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バーゲンセールを死守せよ!!

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当日 オープン前2

「これは、予想以上ね……」
 屋上から、並んでいるお客の列を見下ろしてつぶやく梅琳。
「昨日、梅琳が戦争だって言ったことが頷けるよ。なんだか殺気だってるね」
 梅琳の横に立っているカオルがつぶやく。
「カオル。今は任務中よ」
「あ、そうだった。すいません、李少尉」
「カオルの、そういう素直なところが気に入ってるのよ。今日は頼むわ」
「まあ、任せておいてよ。今日は重装備だぜ」
 カオルの装備は、ジャケットの下に防具を着込み、靴は安全靴のような、踏まれても大丈夫そうなものだった。
 その時、屋上のドアがバンと開く。
「任務完了、余裕でした」
 元気良く現れ、敬礼をしたのは香取 翔子(かとり・しょうこ)だ。
「ご苦労様」
 梅琳が振り返って、敬礼する。
「でも、本当にエレベータや、エスカレーターを停止して良かったんですか?」
 翔子が不思議そうに首をかしげる。
「ええ。最初は苦情が出るでしょうね。でも、止めて置くのは、最初の2時間と、特売時間の要所要所だけよ」
「それで、故障中って張り紙なんですね」
「そう。もっとも事故が起こりやすい、人が殺到する時間はなるべく階段を使わせるの。少しでも体力を消耗させるためね」
「なるほど……」
 感心する翔子。
「まあ、私のアイディアではないんだけどね」
「あの、梅琳さん、そろそろ作戦本部の方に……」
「わかったわ。すぐ行く。翔子、今日は情報通信の方頼むわね」
「了解です!」
 ビシッと敬礼をする、翔子。
「さ、これはカオルさんの分の、レシーバーよ」
 そう言って、翔子はカオルにレシーバーを渡す。
「おっ、サンキュー。じゃあ、オレは警備の方に付くよ」
 カオルはレシーバーを受け取り、屋上を出て行く。
「さっ、本番よ。気合入れないと」
 踵を返して、本部へと向う梅琳。

 婦人服売り場、フロア入り口。
 そこに、二人の警備担当の生徒が立っている。
 夢野 久(ゆめの・ひさし)片良木 冬哉(かたらぎ・とうや)だ。
「なあ、昨日の話、どう思う?」
 久が隣の冬哉に問いかける。
「ああ。梅琳さんの話だろ? まあ、ちょっと大げさって感じがするけどね」
 ふぁーっと、欠伸混じりに答える冬哉。
「だよな。バーゲンのオカン共なあ……確かにゴツくはあるがよ、でも俺ぁ今まで散々マジもんの修羅場を越えてきたんだぜ?」
「ま、俺もあんたほどじゃないけど、そこそこは、経験あるぜ」
「たかが買い物程度で怪我するほど温くねえよ。ま、軽く気合いれれば充分だろ」
「同感だね」
「婦人服売り場……か」
 久はフロアを見渡す。
「オカン共の目当てから察するに此処が一番の激戦区だろ。……ま、この程度は軽くこなしてやんよ」
「期待してるぜ、相棒」
「任せとけ」
 自信満々に、ニヤリと笑う久であった。

 婦人服売り場中央。
 そこには、婦人服売り場とはかなりかけ離れた雰囲気をもつ者が二人いた。
「血が騒ぐぜ。ここが一番の激戦区だろうな」
 3メートルを超える巨漢、ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)が笑みを浮かべる。
「おまえの、そういうところが、まだ理解不能なのだよ」
 ゲシュタール・ドワルスキー(げしゅたーる・どわるすきー)がつぶやいた。
「何を言う。いわゆる最前線の激戦区は婦人服売り場だ。ここを制した者が勝者だろ」
「ますます、わからんのだよ。だが、まあ、付き合ってやろう」
 そんな二人のやり取りを見て、店員たちがブルブルと震えていた。
「……怖い」
 女性店員の一人が、涙目でそうつぶやいた。

「はっはっは! いやいや、腕がなりますね」
 陽気なマッチョ、ルイ・フリード(るい・ふりーど)が婦人服売り場の片隅で笑い声をあげていた。
「ふむ。相変わらず、暑苦しい。これなら、ご婦人達もルイを避けて通るであろう」
 ルイを見上げて、うんうんと頷きながらそう言ったのは、リア・リム(りあ・りむ)だ。
「はっはっは。何を言ってるのです、リアちゃん。いざとなったらこの、ルイ☆スマイルで場を和ませますよ」
 そう言って、爽やかなスマイルを浮かべるルイ。
「……。うむ、じゃあ、僕らは別行動ってことでよいであろう?」
「そうですな。では、これを」
 ルイはそう言って、リアにトランシーバーを渡す。
「何かあったら、すぐに連絡を入れてください。すぐに駆けつけますから」
「……期待しないで、待つことにしよう」
 トランシーバを持って、トコトコと歩き出すリア。
「もうすぐ、開店でありますな」
 少しだけ、シリアスな顔になるルイだった。

 三階、ヤングファッション売り場。
 クォータースタッフを指の上で器用にクルクルと回しているカセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)
「はぁ……。警備のバイトって、正直気がのらねぇなぁ」
「仕方ないですわ。お金が無いんです」
 そう言って、カセイノをたしなめるリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)
「金欠って、大体お前の買物の仕方には無駄があるんだよ」
「なにを言ってますの? わたくしは、必要な物を必要な時に買っているだけですわ」
 リリィは、カセイノが持っているクォータースタッフを指をさす。
「そちらの商品だって、今日の為に購入したのものですわ。きっと今日のバイトに役にたつはずですわ」
「ただの棒じゃねかよ。……って、ちょっと待て!これ幾らだ?」
「え? 4500Gですわよ」
「バイト代より高けーだろ!」
「……まあ、そういうこともありますわ」
「ねーよ! ちゃんと確認してから買えよ。てか、こんな物買うくらいなら、バーゲンに参加しろよ」
「その杖、大事につかってくださいね」
 ニコリと笑うリリィ。
「ちっ、俺はいつも、その笑顔に騙されてる感じがするんだよな。……ん?」
 カセイノが窓から、外を見下ろす。
 そして、その列の中に見たことがあるような顔を見つける。
「……イーハブのジジィ?」
「どうかしましたか?」
「いや、気のせいだよな。何でもねえよ」
 歩き出す、カセイノとリリィ。

「前からの打ち合わせ通りに、いけそうか?」
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が店員と話をしている。
「ええ。クレアさんに言われた通りに、目玉商品を同時にタイムサービスで売ることになりました」
「うむ。それなら、なんとか客の目的を分散できるであろうな」
「店長も関心してました」
「一人の客が、たくさん物を買うのではなく、満遍なくお客に商品を買ってもらえば満足してもらえるであろう」
「店長が、クレアさんを店員として雇いたいといってましたよ」
 微笑みながら店員が言う。
「まあ、あくまで任務ということで、警備だけではなく商業的にも成功させたいのだが……」
 クレアはそこで、一度言葉を切る。
「結局、私は軍人だからな。客商売には向いていないのだよ」
「……そうでしょうか?」
「で、子供の預かり所の件は、どうであるか?」
「ええ。それも、ちゃんと場所を設置して、何名かの生徒さんにいてもらえることになりました」
「……それは良かった。では、戦闘、開始なのだよ」
 クレアは、大蛇のように長い列を作っているお客達を見て、そうつぶやいた。