺に女王器の番をさせてもらえないかなー……なんて思ったり思わなかったり……」
「女王器の? なんでまた急にそんなことやりたがんだ?」
 当然の疑問。それに、陽太は真っ直ぐな目で答える。
「ヨサークキャプテンには恩もありますし、尊敬もしています。けど、街を襲うのにはちょっと抵抗があったので、こういう形でお役に立てないかな、と思って……」
 ヨサークは陽太の目と向かい合う。その表情から、嘘をつこう、騙そうという気配は感じ取れない。
「つってもなあ。さすがにこれは……」
どうしたものかとヨサークが腕を組み考えていると、そこにナガンも現れた。
「頭領ォ、ナガンもいるから安心して眠ってていいぜェ?」
「……まあ、おめえもいんなら大丈夫か。つうか元々その宝自体、なんか価値があるらしいっつうんでよく分かんねえまま渡されただけだしな」
 今まで常に団員として働いてきたナガン、そしてヨサーク側で行動してきた陽太を信頼したヨサークは、ふたりに女王器の番を任せ眠ることにしたようだった。
「じゃあ、俺が起きるまでしっかり頼んだぞ」
 バタン、とドアが閉まる。ほっとした陽太は、差し当たって持っていた袋に女王器を入れ、外から見えなくした。
「勢いで番を買ってでて、任せられたのは嬉しいですけど、いざこうしてみるとドキドキしますね……」
 そっと言葉をこぼした陽太を、ナガンはじっと見ていた。
「……うん? ど、どうかしました?」
「団員、じゃねェよなァ?」
「え、は、はい、そうですけど……」
 ナガンは「やっぱり」といった様子で陽太の全身をもう一度見る。その姿は、どう見ても蒼空学園の生徒だ。ナガンは、心の中で呟いた。
 団員でも、パラ実でもない生徒が空賊に手を貸して、あまつさえ堂々と制服を着てやがるじゃないか。こういう悪事はパラ実生にのみ許された。純粋な犯罪行為。蒼空学園生だのヴァンガードだのに汚されたくないわ、と。そんなことだから、昨今のヴァンガードは評判が芳しくなく、そもそも自校生徒としてのモラルの欠如という問題が浮き彫りになっていて……。
 それから約10分ほど、ナガンはひたすら心の中で愚痴り続けた。その間もひたすら陽太に視線が注がれていたため、陽太はちょっと気味が悪くなった。そんな雰囲気を察してようやく我に返ったナガンは、ふと時計を見る。時間はもう深夜の3時に差し掛かろうとしていた。
 やむを得ない。ナガンは、我慢出来なかったのか陽太の体に突然上着をかけた。船内の衣類スペースにあったものだ。
「……え?」
 突然のことに戸惑う陽太に、ナガンが答える。
「寒くなる時間ですからね」
「あ、ありがとうございます……」
 急に敬語で話し出したナガンを不思議に思いつつも、陽太はその好意を受け入れた。ナガンは次に、同じく衣類スペースにあったと思われる麦わら帽子を被らせた。
「……え?」
「いやこれはほら、明日暑くなりそうだなと思って。今のうちに」
「あ、ありがとうございます……」
 よく分からないサービスだったが、自分のためにしてくれたこと、と思い陽太はそれも受け入れた。目深に帽子を被り、制服の上から上着を着ているその姿は、パッと見ではどこの誰だかよく分からない感じになっていた。ナガンはそれを見て、どこか満足した様子で陽太の隣で女王器の番へと意識を戻したのだった。
 なんなんだろう、この人。そんなことを陽太に思われながら。

 それから少し時が経ち、陽太は袋に隠しただけのこの状態に不安を覚えていた。もうちょっと、細工をした方がよいのではないかと。
 そう思い立った彼は、ナガンと共に隣室へと移動した。そして、持っていた宝石の彫像やら金の彫像、ガーネットなどを手当たり次第にそこらの箱へとしまいだした。
「何してんだァ?」
 ナガンの疑問に、陽太が答える。
「こうすれば、もし女王器を奪いに来た人にトレジャーセンスを使われた時、時間を稼げるかな……って思って」
 そして、とどめとばかりに部屋の中にトラッパーで罠も仕掛ける。防衛準備を完了した陽太は、これで安心といった様子で部屋で侵入者に備えた。もっとも、侵入者など来ないに越したことはない。だがしかし、それは訪れてしまった。
 ギイ、とゆっくりドアを開く音。女王器を狙わんと船に潜入しこの部屋に入ってきたのは、5時間ほど前に玲奈とジャックを飛空艇でヨサークのところまで送り届けた、ショウとアクアだった。彼らはタイミングを逃し一時は女王器の入手を諦めたが、この時間帯なら奪取することが出来るかもしれないと思い再び現れたのだ。が、そこにいたのは侵入者を待ち構えていた陽太とナガンである。
「ショ、ショウくん……!?」
 同じ部活動に所属し、陽太にとって戦友でもあるショウ。彼はその姿を見るや否や、驚きの声を上げた。が、一方のショウはその相手が誰なのかよく分かっていないようだった。陽太が麦わら帽子を被って上着を着ていたからだ。
「誰だか知らないが、女王器は渡してもらうぜ!」
「私たちは、クイーンヴァンガードの者です!」
 横で、アクアがエンブレムと籠手型のHCを見せる。それと同時にショウが先制攻撃を放った。それは、その身を蝕む妄執による幻覚攻撃だ。陽太とナガンが幻覚に気を取られた隙に、ショウはすかさず部屋の中にこれ見よがしに置いてあった箱を開けた。が、そこに入っているのは陽太の私物である。
「あれ……?」
 別の箱を開けても、出てくるのは陽太の私物ばかりである。ショウがすっかり戸惑っている間に、陽太とナガンは幻覚から解放されていた。
「頭領のお宝は渡せねェなァ」
 目の前には、戦闘態勢に入っているナガン。そのそばには、謎の麦わら男。数的には2対2なのだが、向こうのふたりが不気味過ぎたため、ショウたちは数歩あとずさった。その足に、陽太の仕掛けていた罠が引っかかる。簡単なワイヤートラップだが、ショウの体勢を崩すには充分だった。
「ちっ……このままじゃまずいな」
 自陣の不利を悟ったショウは、アクアを連れそのままバーストダッシュで部屋から逃げるように去っていった。
「ご、ごめんね……」
 陽太が小さく呟いたその言葉は、もちろんショウたちには聞こえない。



 同じ船内の一室。
 四条 輪廻(しじょう・りんね)はロスヴァイセ邸から船に戻った後、この異常事態を不審に思い船内を歩き回っていた。そして彼は、ある部屋へと辿り着いていた。
「街まで襲う……? このやり方は街も空もやせ細らせ、作物の育たない土が出来る……そんなことが分からん人間ではないはずだ」
 団員ではないものの、ヨサークを信じていた輪廻は、違和感を拭えずにいた。そして違和感の元を辿るため、彼は怪しいと思われるザクロのいた部屋を探していたのだった。部屋の中にザクロが身につけていたと思われるかんざしなどの装飾品があったことから、輪廻は今いるこの部屋がザクロが使っていた部屋だと推測する。もちろんそれだけで断定するのは早計ではあったが、運も味方したのか彼の推測は当たっていた。
「どうせ本人に聞いてもはぐらかされるのがオチだろう。なら、部屋を探るまでだ」
 それは、自分の行動が間違っていないのだと言い聞かせているようにも思えた。女性関係が苦手な彼にとって、女性の部屋に忍び込むというのは想像以上にハードな体験なのだろう。
「何か、手がかりになるようなものは……と」
 輪廻はなるべく早く部屋を去りたいのか、慌しい様子であちこちを探している。捜索の手を進めながら、彼は推理を巡らせる。
 元々足並みを揃える連中ではなさそうな空賊たちが、なぜこの時期に一斉に動いたのか。
 女王器がティセラのところはまずいのなら、フリューネでは駄目だったのか。
 なんらかの理由で自分が手に入れるため、噂を流してヨサークにまとめさせたのではないか。
「考えろ、考えろ……」
 その行動自体が自身の武器であるかのように、輪廻は繰り返しその言葉を呟く。と、その時輪廻の目が何かを見つけた。
「これは……本?」
 輪廻が手にとったそれは、一冊の書物だった。汚れ具合から見て、数年前くらいからの所持品だろうか。草書体で書かれた表紙の文字は一見しただけでは判別出来ず、当然中身も読み解くことは出来なかった。
「古典はさすがに専門外、だな……」
 それでも輪廻は、諦めずに本の端々から断片的な情報を掻き集めた。その結果、どうやらこれが大昔の日本を舞台に書かれた文学作品であることが分かった。さらに輪廻は、表紙をめくったところに書いてある2文字に気付く。
「澪……標……?」
 知識欲旺盛な輪廻は、その読み方を知っていた。
「みおつくし……? 確か、そんな巻名の話があったな……ということはこの本は……」
 さらに調べを進めようとして、輪廻は気配に気付く。バッと後ろを振り返ると、そこにはザクロが立っていた。一瞬にして、体から汗が吹き出る。
「こんな時間に、何をしているんだい? あまり良い趣味とは言えないねえ……」
 一歩一歩近付いてくるザクロ。輪廻は手に持っていた本を放り出すと、距離を保ちつつ一目散にドアへと向かった。そのまま部屋を出て、全速力でその場から走り去る。
「なぜ、あんな本を持っていた……? 考えろ、考えろ……!」
 息を切らしながら先ほどのことを思い起こす輪廻。だが、今の彼にそれ以上の答えを導き出すことは出来なかった。
 そんな彼のいなくなった部屋で、ザクロはそっと本を手に取り独り言を口にした。
「まったく、いけない坊やだねえ」
 出入り口を一瞥してからその本に視線を向け、ザクロはぱらぱらと本をめくった。
 それは、とある貴族が主人公の物語。何十帖にも及ぶ長い物語の中ザクロが手にした本には、主人公を思う女性が、主人公との身分の違いを嘆く詩が詠まれている話が収められていた。
 もちろん、輪廻はそこまで本を読み解けてはいなかった。



 制圧開始から9時間30分経過。現在時刻、04時30分。
 この時、ショウやアクア、輪廻の他にも船内へ忍び込んでいる者がいた。鬼崎 洋兵(きざき・ようへい)とそのパートナーのユーディット・ベルヴィル(ゆーでぃっと・べるう゛ぃる)鬼崎 リリス(きざき・りりす)の3人だ。機関室へと向かっていた洋兵は、苛立ちを隠せない様子で言葉を漏らす。
「前に農業の件で世話になったからちょっと恩返しでもしてやろうかと思って来てみりゃあ……何やってんだ、ヤツはっ!」
 そんな洋兵を横目でちらりと見て、ユーディットも悲しそうに呟いた。
「ヨサークさん……あの時農業を教えてくれたあなたは。もういないんですね……」
 このふたりは、以前ヨサークに農業について色々話を聞いていた。その時のことは当然記憶に残っており、恩も感じていた。が、久しぶりに目にしたヨサークの姿は、ふたりを落胆させるに充分な落差を持っていた。
「女性に冷徹ってのが元々気に食わなかったがよ、まさかここまで成り下がってるとはな。こんな侵略行為をするヤツに同情はいらねえ。派手にお灸をすえてやんねえとな」
 洋兵が機関室に向かっていたのは、動力部を破壊し、ヨサークの船を壊すためであった。そんな危険が迫っているとは露知らず、機関室でせっせと働く生徒がいた。乗船時からずっと機関室にこもり整備や点検を行っていた、一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)だ。アリーセはパートナーのリリ マル(りり・まる)と共に、こんな時間でも変わらず船のチェックに精を出していた。
「アリーセ殿、そろそろ眠くなってきたであります……」
「何言ってるんですか。あなたの機晶技術がないと整備が滞るでしょう」
「任されるのは光栄でありますが……そういえばアリーセ殿、さっきまで姿が見えなかったでありますが、どこに行っていたでありますか?」
「ああ、食料の備蓄が少なくなっていたので、そのへんにいた空賊の方にお使いを頼みに行ってました」
「空賊の方に……? だ、大丈夫なのでありますか?」
「大丈夫でしたよ。お金を渡したら、ちゃんと食料持ってきてくれましたし。やたら歯が痛いと言っていたのが気がかりといえば気がかりでしたけど。さっき厨房に寄ってそれらの食料を置いてきたところです」
 食糧の備蓄を終え、再びエンジンに触ろうとアリーセが腕をまくったその時、機関室の扉がバンと勢いよく開かれた。そこから、洋兵たちがズカズカと入り込んでくる。驚き、慌てだすリリとは反対に、落ち着いた様子でアリーセが問い掛ける。
「ここは機関室ですよ。何の用ですか?」
「用? なに、ちょっと飛空艇をぶっ壊しにな」
「……それは、聞き捨てなりませんね」
 アリーセがそう言い放ったのは、船自体を大切に思ってか、それともその持ち主を思ってかは分からない。が、動機はどうあれ洋兵たちを前にアリーセは立ちはだかった。
「洋兵さんの邪魔をする人は……眠ってもらいます」
 ユーディットが洋兵の前に躍り出ると、手をかざし雷術を発した。精密な機器が密集しているこの場所で雷は天敵である。アリーセはとっさにリリを掴むと、雷の前に放り出した。
「え……え?」
 当然、直撃を食らったリリはプスプスと音を立てながらその場にガタンと落下した。
「おじさんとお母さんが、何か怖いの。リリス、隅っこで黙ってるの」
「ああ、そうしてな。おじさんたちはちょっと、忙しくなるからな」
 無邪気なため状況をよく理解していないリリスをそっと座らせ、洋兵は今一度アリーセと向き合った。リリが倒れた今、事実上2対1というこの状況に、アリーセは表情にこそ出ないものの、滲み出る焦燥感は隠せなかった。
 と、そこに仮眠を取っていたヨサークが騒ぎを聞きつけ現れた。
「おめえら……俺の船で何やってんだこら」
 機関室の奥にいるアリーセと出入り口にいるヨサークに挟まれる形となった洋兵とユーディットは、途端に形勢が逆転したことを理解する。洋兵はチッと舌打ちをし、ヨサークの方を向いて言葉を発した。
「あとちょっと遅く来てたら、バラバラになった船を見せてやれたのになあ。おいヨサーク、これだけは言っとくぜ。力を振りかざす様な奴には、下は付いて来ねぇ。今はまだ大丈夫でも、いずれ必ずてめぇに反旗を翻すさ。その先に何が待ってるか知ってるか?」
「知らねえな。んなことより、おめえこそ人の船壊そうとしたらどうなるか、知ってんのか?」
「はっ、さあな。まあてめぇに待ってんのは、破滅だろうがな。さしずめ、今のてめぇは農薬を撒きすぎて野菜も大地もダメにする、クズ農家ってとこだな」
「なんだとこら。耕されてみるか? あぁ?」
 じり、と距離を詰めるヨサークに向かって、洋兵は一呼吸置いてから静かに口にした。
「……今一度、てめぇの本当にしたいことをよく考えるこったな」
 洋兵が言い終わると同時に、隣にいたユーディットがアシッドミストで視界を遮る。
「っ……待てこらあ!」
 そのまま洋兵とユーディットは、リリスを連れてヨサークの脇をすり抜けるように機関室から通路、船外へと走り出す。ユーディットが後ろを振り返ると、ヨサークが鉈を持って追いかけてくるのが見えた。ユーディットは両腕で抱えたリリスに囁く。
「リリス、歌を歌ってあげて」
「歌?」
「恐れの歌を、あの追いかけてくる人に歌ってあげて」
 純粋なリリスは、言われるがままにユーディットの言うことを聞いた。リリスの口から、戦慄の旋律が流れる。
「ヨサークの旦那はぁ〜、いつでも男の尻を狙ってる〜。るーるるるるっる〜。隙を見せたら〜お尻を見せたら〜ヨサークの金のクワがロックオン〜みんな〜ガバっと耕されちゃうぞ〜ヨサークにゃ〜気をつけろ〜」
 この後、2番3番と続くがそれらは幸か不幸か、ヨサークの怒鳴り声に掻き消されてよく聞き取れないようだった。ヨサークに追われながら船外へと出た洋兵たち。それを離れたところで視認したのは、もうひとりの彼のパートナー、ニーナ・ウルティマレシオ(にーな・うるてぃまれしお)だった。
「やっと出てきた……まったく洋兵ったら、逃走の援護だけしてくれなんて。結局憎みきれてないんじゃない。あんな男さっさと撃っちゃえばいいだけの話なのに」
 ニーナはそうぼやきながら、自身の光条兵器であるスナイパーライフルを構え、標準をつける。
「なんだかんだ言って甘ちゃんなんだから。仕方ないから、一発だけ驚かすための弾を撃ってあげる」
 それは、裏を返せば一発あれば充分、という自信にも取れる発言だ。その言葉通り、ニーナは狙いを定め光を放った。それは見事洋兵とヨサークの中間で弾け、双方の距離を離すことに成功する。足を止めたヨサークを尻目に、洋兵たちは各々の飛空艇や箒に乗り逃走を果たしたのだった。ヨサークは白み始めた空に消えていくその姿を、どうすることも出来ず眺めていた。

 その頃、船内では誰にも見つからぬよう、閃崎 静麻(せんざき・しずま)とパートナーの服部 保長(はっとり・やすなが)が動いていた。
「保長、うまくいったか」
「愚問でござる。こういったことは、専門分野でござるからな」
 忍の英霊である保長にとって、密かに動くことは造作もないということらしい。
「これで、成功すればこの空賊団は……」
 静麻が小声で呟いたその声の先は、聞き取ることが不可能だった。ふたりはヨサークと入れ違いにならないよう警戒しつつそっと船を抜け出すと、静かにその気配を消しどこかへ去っていった。去り際、保長が誰に言うでもなく発した言葉は、静麻のみが聞き取っていた。
「刃を向けるだけが攻撃ではござらぬからな」
 制圧開始から11時間20分経過。現在時刻、06時20分。