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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(後編)

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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(後編)

リアクション

 11.突入
 
「アヤメの話だと、正面玄関以外から攻略しろ! という話だったな?」
 シャノンは紗月を見る。
 紗月は頷いた。
「アヤメはそう俺に話していた」
「だが罠は正面玄関だけとは限らない。総て正確に把握する必要がある」
 事はスマートに運ばなければならない。
 そう言って、シャノンは館内調査の必要性を説いて聞かせた。
「私の使い魔達を使う。トレント達は『竪琴』で黙らせて欲しい」
 言うが早いか、シャノンは「傀儡」達を現わし館に向かわせる。
 正面玄関の前に来ると、例によってトレント達が妨害に現れた。
「ノーン!」
「分かってるわよ!」
 ノーンは「竪琴」をかき鳴らす。
 それだけで、トレント達は大人しくなった。
「正面玄関は鍵がかかっているだろう。窓から内部を探ることは出来ないか?」

 シャノンの指示に従い、傀儡達は玄関脇の窓辺から館の様子を窺い戻ってくる。
「蝋人形化するプールの落とし穴があるそうだ。アヤメのいる辺りだな」
 窓の人影を指さす。
「おまけに例の護符だらけときている。アヤメ達の指示に従う方が、賢い選択だろう」
 シャノンの助言により、まず倉庫にいる町娘の救出が優先されることとなった。
 一行は館に近づいた。
「『研究室は館の地下』ということですが、『資料』は分散している可能性もありますからね」
 ブツブツ呟いて、月詠司は「ピッキング」で開錠しようとする。
 当然トレント達は現れたが、ノーンの「竪琴」でまたもや大人しくなった。
「開きましたよーっ!」
 司は扉を開く。
 果たして、扉の向こうには山と積まれた「研究資料」……ではなく、蝋人形化された町娘の束があった。
 彼女達は4、5人ずつまとめられ、適当に十字に縛って積まれていた。
「これは! 生身でなくとも、辛いでしょうね……」
 司達は手分けをして、彼女達を救出し、草むらの中に置く。
 そこには、イルマの蝋人形化を解くべく待機しているウォーデンの姿がある。
 
「では、突入する!」
 シャノンは一行を手招きし、館に近づく。
 前回同様、館に近づくだけでトレント達は群衆で現れた。
 が、ノーンの竪琴により首を垂れる。
「この仕掛けに、魔術師が気がつくのも時間の問題だろう」
 シャノンは冷たく言い放ち、窓を壊して傀儡達を館に侵入させる。
 戻ってきた彼らの報告により、蝋人形化するプールは、玄関付近の廊下に複数存在することが判明した。
「だが細かい罠は、実際に中に入ってみなければ分からないな」
「大丈夫だよ! 私も協力するからさ!」
「俺も行くかな? シャノン」
「そうか、透乃、皐月。では行くぞ!」
 ノーンにトレントの処理を頼んで、3人は窓から身軽に侵入する。
 シャノンは「ディテクトエビル」を、皐月は「禁猟区」を、透乃は釣り具、日曜大工セット、ソーイングセットの反応を見て、細かい罠がないかを探っていく。
 だがあるのは、監視モニターばかりだ。
「何とも稚拙な設備だな」
 シャノンはわずかに眉をしかめる。
「我々は、ただの『バカ』を相手にしているのかもしれない。蝋人形とトレント頼みの、な」



 同じ頃。
 司はこっそりと窓から侵入し、館の地下にあるという「研究施設」を目指していた。
「ほっほっほー! さてさて、魔法の研究所はどこですかね?」
 足取りも軽く階段を探す。
 階段は素直に見つかった。
「しかし、これが罠とも限りませんからね」
「博識」を使うが反応はない。
 隠れた敵を想定して「トラッパー」を仕掛けるが、やはり反応はない。
「ふむ、ペルソナという奴、どうもただの『研究オタク』ではないですかね?」
 そう言った次第で、司は難なく目的に部屋を捜しあてることに成功した。
 ギイッ扉が開く。
 人の気配はない。
 山と積まれた資料があるのみである。
「さて、ここは慎重に……」
 司は「資料検索」を使って、目的の資料を捜す。
「これが『解呪薬』の製造方法ですか。何とたわいもない……」
 あまりのあっけなさに、拍子抜けする。
 ウォーデンにメールで伝えた後で、今度は「森の呪いを操る方法」について捜した。
 が――。
「これは、さすがに一筋縄ではいかないようですね!」
 苦い顔。
 資料は暗号化されていて読み解けなかった。
「博識」を使ってさえである。
「ペルソナが賢いのか、それとも別の第3者の手によるものなのでしょうか……?」
 暗号を解くための資料を捜したが、ない。
 解読方法は「ペルソナの頭の中にある」と考えて間違いないだろう。
「けれど、所詮は人の頭脳が生み出したもの。私も同じ人間、解けないことはないでしょう」
 ほっほっほー、と笑って幾つかの資料を抱え、司は研究室を後にして階段を上がる。
 1階に到着した彼を、火の海が待ち構えていた。