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学生たちの休日3

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学生たちの休日3

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「やれやれ、なんでこんなに荷物が多いんだよ」
 室内温水プールの脇に折りたたみ式のビーチベッドとパラソル、テーブルをセットしながら、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)はぼやいた。
「文句は言わないのよね。正義の味方たるもの、荷物は全部運ぶのが当然だもん」
 スポーツタイプのビキニを着たリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)が、早々とベッドに寝そべりながら言った。
「今日は、オフ日だ。だいたい、トランクス一丁で何をしろと」
「まあまあ」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)と一緒に飲み物を運んできた樹月 刀真(きづき・とうま)が、武神牙竜をなだめた。
 樹月刀真の財布をしっかりと握りしめた漆髪月夜が、買ってきた缶ジュースをテーブルの上に並べていく。鮮やかな赤いビキニにパレオを巻いていて、なかなかに目立つ格好なのだが、肝心の樹月刀真は目に留めてもくれない。
 プールでは、久世 沙幸(くぜ・さゆき)藍玉 美海(あいだま・みうみ)アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)が、キャアキャアいいながらボール遊びをしている。
「労働の後には報酬があると言うではないですか。なかなかにいい眺めですよ。沙幸は水着を新調したようですね、よく似合って……」
 言ってしまってから、樹月刀真は背後からの殺気に、一瞬背中にひやりとした物を感じた。
「いや、待て、これは……」
「うー」
 漆髪月夜に腕をガジガジと噛みつかれて、樹月刀真が軽く悲鳴をあげた。
「やれやれ。リリィも泳いでくればいいのに」
 なぜかベッドの上で久世沙幸たちの方をガン見しているリリィ・シャーロックにむかって、武神牙竜は言った。
「行かない」
 ぼそりと言ってから、リリィ・シャーロックがなぜか自分の胸を見る。それから、漆髪月夜の方を見て、なぜかほっと安心したように溜め息をついた。
「ねえ、一緒に泳ごうよ」
 フリルスカートのついたピンク色のホルターネックのビキニを着たアルメリア・アーミテージが、リリィ・シャーロックたちを誘いに戻ってきた。
「行ってくればいいじゃないか。水の中ならば、ちっぱいも隠れて分から……ぐはぁ!!」
 リリィ・シャーロックの一撃で、武神牙竜がもんどり打って吹っ飛んだ。何事かと、久世沙幸たちも戻ってくる。
「まあ、そんなことを気にしているなんて。そんな物は、こうやって揉めば大きくなりますよ」
 わざとらしく、アルメリア・アーミテージが呆れて見せた。
「その通りですわ。沙幸さんのたっゆんにかけて、わたくしが保証いたします」
「ちょっと、ねーさま」
 藍玉美海の言葉に、久世沙幸がどういう意味かと聞き返した。
「だって、沙幸さんは、去年の水着がきつくなっていて胸が入らなかったではありませんか。これは、日頃からわたくしが揉んで大きくしてきたたまものですわ」
 申し訳程度に紐付きの黒い三角水着で隠したたっゆんな胸を張って、藍玉美海が答えた。久世沙幸の方は、赤いチェック柄のビキニだが、腰の左右と背中で紐を大きく結んでアクセントにしている。
「人聞きの悪いこと言わないでください!」
 久世沙幸は叫んだが、周りはいつものことだと思って平然と聞き流している。
「じゃあ、さっそく実践してみましょう」
「ちょ、ちょっと!! うひゃひゃひゃひゃ〜♪」
 アルメリア・アーミテージと藍玉美海に前後から挟まれて、リリィ・シャーロックが変な声をあげた。
「ケンリューガーの所も大変だな」
「今はその名で呼ぶなって。まあ、刀真のとこよりも平らだからなあ」
「またまた、御謙遜を。うちの方がちっぱいなら負けないですよ」
「いやいや、俺の方には少女体形という称号があるくらいだ。うちの方が、ちっぱい」
「うちの月夜の方が……」
「リリィの方が……」
 二人の言い合いに、ゴム弾を装填した強化型ガス圧ランチャーのパーツをスポーツバックがガチャガチャと取り出して、漆髪月夜が無言で組み立てを始めた。
「なに、不毛な言い争いしてるんだよね。ここは、二人の勝負で決めたらいいんだもん」
 見かねた久世沙幸が間に割って入った。ちなみに、リリィ・シャーロックは揉まれている最中で身動きがとれないでいる。
「じゃあ、百メートル競泳で」
「いいだろう。負けた方がちっぱいの座は明け渡すんだぞ。それから、全員の夕飯もおごってもらおう」
「ならば、負けられないですね。本代に消えている栄養をここで取り戻させてもらいます」
 火花を散らしながら、二人はスタート台へむかった。
「なんだか釈然としないけれど、御飯のために、刀真、頑張る……」
 不承不承、漆髪月夜が樹月刀真を応援した。
「リリィ、勝つからな」
 武神牙竜はそう声をかけたが、リリィ・シャーロックは変な声をあげて笑っている最中だった。
「みんな、いっくよ〜! よーい、ドン!」(V)
 久世沙幸の声で、一斉に二人は飛び込んだ。
「踏み込みが足りねえぞ。行くぜ、行くぜ、行くぜ!」(V)
 エンゲル係数の差か、武神牙竜が一歩リードする。ちなみに、樹月刀真のエンゲル係数が低いのは、別に裕福だからというわけではない。
「御飯のために負けるわけにはいかない。沈め、牙竜!」
 樹月刀真が、なりふり構わず奈落の鉄鎖で武神牙竜の足を引っぱった。武神牙竜の姿が水中に没する。
 ――ふっ、伊達に普段息苦しいマスクで低酸素運動しているわけじゃないんだぜ。
 潜水泳法に切り替えて、武神牙竜は折り返しのターンを蹴った。
「ま、まずい、御飯が……」
 樹月刀真があわててその後を追う。泳ぎに集中したため、武神牙竜を縛る力が解除されてしまった。その機を逃さず、浮上した武神牙竜が大きく息継ぎをする。だが、その彼の耳に聞こえてきたのは、リリィ・シャーロックの悲鳴であった。
「どうした、リリィ、今行くぞ!」
 本能的に武神牙竜が勝負を捨てて、コースを外れてプールから上がろうとする。
「待て、勝負の途中だぞ!」
 思わず樹月刀真が、武神牙竜のトランクスをつかんで引き戻そうとしたが、それを振り払って武神牙竜はプールから飛び出していった。一瞬後を追おうとした樹月刀真であったが、ゴールの方がリリィ・シャーロックたちに近いと考えて、そちらへむかって泳いでいった。
 
「やっぱり、マッサージは直接でなければ効果がありませんわね」
「そうね、ここは徹底的に協力してあげるわね」
 調子に乗ったアルメリア・アーミテージと藍玉美海の二人が、リリィ・シャーロックの生ちっぱいをむんずとつかんだ。
「きゃー!! ああ、水着が取れる、取れちゃう!!」
 その悲鳴を聞いて、武神牙竜がリリィ・シャーロックの前に駆けつけてきた。
「ケンリューガー参上!!」
 すっぽんぽんで、武神牙竜がポーズをつけた。
 女性陣から一斉に、悲鳴とも歓喜の声ともつかぬ叫び声があがる。
「馬鹿、牙竜、これ、これっ!」
 ゴールした樹月刀真が、トランクスを振り回してやってきた。
「刀真、男相手に何をしている。みーんな、狙い撃つ!!」
 漆髪月夜が、暴動鎮圧用のゴム弾を連射した。パワー強化してあるので、あたり所によってはかなり痛い。
「ぐはぁ!」
「いたた、よせ月夜……」
 あたり所の悪かった武神牙竜と樹月刀真が、逃げると言うよりもゴム弾に弾き飛ばされてプールに落ちる。
「勝負あり、敗者、牙竜と刀真! じゃあ、二人で私たちに御飯おごってね」
 ぷっかりとプールに浮かんだ二人を足先でツンツンつついて確かめながら、久世沙幸が言った。
 
「ごちそうさまでございました」
 物陰から一部始終をのぞいていた秋葉つかさが、満足したように武神牙竜を拝んだ。
「ちょっと、これって盗撮だよ……」
 秋葉つかさに言われるままに写真を撮っていた羽入勇が絶句した。
「ええ。女子のぞき部でございますから。本来は、肉眼のみが部の掟なのでございますが、今回は広報活動込みですので、ちゃんと記録していただきました。本当にありがとうございます」
 ぺこりと、秋葉つかさが羽入勇に頭を下げた。
「だめ。ボクのモットーは、人の嫌がる写真は撮らないなんだから!」
 言うなり、羽入勇は全消去ボタンを押した。
「嫌がっているようには思えなかったのですが……」
「まあまあ。むさい男は消去したのですから、今度はちゃんと断って写真を撮ってあげましょうよ。ちゃんとした勇の写真だったら、みんなも喜んでくれますよ」
 そう言って、ラルフ・アンガーが羽入勇をうながした。
「そうだね」
「では、堂々と水着を鑑賞させていただきに行きましょう」
 秘密の茂みから姿を現すと、三人はプールから必死に男二人を引き上げようとしている久世沙幸たちの方へと歩いていった。
「写真、いりませんかー?」
 
    ★    ★    ★
 
「えーと、お魚は塩焼き用と、炒め物用のフレークを買ったから……、後はこのゆるゆる印特製手延べそうめんにしましょう。今日は、冷やしそうめんに、焼き魚で。明日は、フレークと一緒に炒めて焼きそうめんにしましょう。明後日は、ぱりぱりに焼いたそうめんに、餡をかけて……。ええと、じゃあ、もう少し野菜がほしいですね」
 スーパーの中をぐるりと回りながら、広瀬ファイリアが、即席で献立を組み立てていく。
「そうめんづくしだね。たまにはそれもいいかも。バーゲンで買い込んだ食材で、飽きが来ないようにバリエーションを変えて工夫するなんて、ファイはいいお嫁さんになれるね」
 ウィノナ・ライプニッツが、カートを押しながらちょっとわざとらしく広瀬ファイリアを褒めた。
「でも、それにはまずお婿さんを見つけないとねー」
「お婿さんじゃ、難しいかも。恋人なら、きっとすぐに見つけちゃうだもん。きっと、多分……」
 最後の方、ちょっと自信なさそうに広瀬ファイリアが言った。自信をもって、今現在恋人がいると言い返せないところが悲しい。ウィノナ・ライプニッツも、それを知っているからこそ、こんな話題を振ってきているのだ。
「ひいふうみいと……。おや、石鹸が足りないですよ」
 カートの中の物を買い物メモでチェックしていたウィノナ・ライプニッツが、広瀬ファイリアに言った。
「おしかったですね。やはり、早くお婿さんを見つけないと……」
「見つけなくても、そのうちむこうからやってくるんだもん。刹那ちゃん、取ってきてね」
「はーい、フィリアお姉ちゃん」
 広瀬ファイリアに言われて、広瀬刹那が走っていく。
 やれやれと、広瀬ファイリアは、追加の野菜をカートに入れていった。
 ほどなくして、何かいろいろかかえた広瀬刹那が帰ってくる。
「石鹸だけだったはずだけど?」
「うん、でも、肉じゃが食べたくなったッス」
 そう言って広瀬刹那がかかえていたのは、肉じゃが味のポテトチップスだ。
「刹那〜、そんなにいっぱいお菓子ばかり食べたら太るよ〜」
「うぐっ!? ……た、体育で思いっきり運動するから大丈夫ッスよ、ウィノナお姉ちゃん」
 突っ込まれて、思わず少し腰を引きながら広瀬刹那が答えた。
「はいはい。じゃあ、ジャガイモとタマネギと白滝と牛肉追加ね。じゃ、今日は肉じゃがにしましょう」
 素早く献立を頭の中で組み替えると、広瀬ファイリアはお総菜コーナーへとむかった。