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泥魔みれのケダモノたち

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泥魔みれのケダモノたち

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第2章 もう、チーシャったら!

「オラー! お前らも連帯責任とれやー!」
「暑苦しいもん着とったら失礼じゃろがコラー!」
 失神した小夏を放り出し、黒鬼たちはさらに荒野の蛮族たちに襲いかかる。
「うわー!」
「や、やめろー!」
 悲鳴をあげながら、パラ実生を始めとするエリカの追随者たちが、次々に衣を剥ぎ取られ、恥ずかしさに気も狂わんばかりの有様となる。
 あちこちで泥がはね、エリカの純白の上着も点々と汚されていった。
「エリカ、こっちだ!」
 斎藤たちはエリカを安全な場所へ誘導しようとする。
「ごめんなさい。私はあの子を探しに行きます!」
 だがエリカは気丈にも黒鬼たちの間を駆け抜けて、沼地の中心に向かおうとしていた。
「はーい、本当にちょっと待って!」
 突進しかけたエリカを強引に制止すると、リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)は黒鬼たちに向かい合った。
「なんだテメー? 女のくせにたてつくか、あん?」
 黒鬼たちは歯を剥き出しにして、リリィに怒鳴りつける。
 しかし、リリィに動揺はみられない。
 凛とした瞳で、黒鬼たちをみすえた。
「余計なもんで身体隠して、鬼にガンつけてすごんでるつもりか、文明人の女!」
「早く家に帰ってご本でも読んでろやー! でなきゃ抹殺するぞゴルァ!」
 黒鬼たちがリリィに腕を伸ばした、そのとき。
 バシィ!
 リリィは黒鬼たちの筋肉もりもりの腕を、力強く弾き返していた!
「な、なにぃ!? やる気かコラァ!」
「身体賭けるつもりがあってのことだろうなぁ?」
 気色ばむ黒鬼たち。
 そこで、リリィは、切り札を使用した。
「あなたたちはもうおしまいよ。チーシャ、行きなさい!」
 リリィの合図で、パートナーのナカヤノフ ウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)がふわふわと沼地の上空に舞い上がった。
「は〜い。このメモを読むだけでいいんだよね〜?」
 ウィキチェリカの手には、リリィの渡した秘密のメモが握られている。
 それはまさに秘密のメモであったが、これから読まれようとしていた!
「天高くウィキチェリカ昇ります〜」
 灰色の空に、ウィキチェリカのふわふわとした羽が、優しく撫でるようにはばたく。
「さ〜て、読みますよ。えっ、何ですか〜、これ!?」
 誰にもメモを覗きみられることのない高みで、ウィキチェリカの身体が凍りついた。
「こ、これ、本当に読むの〜」
「チーシャ、読みなさい!」
 ためらうウィキチェリカに、リリィの待ったなしの命令が入る。
(仕方ない。いくよ!)
 ウィキチェリカは観念すると、眼下の黒鬼たちをじっとみつめて、メモを読みあげた。
「あなたたち! 文明潰すの抹殺だの、言いたいことはそれだけですか?」
「んだとぉ!? 脳みそにも羽が生えてどこか飛んでいっちまったんじゃねえかぁ!」
 大胆なウィキチェリカの発言に、黒鬼たちのヤジが飛ぶ。
 ウィキチェリカは、さらに続けた。
「泥人形風情が愉快愉快! あなた方のようなチンケな輩にゃ啖呵を切ってる暇もなし! 身の程知らずの鬼っ子は、小麦粉漬けで手足を落とし、異国の土地で踊り食いよ! 赤くて甘いイチゴ氷にしてあげるんだから」
 ウィキチェリカが自分で考えたセリフではなかったが、黒鬼たちを怒らせるには十分だった。
「う、うおおおお〜ムカつく野郎だぜぇ! ぶっ殺してぇぇぇ!」
 顔を真っ赤に紅潮させ、歯ぎしりして唸る黒鬼たち。
 ウィキチェリカは、容赦なく続けた。
「文明を持たないあなた達など恐れるに足らず! 語彙の無さこそその証明! 雪泥濘に沈むがいい! この最強の氷術者ウィキチェリカ様が、納涼ついでに成敗するっ!」
 ウィキチェリカは顔をあげ、黒鬼たちをびしっと指さしていってのけた!
(は、恥ずかしい〜。誰が最強の氷術者だって? あたしはこんなキャラじゃな〜い!)
 内心どこかに隠れたい気持ちになるウィキチェリカであった。
 だが。
 ここまでいった以上、引き下がれない!
「面白ぇ! ここまで降りて勝負したれや、この臆病羽女〜!」
 吠える黒鬼たちに、ウィキチェリカは特攻の覚悟を固めた。
「は〜い、それじゃ、申し訳ありませんが〜って、そんなことないけど〜」
 振りあげたウィキチェリカの右手に、空気中の冷気が一瞬にしてこり固まる。
 ピキピキピキ!
 鋭い音を上げながら巨大な氷の槍が形成され、ウィキチェリカに握られて眼下の黒鬼たちに向けられた。
「まあ、氷術使ってるのは本当ですから〜いきますよ〜」
 ウィキチェリカは、氷の槍を黒鬼たちに投げつけた!
「お、おわ〜飛び道具なんて卑怯だぞ〜」
 わらわらと逃げる黒鬼たち。
 ドブッ。
 氷の槍が、沼地の泥に突きたった。
「シャーベット、スタート!」
 ウィキチェリカの合図とともに、沼地に氷術の効果がしみ渡る。
 ジャリジャリジャリ!
 沼地の泥が凍りついてシャーベット状になり、黒鬼たちに足もとからまとわりついた。
 だが。
「ハッ、ダッセー! そんなんでやられっかよだコラァ!」
 黒鬼たちは平気な様子だ。
「えっ、何〜? もしかしてマイナスエネルギーで構成されてる人たちって気持ちが冷たいから冷気に強いとか〜?」
 ウィキチェリカが焦った、そのとき。
「おらぁ! 降りてこんかい、とぉっ!」
 黒鬼の一人が天高く跳躍し、当惑しているウィキチェリカの衣に手をかけた。
 ビリビリビリ!
「あ、ああああああ! や、やらしい、助けて〜!」
 衣を剥かれ、露出の多い格好になったウィキチェリカが、胸などを隠しながら沼地に落下した。
「オラァ、オラァ! 全部みえみえにすんだよ!」
「や、やめて〜あたしを襲って楽しいの〜?」
 落下したウィキチェリカに黒鬼たちが群がり、よってたかって衣を引きちぎり、泥の中をごろごろ転がす。
「くっ! やっぱり、ちょっと棒読みで、迫力なかったからかしら……わ、わー!」
 パートナーの失態に舌打ちしたリリィも、黒鬼たちに襲われた。
「相棒に、どういう教育してんだコラァ! 保護者責任とれやコラァ!」
「わー、もう、チーシャったら〜!」
 リリィも衣を破られ、泥の中を転がされてゆく。
「リリィさん! ウィキチェリカさん! しっかり! 希望の光を持って! あと、私はウィキチェリカさんの氷術は素晴らしいと思います!」
 エリカは必死でリリィたちにエールを送る。
「エリカ、リリィたちは少なくとも隙をつくってくれた! この間に沼地の中心に向かおう!」
 斎藤邦彦がエリカの手を取って駆け出す。
「あっ、自然に手をつなぎましたね。でも、それは……って何をいってるんでしょう」
 斎藤のパートナーであるネル・マイヤーズは、微妙な視線を斎藤とエリカのくっつきあった手に向け、思わず浮かんだ不思議な感情に戸惑った。
「ほら、奴らが襲ってきましたよ。突破しましょう!」
 御茶ノ水千代は、ネルの頭の中のもやもやを吹き消すように叫ぶと、エリカたちの後を追って駆け出していた。