天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

マジケット攻撃命令

リアクション公開中!

マジケット攻撃命令

リアクション

 そのころ、会場近くに野戦司令部を設営した青少年健全育成装甲突撃軍も、たまに上空を魔女たちに偵察飛行させる程度で、その動向は不気味なほど静まりかえっていた。
 だが、突撃軍野戦司令部では、ハツネを囲んで将校たちによる作戦会議が始まっていた。
「何をぐずぐずしておるのです閣下。このレオンハルトに攻撃命令を。さればマジケット防衛軍などたちどころに粉砕してみましょう」
 レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)はいらだたしげにハツネに上申する。
「オレは反対だ。前回の戦闘から何も学んでいないのか? 会場への直接攻撃は一般参加者を巻き込むことになり、結果作戦を困難にする」
「ワタシも反対です。校長からは『安全に保護』するように命令が出ているはず。直接攻撃ではなく周囲を包囲しての兵糧攻めと、検問による一般客からの同人誌没収にとどめるべきだと思います」
 ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)ら『穏健派』は即座に反対する。
「新参者は黙っていてもらおうか」
「敗軍の将がずいぶんと威勢がいいんだな」
「なんだと貴様? 閣下、まさか臆されたのではありますまいな?」
「口が過ぎるぞルーヴェンドルフ。わたしがいつまでも手をこまねいていると思うザマスか? あの忌々しいゴキブリどもをまとめて処分するには、今が好機なのは解ってるザマス。ただな、予期せぬ邪魔が入った」
「黒豚逓信社の民兵どものことか?」
「戦闘力がそもそも不明だ。最初から舐めてかかると痛い目を見るザマス」
「さすがハツネさまっ」
「やっぱり言うことがちゃいますなぁ」
 すかさず合いの手を入れるクロセルと日下部。
 ハツネの眉間にピクリとしわが寄ったのには気づいていない。
「校長の目もある。前回のようには行かぬのだよ」
「いよっ。名戦略家」
「大将あんたはほんまにえらい」
「茶坊主がやかましいザマスっ! あーイライラするザマスまったくもう」
 と、そこへ戦部が野戦司令部にやってくる。
「閣下、デブタフォースのブタウトマン大佐が来ています。お会いになりますか?」
「ほう」と、ハツネは興味深げな笑みを見せた。
「ただ、ブタウトマンは人払いの上での個人面会を望んでいるようで……」
「会おう。面白いザマス」
 そういってハツネは部下たちに席を外すように命じた。
 数分後、ブタウトマンがテントから出て行き、レオンハルトたちがハツネの元に戻ると、ハツネはこういった。
「やるぞ。本日4時ザマス」

「しかしヒマだなー。ここへ来るまでも何もなかったし、ここに来てからも何もねえ。こっちは暴れる気満々だったのによ」
 土嚢をつみあげた陣地内ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)があくびをする。高台に作られたその陣地からはシャンバラ大荒野に野戦陣地を構える装甲突撃軍の様子が丸見えだ。
 装甲突撃軍のゴーレムには砂塵よけのキャンバスがかぶせられ、その周りを兵士たちがのんびり歩いている。
「しょうがないですよ。敵は一向に動きそうもないし、会場警備はデブタフォースがやってるし、運営スタッフも黒豚逓信社の社員がやっちゃってるし」
 クロス・クロノス(くろす・くろのす)があきらめ顔で答える。
「本当、何しに来たんだかわからなくなってきたですぅ」
 伽羅もなんだか退屈そうだ。
「気持ちは解らんでも無いががのう。何もなきゃそのほうがいいのじゃよ」
 ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)が腕時計を見る。3時50分。あと10分でマジケットは終了する。
 そんなとき。
 突然会場に設置されたスピーカーから放送が始まる。
「こちらはマジケット準備会です。マジケットはただいまをもって、中止されます」
「え!?」
 ラルクたちが驚いて顔を見合わせる。
 放送は続く。
「なお、会場ゲートは黒豚逓信社防衛軍により完全に封鎖されています。イルミンスール魔法学校の布告にさだめられた、非道徳、不健全、危険と思われる全ての魔法書は没収されますので、サークル参加者、一般参加者の皆様はご協力ください」
 会場のどよめきがここまで聞こえてくる。
「なんだとぉ!」
「誰がそんなことを言い出したのじゃ!?」
「ちょっと確認とってみますぅ」
「おねがいします」
 伽羅が携帯を取り出して、黒豚逓信社側のスタッフ責任者に電話をかける」
「もしもし、今の放送はなんですかあっ? 全然聞いてないですよぅ! は? そんなぁ、ひどいですよう! もしもし、あのもしもし……」
「なんと言っておった?」
「わたしたちには関係ないことだって……」
「まさかはじめからこの計画すべてがワナだったの?」
 唖然として言葉を失うファタとクロノス。
「おい、見ろよ! 装甲突撃軍が動き出してるぜ!」
 ラルクがのぞく双眼鏡には、次々とゴーレムから防塵シートが取りのけられ、兵舎のテントからは完全武装した兵士たちが飛び出してくる様子が見えた。
「すぐにメイベルさんたちに連絡を。それとデブタフォースに……」
「その必要はないブヒ」
 クロノスがそう言いかけたとき、デブタフォースの兵士の一団が現れて銃口を向けた。
「装甲突撃軍とは停戦が合意されてるブヒ。おまえたちはそこでおとなしくしてるでブヒ」
「むうううっ。計ったなぁっ?」
 伽羅が悔しげに両手をあげる。
 同じようなデブタフォースによる武装解除が、メイベルや青野武たちの守る要塞でも行われていた。マジケット防衛委員会はその戦闘能力を完全に失ったのだった。
 彼らの上空をハツネの空軍が悠々と編隊飛行していく。