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泥魔みれのケダモノたち

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泥魔みれのケダモノたち

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第13章 悪霊のエネルギー

 いまやダークキッコウは倒れてただのカメのカメ吉となり果てていた。
 気がつけば、沼地におびただしく存在していた黒鬼たちも消滅している。
「全て終わったか……いや、まだこれがある」
 エヴァルトは、両の拳に抱かれる宝石ウォーマインドの光に目を細めた。
 マイナスエネルギーが凝縮されて生成されたウォーマインドは、自律的にマイナスエネルギーの収束や変換を行う、まがまがしい存在だった。
「貴重な宝石なのは事実だが、浄化しなければ。うん?」
 エヴァルトは、一部の生徒たちに取り囲まれていると気づいた。
「何だ?」
「ダークキッコウは倒れた! 残されたウォーマインドを浄化までする必要はない!」
「いや、これを残しておけば、第二、第三のダークキッコウが現れる。宝石マニアの間でレア中のレアとして取引されるものだとは知っているが、浄化はしなければならない!」
 エヴァルトは叫んだ。
「どうしても浄化するというなら、仕方ない。俺たちと闘ってもらおうか! 勝った方が宝石を好きにするというわけだ!」
 エヴァルトを囲む生徒たちは、いっせいに武器を構えた。
「くっ、何ということだ! これがパラ実の流儀か!! 俺が襲われた奴を袋叩きにするほどの力をみせつければ、誰も文句をいわなくなるというわけか。むう。これも正義のためか!」
 エヴァルトが宝石を奪取はさせまいと、闘う覚悟を決めようとしたとき。
「ちょっと待ったー!」
 右手を振り上げて意気揚々と現れたのは、変熊仮面(へんくま・かめん)である。
「やあやあみなさん、こんにちは!」
 ナガンたちと行動をともにしているわけではないが、彼も全裸だった。
 彼の場合、普段から全裸でいるために、今回、脱いでから闘いに入っていった者たちに比べると、当然ながら、裸でいても違和感はない。
「どうした、変熊!? お前もこの宝石が欲しいのか!!」
 思考を読めない相手が出てきたために、まだ目的がわからないうちから、エヴァルトは警戒態勢に入っていた。
「いや、闘いが終わったようなので、みんな、よくがんばったと、一部の人たちはわざわざ全裸になってまですごいねと、賞賛しにきたんだけど……あれ?」
 変熊は、ふと違和感を覚えて、股間に顔を向けた。
「うわー! これはよくない! 俺様の美しい身体に泥が! しかもよりによって清潔にしなきゃいけないところに!」
 慌ててマントで、その先端についた泥を拭こうとする変熊だが、ふと思いついた。
「そうだ、これはこれで、こうするといいかな!」
 変熊は、なぜか用意していたチョコバナナを取り出した。
「エリカちゃ〜ん!」
「はい。変熊さん、ですね」
 救出されたハムーザと和んでいたエリカは、変熊に呼ばれて駆け寄ってきた。
「問題。どれが本物のチョコバナナだ〜?」
 手にしたチョコバナナのほかに、股間を突き出してプルプルさせながら、変熊はにっこり笑って尋ねた。
 やりとりを聞いていた一部の生徒たちがガクッとなって、沼地の泥に頭から突っ込んでいる。
「あらあら? チョコバナナ、好きですけど、そこは早めに拭いておかないと、どんな黴菌が入るかわかりませんわよ?」
 エリカは、特に不快感を示す様子もなく、真面目に答える。
「そう? じゃ、こっちが本物だと思うのかな〜?」
 変熊はニコニコ笑いながら、股間をエリカにこすりつけようとする。
 そのとき。
「おい、そのぐらいにしておけ」
 我慢できなくなった斎藤邦彦が変熊をエリカから引き離し、正面から睨みつけた。
「うーん? いっとくけど、俺様はからかってるわけじゃないぜ。この身体をみせることには、いつも真剣勝負さ」
 笑う変熊に、今度は御茶ノ水千代がつかみかかる。
「だから、いってるじゃないのさ! そういうのは、人をみてやりなよ。何でエリカにやるのさ?」
 御茶ノ水は、興奮した口調になっていた。
「いや、それは、エリカちゃんに、この俺様も癒してもらいたく……って、わー!」
 最後まで聞く気はないとばかりに、御茶ノ水は変熊の身体を勢いよく突き飛ばしていた。
 突き飛ばされた変熊の身体が、エヴァルトの足もとに倒れ込む。
「なんてこったい。それこそ、泥まみれだ」
 口の中に泥が入った変熊は、むせていた。
「少しは反省しなよ。せっかく闘いが終わったってのに騒ぎを起こして」
 御茶ノ水は腕組みをして、変熊を睨む。
「だから、俺様は真剣なんだー!」
 変熊が叫んだとき。
 キラァァァァ
 エヴァルトが抱えていたウォーマインドが、まぶしい光を放った。
「うん? しまった!」
 油断していたエヴァルトの手を離れ、ウォーマインドが変熊にとりついていく。
「あれ? あれれれれ?」
 ウォーマインドは変熊の体内に入り込み、マイナスエネルギーを増幅させていく。
 むくむくむく
 変熊の身体が巨大化していった。
「うおおおお、力が、力が! がおー!」
 マイナスエネルギーの影響で変熊は凶暴化し、全裸の巨体を揺らしながら生徒を追い回し始めた。
「うわー! 身体の変な部分まで巨大化してるから怖いよー!」
 変熊に追われた生徒たちはびっくりして駆け出し、沼地の泥に足をとられて転んでしまう。
「ふははははは! 俺様はダークキットウ! 文明に魂を汚された人間どもよ。私の必殺技をくらうがいい。チョコバナナー!」
 巨大化・凶暴化した変熊が、腰を前方に突き出して、泥まみれの股間をプルプル揺らしたとき。
 ダークキッコウとの闘いの最中もはしゃいで踊りまくっていた、秋葉つかさ、藤原優梨子、桜井雪華の3人が、沼地を一周して再びエリカたちのもとにやってきたのだ。
「ああ、疲れましたね。そろそろやめましょうか。あら?」
 藤原は、変熊の凶暴化した姿に目を止めた。
「変熊さん、相変わらずたくましいモノをお持ちですね」
 微笑んで、変熊を見上げる藤原。
「がおー! 貴様、何くわぬ顔して、魂は汚れきっているな。分解してやろうかー」
 変熊は、藤原に吠えた。
「あらあら。マイナスエネルギーに取り込まれてしまったんですか。全く、変熊さんったら。うふふっ」
 笑いながら、藤原はじゃれつくように変熊に近づいていく。
「でも、怖くはありませんわ。ダークキッコウと違って、急所がはっきりしてますからね。ほーら!!」
 藤原は手を振り上げて、変熊の股間の急所を打った。
 ビシィッ!!
「あっ、いってー!!」
 そこの打ち方を心得た藤原の一撃を受けて、激痛のあまり変熊は飛び上がり、仰向けの状態で沼地に倒れ込んだ。
 ずずーん
 巨体が沼地にめりこみ、変熊は頭をうちつけて伸びてしまう。
 コロン!
 変熊が倒れた拍子に、体内のウォーマインドも沼地に転がり出てきた。
 しゅうううううう
 マイナスエネルギーが抜けて、変熊の身体が徐々にもとに戻っていく。
「やれやれ。これでわかっただろ? この宝石は危険なんだ。ただの宝石のように、おとなしく扱われるものではないんだぜ。俺が何とかして浄化を……」
 エヴァルトが、周囲に言い含めるように話しながら、ウォーマインドを拾いあげようとしたとき。
「ワハハハハハ! 全くそのとおりだ!」
 突如、ウォーマインドが宙に浮き上がったかと思うと、その内部から、乾いた笑い声が響き渡った!
「むう! 厄介な。こいつは自分の意志を持っているのか!」
 エヴァルトは戦闘態勢に入って、ウォーマインドと向き合う。
「ハハハハハハ! ハハハハハハハ! なかなかやるではないか、戦士たちよ!」
 ウォーマインドは笑い声をあげながら、上空に昇ってゆく。
「ハハハハハハ! また会おう、諸君!」
 そのまま、ウォーマインドは天空の彼方に飛び去ってしまった。
「くそっ、闇龍の力に引かれたか?」
 エヴァルトは、遥か彼方の闇龍と、その周囲で起きている激戦に思いを馳せながら、宝石を破壊できなかったことを悔やんだ。

 沼地の外れ。
 ついに「おやっさん」に出会った風森巽は、念願であったシルバージョンのチューニングをおやっさんに依頼していた。
「うん?」
 風森は、天空をものすごいスピードで飛んでいくウォーマインドに気づいて、顔を上げた。
 キラッ
 遥か彼方に消えてゆく、ウォーマインド。
「おやっさん、あれは? かなり不吉な気配を感じたんですが」
 風森は、おやっさんに尋ねる。
「うむ、あいつら、闘いに勝ったようだが、あれが、敵の本体だな。恐ろしいことだ。悪霊のエネルギーに違いない」
 おやっさんはウォーマインドの消えていった方向に目を向け、肩をすくめると、再び作業にとりかかった。