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リアクション
開店 1時間経過
2階、婦人服売り場。
階段付近では、背中に無数の足跡を着けた、久と冬哉が倒れていた。
服が破れ、ボロボロの姿は、まるでサイバイ○ンの自爆にやられたヤ○チャのようだった。
「それでは、2階、婦人服売り場で、タイムサービスを始めます!」
その放送で、冬哉は目を覚ました。
「……ここは?」
冬哉は、開店10分後の惨劇を思い出す。
「……生きてるのか? 生きるっていうのは、すばらしいな」
目を細めて祈りのポーズをする冬哉。
そこで冬哉はハッとする。慌てて、隣の久を起こす。
「うう……。こ、ここは?」
久も同じように、記憶が曖昧のようだった。
「……お、おい、立てるか?」
冬哉が、久を助け起こす。
「馬鹿な……! ……この俺が全く歯が立たない……だと……?」
どうやら、久も悪夢のような光景を思い出したようだった。
「とにかく、一旦退却しようぜ」
冬哉と久が肩を組んだ状態で、バックヤードへ向う。
「かー! クソッ、修行が足らねえ!」
悔しそうに唇を噛む、久。
その時だった。
聞いたことのある、感じたことのある地鳴り、轟音が聞こえる。
「ま、まさか!」
冬哉が目を見開く。
再び、階段から群衆が押し寄せてきた。
「また来やがったうわああああ!?」
あっさりと、人波に飲まれる冬哉と久だった。
エメネアたちは、階段を登っていた。
「……婦人服のタイムセールか」
放送を聞いて、そう言ったのはトライブだった。
「うふふ〜」
エメネアは、ニコニコしながら階段を登り続ける。
「婦人服には興味がないのか?」
トライブが問いかけると、チッチッチと人差し指を横に振るエメネア。
「甘いですの〜。今の放送はフェイクですわ〜」
「フェイク?」
「きっと、誰かの情報かく乱ですわ〜」
エメネアの言葉を聞いて、メイベルとセシリアが顔を見合わせて、首をかしげた。
再び、2階婦人服売り場。
「ちょっと、どういうことよ!」
大勢のおばちゃんたちに詰め寄られている、芦原 郁乃(あはら・いくの)。
「え、えっと……」
「タイムセールなんて、ないじゃない!」
「あ、あれ? おかしいな……」
「わたしなんか、食料品を後回しにして来たのよ!」
「あう、あうっ……」
郁乃は助けてと言う目で、秋月 桃花(あきづき・とうか)を見る。
「変ですね……。この時間に、ここでタイムサービスの予定は入っていませんでしたが……」
同じように困った顔をしている桃花。
「ちょっと、そこをどきなさいよ! セール品、隠してるんでしょ!」
一番前のおばちゃんが、そう言った瞬間だった。
ダムが決壊したように、一気におばちゃんが押し寄せてくる。
「あわわ、落ち着いてくださーい」
郁乃が叫ぶが、それで止まるおばちゃんたちではない。
「桃花!わたしにかまわず逃げてっ!!」
波に飲まれながら、辛うじて桃花の姿が確認できる。
桃花は、壁際でカタカタと震えて、なにやらつぶやいていた。
「バーゲンセール……それは恐怖の言葉です」
桃花が、一応は安全圏にいることが分かり、ホッとする郁乃。
そのまま、おばちゃんたちの波に飲まれていく。
ああ、このまま死ぬのかしら。そう郁乃が思った時だった。
不意に手を引っ張られ、人がいない場所へと連れて行かれる。
「え?」
人の流れから出た郁乃の手を握っていたのは、郁乃が住む下宿の大家だった。
「……お母さん」
「郁乃ちゃんも服を買いに来たのかい?」
そう言って、大家は微笑んだのだった。
作戦本部。
「……やられたわね」
梅琳は、眉間にしわをよせて頭を抱えていた。
すぐに翔子と無線をつなげる。
「どうなってるのかしら?」
「混乱しているところに、偽の情報を持ち込まれたみたい」
「……どういうこと?」
「放送をした店員は、『店長が急遽行なうセール』と言われて放送したみたい」
「そう……。それならすぐにクレアと対策を立てて」
梅琳は、そう言って無線を切る。
「……なかなか、やるじゃない」
不敵な笑みを浮かべる梅琳だった。
「放送をしてしまったのなら、仕方がないのだよ」
「どうしましょうか……」
「……確か、倉庫に在庫があったはず。それを特売で売るというのはどうであろう?」
クレアと婦人服フロアのマネージャーが話している。
先ほどの、嘘の放送についての対策を立てているのだ。
「一度、放送が嘘だということになると、今後、客は放送を信用しなくなるであろう?」
「そ、それはそうですね……」
「それなら、多少強引でもタイムセールをするしかないのだよ」
「そうですね」
「すぐに、在庫をかき集めて、ワゴンを出すのだ。店長には私から話をつけておく」
そう言って、踵を返すクレア。
「……思ったよりも、強敵のようだ」
そんなセリフを言ったクレアだったが、顔には笑みが浮かんでいた。
必死の形相で移動するおばさんたち。
その様子を見て、朔がニコニコと笑顔を浮かべている。
「情報かく乱、うまくいったみたいです」
6階、子供服売り場はほどよい人の混みようだった。
先ほどの、タイムセールの放送で人がいなくなったこともあり、割とほのぼのとした雰囲気だった。
「きゃー、ノルンちゃん可愛いですぅ」
試着しつから出て来たノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)こと、ノルンを見て感嘆の声をあげる神代 明日香(かみしろ・あすか)。
「やっぱり、ノルンちゃんは、フリルも似合うですぅ」
「次は、これはどうですか?」
そう言って、ゴス系の服を持って来たのは、女性店員だった。
「あ、それもいいかもですぅ」
明日香は、店員から服を受け取って、ノルンに渡す。
「はい、次はこれですよ〜♪」
「……はい、です」
ノルンは服を受け取って、更衣室に入っていく。
「それにしても、可愛いですね。私も、テンションがあがってしまいます」
うっとりした顔で、ノルンを見送った女性店員。
「やっぱり、ノルンちゃんは、可愛い格好が似合うですぅ」
「リボンも置いてますけど、見ますか?」
「はい! 見るですぅ♪」
更衣室で着替えているノルンは、店員と明日香の会話を聞いて、小さくため息を吐く。
「……ちょっと、疲れてきました」
「良かった。ゆっくり選べそうだね、ふぃーちゃん」
「そうですね。きっとさっきの放送で、2階に行った人が多いんですよ」
子供服を見ながら、お互いの身体に服を合わせている、天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)とフィアリス・ネスター(ふぃありす・ねすたー)。
「ふぃーちゃん、こんなのはどうかな?」
白のワンピースを掲げる結奈。
「いいですね。この腰のところのリボンがいいです」
「今年は、これ着て海にでも行こうよ」
「海ですか。いいですね」
ニコニコと買い物を満喫する二人だった。
「やっぱり平和が一番だねぇ〜」
クロト・ブラックウイング(くろと・ぶらっくういんぐ)に肩車をしてもらっている、オルカ・ブラドニク(おるか・ぶらどにく)がつぶやく。
「オルカ、どんな服がほしいんです?」
「うーん。そうだねぇ〜。いっそのこと持てるだけ持っていこうかな〜」
「それもいんですけどね、ちゃんとコーディネートを考えないと」
「えぇ〜。面倒くさいよ」
「……また、オルカはそんなこと言って。そうだ。後でブランドの小物も買っていきましょうか」
「混んでるところは、イヤだなぁ〜。争うのは苦手だしぃ〜」
「オルカらしいですね」
「空いてる内に、買っちゃおうよ」
「そうしますか」
肩車のまま、売り場を回る、クロトとオルカ。
1階、ブランドショップ売り場。
「あ、あの、そろそろ降ろして欲しいですわ」
紗月におんぶされた星華が恥ずかしそうに言う。
「え? 別にせーかは軽いから平気だぜ?」
「そ、そんなことを言ってるんじゃないですわ!」
「?」
「とにかく、人が少なくなってきたんだから、降ろしてほしいですわ」
「そうか? うん。じゃあ……」
紗月が星華を降ろす。
「……へえ、結構、品揃えいいですわね」
商品棚を見て、星華が言う。
「バーゲンで安くなってるはずだし、多少なら買っても大丈夫……だよ……な?」
少しだけ不安そうに、財布の中身を確認する紗月だった。
愛は、迷子の子供がいないか見回っていた。
すると、バックを陳列している棚を不思議そうに見ている男の子を見つける。
「君……大丈夫?」
愛が声を掛けると、その男のはハッとして逃げ出してしまう。
「え? ど、どうして逃げるの?」
慌てて男の子を追う、愛だった。
フロア内を、狼が歩いていた。
狼化したスプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)だ。
「わーい、わんわんだ!」
スプリングロンドの後を、子供たちが着いていく。
「さすが、お義父様ですわ」
「お義理父さん、子供好きだからね」
子供と戯れるスプリングロンドを見て、ルピナス・ガーベラ(るぴなす・がーべら)とリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)が微笑む。
「あんなに泣いてたのに、お義父様を見たらすぐに泣き止むんだもん。やっぱり子供って動物が好きなんだね」
「それだけではありませんわ。お義理父さん、うまく皆で遊べるように誘導してますわ」
「それより、カレンはなにしてるんだ?」
「ん? ピックアップだ」
子供たちを見ながら、何やらメモを取っているカレンデュラ・シュタイン(かれんでゅら・しゅたいん)。
「ピックアップ?」
リアトリスが首をかしげる。
「ああ。オトメンを探しているんだ」
「……」
「例えば、今、義親父の尻尾を触っている猛くん。彼は有力候補だが……」
「……だが?」
「オトメンというより、将来ダンディな男になるな。微妙に俺の好みから外れる」
カレンデュラの言葉に、呆れ顔をするリアトリスとルピナス。
「カレンさんは、そんな目的で、今回のボランティアに参加してるんですの?」
「無論だ。……さて、それではオトメンをナンパ……もとい、迷子がいないか見て廻ってくる」
カレンデュラがスタスタと歩き始める。
「……だから、僕、連れてくるの反対したんだ」
「……ですわね」
フウ、とため息をついた、二人だった。
遠くでは、子供たちがスプリングロンドを追いかけ廻していた。
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