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五機精の目覚め ――紅榴――

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五機精の目覚め ――紅榴――

リアクション


第三章


・暴走事件、調査開始


「今回も手伝ってくれるよね?」
 エミカ・サウスウィンド(えみか・さうすうぃんど)が、PASD本隊の集まるツァンダ外れに向かおうとした黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)に声を掛けた。とはいえ、断れない雰囲気である事は、エミカの様子から見てとれた。
「ああ、もちろんだ」
 返事をし、エミカについて行く。
(もう二度とためらうまい……)
 このままだと言いように使われ続ける、そう感じずにはいられないにゃん丸であった。その一方で、僅かに安堵の気持ちもあった。
(でもこっちなら前みたいな危険はない、よな?)
 『研究所』最深部での事が脳裏を過る。今回の遺跡調査にあんなものがいたらと考えるとぞっとした。
「……で、事件は足で解決とか言うんじゃないだろうねぇ?」
 ジト目でエミカを見る。春休みのパーティでは散々肉体労働させられた身なだけに、不安があった。
「まさかー。とりあえず、作戦会議するよー。多分、そろそろ集まってるはずだからね」

            ***

 ツァンダのとある施設。
 エミカとにゃん丸が到着すると、既に他の面子は集まっていた。久世 沙幸(くぜ・さゆき)藍玉 美海(あいだま・みうみ)影野 陽太(かげの・ようた)一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)ファレナ・アルツバーン(ふぁれな・あるつばーん)シオン・ニューゲート(しおん・にゅーげーと)、そしてにゃん丸の総勢十名が今回エミカに協力してくれるようだ。
「やっほー、集まってくれてありがとー! これで全員かな?」
 エミカが確認を取ろうとする。
「うん、まあ揃ってなくてもいっか。それっぽい人いたら手伝ってもらえばいいし。ってなわけで……」
 エミカが今回の調査方法を伝える。
「その名も『聞き込み大作戦!』徹底的に街の人に聞いて聞いて聞きまくれーってな感じで。ツァンダも狭くはないから手分けしていこー! あ、ボイスレコーダーとか必要なら貸すよー」
(結局足じゃないか……)
 言葉には出さないが、にゃん丸が呆れていた。
「他に、今分かっている事はないのか? 例えば、暴走した機械についての情報とか」
 エヴァルトがエミカに尋ねる。
「ああ、それならここにあるよ」
 答えたのはエミカではなかった。エミカを心配してやってきたと思しき、PASDの現責任者司城 征である。
「でも、これが全部ってわけじゃないからね。あくまでも参考程度ってことで。あ、それと」
 司城の後ろから緑色の髪の、少女のような少年が現れた。
「何やら事件について調べようとしてるみたいだったからね」
「葦原明倫館のジョシュア・グリーン(じょしゅあ・ぐりーん)です」
 どうやら、エミカが事件を調べる事を聞きやって来る途中で、司城に声を掛けられたようだ。 
「どうにも嫌な予感がするから、気をつけてね」
 参考資料を全員に渡し、司城は一行を送り出した。


・共通点


「最初におかしな事があったのは一ヶ月前だ。飛空挺が相次いで制御不能になったんだが、まるで異常が見当たらなくってな」
「飛空挺、ですか」
 陽太が最初の聞き込みで知ったのは、そのような事だった。飛空挺もまた、制御系統は機械である。
「そうだ。墜落したやつだってある。が、回収して技師が調べても何も原因が分からないんだ」
「誰かが細工した可能性って事はないのですか?」
「ないな。そんな事したら飛ぶ前に異常に気付くさ」
 陽太は考える。ならばなぜ暴走したのかと。
 聞き終えた後、彼はエミカ達の所へその事を伝えた。
「えーと、一ヶ月前、と」
 メモを取っているのは、アルメリアである。
「飛空挺に異常が起こった場所って分かる?」
「ほとんど、大荒野に出ようとした時、みたいです」
 話に聞いた場所を、地図上に印を入れていく。
「飛空挺が暴走、って事は空にまで影響を及ぼす何かがあるかもしれない、ってことか」
 にゃん丸が考える。電磁波のようなものの可能性がありそうだと。
「暴走した機械は、乗り物類が多いな。バイクで大荒野に出ようとしたら動かなくなった、それも一ヶ月くらい前からだ」
 同じように聞き込みから戻ったエヴァルトが報告する。彼は司城から貰った資料以外にも、理学部、工学部の教科書も活用して構造的な部分から調べている。
「一ヶ月前から、先月って何かあったっけ?」
 エミカが疑問に思う。
「そういえば、先月のパーティでもいきなり機械の電源が落ちたりしたよね?」
 沙幸が思い出したのは、コンサートの合間の出来事だった。
「あれは、休憩時間に合わせてブレーカーが落ちるように細工されてたんだって。よくやったと思うよ」
「ハウリングは?」
「急に電源が落ちたせいで、マイクとスピーカーの接触が悪くなったみたい。音声信号が急に入ったらおかしくなることだってあるって言ってたよ」
 それを彼女に伝えたのは、PAの人だろう。
「実際、ケーブルも一本おかしくなってたしね。原因が一応分かってるから、あれは違うんじゃないかなー」
 エミカが説明した。沙幸は若干腑に落ちなかったが、調査に戻る事にした。


「つい一週間前だったっけな。そこのベンチに座ってた機晶姫が突然苦しみ出して、どっか飛び出して行った。見ての通り、ベンチを壊してったよ」
「その時、近くに不審な人はいませんでしたか?」
「不審な人ねえ……いつも見る顔しかいなかったな」
「そうですか、ありがとうございます」
 美海もまた、聞き込みをしていた。
「沙幸さん、どうやら機晶姫も暴走するようですわ。それも何の兆候もなく、突然」
「うん、こっちでも機晶姫が苦しみだしたって話を聞いたよ。場所は、街外れのあたりだって」
 二人が得た情報は、機晶姫も暴走する、という事だった。その事を他の調査員にも伝え、情報を共有する。
「機晶姫、飛空挺、バイク……ね」
 アルメリアがそこから共通項を見出そうとする。
「全部機晶石が使われている? もしかしたら……」
 そう思ったアルメリアは、この場で一つの質問をする。ちょうど蒼空学園の生徒が多く集まっていたこともあったからだ。
「そういえば、蒼空学園で機械の暴走って何かあった?」
「ありませんね」
「聞き覚えもないな」
 誰一人、学園内で暴走が起こった話を聞いてなかった。
「蒼学の機械のほとんどは地球の技術よなぁ。だとすると、暴走するのは大陸の技術を使ったものだけって事か?」
 にゃん丸が確認しようとする。
「そうみたい。それに、見て」
 アルメリアが地図上の印をペンで指した。
「一ヶ月前の飛空挺から、機晶姫の暴走まで、大体郊外に集中してるわ。しかもここ最近は、この通り」
「これって、今調査されてる遺跡じゃないですか」
 陽太が口を開いた。今彼らがいる場所も、ツァンダ郊外に位置するが、ちょうど遺跡の周囲で暴走の目撃例があったのだ。
「じゃ、もう少しこの辺りで調べればもっと分かるかもね」
 と、エミカはもう少しこの場で調べるつもりのようだった。

            ***

『なるほど、暴走するのは機晶石が使われているものですか』
 エミカ達とは異なる区域で調査中のアリーセ達にも、その情報は伝わった。
「ああ、すいません。それでは続きをお願いします」
 彼女はちょうどラジオ局のスタッフに聞き込みを行っているところだった。
「暴走についての詳しい事はこちらでも把握しておりません。ただ、奇妙な噂があります」
「噂、ですか?」
 興味を示すアリーセ。
「暴走の多くは乗り物や、機晶姫といった、『動く物』です。それらは見えない何かに引っ張られていくかのようだと」
 さらに言葉は続く。
「機晶石のエネルギーに干渉して、それを自在に操った者がその昔いたそうです。いつかは知りませんが。その力を持つ者が再び現れた、そんな噂話ですよ」
「そんな事が可能なのでしょうか?」
 アリーセにはそんな事が出来るとは考え難かった。
「だから、噂なのです。実際は機晶石によくあるただの暴走が、偶々頻発してるだけだって事になってますよ」
「……そうですか、ありがとうございます」
 ひと通り話を聞き、その場を後にした。

「やはり、この事件は外部からの介入で間違いないようでありますな」
 確信したかのような口振りをするのは、アリーセのパートナーであるリリ マル(りり・まる)だ。一見するとただのアタッシュケースでしかない機晶姫である。
「ただ、それが何者かまでは分からず仕舞いでしたね」
 それでも収穫はあった。
「どうですか?」
 アリーセに尋ねたのは、ファレナだ。彼女もまた、この近くで聞き込みを行っていたのだ。それまでの情報を互いに交換する。
「なるほど、機晶石を操る者の噂ですか。有り得ない話、ではなさそうですね」
 『研究所』でジェネシス・ワーズワースの遺した存在の一端を垣間見た彼女にとっては、決して信じ難いものではなかった。
「それに、先程の店では、機械の暴走が起こった時、その周囲では必ずと言っていいほど機晶姫が目撃されていると聞きました。暴走、とまではいかなくても突然発作のような感じで苦しみ出すという事です」
 ファレナの説明に、アリーセが応じた。
「そうなると、機晶姫が多少の暴走をしている時に、その周囲の機晶石が使われた機械が暴走すると逆に考える事も出来ますね」
 彼女の推測にも一理ある。何者かが介入しているならば、機械をただ暴走させる事に意味は感じられないからだ。
 彼女達は一度、腰を下ろしに近く店に入る。そこではファレナのパートナーのシオンが待機していた。
「特に不審な人は見当たらなかったよ。ただね……」
 彼は聞き込みをしているファレナの周囲に怪しい者がいないかも見張っていたようだ。
「さっき店のお嬢さんに聞いたら、数日前に来たちょっとガラの悪い客が凄腕の請負人の話をしていたんだって」
 その事に、ファレナは目を見開いた。
「請負人? まさかとは思いますが……」
 機晶石を暴走させる理由が本人になくとも、誰かの依頼だったとしたら……
「おや、もう行くのかい?」
「ええ。シオンさんも、そろそろ休憩終了ですよ」
 彼女はその請負人の話を聞きに行くつもりだ。
「接触を図るには、少人数の方がいいでしょう。他の方への連絡、お願いしますね」
 アリーセにそれまでの情報を預け、ファレナは店を出た。
(とはいえ、彼女達の身に何かあってはいけませんね。エミカさん達に伝えて、すぐに駆けつけられるようにしておきますか)
 携帯電話を手に取り、エミカ達へそれまでのいきさつを伝えた。