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第8章 エリカ脱がされる

「春夏秋冬さん……あなたは、大変勇敢でした。私も負けずに!」
 エリカが再び踏み出そうとしたとき。
「はーい、ちょっと待ってねー! エリカちゃんに用があるよ!」
 湯島茜(ゆしま・あかね)がエリカを止める。
「えっ、私に用って?」
 戸惑うエリカ。
「エミリーに、怪物を浄化できる可能性のある、いいアイデアがあるんだって」
 湯島はパートナーのエミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)をエリカに紹介した。
「エリカ君、お初にお目にかかるであります」
 エミリーはエリカに一礼した。
「あっ、はじめまして、エミリーさん! それで、アイデアって何ですか?」
 早くハムーザ3世を助けたいという一心で、エリカはエミリーに尋ねた。
「はい。それは、ダークキッコウとこの沼地がマイナスエネルギーによって生じたものなら、プラスの精神を持ったエリカ君に沼地を浄化してもらえばよいと、そう考えたわけであります」
 エミリーの説明に、エリカは首をかしげる。
「私って、そんなに前向きなんですか? 浄化するって、どうやれば?」
「いやいや、他の生徒に比べればかなり前向きでありますよ。浄化するには、やや乱暴ですが、エリカ君を沼地に放り込むのがよろしいかと考えております」
 そういって、エミリーはエリカの腕をとった。
「えっ、私を沼地に放り込むって? 泥まみれになってしまいますけど、それで本当に沼地を浄化できるのなら……」
 半信半疑のエリカのもう一方の腕を、湯島がとった。
「本当にできるかどうか、難しいことはわからないけど、エミリーが自信たっぷりにいうからね」
 湯島とエミリーが、エリカの身体を担ぎ上げたとき。
「待って下さい!」
 御茶ノ水千代が、エリカの放り込み作戦にストップをかけた。
「うん? 御茶ノ水君、エリカ君は承諾しているんだ。試みても構わんだろうと思いますが」
 エミリーが御茶ノ水にいった。
「承諾といいますが、ちょっと一方的ではないですか。まず、エリカをおろしてもらえませんか」
 御茶ノ水はエミリーの腕をつかむが、エミリーはエリカを解放する素振りもみせない。
「御茶ノ水さん、エミリーを信じて。うまくいけば、沼地を浄化して、ダークキッコウも消滅して、ハムーザ3世ちゃんを助けられるかもしれないんだよ!」
 湯島は御茶ノ水に作戦の承諾を求めた。
「エリカはプラスの精神エネルギーを持ってると思いますが、普通の女の子なんですから、この沼地を浄化できるほどの力はないと考えます。異論はあるでしょうけど、要するに私は反対です」
 御茶ノ水はエミリーを睨みつけた。
「私も、信念があってやっているであります」
 エミリーも御茶ノ水を睨み返す。
 バチバチバチ
 二人の視線がぶつかりあって、火花を散らした。
「御茶ノ水さん、私、やってみます!」
 担ぎ上げられたままの状態で、エリカがいった。
「エリカ! 無茶はやめな!」
「私は確かに普通の女の子です。戦闘とかははっきりいってできません。でも、それでも何かやらなければ! 私のために、ほかのみんなもいろいろやってくれてるし」
「泥に突っ込むんだよ? 本気かい?」
「やってみます! エミリーさんも相応の見識があって考えたことだと思います」
 エリカが頑固になってしまったので、御茶ノ水も諦めた。
「そうですか。では、本人がそういうなら、構いませんが」
 御茶ノ水はエミリーの腕から手を離す。
「いくよ、そーれ!」
 湯島とエミリーは、かけ声とともにエリカを沼地の泥の中に放り込んだ。
 ぽーん
 びしゃーん
 泥をはね散らしながら、エリカは沼地の中に沈んでいく。
 だが。
「ぶきー!」
 ダークキッコウの勢いは変わらない。
「何だコラァ!」
 黒鬼たちの勢いにも変更はない。
「エミリー、何も起きないよ?」
「うーん、エリカの精神エネルギーには、確かに沼地のマイナスエネルギーを緩和する効果があると思うのですが、いっきに浄化させるのは難しいのでしょうか」
 エミリーは腕組みをして、考え込んでしまう。
「やれやれ。だから申し上げたんですけどね。エリカさん、大丈夫ですか?」
 御茶ノ水が全身泥まみれになったエリカを引き上げる。
「うーん。目にも口にも泥が入りましたが、たいしたことありません。でも、困ってしまいましたね。どうすればハムーザ3世ちゃんを助けられるのでしょう?」
 髪の毛から泥を落とし、目や頬を手でこすりながら、エリカがうめく。

「エリカちゃん! あたしにも考えがあるよ」
 泥を服から払い落としているエリカに、今度はプリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)が声をかける。
「えっ? ありがとう。どんな考えですか?」
「エリカちゃんは、パラ実の野蛮な生徒さんたちを更生させようと考えているんだよね。それなら、邪心にとらわれたカメさんを更生させるのも正しい道だよね」
「邪心にとらわれてる? あのカメさんが?」
 プリモの説明に、エリカはきょとんとする。
「そう。ダークキッコウは、マイナスエネルギーの力で思考を歪められているんだよ! だから、ダークキッコウを何とか更生させられればいいんだと思う」
「いわれてみれば、そういう気もしますね。じゃあ、私、説得してみます!」
 ダークキッコウに向かって駆け出そうとしたエリカの手を、プリモが引いて制止する。
「待って。説得じゃないよ。特攻するんだよ!」
「特攻、ですか!?」
 エリカは目を丸くする。
「そう。エリカちゃんには、マイナスエネルギーを打ち消す精神エネルギーがある。さっきは失敗したけど、気合をあげてダークキッコウに特攻すれば、きっと!」
「ハイハイ、君もちょっと待ってくれませんか」
 途中まで聞いていた御茶ノ水千代が、二人の間に割って入る。
「さっきのをみておいて、そんなことをいうのですか? エリカは普通の女の子なんですよ。ちょっと癒しの力はあるのかもしれませんが」
「でも、やってみないと!」
 プリモは力強く訴えた。
「ダークキッコウに特攻して、失敗したら今度こそ身体に傷がつきますよ。最悪、死ぬ危険だってあります。わかっているんですか?」
「エリカちゃんならやれるって、信じてる!」
 プリモは目をうるうるさせて御茶ノ水を、ついでエリカをみた。
「御茶ノ水さん、私、もう1度、やってみます!」
 エリカは既に決心を固めていた。
「またやるんですか? 大丈夫ですか、本当に」
 御茶ノ水は、エリカの心意気に胸を打たれないでもなかったが、それでも危険な行動だと認識していた。
「大丈夫……ではないかもしれないけど、何かしなくちゃ! ただみているだけなんて、私はもうイヤなんです!」
 エリカは熱い口調で御茶ノ水に語る。
「わかりました。では、やってみて下さい。でも、今度は本当に気をつけて下さいね」
 御茶ノ水は後退し、エリカを見守る構えに入る。
「エリカちゃん、がんばって!」
 プリモが手を振って応援。
「はい。ありがとうございます。私、がんばって特攻してみます!」
 エリカはダークキッコウに向かって駆け出していった。
「ダークキッコウさん! あなたに恨みはありませんが、ハムーザ3世ちゃんを返してもらいたいんです!」
 叫ぶエリカ。
「ぶきー! ハムーザ? 何のことだぶきー!」
 ダークキッコウは甲羅の上のハムーザ3世には全く気づいていない様子だ。
「なぜ哀しみを哀しみのままにして生きる必要があるんですか? 哀しい目にあったのなら、その分人に親切にすればよいのでは? 挫折を単なる挫折のままで終わらせるんですか?」
 エリカは胸の底からの言葉を語りかけながら、ダークキッコウに突っ込んでいく。
「ぶきー! やかましい! 過去があるから私はいる! いまさら変えられる過去ではない!」
 ダークキッコウは吠えて、エリカに噛みつこうとした。
 ぶしゅうううううう
 すると、噛みつく前にダークキッコウが鼻息を吹き出しただけで、エリカは吹っ飛んでしまった。
「きゃあああああ」
 エリカは沼地に頭から叩きつけられ、再び泥まみれになった。
 そして。
「うがー! そういえばテメェはまだ脱いでねぇな!」
 黒鬼たちが、エリカに襲いかかってきたのである。
「しまった!」
 エリカ自身の意志を尊重して事態を静観していた、斎藤邦彦や御茶ノ水千代がエリカを守ろうと駆け出すが、もう遅い。
「あっ、涼しい〜」
 どこか浮いた感じの悲鳴とともに、エリカの純白の衣服が剥ぎ取られ、ついで純白の下着も剥ぎ取られて沼地に捨て去られてゆく。
「何ということだ! エリカが全裸に! みんな、みるなよ!」
 斎藤たちはエリカの周囲に人の壁をつくり、他の生徒たちの邪な視線からガードした。
「大丈夫です。泥が胸やお尻についてて、恥ずかしいところはみえません!」
 そういって、エリカは無造作に立ち上がり、泥を落とそうとする。
「だから、泥を落としたらみえるんだよ」
 事態を理解しないエリカの様子に、斎藤は苛立っていた。
「エリカちゃん! あたしのいったとおりにやってくれて嬉しいんだもん! さあ、誰かのおかずにされないうちに、これを!」
 プリモは、毛皮でつくられた、胸と股間を覆う簡単な衣服(ビキニ)をエリカに渡した。
「ありがとう。プリモさんのお心遣い、本当に嬉しいです!」
 毛皮の服を身につけ、ホッと息をつくエリカ。
「エミリーもプリモも、これでわかったでしょう? エリカは普通の女の子なんですよ。毒の沼地を浄化したり、恐ろしい魔物を倒すのは無理です」
 御茶ノ水はエリカを動かしたエミリーとプリモの2人に諭すようにいったが、2人は決して納得したわけではない。
「力の引き出し方に問題があったのかもしれないであります」
「うん。きっとそうだよ」
 エミリーのコメントに、湯島が弁護するかのようにうなずいている。
「あたしの応援が足りなかったからだと思う! ごめんね」
 プリモはエリカに頭を下げた。
「ううん、気にしなくていいのよ。でも、何とかしてハムーザ3世ちゃんを救出しないと。ここまできて、ひいてられない!」
 エリカの瞳はどこまでもまっすぐだった。