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ホレグスリと魂の輪舞曲

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ホレグスリと魂の輪舞曲

リアクション

「むきプリかー、知らねーなー。つか会ったことねーし」
「ここにいるらしいんだけど……空京って広いのねー。まだ会えないわ」
 そう言うファーシーに、フリードリヒは鞄からペットボトルを2本出した。1本をファーシーに渡す。
「そうだ。喉かわいたろ。これ飲むか?」
「うん、ありがとう!」
 ファーシーは素直に受け取ってその蓋に手をかける。
「なー、機晶姫って生き物じゃねーんだよな? メカってやつ? ホレグスリって効くかな? なぁなぁ?」
「ホレグスリ……?」
「ファーシー、ダメ!」
 ぴくりと反応するザカコ。その言葉の意味に気付いたルカルカが制止の声を出したが、既にファーシーはその中身を飲みきってしまっていた。
「ほえ?」
「ファーシーさんだぁ! 元気でしたかー!?」
 そこでティエリーティアがやってきてファーシーにぎゅうっと抱きついた。
「フリッツも知ってたなら教えてくださいよー! あ、飲み物あるじゃないですかー。くださいー」
 一気にその中身を飲む。
「ティティ! だから、今日は人から貰っちゃいけませんと……!」
「フリッツは知らない人じゃないですー」
「それは俺のだからだいじょーぶだって! ファーシーのやつに……」
「え?」
「やっぱり!」
「何? 何か入れたの?」
「「「「…………」」」」
「ふつーにおいしかったけど……」
「大地さんー、飲み物ありましたよー、大地さんも飲みますかー?」
 首を傾げるファーシーをザカコとルカルカとフリードリヒとスヴェンが注目し――その間にも、事態は着々と進行していく。
「「「「…………え?」」」」
 そして4人が一斉に振り返った時――
「大地さんー、好きですー……」
 ティエリーティアはぎゅむーっと大地に抱きついていた。スヴェンは声無き悲鳴をあげる。
(あああああああああああーーーーーーーーーー!!)
「何か食べましょう〜、どのお店がいいかなあー……」
 そのまま大地を引っ張って、街頭販売のお店のメニューを覗いていく。
「ん? 奇遇だなファーシー。何処に行くんだ?」
 その時、鬼崎 朔(きざき・さく)スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)と猫を連れて声をかけてきた。
「あっ、2人共久しぶりね! 可愛い猫ちゃん……」
「……わしは猫ではない」
 渋いおやじの声で言う猫。
「そうなの? どう見ても猫だけど……」
「ゆる族じゃ!」
 新月 ミカヅキ(しんげつ・みかづき)は後ろ足で立ち上がり、えっへんとするとまた4足歩行状態に戻る。
「やっふぅ〜! どうせなら、ファーシー様も一緒に怪人様を成敗しましょう! なのであります!!」
 元気に両手を広げて言うスカサハに、ファーシーは首を傾げた。
「怪人?」
「平和な世にホレグスリを撒いて混乱の渦に巻き込もうとする乙女の敵、怪人筋肉ダルマだ。これから退治しに行く」
「ホレグスリ……筋肉? ああ、むきプリさんの事ね!」
 朔の説明にファーシーは納得した。
「光の美少女戦士、ファーシーライト、何ていかがでありますか? ファーシー様にはアイドルコスチュームが似合うであります! 衣装もあるであります!」
「退治かあ……。わたし、むきプリさんを助けに来たんだけど……」
「ほう。助ける……とな?」
「うん。何かかわいそうな人だって聞いたから」
「…………」
 朔達は、思わず顔を見合わせた。
「確かに、かわいそう……ではあるな。主にアタマが」
「あれ? ファーシーさん達も来てたんだ」
 11人に気付き、ケイラ達3人が近付いてきた。ケイラは、相変わらずフェイスフルメイスを握っている。一方、響子は綾刀の柄に手を添えているものの、極自然体な物腰である。街中で抜刀してたら捕まっちゃうからね。特に今は☆
「あっ、ねえねえ、むきプリさんって知ってる?」
「む き プ リ だと?」
 その言葉を聞いた途端、ラスのこめかみが引きつった。威圧感たっぷりにファーシーを見下ろす。
「お前、むきプリに関わってるのか……。知ってることがあったら全部吐け。吐かねーと今この場でスクラップにするぞこら」
「な、何よ偉そうに……」
 ファーシー達は、知ってることをとりあえず吐いて情報を共有した。
「もう、助けることはできないのかな?」
「いいかファーシー。助けるってのはただ優しくすることじゃねーんだぞ。そこまでアタマがかわいそうになったら、葬ってやることも一つの助けだ。丁寧に土に埋めてやれば、むきプリも地獄で泣いて喜ぶだろ。これ以上罪を重ねずに済みました。ありがとうございますってな」
「ふーん、そういうものなのね……わかった! わたしやるわ! 変身してむきプリ退治するわ!」
「ファーシーさんに攻撃機能は無いですよ〜?」
 ファーシーが大きな声で宣言すると、『退治』という言葉だけ聞こえたのかティエリーティアが言った。離れたところで、大地と一緒に2段重ねのアイスクリームを食べている。他の話は、一切耳に入っていなかった。
「……その車椅子で交通事故でも起こしてやれ」
「うん、そうするわ! あ、そうだ、ティエルさんも一緒にやらない? 美少女ヒーロー!」
「え、僕ですか〜?」
 ティエリーティアは一瞬、まじかる☆てぃえるという言葉を思い浮かべたがすぐに首を振った。
「僕はいいです〜。今日は大地さんとずっと一緒にいたいです〜」
「ティエルさん……」
 大地とティエルは2人で見詰め合う。ちなみに、大地は素面である。いつぞやと同様に、ホレグスリはこれっぽっちも効かなかった。ペットボトルに薬が入っていたのも知らないままだ。
 2人をべりっとはがしたくなる衝動を抑え、スヴェンは思う。
(ふ、ふふふ、むきプリくん……見つけたらただじゃおきませんよ……!)
「そんなにくっつくと危ないぜー」
 フリードリヒが言うも時既に遅し、ティエリーティアは持っていたアイスを大地の服にべちょりとつけてしまった。
「あ、あっ、ご、ごめんなさいー!」
「大丈夫ですよ。ちょっと洗ってきますね」
 苦笑して離れていく大地を、ティエリーティアは寂しそうに見送る。その彼に、シーラが近付いて耳打ちした。
「大地さんはまだ、あなたのこと女の子だと思ってるのよ〜」
「えっ、えっ、そうなんですか〜?」
 そんな会話がなされているとは露知らず、大地は洗面所のある店を探していた。その彼に向かってメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が歩いてくる。上空から探しても中々見つからないので、捜索方法を聞き込みに変えたらしい。それぞれが手に持っている野球のバットには――何か赤黒いものがべっとりとついている。
(もしや……さっきから救急車の音が絶えないのはこの所為ですか……!?)
「あ、大地さん〜、むきプリ君を見ませんでしたか〜? こんな人ですぅ〜」
 そう言って表を見せた写真には、明らかな返り血が付着していた。かろうじて、むきプリ君の顔は無事である。
「見かけていませんが……、今、みなさんでむきプリ君滅殺の相談をしているようですよ」
 大地が朔達の事を話すと、フィリッパが言う。
「では、彼女たちとも協力しましょう。ピノちゃんを無事助け出さないと」
「ホレグスリなんて欲しい人にあげて良いですから、ピノちゃんだけは返してもらいましょう〜。セシリア・ライト(せしりあ・らいと)も呼んできますね〜」
「撲殺天使の本領発揮、ですか」
 メイベルは振り返って、微笑する。
「私たちの『愛』は凄いですよ? 心をこめてむきプリ君に私たちの『愛』を知ってもらうには、その体に刻み込むのが一番ですぅ〜」

「ねえ、あの鞄抱えてるの、そうじゃないかしら? 見たことないけど、イメージ的に」
 その頃、14人はそれらしき人物に注目していた。ルカアコが見つけて示す先には、必死の形相で走っている茶髪角刈りの筋肉男がいる。
「あれだ……よし、まずは月光蝶仮面の衣装に着替えるぞ」
「揚羽蝶仮面の出番であります!」
「わ、わたしも!」
 準備に急ぐ朔達を微笑ましく見守りながら、ミカヅキは思う。
(朔め……月光蝶仮面を名乗るとは……嬉しいのォ。わしらが昔活動していたことは……無駄じゃなかったのだな……相棒よ)
 自分の装備を確認して、そっと武器の冷たさに触れる。
(……さて、ならばわしも手を貸そう)