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マジケット攻撃命令

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マジケット攻撃命令

リアクション

 そんな乱戦が続くなか、レジーヌはハツネに幾度となくヒールの呪文をかけていた。だが傷口が一向にふさがらないのだ。
「おかしいですっ。何で効いてくれないのっ?」
 レジーヌは体力を消耗してほとんど限界だ。
「ん……お前のせいではない……ザマスよ」
「ハツネ閣下っ!」
 意識を取り戻したハツネが苦痛をこらえながらつぶやく。
「パートナーを失ったとき……人は大変な後遺症……を」
「閣下、もうしゃべらないでくださいっ!」
「わたしの……後遺症は、傷が……ふさがらないこと……だから無駄なことは……」 
「いいえっ、私何度でもやりますっ。閣下は死なせませんっ」
 レジーヌは涙を浮かべながら叫び、ヒールを唱え続ける。
 そんな様子を、ひとりの少女が見ていた。
 マジケット防衛委員会の比島 真紀(ひしま・まき)だ。ふとレジーヌが顔をあげると、真紀と視線がぶつかり合う。
「……」
 その視線に、こくりと頷く真紀。
「おねがいしますっ」
 真紀はハツネの元にかけより、レジーヌと共にヒールの呪文をかけはじめた。
 パートナーのドラゴニュート、サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)は、レオンハルトと並んで護衛にまわる。
「馬鹿なっ! 貴様らいったい何を考えているっ!」
「それより少し座っていろっ。自分を盾にしていったい何発銃弾を食らうつもりなんだ?」 
 レオンハルトの胸や腹や足の弾痕から大量の血が吹き出していた。
「くっ……」
 レオンハルトはがくりと膝をつく。

 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はマジケット防衛軍側の指揮官を捜し回っていた。指揮系統が破壊されれば戦いは終わる。だが、この様相では誰が敵なのかを見分けるのもむずかしくなっていた。
「指揮官はいったいどこだ? これじゃだれだかわかんないじゃないっ」
「とりあえず知り合いと戦ってみるって言うのはどうですかぁ?」
 ふりかえるとそこにいたのはメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)とそのパートナーたちのセシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)だった。
「悪いけどメイベルと遊んでるヒマはないのっ」
 ルカルカはブライトマシンガンをメイベルたちに向け掃射する。無数の銃弾が光の帯を引いて飛んでいく。が、それがことごとくはじき返されたのだ。
「物理的に弾をはじいた? この装備は光属性のはず……」
「ふっふっふ。白百合撲殺天使隊をなめないでほしいですぅ」
 メイベルたちのかざすバットは銀色に輝いていた。
「金属バット!?」
 メイベルたちはニヤリと笑うとルカルカたち目指して突撃する。
「ええいっ、墜ちろっ! 墜ちろぉっ!」と、ルカルカは打ち続ける。
 薬莢が散乱し、弾帯がみるみると無くなっていく。
「弾切れかっ」
「そしてえっ! デッドエンドですぅっ!」
 3方向から同時に振り下ろされる金属バット。
「くあっっ!」
直撃を受けたルカルカは、装着していたキマク鋼のチェインメイルを砕かれた。
「愛しのレオンハルトさまとハツネが大変らしいじゃないですかぁ? ルカルカをやっつけたらそっちにとどめをさしにいくですよぅっ?」
「ふふふ。鋼鉄の獅子ここにありっ。抜かせはしないっ」
 ルカルカは一歩引いて片手剣の光条兵器を構える。

 ハツネのまわりにはさらにマリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)とが加わってヒールをかけ続けていた。
 ハツネは再び意識を失い、様態も急速に悪化していた。
「もう、ぎりぎりのところまで来ているでありますな……」
「グレーターヒールですら効かないだとっ?」
 ダリルが忌々しげに吐き捨てる。
「お願いします! だれか助けてくださいっ!」
 真紀は叫び続ける。
「わらわたちでも力になれるかのぅ?」
「ハツネさんに貸しを作って差し上げますわ」
 作家として参加した御厨 縁(みくりや・えにし)、一般客として参加した佐倉 留美(さくら・るみ)が、その輪に加わった。
 ヒールが使えるものはヒールを。使えないものは自らを盾にしてハツネとヒーラーたちを守った。

 そんな折、マジケット会場入り口には、『雪だるま王国』の面々がたどり着いていた。
「なにやら様子がへんですねえ。黒煙が上がってますし」
 赤羽 美央(あかばね・みお)女王様がぼそりとつぶやく。
「きっと戦争してるっぽいぜ。俺たちも突っ込むか?」
 マイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)が答える。
「イヤ、様子を見てからのほうがいいと思いマスヨ」
 ルイ・フリード(るい・ふりーど)が進言する。
「ではクロセルに電話をしてみましょう」
 未央は携帯を出してクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)に電話をかけた。
「あーもしもし女王様です。いまそっちはどーなってますか?」
「どーもこーも滅茶苦茶ですよ! ハツネさんは危篤状態だし……あ、うちらの国民でヒール使えるのいませんか?」
「なんだって?」と、マイトが未央に尋ねる。
「ハツネさんが死にそうで、ヒール使いがほしいそうです」
 皆で顔を見合わせる。
「うーん……紗月、使えない?」
「俺は無理。音井、おまえは?」
「僕もダメ。部長は……無理そうだな」
「ヒャッハー。よくわかってるじゃねーか」
「……ワタシたちって、微妙に使えませんヨネ?」
「ルイ、それをいっちゃダメ」
 ルイのパートナー、機晶姫のリムが突き放したように言う。
「ルイ、とりあえずミサイルなら撃てる」
「撃たないデ」
 未央は、うーん。と考えた後、
「では祈りましょう。雪だるまのご加護がありますように」
 未央たち雪だるま王国の国民はなむなむとお祈りをした。
「ちゃんと真剣にお祈りするんですっ!」
 未央たち雪だるま王国の国民は本気でお祈りをした。
 すると……。

 いつのまにか戦場から銃声が消えた。
 しんとするなか、広場の中央で倒れているハツネを、みんなが見ていた。
 一般参加者や作家で、キュアポイズンやリザレクションの使い手が現れ、治療に加わった。
 たったひとつの命のゆくえを、みんなが見守っていた。
 なぜ敵の命を助けるのか? という問いに、ある作家は「今は敵じゃない。治ったら、敵だ」と答えた。
 そして。
 心の共鳴反応が奇跡を起こした。
 ハツネの体をやわらかな光の帯がくるむ。
 そしてその光が消え去ったとき、ハツネの体の傷はふさがっていた。
「助かったぞ!」
 歓声があがった。
 敵味方無く抱き合って喜んだ。
 ハツネはまぶたを開くと、僅かに無邪気な笑みを見せた。