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リアクション
エレベーター
空京にできた大きな百貨店は地球から出資されたということもあり、パラミタにある他の建物とは違う雰囲気だった。各フロアでは持ち場に愛情を持った店員が、訪れた客に楽しい思い出を作ろうと心をこめて接客をしている。音楽・美術フロアにもたくさんの人々が、見たことのない素敵なものや好きな物に囲まれる幸せな時間を味わいに足を運んでいた。
鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)はCDを買いに百貨店に来たのだが、方向音痴のため道に迷ってしまったようだ。おかしいなあ? 首をかしげつつも根が前向きなのか、間違ったほうに鼻歌を歌いながらてくてくと歩いて行く。
「案内表示通り行けば迷わないよね!」
しっかりと案内表示を見てはいるのだが、地図の右と左を反対に読んでいるようで目標のフロアからは遠ざかったしまった。
「ふぇ? ここどこ? 案内表示通り来たのに……うーん。こっちかな?」
ココ何処ー、音楽のフロア何処ー? きょろきょろとあたりを見回すが音楽っぽさのない場所に来てしまい、しかたなくエレベーターガールに道を尋ねることにした。どうように篠宮 悠(しのみや・ゆう)も道に迷い……いや、本人は一緒にきた相棒が迷ったと言い張っているが、彼もエレベーターガールの七瀬 歩(ななせ・あゆむ)、七瀬 巡(ななせ・めぐる)に道を尋ねている最中だった。
「いらっしゃいませー!」
「いらっしゃいませ、お客様! どの階に行かれますか?」
歩はハキハキと笑顔で悠に話しかけている。彼女はメイドとして来客のもてなしや丁寧な対応についてを学びに来た。制服をきちんと着こなし、道案内も担当している。
「良い子にしてて歩ねーちゃんのお手伝いするんだっ」
巡は難しいことはできないが元気なあいさつでお客をほほえましい気持ちにさせていた。笑顔が可愛らしいエレベーターガールである。
「すまん、にぎやかなイベントがあると聞いて連れと来たんだ。ここってそういうの、あるか?」
悠は歩を見つけて声をかけてみる。
「うーん……そうだ! それなら音楽フロアに今回臨時で学生たちのライブがあるんです。特にお金はかかりませんので見に行ってみたらいかがでしょう?」
氷雨もその輪の中に入って、自分も音楽フロアに行ってみたい旨を伝えた。
「あの、音楽のフロアって何処ですか?」
「音楽フロアでしたらその道を右に曲がればすぐですよ」
「わーい、ありがとうございます!」
「おい、反対側だ……」
氷雨はぺこりと頭を下がると案内された道を左に元気良く曲がっていった。悠は自分も音楽フロアにいくので氷雨を連れて行ってやることにする。
「えへへー、姉様喜んでくれるかなー」
氷雨は悠のおかげで今度こそ音楽フロアにたどりつけそうだった。
神代 明日香(かみしろ・あすか)と待ち合わせしていたノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)は声をかけられてあたふたとしていた。実は明日香がふざけて席を長めにはずして様子を見ていたら、案の定というか、小さな子が1人で迷子になっていると思ったナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)がノルニルに話しかけたのだ。
「迷子かガキンチョ?」
「私は子供じゃないです〜!」
左手が岩巨人製、右足膝下から木製義足という一見すると機晶姫かと疑ってしまうような姿。ノルニルはビクリと動きを止めるがわりと子ども好きなナガンは飄々とした態度で接してくる。
「まずはこれでも食べて落ち着きな」
シール入りチョコレート菓子を渡すがノルニルは警戒しているのか受け取っても食べることはしない。『ふむ』と考えたナガンはその辺にあったものを使ってジャグリングをやってみた。誰かの忘れた傘、捨てられていたガチャポンのカプセル、通行人から奪った飲みかけのペットボトル……。寄せ集めをどんどんお手玉のようにくるくると回していくと、通行人も巻き込んで大きな輪ができてきた。何事かと様子を見にきた巡はナガンから話を聞くとフロントに連れて行こうとするが、ノルニルはもう少し見ていたいという。別の目的もあったナガンはデパートの関係者としゃべる機会が欲しかったので一緒についていくことにした。
「うんうん、フロントまで一緒に行こうね!
……ねー、この子迷っちゃったんだってっ。えっと、あっ。迷子札があったよ」
明日香は面白がって少し距離を置いて眺めている。歩はノルニルを見ると目線を同じ高さに合わそうとかがんで、安心させるようにふんわりとほほ笑んだ。
「お客様、お名前聞かせてくれますか? おかあさんと一緒にお店来たんでしょうか?」
「自分は迷子ではないですっ。皆さん子供扱いしてますけど私の方が年上ですよ?」
何をしても可愛く見えてしまうため、本気にとってはもらえなかったようだ。
「お客様のお呼び出しを申し上げます。イルミンスール魔法学校よりお越しの神代明日香様。ノルンちゃん、5歳がフロントでお待ちです。繰り返します……」
「ノルンちゃん、ここにいたんだねー」
放送直後にひょっこり現れた明日香をみると、ノルンはぷんぷんとお尻を向けて帰ろうとしてしまう。明日香は笑顔でごまかそうとするが、どうやらしばらくは許してもらえなそうだ。
「なあ、バイトの募集で子供関係はないのか?」
「聞いてまいりますね。
……ええと、玩具、ペットのフロアがお子様と触れる機会が多そうです。屋上のイベント会場ではパフォーマーを募集していますね」
「そうかぁ。んじゃあ、募集があったらまた来てみるかなぁ。ククク」
歩はナガンの質問に、それでは百貨店側にも伝えておきますね。と笑顔で答えた。風船配りやお菓子関係の仕事は結構あるようだ。バイト側から企画を提案することも百貨店は歓迎しているので、ナガンのように特徴のある人物は活躍できる場面も多いだろう。
シフト交代によりエレベーターガールとして現れた草薙 真矢(くさなぎ・まや)は極太のマジックペンを持ってキョロキョロとあたりを見回した。
『エレベーターガール募集』
キュッキュッキュ
『エレベーター”ジャック”ガール募集』
にやりと笑うとミスター コールドハート(みすたー・こーるどはーと)、平 重衝(たいらの・しげひら)、ジオヴァナ・レガザ デル・ヴィオ・ロッソ(じおう゛ぁなれがざ・でるう゛ぃおろっそ)に目配せする。
「こうチョチョッとサ、銃とか撃ったら、なんかおもしろそーじゃない?」
「……気持ちいいかもな」
「……何が言いたい?」
ある日の午後、相棒たちとテレビを見ながら真矢が提案したのは狂言ハイジャックだった。自分はエレベーターガールとして百貨店に忍び込むことができる。だからさぁ……。
「一撃必中なんてショボい事言ってないでサ! 銃なんか景気よく乱射すればいーんだよ! ま、可愛い範囲でね?」
「ふーん」
「……」
「飛び散る肉片! 吹き飛ぶ残骸! 人がゴミの様だ!」
やるきの乏しいパートナーと対照的に、真矢は自分の思いつきの素晴らしさに目をきらきらと輝かせている。一方的に決定すると籠に閉じ込められているロッソの前に歩いて行った。
「だせーっ! だせーっ! ボクをここからだせーっ!」
「んー。なに、ロッソちんはカゴから出たいの?」
「あったり前じゃないのよっ! ボクは自由なのっ! 鳥かごの鳥なんかじゃないのっ!!」
「へぇ〜」
ここまでが回想である。
普段とは違う仕事を体験してみたいと思った鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)は、エレベーターガールの体験コーナーに参加することにした。なぜ、こんな決断をしてしまったのあろう。男性用の制服などあるわけないではないか!
「しかし、どうということもなく!!」
はちきれんばかりの筋肉で制服はパッツンパッツンだったが、体験すると申し出たのは自分のため断ることができなかった。身長191センチの荒ぶるエレベーターガールは、歩くたびにスカートをバリバリと破り自身の持ち場に向かっていく。人々は彼の姿を見ると、弱き者は脅え、小さき者は絶望の意味を知り、己との力量の差を思い知るのであった。空京百貨店は大地に恐ろしい魔物を以下略。
「子供に優しく、子供に優しく、子供に……」
寡黙な性格のためエレベーターのガラスにうつった自分を見ながら笑顔の練習をしてみる。
「チェックポイント通過、15秒遅延……アルファ、行動を開始します」
「なっ、停電か!?」
真矢たちの作戦が始まった。
急にブレーカーが落ちてエレベーター乗り場周辺は大混乱。戦闘兵科所属の真一郎は臨戦態勢に入り、殺気看破で敵の数を探る……その数、3!! 背後か!!
「なんだこいつ……ほげー!!」
武術自慢の真一郎は豪快な回し蹴りをコールドハートにお見舞いする。この時彼のスカートは完全に破れ、発達した筋肉がまぶしい太ももが丸見えになる。
「お主はいったい、何を考えているのだ!?」
「エレベーターガールだ!!!」
真一郎が上半身に気合を入れると不思議なことに服のボタンははじけとび、布は破れ、髪は逆立ち、背後には般若の姿が見えた。重衝はこれは人間ではなくアヤカシの一種だと判断し逃走を試みるが、一本背負いされ床にめり込んだ。
「次!!」
「ひぃぃ!!」
ロッソは壁際で頭を抱えてプルプルとしている。ロッソは、最悪な初陣を迎えてしまった。向こうではできるだけ大きな声で暴れるのよー。そう言われていたが恐怖で声などでやしない。
ここで停電が回復し、デパートの客は小柄な女性を半裸の男性が壁に追いつめているのを見つけた。その後の真一郎の行方は誰も知らない。
「ア、アタシはなーんにも知らないのだよっ」
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