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リアクション
第二章
・機晶石の研究
「先遣隊の生き残りの方が見つかったようです」
御凪 真人(みなぎ・まこと)がその連絡を受け取ったのは、地下一階の資料室にいる時の事だった。
「それで、どうなんだ、にいちゃん?」
彼のパートナーであるトーマ・サイオン(とーま・さいおん)が彼に尋ねる。
「今、連れて戻ってきている最中だそうです。少々様子をみてきます」
「その者から話が聞ければよいな」
もう一人のパートナー、名も無き 白き詩篇(なもなき・しろきしへん)が言う。
「ここの文献を読んだ限りでは、機甲化兵の保管室がある事しか分かっておらぬ。あとは話せる状態ならよいのじゃが……」
「詳しい事は会えば分かるでしょう」
彼のところには、先遣隊員の男からの話は詳しく伝わっていない。それというのも、まだ男の言葉の意味を発見者が判断しかねていたからだ。
このフロアでは資料の中身よりも先遣隊の痕跡を辿ろうとしていた彼らだが、これといって掴めない状態だった。あるものといえば、この遺跡とワーズワースの研究に関する資料ばかりだ。
「それに、ここで見つかったということは、以前の『研究所』と呼ばれる場所での大規模テレポートのようなものが原因ではない、という事です」
事前にデータベースを参照していたため、守護者ノインの力のようなものは働いていない事が分かる。
パートナーの二人に調べ物を託し、彼は資料室の外へ向かった。
「それにしても、ここってこの前の図書館にちょっと似てるよな」
同じ室内で口を開いたのは駿河 北斗(するが・ほくと)だ。規模こそ前に比べれば小さいが、雰囲気的に近いものを感じていた。
「そりゃあ、同じ人間が関わってるんだもの。似ていたって不思議じゃないわ」
クリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)が応じる。
「まあ、そうだろうけどよ。何で最近になって突然奴さんの遺跡が見つかり出したんだろうな……」
一月の一件で突然現れたジェネシス・ワーズワースの遺産。これまで誰も見つけられなかったにも関わらず、ここにきて次々と新たな事実と謎が湧き出してきている。
「もし……もしもこのジェネシスってのが今この時を狙って遺跡を開放してると仮定すると、こりゃどういう事になるんだろうな?」
「彼の遺した技術を使うべきところがきた、ってところじゃないかしら? あの守護者の力なんて、熟練の魔法使いが束になっても敵わないレベルだったんだから。何かを打破するため、かもね」
二人はそれ以外にも、合成魔獣や研究の成果と思しき少女の力も目の当たりにしている。もしそれを正しい方向に生かせるならば、今のシャンバラにとって頼もしいものとなるだろう。
「或いは……試されてる、か」
解読しながら、ぽつりと呟いた。それらを使う資格が今の時代の者にあるのか、それをワーズワースが確かめようとしているのかもしれないという思いが過ぎる。
「そうね。確かにこのジェネシスって奴、お世辞にもあんまり趣味が良いとは言い難い感じみたいだし、意外と挑戦状代わり、何て解釈が当たってるかもね」
今起こっていることには、五千年前から続く強い意志のようなものが存在しているかもしれない。それはまた、これまでの、そしてこれからも続く出来事の必然性を感じさせるようなものであった。
「面白え、ジェネシスを見返してやるぜ」
やる気になり、自分の糧にもなり得る情報を探す。
「これは……」
ちょうど二人が発見したのは、機晶石に関する情報だった。
『人工機晶石について』
そう題される文献には、暴走することのない機晶石の生成法が書かれていた。ただし、現在の技術では恐らく不可能である方法だった。
「あの試作型兵器――魔力融合型デバイスにはこれが使われていたようね。魔力増幅回路の動力源、と書いてあるわ。五機精とやらはこの技術の応用型みたいね」
クリムリッテが分析する。
「じゃあ、あの女の子の馬鹿力もこれじゃねーのかな」
「あり得るわね」
ただし、器がその力に耐え切れなかったために成功例が少ないとされている。PASD本部にて解析されたものは、完全に動力が失われていた。人工機晶石は不完全だったと推測される。
力を得るための技術を調べていたが、この技術は到底人間に使用出来るものではない。それは、五機精と有機型機晶姫合わせて十体しかいないことから明らかだ。一万のうちの十なのだから。
***
「機晶石をじぶんでつくってたみたいですね」
ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)もまた、機晶石に関する資料に行き着いていた。
「別の資料では、機甲化兵に人工機晶石を使用した、とあります」
ルイ・フリード(るい・ふりーど)の読んでいるものには、機甲化兵専用の機晶石を造ったと書かれている。
「目立つのは人工機晶石と、機甲化兵という単語ですぅ。ここではそういった研究がなされていたのでしょうか〜?」
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が疑問を口にする。彼女達が読み進めているものに共通するキーワードは、
第一次計画
人工機晶石
機甲化兵
であった。
「どうにもデータベースにあった第一次計画――機甲化兵計画でしょうか、に関係した施設のようですね」
ルイはあらかじめ知った情報と、読み解いた資料からそう判断した。
「それなら、この下にはその『機甲化兵』があるのでしょうか?」
と、ヴァーナー。もしそうならば、下の階にいる者が危ないかもしれない。
「かもしれませんね。リヴァルトさんや他の階の方に連絡してみますか?」
ルイが取り出したのは、連絡用の無線機だった。
「はい、おねがいします」
「では……『こちら地下一階資料室。地下二階、現状はどうですか?』」
しばらく、ルイは無線を使って声を拾っているようだった。大体の聞いた後、それらを共有する。
「やはり、下には機甲化兵の保管室がありました。今、リヴァルトさん達がそれを調べているようです」
「うごいてるわけじゃないんですね?」
「ええ、稼動した様子はないとのことです」
報告を聞いて、安堵した。稼動していた場合、戦闘になっていることも考えられたからだ。
この場にいる者達は、機甲化兵の強さを身をもって知っているわけではない。とはいえ、それが手強い相手であることはデータベースの内容から理解していた。
「その一体を回収して運んでくる、とも言ってました」
動かない、と言われたものの、いざ目の前に運ばれてくるとなると、不安が過る。ともあれ、そうなっても一体ならこの人数でなんとかなる、はずである。
「メイベル、これ見て!」
ちょうどその時、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が契約者であるメイベルの所へ一冊の書物を持ってやってきた。
『第二分所、研究概要』
それが表紙に書かれていた文であった。
「読んでみるですぅ」
メイベルが目を通すと、そこにはこの場所と思しき施設内の地図と、どこで何が行われているのかが示されていた。
地上部分では機晶石の研究が行われていたらしい。地下一階はそれに関する資料室、となっていた。しかし、問題は巻末の一文であった。
『当施設は、計画の完全凍結により閉鎖する』
地下二階以降のことはなぜか書かれてはいない。
「ここに書かれている通りだと、地下二階からは存在しないはず、という事になりますわ」
メイベルのもう一人のパートナー、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が首を傾げた。
「閉鎖した後、何らかの理由で増築された部分かもしれません」
ルイが別の本棚を調べに向かう。
「う〜ん、これはなんでしょう? 日記みたいですけど……」
ヴァーナーは本の間にあった何枚かまとまった紙片を偶然発見した。それを他のメンバーと協力して読み解いていく。内容は、この施設の地下二階以降に関するものだった。
――改良した機晶石は六体の雛形に使用したが、その技術を応用した人工機晶石を組み込んだ十八体を地下二階に保管しておく。第一次計画は中止となったが、これらは残しておく必要があると判断した。(中略)
さらに、地下三階までのスペースを確保しておく。いずれ何かを『封印』する必要性が出てくる事を考慮しておかなければいけない――
それは、計画凍結後にジェネシス・ワーズワースが記したものだった。
さらに、
「みなさん、これを!」
ルイもまた、この施設の手掛かりを発見した。正確には、『五機精』の一体に関する、であるが。
――事情が変わり、彼女達を封印しなければいけなくなった。アインからフュンフの五体、便宜上『五機精』と名づけた者達だ。彼女達は決して危険な兵器ではない。人格は確立され、殺戮を好むわけでもなく、普通の少女と何ら変わらない。だが、『兵器としての力を持っている』事は紛れもない事実だ。だからこそ、彼女達を守るためにも、眠りに就かせなければならない――
この文章だけを読めば、五機精は恐るべき古代の殺戮兵器というわけではないと感じる事だろう。
「ワタシは五機精と呼ばれる少女たちと分かり合えたらと思っておりますが……夢を見すぎでしょうか?」
彼の心境は複雑だった。五千年前はそうでも、長い年月が彼女達を変えてしまっていることだってあり得るのだ。
「そんなことないですよ。ボクたちが笑顔でむかえてあげれば、だいじょうぶです」
ヴァーナーは微笑みを浮かべた。
「そのためにも、もう少し彼女達の手掛かりを見つけるですぅ」
「それでは、今の段階で分かってる事はこちらでデータ化しますね」
フィリッパがHCを持っていたので、それで重要な文章を読み込んでおく。もし、これから下層へ向かう者がいれば、その情報も役に立つだろう。
「では五機精の資料はまとめやすいように置いておきましょう」
見つけた資料を、分かりやすく一箇所にまとめる。
「それじゃあ、これはこっちにもっていきますね〜」
ヴァーナーは混同しないよう、五機精関連のものとそうでないもので分類を進める。
そうしているうちに、また新たな情報が見つかった。
『有機型機晶姫及び五機精の機能特性に関する報告』
その一文が飛び込んできた。内容を抜粋すると、以下のような感じだった。
――有機型機晶姫五体は、身体機能特化である。人間の潜在能力を限界まで引き出しても耐えうるだけの強度を誇っているため、それが可能となっている。(省略)だが、彼女達が失敗作である最大の要因は、一つの感性だけが突出してしまっているところにある。冷静、狂気、悲哀、無垢、喜楽。現段階で、彼女達の感情を安定させる術はない。ナインに関しては、素体が幼かったという事と、大部分が生身であることを鑑みれば最も改善の余地はある。(省略)
五機精の持つ能力については、それぞれ別項にて一体ずつまとめておく――
ただ、該当ページは抜け落ちており、読むことが出来なかった。
それでも誰かが持ち去っていない限りは資料室内に存在する可能性はある。分析した情報は上階の情報拠点及び、各フロアに伝達しつつ、さらに調査を進めていった。
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