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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)
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第9章
黒羊郷

 
 黒羊教の信徒兵が、教導団のスパイを召し捕った。これの公開処刑が、湖東のほとりにて執り行われる。
 処刑対象は、前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)のパートナーであり、この地に寄っていた仙國 伐折羅(せんごく・ばざら)である。地下に忍び込んだ折に、奮闘の末、信徒兵に囚われた。伐折羅は市内を引き回され、公開処刑の話は多くの者の耳に入ることとなった。
 当日は、教導団を敵とする黒羊郷の民の多くが湖畔に集った。
 処刑場までは、些かの距離がある。
「おぅおぅ、いくら敵さんが一人紛れ込んだからって、公開処刑までしちまうとは、黒羊教ってのもずいぶん小せぇ宗教だなぁ、おい」
 そんな群衆のなかにあって、ウェスタルックに馬のマスクをかぶっただけ、という見た目シュールな男が、渋い声でつぶやく。
「っと」ここに集まっているあらたかは、信者なのだな。聞こえちゃまずい。
 それに、ここからじゃ……ちと、遠いな。
 カウボーイハットを深くし、ティアドロップサングラスの位置を直し、その場を離れた。
 ジョニー・ザ・キーンエッジ(じょにー・きーんえっじ)。旅のゆる族だ。さて、彼は……。


9-01 仙國伐折羅救出劇(1)

 無論、黒羊教の側からすれば、広く公開処刑を喧伝することで、処刑を阻止しに来るであろうこの地に潜入している教導団員を炙り出そう、という企みであったわけだ。しかし、そうであったとしても、義理に厚い教導団の者は、やはり共に戦ってきた仲間を放っておけることはなく、ここに、付近の山々に潜伏していた騎狼部隊のこの者らの姿も我々は見ることとなる。
 デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)、彼は彼で、周囲の蜂起勢力を合流させようという目的のもとに動いていた。厳しい現状とは言えたが……いや、やれることを少しずつだな、と。
 それにしても、仲間の窮地と知った以上は、
「状況が状況だが。今の俺には、見捨てられないからな」
「悩んで迷って、ウジウジするよりは、こうしていた方が、オレたちらしくはあるよな」
 パートナーのルケト・ツーレ(るけと・つーれ)と一緒に、土地に溶け込む格好で街をしばし歩く。数名のシャンバラ騎狼兵も一緒で、何人かは、公開処刑の件やその真偽を確かめるべく酒場などに足を伸ばしているところ。
「でもさ、デゼル……捻くれてるとはいえ」
「な、何だ。言わなくていい。仲間が囚われているんだ、当然のことだろう?」
 まあ、ね。ルケトは微笑ましそうに応える。
「街の様子は、こないだ訪れたときととくに変わりはないね。それはそうとルケト……内容はともかく、女らしく働けそうな職場(キャバクラ「わるきゅーれ」のこと)だったのに、勿体無いと思わないのかね」
「ま、まだそのことを……アノナァ!」
「わ、わかったぜ」
「デゼル殿!」シャンバラ兵が合流して来る。
「やはり、本当か。場所の確認もしておきたいが、事前に下見というのもあやしまれるよなぁ。ち、悩ましいところだ。おっ、クー。行ってくれるか?」
「クッ。クッ」
「デゼル殿ー。湖東の近くに、宿がとれましたぜ。今日のところは、そこで作戦でも練っておきましょう」
「ああ、そうするか。しかし、他に救出に来るやつがいるなら、共同作戦を取りたいところだが……駄目なら、九人でやるしかない」
 シャンバラ騎狼兵らも、それに頷いた。



 この男もまた……
「先を急がにゃあならんのだから……って、見捨てるのは簡単だが」
 久多 隆光(くた・たかみつ)だ。
 騎凛のため……彼女を助ける手立てを求めるべく黒羊郷へ来たものの、どうすれば手がかりに辿り着けるかわかっているわけではない。それに、先に潜入していた教導団のアイツなら、何かわかるかも。それに、敵の総指揮官について、聞くかね。久多は自らの内に秘めた決意から、そう思っていた。
 伐折羅を引き回す信徒兵らには、隙がなく、公開処刑のときを待つしかないだろう、と思われた。
 久多は、気付かれないように、湖東付近で高台になるような場所を探しておくことにした。
 さいわい、林など、身を隠す場所は多い。
 辺りは、しんとしている。
 木立の間から、湖が見える位置に出ると、処刑台らしいものが設置されているとこをであった。
 上手く、いくだろうか。信徒兵か。……。まさか俺が、こんなところで、負けはしないだろう……?
 久多は、ライフルを手にとる。
「……よし」
 久多は間近に気配を感じ、はっと振り向く。「なっ、まさか見つかっ……」
「クッ。クッ。カー……」
「はっ、……はぁ?!」
 小さなドラゴニュートであった。
 クー・キューカー(くー・きゅーかー)だ。
「キュー! キュー!」
「わっ。よせ、何故、引っ張る……こっちへ来いっていうのか。仲間……がいるのか?」



 公開処刑、当日。
 湖畔の東には、民衆が集まり始めている。
 デゼル、久多は打ち合わせをすることができ、各々、決意のもと、宿を出た。
「騎狼をとってこないとな。俺たちは林の方から、注意して行こう。久多、よろしくな」
「ああ。こちらこそな。射撃の腕は……うん。任せてくれ。デゼル」
「るー おふぁよぅ…… るー……」
「オイ、ル、ルー。起きてるか? ルー、今日は本当に大事な役目だぞ」
「るー まかせてっ」
 ルー・ラウファーダ(るー・らうふぁーだ)、しゃきっとしてみせる。「るー!」
「よし。じゃあ、行くか……」