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ホレグスリと魂の輪舞曲

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ホレグスリと魂の輪舞曲

リアクション

「むきプリ君!」
 ピノに呼び止められ、むきプリ君は足を止めた。何故だか怒りが湧き起こってきて、むきプリ君は思わず、ピノをがしっと抱え上げていた。
 ピノは内心でラッキー、と思いながらむきプリ君に聞く。
「え? なになに? どこ行くの?」
「うるさい! 全てお前のせいだ!」
「はあ!?」
 ――全てむきプリ君のせいである。
「悪の人攫いだっ! マナカが成敗してやるーーーー!」
「私も行きますぅ〜」
 真菜華と明日香、ついでに動物達に追われながら、むきぷり君は猛ダッシュでホテルを目指す。
 その彼の目に、御神楽環菜の姿が入った。人質作戦が功を奏したのか、手招きをする格好の環菜に付いていく。
『早く来なさい』
 偉そうだろうが超命令口調だろうがこの時期にダウンジャケットだろうが、今のむきプリ君には女神に見える。しかし――
 三方をビルに囲まれた、ロータリーのような所。そこで、環菜の姿が掻き消えた。
 驚いて、左右後方から上空まで首を巡らせて彼女を探し求める。
「元祖、マナカ☆アタック!」
 立ち止まったむきプリ君の顔面に、小型飛空挺に乗った真菜華が体当たりした。
「ぶごっ!」
 のけぞって、鼻血を噴出させるむきプリ君。その後ろに周り込み、再び横っ面から飛空挺を――
「ぼごっ!」
 飛空挺を――
「べごっ!」「ぶげらっ!」「あべしっ!」………………
「うーん、なかなかしぶといにゃ〜」
 頭部が赤いぶどうのようにぼこぼこになったむきプリ君は、仰向けになってのびつつもピノをぎっちりと抱えていた。
「身ぐるみ剥げば、放すかな〜!」
 そうして真菜華は、むきプリ君の衣服を脱がし始めた。
「あれっ? これ全部新品じゃん! しかもたっかいやつだ! やったー! あとで売ろっ!」
(こ……この……! あとでおぼえてろ……!)
 むきプリ君は復讐を誓いつつ、地道に自分でヒールをかける。すっぱだかと命を天秤にかけた結果、命が勝ったらしい。
 そして見事すっぱだかになって、鼻血も止まって立ち上がろうとした時。
「!?」
 彼の身体に、赤い薔薇がいくつもついた、蔦のようなものが巻きついた。それでも、むきプリ君はピノを放さない。ピノが小さく悲鳴を上げる。
「きゃ」
 その瞬間、煙幕ファンデーションが周囲を包んだ。
 ぼぐん。
 筋肉で守られた身体に、三方から野球のバットがめりこむ。
 ぼきばきべきっ、という体内からの音を聞きながら、むきプリ君は倒れ伏した。
「可愛い子を誘拐するなんて、そんな重罪を犯した人には天に代わってパラミタ撲殺天使がオシオキですぅ!」
「可愛いは正義! ピノちゃんを誘拐するなんてその正義に対しての冒涜だよ!」
「ピノちゃんを放してくださいませ。悪いようにはしませんわ」
 もうなっている。
「だ、誰が放すか……」
 パラミタ撲殺天使3人を見上げて、むきプリ君は言う。
「降参するですぅ〜! ここにいるのは私たちだけではないですぅ〜」
 メイベルの視線の先、薄くなっていく煙幕の向こうから現れたのは、胸に晒を巻いたタキシード姿の少女だった。銀色の蝶マスクをつけ、片手に黒薔薇を持っている。
「怪人筋肉ダルマめ! ホレグスリ作成だけでは飽き足らず、可愛い乙女を誘拐するとは……言語道断!」
 紳士的な印象すら覚える彼女の右には、ひらひらのミニスカートドレスを着て車椅子に座ったファーシーが、左には揚羽マスクをつけた金髪のメイドが立っていた。メモリープロジェクターを持っている。これで環菜の画像と声を投影していたのだ。
「可愛い乙女の危機に、颯爽と現れる月夜の蝶一匹。タキシード姿の蝶仮面、愛と情熱の可愛い乙女の味方! あつい部所属のダークーヒーロー、月光蝶仮面……参上!」
「スカサハ……いいえ、揚羽マスクのメイド、揚羽蝶仮面……参るのであります!」
「え、えっと……スケベな魂を正義のビームで超絶改心! 光の美少女戦士ファーシーライト!」
「ファーシー様、どもっちゃだめであります! まだまだでありますね!」
「え、そ、そう? 練習するね」
 脇でそんな会話を交わす揚羽蝶仮面とファーシーライト。
 月光蝶仮面は前に出てポーズを取ると、凛々しい声で叫ぶ。
「ホレグスリで人々を翻弄し、罪なき乙女をかどわかすその所業……例え、月が許そうともこの月光蝶仮面が許さん! 覚悟しろ、怪人筋肉ダルマ!
 ファイファー!!」
「ファ、ファイファー!」
「何だこいつら……! 付き合ってられん、逃げるぞ」
 むきプリ君はいもむし的な動きで回れ右をして逃げようとした。だが、すぐにその進行が止まる。彼に対して、ミカヅキがトミーガンを構えていた。ミカヅキは、ブラックコートを着た上で光学迷彩を施し、気配を消していたのだ。
「逃げられると思うておるのか? 今も昔も、月光蝶仮面のマスコットキャラは『月影のミカヅキ』、わしのことじゃ!」
(……ふむ、何か懐かしいのォ……まるでわしの若い頃に戻った様じゃ)
「ふん、こいつがいるのに撃てるのか?」
 むきプリ君はピノを盾のように示すと、せせら笑って地を這っていく。文字通り。
「……先に人質を取り返す必要がありそうじゃの。朔……ん?」
 月光蝶仮面達が名乗りを上げたことで、ロータリーには人集りが出来つつあった。その中から、すっ、と背筋を伸ばした燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)が前へと進み出る。アイドルコスチュームを着た彼女は、片手にカンペを持ってむきプリ君に言った。
「ラジカルマジカル、ケミカルミラクル。半端な事は大嫌い。何時も無慈悲にラジカルマジック。イルミンスールの執行者、魔法少女ラジカルザイン、ここに参上。……です」
 超棒読みだ。
 ハイパー棒読みだ。
 ザイエンデはカンペをぺっ、と捨てると、むきプリ君を見据えて言った。
「アタシの魔法と幸せの歌の力、みせてあげる☆ ……です」
「よし! 大事な登場シーンが終わったのじゃ! 朔、いや、月光蝶仮面、行け!」
 月影のミカヅキの合図と共に、月光蝶仮面は禁じられた言葉で魔力を上げた。そして、高周波ブレードからアルティマ・トゥーレを放つ。
「ぬぉっ!?」
 むきプリ君の肩が凍りついた。動けなくなったところで、揚羽蝶仮面がピノを抱いて救出する。
 そこで、ラジカルザインが火術を使った。
「ぐああああああっ! ……幸せだ……」
 続けて幸せの歌を歌うと、その声にむきプリ君は澄み切った乙女のような表情になった。その乙女に、月光蝶仮面が則天去私を連続でお見舞いする。
「ごっ、がっ、あっ、のっ、……幸せだ……」
 ラジカルザインがサンダーブラストをむきプリ君に仕掛ける。
「ぬあああああっっ! ……気持ちいい……」
 月光蝶仮面とラジカルザインは、そうして火、雷、氷を駆使した攻撃と幸せの歌のコンボを続けた。
「ぎゃっ! ……素晴らしい……」
「も、もう止め……っ、……もっとお願いします……」
「あぁん! そこっ、そこをもっと……! わたくしめをもっといじめてくだされ……!」
 観客(元通行人)達も興奮して彼女達を応援する。
「やれやれー!」
「しかし、弱い悪役だなあ……」
「もう少し強い方が面白いな!」
「子供用にしてはアブノーマルすぎるわ! 太郎! 帰るわよ!」
「美少女ヒーロー! がんばれー!」
 むきプリ君がかっこいい男だと勘違いしている彼等は真実に気付かず――
 これを、ただのヒーローショーだと思っていた。
「みんなも参加するであります! 悪を討つでありますよ!」
 観客(ヒーロー見習い)達が乱入してくる。目がイっちゃってる人達が多い所から類推するに、彼等はあのコーヒーを飲みながらこのショーを見ていたのかもしれない――