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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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 2.翕然(きゅうぜん)
 
 
「御苦労でしたね、フニン、ムギン」
 月詠 司(つくよみ・つかさ)が手をさしのべると、使い魔である二匹のカラスが、相次いで左右の肩に舞い降りた。慣れた様子で、探ってきた海賊島周囲の情報を月詠司に囁く。
「さすがに、手勢をすべて集めただけはありますね。海賊島の周りは海賊船だらけだそうです」
 月詠司が、眼前に広がるパラミタ内海に目をむけると、軽く指先でメガネの位置をなおした。
「それで、ここからどれぐらい離れているんだ?」
 すぐそばで、同様に沖を見据えたココ・カンパーニュが振り返りもせずに訊ねた。
「沖合十キロというところでしょうか」
 月詠司が、耳をフニンの方に寄せてから答えた。
「ひとっ飛びの距離ではあるな」
 ジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)が翼を広げて言った。
「きゃっ」(V)
 巻き起こる風に、藍玉 美海(あいだま・みうみ)が魔女の帽子を飛ばされそうになってあわてて押さえる。
「ですが、そのひとっ飛びの間に、敵がひしめいているわけです」
 海岸にならべられた小型飛空艇の横で、ペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)が言った。
 こうも簡単に居場所を特定されるぐらいに大規模な招集をかけたぐらいだ、海賊たちも本気で何かをしかけるつもりに違いない。
「今、クイーン・ヴァンガードではマ・メール・ロアへの攻撃を準備していますからね。海賊たちがティセラ・リーブラと繋がりがあるとすれば、この動きはそれに連動したものでしょう。だからこそ、クイーン・ヴァンガードも、海賊島に戦力をさしむけたというわけです」
「それは、私には関係ないことだわ」
 樹月 刀真(きづき・とうま)の言葉に、ココ・カンパーニュが素っ気なく答えた。
「そうでしたね。女王像の右手の御礼ということはありますが、俺は、今回はクイーン・ヴァンガードとしてよりも、一人の人間――樹月刀真としてお手伝いさせていただきますよ」
 ジャワ・ディンブラから受け取った女王像の右腕を無事ミルザム・ツァンダに届けた樹月刀真が、感謝とそれ以外のものを込めて言った。
 そんな樹月刀真の袖を、つんつんと引っぱる者がいる。
「一人……じゃない。二人」
 フェイスフルローブから手だけ出した漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が、ぽそりとつけ加えるように言った。
「まあ、ここまでつきあうはめになったのは一人や二人じゃないんだ。きっちりと最後まで、面倒はみさせてもらうぜ」
「もちろんです」
 白砂 司(しらすな・つかさ)の言葉に、サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)がうなずいた。
「さあ、とりあえず腹ごしらえでもして。その後で、全力でやってやろうじゃん」
 サンドイッチや紅茶の載ったワゴンを押してきながら、弁天屋 菊(べんてんや・きく)が言った。上等な執事服に身を固めてはいるが、カリン党グリーンとしてプロレスマスクだけは外してはいない。
「あ、受け取りのサイン、ここに頼むよ」
 ワゴンをゴチメイたちの間におくと、弁天屋菊がジャワ・ディンブラに色紙をさし出した。
「なぜ我に。まあいい。後で請求とかしないようにな」
 疑問に思いつつも、ジャワ・ディンブラがさらさらと流暢な文字で色紙にサインをする。
「すべてすんだら、もっと盛大に祝宴をあげようぜ」
「そうですな。今回こそ、準備は無駄にはなりますまい。後で、シェリルさんとともに、のんびりとお茶を楽しみましょう」
 軽くウインクをしてみせる弁天屋菊に、道明寺 玲(どうみょうじ・れい)が続けた。
「ああ、楽しみだ。」
 ココ・カンパーニュが力強く答えた。
 ひとまず、狭山 珠樹(さやま・たまき)ユーナ・キャンベル(ゆーな・きゃんべる)やたちが作った避難所に集まって戦闘前の腹ごしらえをすることになる。ジャタの森の避難所であるとともに、ココ・カンパーニュたちの臨時の司令所になっている。
 戦いがどこで繰り広げられるか分からないため、ここジャタの森に面した海岸近くに拠点となるテントが狭山珠樹たちによって造られたのであった。戦闘の負傷者や、ジャタの森の避難民をここで保護しようというものである。
「ハーイ、毎度おなじみ、運がつく特製カレーデース」
 避難所の中で寸胴をかき回していたアーサー・レイス(あーさー・れいす)が、ココ・カンパーニュたちを迎えた。
「また、カレーが!」
 思わず、リン・ダージ(りん・だーじ)が後退る。
「ふふふ、今度は逃がしまセーン」
 じりじりと、カレーライスの盛られた皿を持ったアーサー・レイスがリン・ダージに近づいていく。
「大丈夫だ。胃薬ならちゃんと用意してある」
 土方 歳三(ひじかた・としぞう)が言うが、それはもはや保証と言うよりも、追加攻撃と言うべき代物だ。
「こらあ、また食中毒患者出したらどうするのよ!」
 怒号とともに、日堂 真宵(にちどう・まよい)がアーサー・レイスを蹴り倒した。
「ぶふっ!」
 倒されたアーサー・レイスが、日堂真宵の足の下で半ば砂にめり込む。
 先日、イルミンスール魔法学校の前でボランティアと使用したカレー屋を開いたときは、犠牲者多数を出してあわやザンスカールの保健所に捕まるところだったのだ。この大事な曲面で、戦闘中にゴチメイの誰かが食中毒で倒れたらしゃれにならない。
「テスタメント、早く処分しちゃいなさい!」
「はーい」
 日堂真宵に命令されて、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)がカレーの入った寸胴鍋を運んでジャタの森に入っていく。
「あああ、せっかく作ったカレーを……。捨ててはいけまセーン」
 アーサー・レイスが叫んだが、もう遅かった。木々に隠れた森の奥から、ザバーっと何かをぶちまける音が聞こえた。次の瞬間、凄まじい獣たちの咆哮、いや、悲鳴が響き渡った。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
 ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの必死に謝る声が聞こえてくる。
「テスタメントったら、いったい何を……」
 さーっと、日堂真宵が青ざめる。
「もう戦いの被害者が……。行くでござるよ、ニンニン」
「はい、急ぎましょう」
 担架を担いだ秦野 菫(はだの・すみれ)梅小路 仁美(うめこうじ・ひとみ)が、急いで悲鳴の聞こえた方へと駆けていく。
「こちらは、受け入れの準備よ」
「分かってるよ。頑張ろう」
 薬を準備するユーナ・キャンベルに、シンシア・ハーレック(しんしあ・はーれっく)が答えた。
「ジャタの森の動物たちが、早くも犠牲に……」
「ふむ、武器として使えそうであるな」
 絶句する茅野 菫(ちの・すみれ)を尻目に、相馬 小次郎(そうま・こじろう)が冷静に謎料理と化したカレーの使い道を模索していった。
「なんともったいないことをするのデース。せめて、このお皿にくっついたカレーだけでも……」
 奇蹟の復活を遂げたアーサー・レイスだったが、その鼻先に魔法のステッキが突きつけられる。
「えっーとお、炭になるのと、かき氷になるのと、どちらにしますかあ?」
 リン・ダージを後ろにかばってしゃがんだチャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)が、目だけ笑わずにアーサー・レイスに訊ねた。
「うちのリンちゃんをいじめると許しませんよお」
「ああ、すみません、すみません」
 アーサー・レイスを踏み直して、日堂真宵がひたすら謝る。
「うむ、ちょっとこっちに来い」
 見かねた土方歳三が、アーサー・レイスの首根っこをむんずとつかんで引きずっていった。
「ノー! ヘルプ、ミー!!」
 先ほど森の奥から聞こえてきた動物の悲鳴に負けず劣らぬ悲鳴をアーサー・レイスがあげる。だが、彼を助ける者は誰もいなかった。