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リアクション
第五章
生存者は何を見たか
「気がつきましたか?」
地下一階資料室、御凪 真人(みなぎ・まこと)が救出された先遣隊員に声を掛ける。彼は一度地下二階に降り、彼らを迎えたのだ。
「そうだ、俺は……」
「もう、だいじょうぶですよ」
ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)の手当ての甲斐もあり、さらに一度寝ていた事もあるのか、落ち着きを取り戻していた。彼女が治療に使える道具を一式揃えていたのも大きいだろう。
「もう一度聞くのもあれだけど、何があったか説明してくらないか?」
曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)が再び彼に尋ねた。
「まだ頭の中がごっちゃでよくは分からない。だけど……」
説明を始める。
「俺らの中に、一人ガキが混ざってたんだ。まあ、役立たずだったから、雑用を任せてたんだけどな。地下二階で無線が使えなくなった時も、そいつともう一人に上に行くよう命令したんだ。だけど……」
顔を伏せる。
「あいつは始めから、俺達を皆殺しにするつもりだったんだ! ガキの姿に騙されてたが、とんでもないヤツだ。上の連絡役と、一緒にいたヤツはその時にやられちまったんだろう。無線に細工までしてたとは」
「その人が何者か分かりますか?」
質問したのは真人だ。
「分からない。ただ、『仕事』だって。なぜ俺が助かったのか……」
生存者がはっと目を開けた。何かを思い出したのだろう。
「そうだ、雷だ。俺はそれに助けられた。そこで墜ちたんだ」
彼の話によれば、間一髪のところで助けられたようだ。
(遺跡の中から出てきましたか、だとうすれば……)
真人は考える。遺跡の内部にいた存在となれば、それはここに封印されていたものの可能性もある。
「にいちゃん、これ見てくれ」
トーマ・サイオン(とーま・さいおん)が、彼に一つの資料を手渡す。
「部分的なものじゃが、雷となれば関係あるじゃろう」
それは動作実験に関するデータだった。
・アンバー・ドライの雷電操作は、ただ単に電気を操るだけではない。磁場形成、及び生物の電気信号にまで干渉可能である。自らの体内の電流の流れを、そのまま増幅し、体一つで「レールガン」を放つ事も可能だ。能力を三割にまで落とし込んだとしても、ツヴァイほどの抑制効果はないであろう。
「なるほど……しかし、だとするともうこの遺跡内にはいないようですね」
先遣隊員がしばらく気を失っていたこと。目が覚めてから少し歩いたところで発見された事から、PASD本体が到着する前に、既に遺跡の外に出てしまったようだ。
「だけどさ、この人を助けたってんなら別に危ない人ではないんじゃないのか?」
「じゃな。調べた限りでは、普通の少女と変わらないという事じゃし……」
それらはこの資料室を解読した者達が既に掴んでいた情報だ。
「そういえば、今地下にいる人達と連絡って取れるか?」
生存者が気にかかっているのは、今地下二階より下にいる者達の事だった。
「無線はこちらにありますよ」
ルイ・フリード(るい・ふりーど)が彼の疑問に応じた。
「ならば伝えなければ……地下三階の、あれには勝てない」
「どういう事ですか?」
次第に青ざめていく、先遣隊の顔。ただ、今度は錯乱まではいかない。
「姿の見えない、馬のようなヤツ。あれはきっと、データベースにあった『合成魔獣』だ。それと、あの赤い髪の女……あいつが一番ヤバい。笑いながら、隊長を……」
言葉に詰まった。
「『狂気』もしかして、さっきの……」
ルイは資料を確認しに行く。
「ありました。有機型機精姫の事です」
感情の偏った者。その一人、『ジャスパー・ズィーベン』が『狂気』とあるので、おそらくそうであろう。
「あと、あのガキも忘れちゃいけない。下にいた機械の……ひっ!!」
生存者は資料室の奥にあった機甲化兵を見て、狼狽しそうになる。
「さっき、下を調べてる人が回収してきたんだ」
ランツェレット達はこれをこの資料室に運ぶと、再びリヴァルト達の元へ合流したらしい。
「動力源は抜き取ったから動かないっていうけど、こんなのが何体も動いてたらなぁ……」
いかにも頑丈そうなそれを、彼は眺めた。
「とにかく、下の人達に連絡しないと」
彼もまた無線を持っていたので、即座に話の内容を伝えようとする。
「今の話にあった合成魔獣って、『スレイプニル』じゃない?」
「うん、馬のようって言ってたし、間違いないわ」
リン・リーファ(りん・りーふぁ)と関谷 未憂(せきや・みゆう)が気付いた。リヴァルトにワーズワースの事を伝えた後、彼女達はここでワーズワースの事を調べていたのだ。また、『研究所』で実際に合成魔獣の事を多く知ったのもこの二人だった。
「スレイプニル、だという事も伝えて下さい」
その事も含め、無線で流した。
「皆さん、どうか無事で……」
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