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マジケット攻撃命令

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マジケット攻撃命令

リアクション

 その数日後。イルミンスール魔法学校内に設けられた青少年健全育成装甲突撃軍の司令部。その最高司令官である寒極院 ハツネ(かんごくいん・はつね)は、部下からの報告を聞いていた。
「で、その原稿は没収できたんザマしょうね?」
「残念ながら。しかし、非合法印刷会社の社員2名を捕らえました」
「何か聞き出せたか?」
「自白剤でも口を割らず、やむなくその場で処刑を」
「役立たずどもめ。証拠は消してあるんザマスね?」
 ハツネはイライラを隠さずつぶやくと、部下の差し出した書類にサインをした。
と、そんなとき。オフィスのドアがコンコン、とノックされた。
「ん? 誰ザマスか?」
 ドアを開けて入ってきたのはレオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)。かつて第一次マジケット戦争でハツネの右腕として一軍を率いた冷徹な指揮官だ。
「おまえは……」
 ハツネはいすから立ち上がってめがねをずらせた。
「元東部方面軍指揮官、レオンハルト・ルーヴェンドルフ。ここに参上いたしました」
「レオンハルト! 生きていたか?」
 ハツネははしゃぐようにレオンハルトに駆け寄って握手を求めた。
「幸運にも」
 だがレオンハルトはその手を取ると、その手の甲に忠誠の口づけをした。
「感謝するべきはわたしのほうザマス」
「恐悦至極。実は、閣下に引き合わせたい者をつれて参りました」
 レオンハルトは「入れ、ルカルカ」と短く告げる。と、ドアを開けてルカルカ・ルー(るかるか・るー)が入ってくる。最終兵器と呼ばれた少女が。
「ルカルカ・ルー。噂には聞いているザマス」
「この者も是非閣下の陣営に」
「はじめましてっ! ハツネさまっ」
 ルカルカは無邪気に笑みを浮かべた。
「ようこそ青少年健全育成装甲突撃軍へ。わたしと我が軍はおまえを歓迎するザマス」
「えへへ。そんな照れますよう」
「こら、ルカルカ。閣下に無礼であろう」
「まあよい。わたしはとても機嫌がいいザマス」
「閣下、作戦会議室へおいでください。閣下に忠誠を誓う精鋭たちが閣下を待っています」
「ん。案内せよ」
「はっ」

 そのころ、ザンスカールの町中やイルミンスールの校舎内、そしてネット上にも、『マジケット防衛委員会からのお知らせ』なる文書が、いたるところに誰かによって貼り付けられていた。

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    【マジケット防衛委員会からのお知らせ】
 ゴールデンウィークに開催されるマジケットスペシャルinキマク
 において、青少年健全育成装甲突撃軍の妨害・介入が行われる可
 能性が非常に高まっています。
 ついてはマジケット防衛委員会から以下の勧告を行います。
 1 キマクへの移動に際しては完全武装をおすすめします。
 2 可能な限り集団での行動を心がけてください。
 3 希望者は『マジケット観光社』のツアーに参加ください。
    ※マジケット観光社住所 マンドラゴラ通り2丁目2番地
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「まったく、こんな呼びかけ張り出すなんてマジケスタッフは正気かしら?」
 イルミンスール魔法学校の廊下に貼り付けられていたビラに群がる群衆のなかに、日堂 真宵(にちどう・まよい)は混ざっていた。
「これじゃまとめてごっそり捕まえてくれって言ってるようなものじゃない」
「全くだぜ。いったいどんなアホが集まるんだか……」
 真宵のパートナー、英雄の土方 歳三(ひじかた・としぞう)が合いの手を入れる。
「でも私たちにとってはむしろ好都合。本体が襲われてるうちに突破できますわね」
 そういってふふふとほくそ笑んでいると、
「あの、すみません……」
 と、見知らぬふたりの少女たちから声をかけられた。
「もしよかったら、わたしたちも連れて行っていただけませんか?」
 声の主は七瀬 歩(ななせ・あゆむ)。そしてその背後に隠れるように上目遣いで真宵たちをみつめているのは歩のパートナー、アリスの七瀬 巡(ななせ・めぐる)だ。
「はあ? なんですって?」
「いえ、その、後ろからお話を伺っていまして……なるほど! と思ったんです」
「なるほどは構わないけど、それならそれで勝手に行ってくださる? わたくしたちはお荷物な女の子のお世話を引き受けるほど慈善家じゃないの」
「いえっ、絶対荷物なんかにはなりませんっ。もし襲われたらわたしが戦います!」
「ほう、心強いお嬢ちゃんだ」
 土方はそういって笑った。
「まったくね。お嬢ちゃんはザリガニかバッタとでも戦ってなさい」
 真宵もそういって笑った。
「えっと、あのう、一応E級四天王なんですけど……」
「是非一緒に行きましょう! 長い旅路、ちょうど話し相手が欲しかったところなの♪」
「真宵……おまえなぁ」
 
 一方、ザンスカールの街中の空き店舗に『マジケット観光社』という看板がひょっこり出された。店内はがらんとしていて、机がふたつ並べられ、そこでファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)クロス・クロノス(くろす・くろのす)が受付をしていた。
 マジケット観光社にはマジケットに参加を希望する作家や一般客や野次馬が続々と詰めかけて申し込みの行列を作っていた。
「しかし良いのかのう。こーんなに堂々と看板をだしてツアーを募集して。ハツネのゴーレムが来る前に全員逮捕じゃぞ?」
「問題ありませんよ。ここで行っているのは単にキマク行きのツアーの募集をしているだけ。あの女の出した規約のどれにも当てはまりません」
「問題ないわけ無いザマしょっ!?」
「おや、どなたかと思えば」
 クロノスが冷ややかに見つめていたのは、黒い軍服の突撃軍を引き連れて駆けつけてきたハツネだった。ハツネは眉間をぴくぴく痙攣させて激怒する。
「正面から乗り込むなんていい度胸ですね。ハツネさん」
「そ、それはこっちのセリフザマス。すぐにこのバカな店をたたみなさいっ!」
「いつから、だれが、どういう理由で、どのような法令に基づいてそうおっしゃるのですか?」
 そうだそうだ、と群衆からヤジが飛ぶ。
 突撃軍兵士が銃を突きつけて黙れと怒鳴る。
「今から、わたしが、気に入らないから、独断で、命令するザマス」
 ハツネはホルスターから拳銃を抜き、クロノスに突きつける。
「これじゃから年増女はイヤじゃのう。おぬしは脳より脊髄のほうが発達してるとみた。ワイドショーと韓流ドラマの見過ぎじゃ」
「な ん ざ ま す っ て ?」
「ほほう。何じゃったらここで決着をつけるかの? 二対一じゃよ?」
 と、突然、銀髪の青年が突撃軍兵士のひとりを殴り倒して進み出た。
「三対一だな」
 その男、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)。かつてマジケット防衛戦に参加した勇士だ。
「ウィルネストさん……」
「おー。懐かしいのう」
「よ。お久しぶり。俺もめんどくせーコトは嫌いなんだよ」
「く……またゴキブリが増えたザマスかっ?」
 と、またひとり兵士が殴り倒される。
「これで五対一でござるっ」
 くりくり頭の椿 薫(つばき・かおる)とのぞき部部長、弥涼 総司(いすず・そうじ)だ。
「……お前は指名手配中の?」
「そーさ。のぞき部部長にして同人作家のサンチェ先生だぜ? 手配写真よりイケメンだろ?」
 ぼかっ
 ばしっ
 べこっ
 続けざまに3人の兵士が昏倒する。
「六対一だ! ケンリュウガー参上っ!」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が名乗りを上げる。
「七対一ね」
 同じく変身ヒーロー系な十六夜 泡(いざよい・うたかた)も登場し、
「九対一でありますっ!」
 孔 牙澪(こう・やりん)とそのパートナーのゆる族、ほわん ぽわん(ほわん・ぽわん)も参戦した。
 もうハツネを守る護衛の兵士は一人もいなくなった。
 群衆からは歓声が上がる。今にもリンチにされようという気配だ。
 ハツネも焦りの色を隠せず、まるでピストルにすがるように銃口を四方に向けながら後ずさりする。
「どうするクロノス。ここでやってしまうかの?」
「ひとつの手ですね。その罪を私たちが引き受ければみんなが助かります」
 ハツネが覚悟を決めたそのとき。
 地鳴りのような足音が響く。
「ゴーレムだ!」
 誰かが叫ぶ。
「逃げろ、踏みつぶされるぞ!」
 たちまちにしてかきちらされ四散する群衆。あっという間に9人を残して誰もいなくなってしまった。
「遅いザマスっ」
「申し訳ありません閣下。急いだのですが」
 黒い軍服を着てハツネの救援に駆けつけたのは、クロノスたちにとって意外すぎる人物たちだった。
「戦部……さん? それに綾乃さんまで……」
 クロノスが絶句する。
「おぬしら、どういうつもりじゃっ!?」
 クロノスたちの前に現れたのは第一次マジケット戦争で総司令官の地位にあった戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)と、同じくやぐら橋要塞指揮官として活躍した志方 綾乃(しかた・あやの)だった。
 クロノスもファタも言葉が出なかった。
「ほっほっほ。番犬の飼い慣らし方というのはこういう風にするものザマス」
 ハツネが余裕たっぷりに拳銃をホルスターに納める。
「えっと、その志方なかったんですよぉ……じゃ、理由になりませんね……ごめんなさいっ!」
「綾乃、謝る必要などない」
 ばつの悪そうな綾乃をよそに、小次郎が冷たく言い放つ。
「そなたは一緒にそこのババァと戦った仲であろうっ。そこまで腐ったか戦部っ!」
「仲? 我々は傭兵です。傭兵はその契約者に忠誠を誓うだけですよ」
「てめえっ!?」
 ウィルネストが殴りかからんとする。が、
「待ってください、ウィルネストさん」
 クロノスが制止した。
「志方さん、戦部さん……正直ショックです。でも受け入れなければいけない。そういうことですね?」
「物わかりがいいじゃないですか」
 小次郎が答える。
「なら、わたしはあなたたちを殺します。……もう帰ってください」
「……クロノスさん」
 綾乃は視線を落とす。
「まあ、せいぜい安っぽい哀愁にひたるといいザマス。総員撤収!」
 ハツネはそう言い放つとくるりと背を向けて去っていく。その後に続いて小次郎と綾乃も引き上げていった。
 がんっ、と、机が叩かれた。
 叩いたのは、クロノスだった。